このアプリケーションノートでは、waters_connect HUB データ取り込みおよび解析ソフトウェア内の、BioAccord システムを用いたオリゴヌクレオチド分析のための、合理化されたコンプライアンス対応ワークフローを説明します。
近年、低分子医薬品およびタンパク質医薬品の強力な代替品として、オリゴヌクレオチド医薬品が注目を集めています1。オリゴヌクレオチド医薬品の製造および品質管理には、非常に選択性および感度の高い LC-MS 分析法が求められます。質量分析法ベースのオリゴヌクレオチド分析に最も多く使われている分析法は、様々なイオンペア試薬およびモディファイヤーを使用したネガティブ ESI-MS モードの逆相クロマトグラフィーでした。近年では、四重極および QTof LC-MS プラットホームに、オリゴヌクレオチド分析用の統合 LC-MS ワークフローが導入されてきています2-4。
図 1 に示す Waters BioAccord システムは、バイオ医薬品ルーチン分析のための、小型で頑健性が高く、使いやすいプラットホームとして 2019 年に発表されました。本アプリケーションノートでは、waters_connect HUB データ取り込みおよび解析ソフトウェア内の、BioAccord システムを用いたオリゴヌクレオチド分析のための、合理化されたコンプライアンス対応ワークフローを説明します。完全統合型の BioAccord LC-MS システムは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、ACQUITY UPLC 可変 UV(TUV)検出器、および ESI-Tof ベースの ACQUITY RDa 質量検出器で構成されています。このアプリケーションノートに記載されている LC-MS データはすべて、フルスキャン MS モードで取り込み、waters_connect で解析したもので、これらにより、オリゴヌクレオチドのインタクト質量測定の自動スペクトルデコンボリューションおよびレポート作成、並びに UV ベースの純度分析が行えます。非修飾オリゴヌクレオチドおよび修飾オリゴヌクレオチドの両方を、ここに記載したワークフローで分析しました。
トリエチルアミン(TEA、純度 99.5%、カタログ番号 65897-50ML)およびメタノール(LC-MS グレード、カタログ番号 34966-1L)は Honeywell(Charlotte, NC)から入手しました。1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、純度 99%、カタログ番号 105228-100G)は Sigma Aldrich(St Louis, MO)から購入しました。HPLC グレードの脱イオン水(DI)は、MilliQ システム(Millipore, Bedford, MA)を使用して精製しました。移動相は試験日に新たに調製し、使用しました。MassPREP OST(Oligonucleotide Separation Technology)標準試料(製品番号:186004135)を脱イオン水に溶解し、濃度 1 μM、100 nM、10 nM の希釈系列を調製しました。25 mer の完全にホスホロチオエート(PPT)化したオリゴヌクレオチド(5'-C*T*C*T*C* G*C*A*C*C* C*A*T*C*T* C*T*C*T*C* C*T*T*C*T*-3')を Integrated DNA Technologies(Coralville, IA)から購入し、脱イオン水で希釈して 1 μM 溶液を調製しました。100 mer のオリゴヌクレオチド(5'-TGCCA GTTGC AGTTG TTTCC GAGCA GAAAC TCATC TCTGA AGAGG ATCTG GAGCA GAAAC TCATC TCTGA AGAGG ATCTG CACAC GCTGG AGCTG CCGCG-3')を Integrated DNA Technologies から購入し、脱イオン水で希釈して 1 μM 溶液を調製しました。すべてのサンプルで注入量は 10 μL でした。
LC-MS システム:ACQUITY RDa 質量検出器、ACQUITY UPLC I-Class PLUS、および ACQUITY UPLC TUV 検出器を統合した BioAccord
OST カラム: |
2.1 × 50 mm、1.7 μm C18 パーティクルを充塡(製品番号:186003949) |
カラム温度: |
60 ℃ |
流量: |
300 µL/分 |
移動相 A: |
80 mM HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)、7 mM TEA(トリエチルアミン)含有脱イオン水 |
移動相 B: |
40 mM HFIP、3.5 mM TEA 含有 50% メタノール |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
10 µL |
パージ溶媒: |
50% メタノール |
サンプルマネージャー洗浄溶媒: |
50% メタノール |
シール洗浄溶媒: |
20% アセトニトリル含有脱イオン水 |
イオン化モード: |
ESIー |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
40 V |
ソース温度: |
120 ℃ |
脱溶媒温度: |
400 ℃ |
脱溶媒ガス(N2)圧力: |
6.5 bar |
ToF 質量範囲: |
400~5000 |
取り込み速度: |
2 Hz |
ロックマス: |
waters_connect ロックマス溶液(製品番号:186009298) |
データ取り込みソフトウェア: |
waters_connect |
データ解析ソフトウェア: |
waters_connect |
図 2 に示すように、ACQUITY UPLC OST カラムで、「実験方法」セクションに記載したイオンペア逆相条件を使用することで、polyT オリゴヌクレオチドとこれが切断されて生じた不純物とを 8 分未満で非常によく分離できました。UV クロマトグラムおよび TIC クロマトグラムの両方で、低レベルのオリゴヌクレオチド不純物が複数検出され、ネガティブイオンモードで記録された、対応する ESI-MS スペクトルに基づいて、切断されたオリゴの分子種すべてを容易に割り当てすることができました。全部で 26 種のオリゴヌクレオチド成分が OST MassPREP 標準試料中に確認されました。このサンプルに存在する 5 つの主な成分(dT15、dT20、dT25、dT30、dT35)の ESI-MS スペクトルを図 3A に示します。すべてのスペクトルにおいて、観察されたチャージ状態は二峰性の分布を示し、各オリゴにおいて、低チャージ状態(-3~-5)および高チャージ状態(-7~-15)の 2 つの明確な最大値を示しました。このスペクトルの特徴は、オリゴヌクレオチドのイオンペア逆相分離に典型的に見られるものであり、デコンボリューションにおいて、広い質量範囲(m/z = 600~3000)と比較的多いチャージ状態数(6~12)が得られました。図 3B に示すように、ACQUITY RDa 検出器の分解能(>10,000)は、高いチャージ状態のオリゴヌクレオチドイオンの同位体の分離に十分であり、dT35 オリゴの [M-12H]-12 チャージ状態のモノアイソトピックピークが、はっきりと見分けられることがわかりました。個々のチャージ状態の同位体分離により、BayesSpray デコンボリューションアルゴリズム 5 が、オリゴヌクレオチドのデコンボリューションされた平均質量について、より正確な質量測定に役立っています。
図 2 に示す UV クロマトグラムから収集した情報に基づいて(各オリゴ成分の個別の保持時間を使用)、各オリゴ分子種の含有量を計算するために、waters_connect で自動データ解析メソッドを作成し、UV クロマトグラムに存在する 26 種のオリゴヌクレオチド成分すべてのピーク解析を実行しました。さらに、同じ成分の生 ESI-MS スペクトル(TIC トレースで収集)に、同じ解析メソッドで BayesSpray デコンボリューションアルゴリズムを適用し、対応する正確な平均デコンボリューション質量を計算しました。解析データのスクリーンショットを図 5 に示します。予想される正確な平均オリゴヌクレオチド質量、実験により測定した質量、対応する質量精度エラーを表示しています。分析した成分すべてについて、含有量にかかわらず、質量精度エラーは 15 ppm 未満であり、26 回の測定すべてについての全体の質量精度エラーは 5.3 ppm でした。
表 1 は、各オリゴヌクレオチド成分の元素組成、保持時間、含有量(%)と、正確なデコンボリューション済み平均質量の計算値および質量エラーをまとめた詳しい表です。図 5 および表 1 に示した結果から、主なオリゴヌクレオチドおよびその不純物についての純度分析およびインタクト質量確認において、waters_connect ワークフローにより、迅速かつ正確な結果が得られることがわかります。
BioAccord LC-MS システムで実施したオリゴヌクレオチド分析の感度を示すため、さらに 100 倍に希釈した OST サンプル(10 nM)を同じ装置で分析しました。このサンプル(5 種の主なオリゴを 100 fmol オンカラムで注入)の UV クロマトグラムおよび TIC クロマトグラムを図 5 に示します。両方のトレースにおいて、5 つの主な成分すべてが明確に認められ、光学検出および質量分析法による検出の両方で、低レベルのオリゴヌクレオチド濃度についての BioAccord システムの検出能の高さが実証されました。
オリゴヌクレオチド医薬品には天然の DNA/RNA 配列が含まれており、これは通常、自然界に存在するヌクレアーゼによる分解に抵抗するように化学修飾を行います。化学修飾には主に、バックボーン、糖、核酸塩基の修飾の 3 種類があります。オリゴヌクレオチド医薬品の大半は、バックボーンおよび糖の構成成分が修飾されていますが、分子診断に使用するオリゴヌクレオチドの場合は核酸塩基の修飾が最も望ましい選択肢となります。最初に導入されたバックボーン修飾のひとつに、リン酸バックボーンの酸素原子を硫黄に置換したホスホロチオエート(PPT)化オリゴヌクレオチドがあります。この種の分子の正確な平均質量を得るには、チャージデコンボリューションについて、固有の同位体モデルが必要となります。PPT オリゴ同位体モデルでは、硫黄同位体の自然含有量を考慮します。PPT オリゴのインタクト質量分析を実証するため、25 mer の完全にホスホロチオエート化したオリゴ(配列 5'-C*T*C*T*C* G*C*A*C*C* C*A*T*C*T* C*T*C*T*C* C*T*T*C*T*-3')を、OST オリゴヌクレオチドの分析と同一の実験条件を使用して、BioAccord システムで分析しました。このオリゴについて記録された UV および TIC のトレースを図 6A に示します。元素組成 C237 H310 N72 O131 P24 S24 に基づいて計算したこのオリゴの正確な平均質量は 7,776.3314 Da です。25 mer の PPT オリゴの ESI-MS スペクトル(図 6B に示す)を、BayesSpray および waters_connect の PPT オリゴヌクレオチド同位体モデルを使用してチャージデコンボリューションし、デコンボリューションした質量を予想される正確な平均質量と比較しました。
waters_connect からキャプチャーしたスクリーンショット(図 6B の挿入図)に示すように、この測定の質量エラーは 1.5 ppm でした。ホスホロチオエートのデコンボリューションに PPT オリゴ同位体モデルを使用した場合、BioAccord システムで正確な質量測定ができることは明らかです。
通常 CRISPR のアプリケーションで使用されるより大きいオリゴヌクレオチドの分析については、次の実験で記載しています。100 mer のオリゴヌクレオチド(配列 5'- TGCCA GTTGC AGTTG TTTCC GAGCA GAAAC TCATC TCTGA AGAGG ATCTG GAGCA GAAAC TCATC TCTGA AGAGG ATCTG CACAC GCTGG AGCTG CCGCG-3')を、溶離液 B(3.5 mM TEA、40 mM HFIP 含有 50% メタノール)35% から開始して 45% で終了する変更した 10 分間のグラジエントを使用して、BioAccord システムで分析しました。図 7A の対応する UV クロマトグラムおよび TIC クロマトグラムで、6.9 分で主なオリゴヌクレオチドが溶出していることがわかります。
この 100 mer(C975 H1223 N384 O595 P99)の元素組成によると、正確な平均質量の計算値は 30,907.7613 Da となります。このオリゴの ESI-MS スペクトル(図 7B に示す)は、waters_connect の BayesSpray チャージデコンボリューションアルゴリズムを使用して自動的にデコンボリューションされており、実験により測定したデコンボリューションした質量は、予想質量から 26.9 ppm 外れていました(図 7B のスクリーンショットに示す)。この結果から、BioAccord システムにより、大きなオリゴヌクレオチド(100 mer を超えるオリゴマー)でも、非常に正確な質量確認結果が得られることが実証されました。
ここに記載したワークフローを使用することで、BioAccord LC-MS システムにより、様々な修飾オリゴヌクレオチドおよび非修飾オリゴヌクレオチドの、迅速かつ正確なインタクト質量確認と純度分析が可能になります。
720006820JA、2020 年 4 月