一般的なイオン化法

一般的なイオン化法

イオン生成の方法

イオン生成の方法

電子イオン化(EI)

読者の多くは電子衝突イオン化(EI)に馴染んでいるでしょう。(初期には「電子衝突」という用語が使用されましたが、技術的にはこの用語は誤りです。)EI は多くの場合、サンプルを 70 eV の電子に曝露することで行い、「ハード」な手法と呼ばれています。目的分子と相互作用する電子のエネルギーは一般に、結合に含まれるエネルギーよりもはるかに大きいため、イオン化が発生します。過剰なエネルギーにより結合が切断され、その様式はよく特性解析されています。結果として、予測可能で同定可能なフラグメントが生成し、それらから分子のアイデンティティーが推測できます。外殻電子が 1 個だけ抜き取られると、ポジティブモードでラジカルカチオン(M+)が生じ、フラグメントの豊富なスペクトルになります。「よりソフト」な大気圧イオン化手法では、メーカーの特定のイオン源設計に特徴的なスペクトルレスポンスが生じますが、これに対して EI 手法はイオン源設計の影響をあまり受けません。ある EI 装置で生じたスペクトルは、同一の化合物の別の EI 装置でのスペクトルと類似しています。このことから、スペクトルライブラリーを作成して、未知化合物をレファレンススペクトルとマッチングすることができます。

化学イオン化(CI)

過剰にフラグメント化する分子には「ソフト」な手法が適しています。化学イオン化(CI)では、より穏やかなプロトン移動プロセスによりイオンが生じ、分子イオン自体の出現が温存・促進されます。サンプルは、メタンがプロトン化分子イオンM+H)になる際に発生するような過剰な試薬ガスに曝露されます。逆のプロセスでネガティブイオンが生じる場合があります。プロトンを気体分子にトランスファーすることで、ネガティブイオン(M-H)が生じる場合があります。

化学イオン化(CI)は、EI で分析する化合物とケミストリーが類似した化合物に使用して、分子イオンの存在量を高めるまたは出現を促し、顕著なフラグメント化が進む場合もあります。EI と同様、サンプルは、イオン源での加熱により蒸発するため、熱安定性が高いことが必要です。CI でのイオン化メカニズムは、初期段階でのイオン化は EI に依存しますが、イオン源内では、高圧のメタン、イソブタン、またはアンモニアなどのケミカル試薬ガスに依存します。試薬ガスは、分析種(R)よりもはるかに高濃度で存在し、電子衝突イオン化によりイオン化して一次 R+ 試薬イオンが生じます。R+ イオンが中性 R 分子と衝突すると、反応分子種である安定な二次イオンが生じ、これらがイオン分子反応によって分析種分子(A)をイオン化します。

例えば、メタンイオンとメタン分子の間のイオン分子反応では、かなり安定な CH5+ 分子種が生じます。

CH4+. + CH4  --> CH5+ + CH3.

反応イオンの CH5+ は、プロトン移動、水素引き抜き反応、または電荷交換により中性分析種の分子(A)をイオン化する場合があります。

RH+ + A --> R + AH+(プロトン移動)

(R-H)+ + A --> R + (A-H)+(水素引き抜き反応)

R+. + A --> R + A+.(電荷交換)

最も一般的なイオン化反応はプロトン化であり、試薬よりもプロトン親和性が強い分子によく起こります。水素引き抜き反応はプロトン親和性が弱い分子に一般的であり、電荷交換はイオン化エネルギーの強い試薬で生じます。

分析する物質には、試薬ガスよりもはるかに低い圧力がかかります。メタンを試薬ガスとみなすと、電子の衝撃により主にメタンのイオン化が生じます。このフラグメントの一部は CH3+ となります。次に、イオン源にかけた高圧の下で、これらの分子種がイオン分子反応を受けます。

CH4+. + CH4  --> CH5+ + CH3.

CH3+ + CH4  --> C2H5+ + H2

CH5+ はブレンステッド酸として、C2H5+ はルイス酸として作用し、分析種からイオンが生じます。

化学イオン化ガスの気相の酸性度はチャージトランスファーの効率に影響を及ぼすため、CI 試薬ガスを慎重に選択することで、分析種の分子へのチャージトランスファーを改善できます。CI では、分析種はフラグメント化が少ない分子イオンになる可能性が高く、通常は EI の内部に取り込まれて結合を切断するエネルギーが温存されます。

ネガティブイオンの化学イオン化(NCI)

ネガティブ化学イオン化(NCI)というバリエーションを、電子捕獲部位が含まれる分析種(フッ素原子、ニトロベンジル基など)の測定に使用することができます。感度が EI よりも大幅に高い場合があります(100 ~ 1000 倍高い場合もあることが報告されています)。NCI は、電子捕獲を促進するように化学修飾された幅広い低分子に適用できます。

ネガティブイオンにおいては、電子捕獲および反応イオンの化学イオン化という主に 2 つのメカニズムによりネガティブイオンが生成します。CI 条件下では、負電荷を有する分子が熱電子を捕獲し、ネガティブイオンが生成する場合があります。真のネガティブイオンの化学イオン化は、化合物(AH)が負電荷を持つ反応イオン(R-または R-)と反応することで生じます。複数の種類のイオン分子反応が発生し得ますが、最も一般的なものはプロトン引き抜きです。

AH + R-  --> A- + RH

反応イオンのプロトン親和性(塩基性)が大きいほど、プロトン引き抜きが発生しやすくなります。

一般的な分離およびサンプル送液法

一般的な分離およびサンプル送液法

ガスクロマトグラフィー(GC)

多くの方にとって、質量分析計との初めての出会いはガスクロマトグラフィー検出器である場合が多いかと思います。さまざまな種類の GC-MS 装置により、初期の装置設計の限界を超え、環境分析、食品安全性スクリーニング、メタボロミクス、そして法医学、毒性学、薬物スクリーニングなどの臨床アプリケーションなどにおいてますます厳しくなる法規制が満たせるようになりました。

過去には、磁場セクター装置およびシングル四重極型装置の 2 種類の質量分析計が GC-MS 分析の主流でした。磁場セクター装置は、高分解能で精密質量の分析が可能であり、極端な高感度が要求されるアプリケーションで使用されました。シングル四重極型装置では、ターゲット化合物のルーチン分析が行われました。

環境/産業サンプル中のダイオキシンや、競技スポーツにおける運動能力強化薬物など、最も難易度の高い GC-MS 分析は磁場セクター装置で行われました。磁場セクター装置では、高分解能/高選択性でのフェムトグラム単位の検出レベルが容易に達成できます。

磁場セクター装置の登場後ほどなくして、四重極型 GC-MS システムがターゲット分析アプリケーション分野で受け入れられました。USEPA 法では、四重極型 GC-MS 装置を使用して多くの環境汚染物質サンプルを分析できます。このようなアプリケーションではピコグラムからナノグラム単位の検出レベルしか必要ないため、セクター装置と比べて比較的低い四重極の感度は制限になりませんでした。反対に、コストが大幅に下がり、使いやすく、持ち運びしやすいため重宝されました。

液体クロマトグラフィー(LC)

画期的なテクノロジーのおかげで、すべてのケミカルの約 80% が分析できるという GC では達成できなかったことが実現し、それがこの数十年間における質量分析の飛躍的な成長と関心の原動力になりました。傑出した数名の研究者により、LC が MS と組み合わせられました(「質量分析の小史」セクション参照)。今日の LCMS は、1970 年代に誕生し、1990 年代初頭に成熟に達しました。今日実用的に用いられている装置および手法の多くは、当時のものに由来しています。

液体クロマトグラフィーは、1900 年代初頭にロシアの植物学者 Mikhail S. Tswett の研究により定義されました。彼の研究では、粒子を充塡したカラム中で、溶媒を使用して、植物から抽出した葉の色素を分離することに焦点を当てました。最も単純な液体クロマトグラフィーは、溶液(移動相または凝縮相)中の分析種が充塡粒子のベッド(固定相)を通過する際の、競合する相互作用を高い精度で予測および再現する能力に依存しています。近年では、さまざまな官能基を持つ粒子を充塡したカラムや、移動相を精密に送液できる溶媒送液システムの開発により、多くの業界において、LC が分析の基本になっています。

HPLC という略称は Csaba Horváth が 1970 年に作った言葉で、高圧を用いて充塡カラム内での液体クロマトグラフィーに必要な流量を生み出したことを示しています。小さな粒子の開発や選択性の改善など、それ以降の継続的な性能の進歩により、略称の意味も、高速液体クロマトグラフィーに変わりました。

2004 年、装置とカラムのテクノロジーがさらに進歩し、液体クロマトグラフィーの分解能、速度、感度の大幅な向上が達成されました。より小さな粒子(1.7 ミクロン)を充塡したカラムと移動相を 15,000 psi (1,000 bar)で送液できるように設計された特殊機能を持つ装置は、超高速液体クロマトグラフィーという差別化用語で代表される UPLC テクノロジーとして知られるようになりました。現在のテクノロジーで具現されたものの大部分は、John Knox などの研究者により 1970 年代に予測されていました。Knox は、最適な粒子径は 1 ~ 2 μm で、クロマトグラフィーは摩擦熱の影響を受けやすいと予測しました。頑健で均一な小粒子を開発することができるテクノロジーの必要性が、幅広く使用される UPLC の開発への道に立ちふさがりましたが、それらは解決されました。HPLC および UPLC の基本的な入門知識を確認してください。

大気圧イオン化法

大気圧イオン化法

エレクトロスプレー(ESI)

「大気圧イオン化」(API)という一般的な用語には、最も重要な手法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)が含まれ、この手法自体が、真空ではなく大気圧でイオンを生成できるさまざまな関連手法の基礎となっています。サンプルを極性溶媒(通常は GC で使用するものよりも低揮発性の溶媒)に溶解し、ポンプによりステンレススチール製キャピラリーに送られます(2000 ~ 4000 V)。液体は大気圧下でキャピラリーを出るときにエアロゾル化し、脱溶媒液滴からイオンが生じ、静電引力および真空の組み合わせの効果により、質量分析計に流入します。

正面の通常位置および MS イオンインレットと直交位置にある ESI プローブを示す概略図。アナライザーの希薄気体真空領域に入った液滴の脱溶媒和を促進するために、コーンガス(向流ガス)をしばしば適用します。

電位が液体から分析種に移り、イオンが生じるメカニズムは、いまだに論争の的となっています。1968 年、Malcolm Dole が初めて荷電残基メカニズムを提唱し、液滴が蒸発しても電荷は変わらないという仮説を提唱しました。液滴の表面張力が、課されるチャージの反発力に抗しきれず、さらに小さい多くの液滴になります。これらのクーロン分裂は、液滴に単一の分析イオンが残るまで発生します。最後の液滴から溶媒が蒸発すると、気相イオンが生じます。

1976 年、Iribarne および Thomson が提唱した別のモデル(イオン蒸発メカニズム)では、Dole のモデルでの液滴の形成と同様に、クーロン分裂により小さい液滴が生じます。ただし、イオン蒸発理論によると、液滴表面の電場強度は十分に高く、液滴の表面を離れて、溶媒和イオンに適したエネルギー状態の気相に直接移行します。

2 つのメカニズムが協調して働く場合もあり、質量 3000 Da 以上では荷電残基メカニズム、低質量ではイオン蒸発が主流になります(R Cole, Some tenets pertaining to Electrospray ionization mass spectrometry, J of Mass Spec, 35, 763–772 (2000) を参照)。

液体クロマトグラフの溶液は、チャージバランスの状態で ESI プローブに入ります。溶媒は、ESI プローブから離れると、正味のイオン電荷を持ちます。ESI が継続的な手法になることを保証するには、電極として作用する導電面に電子がトランスファーする電気化学反応により、溶液が荷電する必要があります。このプロセスにより pH が変化することがあります。ポジティブモードでは、正に荷電した液滴がスプレーを離れ、電子が電極に受け取られると想定されます(酸化)。(ネガティブモードでは逆もあります。)電気活性電極の表面では、電流強度、ケミカル分子種の性質、電極電位など、すべてが影響を及ぼします。

全体として、ESI は効率的なプロセスです。ただし、反応の活性化エネルギーおよびエネルギー差は、全体として個々の分子種ごとに異なります。溶液の流量および適用される電流により、各液滴の限界が規定されます。分子間の競合が発生し、対象分析種のイオン化抑制も珍しくありません。

イオンの生成後、イオンは電位のグラジエント(電場)によりカウンタープレートに「引き寄せられ」ます。(図は Andreas Dahlin のポジティブイオンモードからの引用)

基本的な ESI 理論の拡張として、例えばナノスプレーの場合の 30 nL/分のように、液体を極端に少量に減らしたところ、特にサンプル量の少ないタンパク質やアミノ酸の実験では、有効であることがわかりました。

大気圧化学イオン化(APCI)

APCI を実証した研究についての論文は、ESI を実証した研究と平行して発表されましたが、Fenn の研究開始時期にあたる 1985 年に ESI が製品化されるようになるまで、APCI はあまり採用されませんでした。

Horning が 1973 年に初めて APCI を導入し、HPLC を含む多様な導入手法を用いて、揮発性化合物を分析しました。APCI の補助的機能により、気相イオンへの変換が起こりにくい分析種でも、ESI により極性が低く揮発性の高い分子になり、濃縮相または液体の流れから質量分析計に導入されます。APCI では、ESI とは異なり、導入された液体を加熱したガス流で蒸発させることで、中性分析種が気相内に移ります。化学イオン化では、試薬イオンおよびターゲット分子の間での荷電分子種の移動に依存してターゲットイオンが生じ、質量分析を行うことができます。最も一般的なポジティブイオンモードでは、付加イオンがターゲット分子と小さな H+ イオンの間で形成されます。一方、塩を含む付加イオンも一般的です。例えば、移動相中に、弱酸性-弱塩基性塩で、揮発性が低く、高イオン性のリン酸バッファーの代わりにしばしば使用されるモディファイヤーである酢酸アンモニウムが存在する場合、アンモニウム付加イオン(M+NH4+ が生じる可能性があります。より高塩濃度では、プロトン化型とアンモニア化型の競合により、両方に対するレスポンスが低下する可能性があります。APCI では試薬イオンが重複して生じるため、APCI で生じる最大イオン数は、ESI よりもはるかに多くなります。液体が、通常は溶融シリカガラス製の非伝導チューブの中に押し込まれ、チューブの周囲にネブライザーガスが流されます。その結果生じた小さな液滴が、非伝導チューブを超えて延びるチューブまたはプローブの内部の加熱された壁に衝突し、気相に変換されます。イオン化の種類は、通常はエレクトロスプレーと関連付けられている HPLC や超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)の流量よりも大きな直線速度で実施されます。ただし、最近の装置では、脱溶媒機能が強いため、エアロゾルを使用するすべての手法において性能が向上しています。

脱溶媒後の分析種分子は、次に化学イオン化によってイオン化します。イオン化電位が、ESI のような液体を通じて印加されるのではなく、プラズマ(またはコロナに)として、液滴が通過するニードルの先端で印加されます。移動相は、電荷を分析種にトランスファーする中間媒体の役割を果たします。そのため、APCI の初期の名称は「溶媒を媒介とするエレクトロスプレー」でした。

関連情報

ウォーターズの画期的なシングル四重極型質量検出器は、頑健に設計されており、初心者のユーザーでのマススペクトルデータを容易に生成できます。

ウォーターズの画期的なタンデム四重極 MS テクノロジーは、定量 UPLC-MS/MS 用に設計されました。ウォーターズでは、高性能のアクセスしやすさ、頑健かつ高い信頼性を保てることを理念としています。

ウォーターズの飛行時間型 MS システムは、QuanTof および MSE テクノロジーを採用し、最高の UPLC-MS 性能を実現して、困難な定量アプリケーションおよび定性アプリケーションのニーズに応えています。

ウォーターズの四重極飛行時間 MS システムは、QuanTof、Fast DDA および MSE の各テクノロジーを採用しており、卓越した UPLC-MS/MS 性能を発揮して、困難な定量および定性アプリケーションのニーズに応えます。
トップに戻る トップに戻る