• アプリケーションノート

BioAccord LC-MS システムを用いたポリ(A)テールの不均一性のイオン対逆相 LC-MS 分析

BioAccord LC-MS システムを用いたポリ(A)テールの不均一性のイオン対逆相 LC-MS 分析

  • Catalin E. Doneanu
  • Joseph Fredette
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、ポリ(A)テール付加 mRNA の不均一性の分析における BioAccord LC-MS システムの利点について実証します。

アプリケーションのメリット

  • waters_connect インフォマティクスプラットホームで実行する BioAccord LC-MS システムで開発された LC-MS アッセイにより、治療および予防用の mRNA に一般的なポリ(A)テールオリゴヌクレオチド領域の平均分子量情報など、mRNA のポリ(A)テールの長さおよび不均一性に関する頑健な分析が可能になりました。

はじめに

SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質をコード化した mRNA 配列に基づく 2 種類の非常に有効なワクチンの開発および承認によって示されているように、メッセンジャー RNA(mRNA)が最近、新たなクラスのバイオ医薬品として登場しました1–2。製造プロセスの適切な管理には、mRNA 分子の重要特性をモニターする分析法の開発が不可欠ですが、mRNA ワクチンなどの長い mRNA(1,000 ヌクレオチド超)に適した分析法の開発は困難です。
すべての治療用 mRNA に共通する機能構造の 1 つは、分子の 3' 末端にあるアデノシン残基のみを含む長い(50 ~ 250 ヌクレオチド)配列、ポリ(A)テールです3–6。 3' 末端オリゴヌクレオチドは通常、分析のために、グアノシン残基の後で切断する RNase T1 リボヌクレアーゼ酵素を使用して、mRNA 分子から分離されます7–8。今回、ポリ(A)テールのオリゴヌクレオチドフラグメントのインタクト質量分析における BioAccord LC-MS システムの機能について調べました。

実験方法

試薬およびサンプル前処理

N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、純度 99.5%、カタログ番号 387649-100ML)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、純度 99%、カタログ番号 105228-100G)、エタノール(HPLC グレード、カタログ番号 459828-2L)、重炭酸アンモニウム(LiChropur LC-MS Supelco 試薬、カタログ番号 5330050050)は Millipore Sigma(ミズーリ州セントルイス)から購入しました。アセトニトリル(LC-MS グレード、カタログ番号 34881-1L)およびメタノール(LC-MS グレード、カタログ番号 34966-1L)は、Honeywell(ノースカロライナ州シャーロット)から入手しました。HPLC グレードのタイプ I 脱イオン水(DI)は、MilliQ システム(Millipore、マサチューセッツ州ベドフォード)を使用して精製しました。移動相は毎日新しく調製しました。

mRNA 消化用のヌクレアーゼフリー超高純度水(カタログ番号 J71786.AE)は、Thermo Fisher Scientific(マサチューセッツ州ウォルサム)から購入しました。

20 nmol の 120 mer ポリアデノシン mRNA オリゴヌクレオチド(ポリ(A)テール)は、Integrated DNA Technologies(アイオワ州コーラルビル)から購入しました。このオリゴヌクレオチド配列には、28 位にシチジン、56 位にウリジン、84 位にグアノシン、112 位にもう 1 つのウリジンが組み込まれており、その配列は 5’- AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA CAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AUA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAG AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA UAA AAA AAA -3’ でした。これら 4 つの残基は、120 mer RNA ヌクレオチドをより安定化するために、化学合成中にポリ A テール配列に挿入しました。大規模なクロマトグラフィー精製プロセスにおける分解を防ぐため、全長 120 mer の完全長オリゴ生成物(FLP)はこれ以上 HPLC で精製しませんでした。合成ポリ A テールオリゴヌクレオチドの元素組成は C1197 H1439 N592 O724 P119 で、平均分子量は 39,388.64 Da です。
合成ポリ A テールオリゴヌクレオチドのストック溶液は、脱イオン水中に濃度 10 µM で調製し、そのうち 5 µL を注入しました。これは、120 mer のオリゴヌクレオチドのオンカラムロード 50 pmol に相当します。
ホタルルシフェラーゼ mRNA(Fluc-β mRNA、カタログ番号 M1436/1000-C1-A120-NM-PO、濃度 1.63 mg/mL)は Amp Tec(ドイツ、ハンブルグ)から入手しました。mRNA を、Aspergillus oryzae(麹菌)由来の RNase T1 リボヌクレアーゼで消化しました(Millipore Sigma から購入:カタログ番号 R1003-100KU)。mRNA の消化では、20 µL の Fluc mRNA を消化バッファー(100 mM 重炭酸アンモニウム)5 µL、ヌクレアーゼフリー水 13 µL、および RNase T1 硫酸アンモニウム溶液の 1:100 希釈溶液(ヌクレアーゼフリー水中で調製)2 µL と混合しました。この消化混合液を QuanRecovery MaxPeak 300 µL バイアル中で調製し、37 ℃ で 15 分間インキュベートした後、直ちに LC-MS で分析しました。
すべてのデータセットを、UNIFI アプリバージョン 2.1.2.4 で取り込み、waters_connect インフォマティクスプラットホーム内の INTACT Mass アプリバージョン 1.6.0.18 を使用して解析しました。
MaxEnt 1 電荷デコンボリューションアルゴリズムをオリゴヌクレオチド ESI-MS スペクトルの解析に使用して、精密インタクト質量測定値を得ました。

LC 条件

LC-MS システム:

ACQUITY Premier UPLC(バイナリー)を搭載した BioAccord LC-MS システム

プレカラム:

VanGuard FIT カートリッジホルダー(製品番号:186007949)付きの、1.7 µm BEH C18 粒子(製品番号:186009459)を充塡した 2.1 × 5 mm ACQUITY Premier FIT カートリッジ

カラム:

ACQUITY Premier OST カラム 1.7 µm、130 Å、2.1 × 50 mm(製品番号 186009484)

カラム温度:

60 ℃

流速:

300 µL/分

移動相:

溶媒 A:8 mM DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、40 mM HFIP(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール)含有脱イオン水、pH 8.8

溶媒 B:4 mM DIPEA、4 mM HFIP 含有 75% エタノール

サンプル温度:

6

サンプルバイアル:

QuanRecovery MaxPeak HPS バイアル(製品番号:186009186)

注入量:

5 µL

洗浄溶媒

パージ溶媒:

50% メタノール

サンプルマネージャー洗浄溶媒:

50% メタノール

シール洗浄溶媒:

20% アセトニトリル含有脱イオン水

グラジエントテーブル

MS 条件

取り込みモード:

フルスキャン

イオン化モード:

ESI(-)

キャピラリー電圧:

0.8 kV

コーン電圧:

45 V

イオン源温度:

120

脱溶媒温度:

500

脱溶媒ガス(N2)圧力:

6.5 bar

ToF 質量範囲:

400 ~ 5000

取り込み速度:

2 Hz

ロックマス:

waters_connect ロックマス溶液(製品番号:186009298)

データ取り込みおよび解析用インフォマティクスプラットホーム

waters_connect

データ取り込み:

UNIFI アプリバージョン 2.1.2.4

データ解析:

INTACT Mass アプリバージョン 1.6.0.18

結果および考察

mRNA は、1961 年に発見されて以来、さまざまな疾患の治療のための治療法として提案されてきました2。 分子の 5' 末端にあるキャップ配列、2 つの非翻訳領域、目的の遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム配列(ORF)、分子の 3' 末端にあるポリ(A)テールなど、構造要素の一部は、治療および予防用に設計されたすべての mRNA 分子に共通しています。これらの構造要素は、図 1 のイラストに示しています。合成 mRNA は、その構造において自然界に存在する細胞内 mRNA と同様に、修飾キャップ配列(約 50 ヌクレオチド)9 およびポリ(A)テールの長鎖アデノシン(50 ~ 250 nt)を含むように設計されています3–6。これら 2 つの修飾領域は、治療用 mRNA の重要品質特性(CQA)であり、in vitro 転写(IVT)を担う細胞機構による mRNA の認識において重要な役割を果たします。さらに、5'-キャップおよび 3'-ポリ(A)テールにより、IVT プロセスの効率が向上します1。最後に、キャップ領域およびポリ(A)領域は、mRNA 分子の末端に位置するため、合成 mRNA の安定性において重要な役割を果たします。

図 1.  mRNA 分子の構造要素を示す概略図。3' 末端にあるポリ(A)テールオリゴヌクレオチドは、RNAse T1 リボヌクレアーゼ処理によって生成する代表的な切断生成物です。

合成ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドのための LC-MS 分析法の最適化

インタクト 5'-キャップオリゴヌクレオチドおよびインタクトポリ(A)テールバリアントの分析については、以前にいくつかの LC-MS アッセイが報告されています10–13,14,15。 LC-MS を用いたポリ(A)テールの特性解析は、5' キャップオリゴヌクレオチドの分析と比較して、複数の理由からより困難になります。ポリ(A)テールには長いヌクレオチド配列が含まれているため、ネガティブ ESI-MS 試験において、これよりはるかに短いキャップ配列と比較して、イオン化がより困難になります。また、ポリ(A)テールは、前処理後の不均一性が高く、安定性が低いため、酵素分解を受けやすい傾向があります。さらに、さまざまな分子種のポリ(A)テールの合成に関与する生物学的プロセスが完全には理解されていないため、IVT プロセス後に生成する可能性のあるさまざまな配列バリアントをすべて正確に予測することは困難です3–6。 これらの理由から、最初の実験では、化学合成したポリ(A)テールのアナログを使用することにしました。これは、アナログにより、オリゴ配列の制御が容易になり、脱イオン水に溶解後の 120 mer のオリゴヌクレオチドの安定性が高まるように設計でき、長期間の LC-MS 試験(サンプルの溶解後最大 4 週間)が可能になります。
合成ポリ(A)テールはまず、siRNA オリゴ(通常は 20 ~ 25 ヌクレオチド)とその不純物の分離など、短いオリゴヌクレオチドの分離に適したイオン対移動相を使用して分析しました16–18。 粗(未精製)合成 120 mer ポリ(A)オリゴマーの分離を示す UV クロマトグラムを図 2 に示します。この図に見られる幅の広い(約 0.3 分の幅)のクロマトグラフィーピークからわかるように、TEA(トリエチルアミン)イオン対試薬は、このような大きなオリゴの分離には明らかに適していません。

図 2.  TEA(トリエチルアミン)をイオン対試薬として使用した、120 mer の合成ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドの IP-RP 分離を示す TUV クロマトグラム。溶媒 A は 7 mM TEA および 40 mM HFIP の脱イオン水溶液、溶媒 B は 3.5 mM TEA および 20 mM HFIP 含有の 50% メタノール溶液を用いました。TEA では、大きなオリゴ(> 40 mer)の分離においてかなり幅の広いクロマトグラフィーピーク(ピーク幅 0.3 分)が生じるため、TEA はこのようなオリゴには適しません。

分岐型イオン対試薬 - DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)は、通常 100 mer のシングルガイド RNA オリゴ(sgRNA)などの大きなオリゴの分離に推奨されています7,19。 図 3 の UV クロマトグラムの重ね描きでわかるように、DIPEA の存在下では、ポリ(A)テールのクロマトグラフィー形状が大幅に改善されています(ピーク幅約 0.1 分)。120 mer のオリゴの ESI-MS スペクトルの強度を最適化するため、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどの 3 種類の有機溶媒を移動相 B の溶離液として検討しました。メタノールは、短いオリゴの TEA 分離に一般的に使用される溶媒ですが、大きなオリゴの場合、図 3 のクロマトグラムに示すように、他の 2 種類の有機溶媒(ACN と EtOH)の方が、ややシャープなポリ(A)テールのピークが得られます16–18

図 3.  3 種類の有機溶媒の存在下で DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)をイオン対試薬として使用した、120 mer の合成ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドの IP-RP 分離を示す TUV クロマトグラムの重ね描き。溶媒 A は、8 mM DIPEA および 40 mM HFIP の脱イオン水溶液で、溶媒 B は、4 mM DIPEA、4 mM HFIP 含有の 75% 有機溶媒((1)メタノール(黒線)、(2)アセトニトリル(青線)、(3)エタノール(赤線))DIPEA は TEA と比較してはるかに優れた性能を示し、120 mer のポリ(A)テールオリゴヌクレオチドのような大きなオリゴについて、よりシャープなクロマトグラフィーピーク(ピーク幅約 0.1 分)が得られます。

メタノールでは、TEA 存在下と比較して、DIPEA 存在下において ESI-MS シグナルの強度が約 3 倍増加していました(データは示していません)。一方、アセトニトリルおよびエタノールでは、図 4 に示すコンバインした ESI-MS スペクトルからわかるように、ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドの MS レスポンスがさらに向上していました。通常、アセトニトリルは大きなオリゴの IP/RP LC-MS に適した有機溶媒とされていますが、最近、ポリ(A)テール分析に用いる代替の溶媒としてエタノールが提案されています7,15,19。 図 4 に示したコンバインした ESI-MS スペクトルから、エタノールの方がアセトニトリルよりも ESI-MS シグナルが向上することが確認されます。

図 4.  図 3 に示す IP-RP 分離後のポリ(A)テールオリゴヌクレオチドについて記録されたコンバイン済み ESI-MS スペクトル。溶媒 A は、8 mM DIPEA および 40 mM HFIP の脱イオン水溶液で、溶媒 B は、4 mM DIPEA、4 mM HFIP 含有の 75% 有機溶媒(メタノール(パネル A)、アセトニトリル(パネル B)、エタノール(パネル C))エタノールで最も強い ESI-MS シグナルが得られたため、この溶媒が最も適していると考えられます。

8 mM DIPEA、40 mM HFIP 含有 75% エタノールを溶離液 B として使用して記録されたインタクト質量 ESI-MS スペクトルを図 5B に、デコンボリューション済みスペクトルを上のパネル(図 5A)に示します。ESI イオン源のパラメーター(ESI 電圧、コーン電圧、ソース温度、脱溶媒温度)を最適化して、ESI-MS シグナルの感度を増大させ、ナトリウム付加イオンのレベルを低減させました。イオン対試薬の選択、その他のすべての試薬の量と化学的純度、および移動相の調製手順は、よりきれいで付加イオンの少ない ESI-MS スペクトルを生成するために不可欠であり、これによって存在量の低いオリゴヌクレオチド分析種の高感度な検出が容易になります。
粗サンプルには、化学合成の主なターゲットである 120 mer のオリゴヌクレオチドに加えて、図 2 および図 3 に示すクロマトグラムに見られるように、主要なピークの前に溶出し、明確に視認できるいくつかのより短いオリゴヌクレオチド不純物が含まれています。120 mer のターゲットの周囲にある若干長いまたは短いポリ(A)分子種も、粗サンプル中に存在する可能性がありますが、RP IP クロマトグラフィーにはそのような密接に関連した分子種を分離する機能はありません。一方、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、この種の混合物をより良く分離できることが示されています20。waters_connect INTACT Mass アプリケーションでは、保持時間やクロマトグラフィープロファイルに関係なく、(ユーザーが指定した強度のスレッシュホールドを超える)検出されたすべてのオリゴヌクレオチドの自動デコンボリューションを行います19,21。 このアプローチ(非 RT ベースの自動デコンボリューション)は、親オリゴヌクレオチド分子種の前後に分布する共溶出オリゴヌクレオチド不純物の分析に特に適しています。図 3 に示す赤線のクロマトグラムで 5.5 ~ 6.5 分に溶出するオリゴヌクレオチドに対応するすべての ESI-MS スペクトルは、ソフトウェアにより自動最適化したデコンボリューション設定で、MaxEnt1 アルゴリズムを使用して自動的にデコンボリューションされたものです22

図 5.  120 mer の合成ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドについて INTACT Mass で記録されたスペクトル:(A)MaxEnt1 電荷デコンボリューション済みスペクトル、(B)生 ESI-MS スペクトル。パネル A に示した 120 mer の配列には、28 位にシチジン、56 位にウリジン、84 位にグアノシン、112 位にもう 1 つのウリジンが組み込まれています。これら 4 つの残基は、ポリ(A)テールの化学的安定性を高めるために使用されています。

次のステップでは、図 6 の INTACT Mass のスクリーンショットに示すように、デコンボリューション済みスペクトルが、最大 10 個のアデノシン残基の質量(329.2059 Da)の加算および減算を含む 20 種の可能な修飾のリストに対して、自動的に検索されました。自動生成されたレポートからのデコンボリューション済みスペクトルの結果を図 7 に示します。このレポートでわかるように、7 種類のポリ(A)テール分子種が、25 ppm 以内の良好な質量精度で推定同定されました。予想した 120 mer のポリ(A)に加えて、アデノシン残基がより多い 3 種類の分子種(121、122、123 mer)、およびアデノシン残基がより少ない 3 種類の分子種(117、118、119 mer)が同定されました。同定された最小の分子種である 123 mer は、ESI-MS レスポンスによると、存在量レベル 1.5% で検出されました。

図 6.  120 mer の粗合成ポリ(A)テールのサンプルに存在する可能性のある、最大 10 個のアデノシンの質量(329.2059 Da)の加算および減算を含め、20 種類の可能なオリゴヌクレオチド修飾を示す INTACT Mass アプリのスクリーンショット
図 7.  120 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドの分析で得られた解析結果が表示されている INTACT Mass アプリのレポートのセクション。117 ~ 123 mer の 7 種類のオリゴヌクレオチド分子種が、25 ppm 以内の質量精度で同定されました。

mRNA 消化物のポリ(A)テールの分析

合成ポリ(A)テール用に開発したのと同じ LC-MS アッセイを、RNAse T1 で消化した Fluc(ホタルルシフェラーゼ)mRNA に適用しました。以前のレポートでは、後続の LC-MS 分析の前にこのオリゴヌクレオチド画分を濃縮するために、(dT)25 磁気ビーズを使用して、複雑な mRNA 消化混合物からポリ(A)テールオリゴヌクレオチドを分離する手順が提案されています14。 しかし、今回のケースでは、図 8 に示す消化混合液の分離における UV クロマトグラムおよび TIC クロマトグラムに、よく分離した大きいポリ(A)テールのピークが最後に溶出していることがわかりました。

図 8.  RNase T1 で消化した Fluc mRNA の分離:(A)260 nm で記録された UV クロマトグラム、(B)BioAccord LC-MS システムで記録された TIC クロマトグラム。

対応するデコンボリューション済み ESI-MS スペクトル(図 9)では、多くのシグナルが 1 アデノシンの質量(329.2 Da)ずつの間隔で存在することから、ポリ(A)の不均一性が比較的高い(オリゴヌクレオチドの範囲は 122 ~ 132 mer)ことが示されています。カスタムデコンボリューションパラメーターを使用した INTACT Mass 解析に続いて、図 10 に示した結果からわかるように、これら 11 種類のポリ(A)バリアントのほとんどすべてが、30 ppm 以内の質量精度で測定されました。

図 9.  Fluc mRNA の RNase T1 消化で得られたポリ(A)テールオリゴヌクレオチド混合物の MaxEnt1 電荷デコンボリューション済みスペクトル。ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドは分散性が大きく、最初に検出された分子種である 122 mer には最大 11 個のアデノシンの質量が付加されています。
図 10.  Fluc mRNA のポリ(A)テールの分析で得られた解析結果が表示されている INTACT Mass レポートのセクション。122 mer ~ 132 mer の 11 種類のオリゴヌクレオチド分子種が、30 ppm 以内の質量精度で同定されました。

別のグラフィック表示では、ESI-MS シグナルとそれらに対応する強度を図 11 にプロットして、126.5 mer に対応する Fluc mRNA のポリ(A)テールの平均質量が算出されています。ポリ(A)の分散性と平均質量の測定値はいずれも、治療用 mRNA 分子の重要な品質特性です。今回示した IP-RP LC-MS データから得られた平均ポリ(A)テール長は、SEC-UV 分析法から得られた値とよく相関していました20。このように、合成ポリ(A)テールオリゴヌクレオチドについて開発されたこのアッセイは、予防/治療用 mRNA から酵素的に切断されたポリ(A)テールの分析に有効であることが実証されました。

図 11.  Fluc mRNA のポリ(A)テール長に対する平均 ESI-MS スペクトル強度の分布

結論

  • BioAccord LC-MS システムで開発された IP-RP LC-MS 分析により、予防/治療用 mRNA のポリ(A)テールオリゴヌクレオチド領域の長さおよび不均一性の情報、および平均分子量が得られます。
  • コンプライアンス対応の waters_connect インフォマティクスプラットホームで動作するベンチトップ型 BioAccord LC-MS システムを用いて、共溶出するさまざまなポリ(A)テールオリゴヌクレオチドを 25 ppm 以内の質量精度で正確に測定することができます。
  • 合成ポリ(A)アナログ用に開発された LC-MS アッセイは、予防/治療用 mRNA の酵素消化後に生成する実際のポリ(A)3' 末端フラグメントの分析に適用することができます。

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720007925JA、2023 年 8 月

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