• アプリケーションノート

ACQUITY™ Premier および新しい自動 INTACT Mass アプリケーションと組み合わせた BioAccord™ システムを用いた siRNA、単鎖ガイド RNA および不純物の LC-MS 分析

ACQUITY™ Premier および新しい自動 INTACT Mass アプリケーションと組み合わせた BioAccord™ システムを用いた siRNA、単鎖ガイド RNA および不純物の LC-MS 分析

  • Catalin E. Doneanu
  • Patrick Boyce
  • Henry Shion
  • Joseph Fredette
  • Scott J. Berger
  • Heidi Gastall
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、低分子干渉 RNA(siRNA)および高分子単鎖ガイド(sg)RNA オリゴヌクレオチドおよびその不純物を含む合成オリゴヌクレオチドのインタクトマス確認および純度分析用の自動化された規制対応の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)ワークフローを実証しています。今回示すデータから、クロマトグラフィー分離から純度評価に至るまで、非常に長いオリゴヌクレオチドの分析における困難な側面がわかります。規制対応の waters_connect™ インフォマティクスプラットホーム内の新しい INTACT Mass アプリケーションにより、ヌクレオチド分析を効率化する自動データ解析機能を使用して、短いオリゴヌクレオチドと長いオリゴヌクレオチドの両方を分析することができます。

アプリケーションのメリット

  • Premier CSH™ カラムと組み合わせた ACQUITY Premier を搭載した BioAccord システムは、短い 20 mer の siRNA および長い 100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドの詳細な特性解析に最適
  • waters_connect INTACT Mass アプリケーションに組み込まれた規制対応の自動化されたワークフローにより、イオン対逆相(IP-RP)LC-MS アッセイにより分析した 100 mer 単鎖ガイド RNA (sgRNA)オリゴヌクレオチドとその不純物のインタクトマス確認で、20 ppm を超える質量精度が得られる
  • 今回説明するワークフローにより、すべてのサンプル成分の純度情報が、最低 1% の低存在量まで得られる

はじめに

この 10 年間、低分子医薬品およびタンパク質医薬品に代わる医薬品として、オリゴヌクレオチド医薬品への関心が高まっています1,2。オリゴヌクレオチド医薬品の製造および品質管理には、非常に選択性および感度の高い LC-MS 分析法が必要です。固相オリゴマー合成ケミストリーの大幅な進展にも関わらず3、合成オリゴヌクレオチドには、複数のクラスの低濃度(0.1 ~ 2%)の不純物がいまだに含まれています4,5。IP-RP は、オリゴヌクレオチド生成物の特性解析に使用される従来の LC-MS 分析法の 1 つです。

このアプローチを使用して、規制対応の waters_connect プラットホームで動作する BioAccord LC-MS システムを採用した合成オリゴヌクレオチド分析の自動ワークフローが最近報告されました6,8

図 1 に示す ACQUITY Premier を搭載した BioAccord システムは、ルーチンのバイオ医薬品分析用の頑健で使いやすい小型のプラットホームです。この完全統合型のシステムは、ACQUITY Premier UPLC™ システム、チューナブル紫外線(TUV)検出器、エレクトロスプレーイオン化時間飛行(ESI-Tof)ベースの ACQUITY RDa 質量検出器で構成されています。

今回、新しい INTACT Mass アプリケーションを用いるワークフローを使用して、短い siSNA および長い単鎖ガイド RNA オリゴヌクレオチド(sgRNA)の両方の不純物分析について、この LC-MS プラットホームの機能を調査しました。

図 1.  ACQUITY Premier を搭載した BioAccord LC-MS システム

実験方法

試薬およびサンプル前処理

N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、純度 99.5%、カタログ番号 387649-100ML)および 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、純度 99%、カタログ番号 105228-100G)は、Sigma Aldrich (米国ミズーリ州セントルイス)から購入しました。アセトニトリル(LC-MS グレード、カタログ番号 34881-1L)は Honeywell(米国ノースカロライナ州シャーロット)から入手しました。HPLC グレードの脱イオン水(DI)は、MilliQ システム(Millipore、米国マサチューセッツ州ベドフォード)を使用して精製しました。移動相は試験日に新たに調製して使用しました。HPRT1 酵素(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ 1)をコードする 100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドは Integrated DNA Technologies(米国アイオワ州コーラルビル)から購入しました。オリゴヌクレオチドの配列 5’-G*A*U* GAU CUC UCA ACU UUA ACG UUU UAG AGC UAG AAA UAG CAA GUU AAA AUA AGG CUA GUC CGU UAU CAA CUU GAA AAA GUG GCA CCG AGU CGG UGC U*U*U* U-3’ の元素組成は C959 H1183 N376 O691 P99 S6 で、平均分子量は 32,292.5513 Da です。この RNA オリゴヌクレオチドには、最初の 3 つの 5' ヌクレオチド(G*A*U*)および最後の 3' ヌクレオチド(U*U*U*)が 2'-OMe で修飾されており、アスタリスク(*)でこれら 6 ヌクレオチドすべてがホスホロチオエート化されていることを示しています。

sgRNA オリゴヌクレオチドのストック溶液は、脱イオン水中に濃度 5 µM で調製し、そのうち 10 µL を RP カラムに注入しました。これは、100 mer のオリゴヌクレオチド 50 ピコモルのオンカラムロードに相当します。

すべてのデータセットは、完全統合型の waters_connect INTACT Mass アプリを使用して取り込み、解析しました。このアプリケーションでは、UV データおよびトータルイオンクロマトグラム(TIC)データの自動 2D ピーク検出を実行し、LC ピークのスペクトルをコンバインし、MaxEnt1 または BayesSpray のデコンボリューションアルゴリズムの新規自動実施を使用して質量スペクトルをデコンボリューションします。デコンボリューションした質量スペクトルから、製品類縁物質および製品関連不純物が自動的に検索されます。最後に、アプリケーションにより、TUV クロマトグラムのピーク面積、TIC ピーク面積、またはマススペクトルカウントを使用して、純度の結果が計算されます。

LC 条件

LC-MS システム:

ACQUITY Premier を搭載した BioAccord システム

カラム:

ACQUITY Premier CSH カラム 1.7 µm、130 Å、2.1 × 100 mm(製品番号 186009461)

カラム温度:

50 ℃

流速:

300 µL/分

移動相:

溶媒 A:40 mM HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)、8 mM DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)含有脱イオン水、pH 8.8

溶媒 B:4 mM HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)、4 mM DIPEA 含有 75% アセトニトリル

グラジエントテーブル:

サンプル温度:

6 ℃

サンプルバイアル:

LC-MS 認証マキシマムリカバリーバイアル(製品番号: 186005663CV)

注入量:

10 µL

洗浄溶媒:

パージ溶媒:

50% メタノール

サンプルマネージャー洗浄溶媒:

50% メタノール

シール洗浄溶媒:

20% アセトニトリル含有脱イオン水

MS 条件

取り込みモード:

フルスキャン

イオン化モード:

ESI(-)

キャピラリー電圧:

0.8 kV

コーン電圧:

45 V

イオン源温度:

120 ℃

脱溶媒温度:

500 ℃

脱溶媒ガス(N2)圧力:

6.5 bar

ToF 質量範囲:

400 ~ 5000

取り込み速度:

2 Hz

ロックマス:

waters_connect ロックマス溶液(製品番号:186009298)

データ取り込みソフトウェア:

waters_connect

データ解析ソフトウェア:

waters_connect

結果および考察

最近のアプリケーションノートで示されているように、IP-RP 分離により通常、短い合成オリゴヌクレオチド(20 ~ 25 mer)に関連する主要な不純物のほとんどを分離するのに適切なクロマトグラフィー分離が得られます8。 このクラスの短いオリゴヌクレオチドの場合、BioAccord ですべてのオリゴヌクレオチドのチャージ状態の同位体分布を分離できます。以前のアプリケーションノート8で使用したサンプルである、21 mer の高度に修飾されたオリゴヌクレオチドとその不純物を、ACQUITY Premier を搭載した BioAccord システムで分析しました。データは、waters_connect インフォマティクスの INTACT Mass アプリケーションを使用して取り込み、自動的に解析しました。

21 mer の合成オリゴヌクレオチドには、ヌクレオシドのうちの 19 個に 2'-OMe 修飾、4 つのシチジンに 5-メチル修飾、4 つのウリジンに 5-メチル修飾があり、3’ 末端の 2 ヌクレオチド(チミジン)のみが修飾されずに残っています。オリゴヌクレオチド配列は GUA ACC AAG AGU AUU CCA UTT で、その元素組成は C229 H306 N76 O143 P20 と算出されます。

主な分子種である完全長オリゴヌクレオチドのクロマトグラフィーデータおよびマススペクトルデータを図 2 および 3 に示します。以前に示したように8、クロマトグラフィーデータ(図 2)に個々の分離の分離度が表示され、UV ベースの定量が可能になります。スペクトルの合計に自動ピーク同定を使用して、メインピークとその配列不純物のデコンボリューション済みスペクトルが生成されました。メインピークのデコンボリューション済みスペクトルと生スペクトルを、図 3 のパネル A および B に示します。ダミースペクトル(パネル 3C)は、デコンボリューション結果を生成するためにアルゴリズムによって使用される生データで、デコンボリューションプロセスの簡単な品質チェックとして用います。

図 2.  21 mer の高度に修飾されたクロマトグラムから 11 のオリゴヌクレオチド不純物が分離されたことを示す 260 nm で記録された TUV クロマトグラム
図 3.  21 mer の siRNA オリゴヌクレオチドについて記録された INTACT Mass スペクトル:(A)MaxEnt1 電荷デコンボリューション済みスペクトル。(B)生 ESI-MS スペクトル。(C)デコンボリューションプロセスの品質チェックとして使用するダミースペクトル。

この分析をまとめた結果を図 4 に示します。同位体分離されたオリゴヌクレオチドの解析には、モノアイソトピック質量を使用する BayesSpray チャージデコンボリューションアルゴリズムが推奨されます。このアルゴリズムを自動設定で使用することで、5’ 末端ヌクレオチドの欠失に関連する失敗配列関連の 8 種の不純物(11、12、14、15、16、17、18、19 mer の不純物)が同定されました(図 2 で 1 ~ 7 とラベル付けされたピーク)。さらに、さまざまな種類の修飾を含む 21 mer のオリゴヌクレオチドに関連するその他の 4 つの不純物も同定されました(8 ~ 11 とラベル付けされたピーク)。このサンプルに存在する 3 種類の不純物(図 2 で 7、10、11 とラベル付けされたピークペア)にはそれぞれ、2 つの位置異性体が含まれることがわかっています8。 これは卓越した結果であり、ACQUITY Premier OST カラムにより、混然としたオリゴヌクレオチド配列(ピーク 7 および 10 に対応するダブレット)と完全長の生成物の脱アミノ化異性体(ピーク 11)がクロマトグラフィー分離できることを示しています。デコンボリューション済みオリゴヌクレオチドの質量はすべて、15 ppm を超える質量精度で測定されました。INTACT Mass アプリケーションでは、UV レスポンスによりと、これらの低レベルのオリゴヌクレオチド不純物が 0.2% の低レベルまで検出できました。

図 4.  21 mer のオリゴヌクレオチドとその不純物の分析において、INTACT Mass ソフトウェアによって生成された解析結果を示すスクリーンショット。このデータセットが BayesSpray チャージデコンボリューションアルゴリズムを使用してデコンボリューションされ、11 種のオリゴヌクレオチド不純物が 15 ppm 未満の質量精度で同定されました。この表に表示されている最初の不純物は、11 mer のオリゴヌクレオチドで、UV 測定での存在量が 0.2% と最低です。

100 mer の sgRNA の分析

中サイズから大サイズのオリゴヌクレオチド(50 ~ 100 mer)の場合、これらの分析種を LC-MS で分析するのはより困難です。それは、IP-RP クロマトグラフィー分離では主な不純物が完全に分離されず、オリゴヌクレオチドの ESI-MS スペクトルの同位体分布がオーバーラップしているためです。その一例として、Cas9 遺伝子編集プロセスで機能するガイド RNA(gRNA)のケースが挙げられます。

ガイド RNA は、CRISPR アプリケーションで、正確な遺伝子位置に Cas9 エンドヌクレアーゼを「ガイド」するのに使用される RNA 分子です。自然界には、Cas9 が二本鎖 DNA を切断するのに 2 つの個別の RNA 分子が必要です。1 つはゲノムのターゲッティングを担う高度に可変の 17 ~ 20 nt の crispr RNA(crRNA)で、もう 1 つは、Cas9 が結合する足場として機能するより長く高度に保存された(80 ~ 100 nt の)トレーサー RNA(tracrRNA)です。CRISPR 関連のアプリケーションでは、これら 2 つの RNA 分子を 1 つに融合させて、通常長さ 100 ヌクレオチドの単鎖ガイド RNA(sgRNA)にすることができます。sgRNA は通常、固相合成によって作成し3、純度は通常 LC-MS 分析を使用して評価します。このような長いオリゴヌクレオチドの合成は、それぞれの結合段階で非常に高い収率が求められるため、困難になります。例えば、それぞれすべての合成ステップで結合段階の収率が 99.9% であっても、100 mer のオリゴヌクレオチドの場合、完全長生成物(FLP)の予想収率はわずか約 60% になります5。FLP の長さが増加するにつれて明らかにオリゴヌクレオチド不純物の数が増加し、sgRNA の精製に大きな問題が生じます。最近のレポート9 によると、sgRNA とその不純物の最適な分離について、複数のクロマトグラフィーカラムの調査が行われました。

今回提唱するワークフローを使用して、sgRNA およびその不純物の自動特性解析を高速で行います。100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドとその不純物の分離を、同じカラム寸法(内径 2.1 mm × 長さ 100 mm)および同じ粒子径(1.7 µm)の 3 本の異なる Premier C18 ケミストリーで行い、これらの分析種の分離に最適なクロマトグラフィー条件を調べました。オリゴヌクレオチド混合液には密接に関連した構造を持つ成分が含まれているため(表 1 を参照)、クロマトグラフィーピークの完全な共溶出をできるだけ避けるために、複数のクロマトグラフィーパラメーター(グラジエントの長さ/プロファイル、流速、カラム温度を含む)を最適化しました。130 Å ポアおよび 300 Å ポアの C18 粒子を含む 2 本の Premier OST カラムと、130 Å ポアの Premier CSH(荷電表面ハイブリッド)カラムで記録された 3 つの TUV クロマトグラムを図 5 に示します。この図に示すように、同一の実験条件を使用した場合、sgRNA の不純物について、最良のクロマトグラフィー選択性は Premier CSH カラム(製品番号: 186009461)で得られました。この観察結果は、親の 100 mer のオリゴヌクレオチドの直前に溶出する不純物の場合に明瞭であり、CSH カラムでは分離し始めたばかりです。MS で取り込んだデータを詳細に調べると、この不純物は主要成分からさらに大きく分離されていました。図 6 に、両方のオリゴヌクレオチドの同じチャージ状態([M-29H]-29])で記録された抽出質量クロマトグラムの重ね描きを示します。100 mer の不純物の大部分は、最も存在量の多いオリゴヌクレオチドと共溶出しません。この不純物は主要成分と約 16 Da しか異ならないため、この結果は予想外でした。この不純物は、PS から PO への変換(脱硫)によって生成しました。文献報告では、オリゴヌクレオチドの酸化脱硫がオリゴヌクレオチド合成時10、オリゴヌクレオチドの溶解/調合時11 に発生している可能性、あるいはソース内でのイオン化アーティファクトに関連している可能性が示されています12。ソース内で生成したアーティファクトシグナルは、親オリゴヌクレオチドと完全に共溶出したため、クロマトグラフィー分離によりこれら 3 つの可能性を区別することができます。図 5 のクロマトグラムは、オリゴヌクレオチド不純物がサンプルに由来する(すでに一定量存在していた)、または固体の sgRNA オリゴヌクレオチドを脱イオン水に溶解した後に、溶液中で生成したことを明白に示しています。この不純物の発生原因をよりよく理解するには、さらなるオリゴ分解の実験が必要ですが、これらの実験は今回行いませんでした。さらに、これらの結果は、BioAccord ESI-MS ソースではこの種のアーティファクトが生じないことを明確に示しています。 

表 1.  100 mer sgRNA オリゴヌクレオチド中に同定されたオリゴヌクレオチド不純物
図 5.  C18 1.7 µm 粒子(OST Premier カラムは 130Å ポア(黒線)、Premier PST カラムは 300 Å ポア(赤線)、CSH(表面電荷ハイブリッド)カラムは 130Å ポア(青線))を充塡した同じ寸法(2.1 × 100 mm)の 3 種類の Premier カラムでの 100 mer の sgRNA とその不純物の分離を示す TUV クロマトグラム。単一の修飾(PS からPO への変換、約 16 Da の修飾)のみを含む 100 mer のオリゴとして同定されたオリゴヌクレオチド不純物は、CSH カラムにおいて、他の 2 本のカラムと比較して、明らかにはるかによく分離されています(黒色の矢印を参照)。分離は同じ実験条件で行いました。
図 6.  主要な 100 mer sgRNA オリゴヌクレオチド(m/z = 1112.47、赤線)、およびこのサンプルに存在する最も存在量が多い不純物である PS から PO に変化した 100 mer(m/z = 1111.91、黒線)に存在する、存在量が多いチャージ状態([M-29H]-29)について記録された抽出質量クロマトグラムの重ね描き。いずれの質量クロマトグラムも、許容値 0.1 Da を使用して抽出しました。

CSH カラムで記録された TUV クロマトグラムの詳細図を図 7 に示します。このクロマトグラムは、関連する sgRNA の 100 mer の不純物のベースライン分離が非常に困難であることを明確に示しています。さらに、複数の共溶出不純物がメインピークの UV シグナルの下に隠れている可能性が非常に高いと考えられます。これら 2 つの観察結果により、オリゴ純度の計算には、TUV クロマトグラムの対応するピーク面積ではなく、オリゴ純度計算用にすべてのオリゴヌクレオチド不純物について記録したすべての ESI-MS スペクトルを使用する必要があることが裏付けられます。より短い合成オリゴヌクレオチド(20 ~ 25 mer)とその不純物の場合は、UV チャンネルと MS チャンネルの感度は同等でしたが 8、sgRNA の場合は ESI-MS シグナルが UV 感度と一致しません。結果として、sgRNA で同様の検出限界(純度レベル約 0.2%)に到達することは、短いオリゴと比較して非常に困難です(図 2 および参考文献 8)。図 6 の UV トレースでは、親の 100 mer 前後の 4 種のオリゴヌクレオチド不純物(ピーク 1、3、4、5 とラベル付け)が区別できます。

図 7.  100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドからのオリゴヌクレオチド不純物の分離を示す TUV クロマトグラム。「実験方法」セクションで説明した 25 分のグラジエントを使用して、2.1 × 100 の Premier CSH カラムでサンプルを分析しました。赤線は、サンプル注入前のブランクに対応します。

親の 100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドについて記録された ESI-MS スペクトルを図 8B に、デコンボリューション済みのスペクトルを上段(図 8A)に示しています。このオリゴヌクレオチドについて、3 本の Premier カラムすべてで同様に幅広いチャージ状態(17 ~ 40)の分布を示す一貫したスペクトルが得られ、すべてのオリゴヌクレオチド不純物についても幅広いチャージ状態の分布が観察されました(データは示しません)。ESI ソースのパラメーター(ESI 電圧、コーン電圧、ソース温度、脱溶媒温度)を最適化して、ESI-MS シグナルの感度を増大させ、ナトリウム付加イオンのレベルを低減させました。ESI-MS スペクトルのバックグラウンドを低減するための最適なカラム温度は 50 ℃ で、以前の観察結果が確認されました13。 イオン対試薬の選択、その他のすべての試薬の量と化学的純度、および移動相の調製手順は、よりきれいで付加イオンの少ない ESI-MS スペクトルを生成するために不可欠であり、これによって存在量の低いオリゴヌクレオチド不純物の検出が容易になります。図 9 に示す脱硫不純物と主要 sgRNA について検出された 2 つの存在量の多いチャージ状態(33 および 34)を調べると、図 6 に示す抽出質量クロマトグラムで分かるように、これらの密接に関連している分子種の ESI-MS シグナルが十分にクロマトグラフィー分離されていることが分かります。図 8 のスペクトルは、図 6 に示す 2 つの対応するクロマトグラフィーピークそれぞれの比較的「純粋な」領域からの ESI-MS スペクトルを組み合わせて生成したものです。これらの ESI-MS スペクトルからも、CSH カラムを使用することで、脱硫された不純物を親オリゴヌクレオチドからある程度分離できることが確認されました。

図 8.  最も存在量の多い 100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドについて記録されたインタクトマススペクトル:(A)MaxEnt1 電荷デコンボリューション済みスペクトル。(B)生 ESI-MS スペクトル。
図 9.  親の 100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチド(黒線)とその脱硫アナログ(赤線)の ESI-MS スペクトルのオーバーラップの詳細ビューにより、2 つの存在量の多いチャージ状態([M-33H]-33 および[M-34H]-34)がわかります。2 つの矢印は、PS から PO に変換されたオリゴヌクレオチド不純物によって生じるチャージ状態を示します。このスペクトルからわかるように、これら 2 つの密接に関連した分子はクロマトグラフィー分離できます。

図 7 のクロマトグラムからわかるように、大きいオリゴヌクレオチドに存在するすべての不純物(例: sgRNA)を完全に分離するのに十分なクロマトグラフィー分離を得ることは難しく4,5,13–15、したがって、UV ピーク面積に基づく従来のオリゴヌクレオチド不純物の定量の代わりに、別の定量アプローチを使用する必要があります。このような状況において、UV ピーク面積の代わりに ESI-MS イオンカウントを使用してオリゴヌクレオチド純度を計算することができます14,16。INTACT Mass アプリケーション17 では、保持時間やクロマトグラフィープロファイルに関係なく、検出されたすべてのオリゴヌクレオチド不純物(ユーザーが指定した感度を超える不純物)の自動デコンボリューションを行います。このアプローチ(非 RT ベースの自動デコンボリューション)は、親オリゴヌクレオチド分子種の前後に分布する共溶出オリゴヌクレオチド不純物の分析に特に適しています。図 7 に示すクロマトグラムで 15 ~ 25 分に溶出するオリゴヌクレオチド不純物に対応するすべての ESI-MS スペクトルは、ソフトウェアにより最適化したデコンボリューション設定で、MaxEnt1 アルゴリズムを使用して自動的にデコンボリューションされたものです18。次のステップでは、一般的なオリゴヌクレオチド修飾およびあまり一般的ではないさまざまなオリゴヌクレオチド修飾が含まれている包括的でカスタマイズ可能なライブラリーで、デコンボリューション済みスペクトルが自動的に検索されます。現在、197 のオリゴヌクレオチド修飾が利用できます。カスタム(ユーザー定義)オリゴヌクレオチド修飾を、このリストに簡単に追加することができます。100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドの分析用に選択したオリゴヌクレオチド修飾を示すスクリーンショットを図 10 に示します。自動生成されたレポートからのデコンボリューション済みスペクトルの結果を図 11 に示します。この結果レポートに示されているように、4 種のオリゴヌクレオチド不純物が 20 ppm を超える質量精度で同定されましたが、検出された最も低存在量の不純物(余分のリン酸基を含む)の MS で計算された存在量は約 1% でした。仮割り当てられたすべての不純物の詳細を表 1 に示します。このサンプル中に検出された不純物は、脱硫により PS から PO に変換(-16 Da)したオリゴヌクレオチド10,13、+53 Da の CNET(シアノエチル)修飾14,15、+70 Da の IBT(イソブチリル)修飾19、および +80 Da の余分なリン酸化オリゴヌクレオチドなど、以前に文献に記載されているものです20

図 10.  100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドの分析用に選択したオリゴヌクレオチド修飾を示す INTACT Mass のスクリーンショット
図 11.  100 mer の sgRNA オリゴヌクレオチドの分析で得られた解析結果が表示されている INTACT Mass レポートのセクション。密接に関連する 4 種の不純物(すべて 100 mer)が 20 ppm 未満の質量精度で同定されました。不純物の存在量は ESI-MS レスポンスに基づいて計算し、検出された存在量が最低の不純物は、余分のリン酸化を含む 100 mer のオリゴヌクレオチドで 1% でした。

結論

  • 規制対応の waters_connect INTACT Mass アプリケーションは、クロマトグラフィースペース全体にわたってオリゴヌクレオチドスペクトルの自動デコンボリューションを行い、FLP(完全長生成物)の迅速なインタクトマス確認および不純物割り当て、並びに不純物分析の支援に必要な指標(質量精度および存在量)が得られます。
  • waters_connect INTACT Mass アプリケーションでは、IP-RP LC-MS アッセイで分析する短い siRNA および長い sgRNA オリゴヌクレオチドの両方のインタクトマス確認で、20 ppm を超える質量精度が得られることが示されています。
  • 今回説明したワークフローでは、サンプル成分の純度情報が、存在量が最低約 1% のレベルまで得られました。
  • ACQUITY Premier および Premier CSH カラムと組み合わせた BioAccord システムは、遺伝子抑制のための治療用オリゴヌクレオチドおよび遺伝子編集への応用のための単鎖ガイドオリゴヌクレオチド(sgRNA)の詳細なインタクトマス確認および純度評価に最適です。

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720007546JA、2022 年 4 月改訂

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