SARS-CoV-2 パンデミックと闘う中で、差し迫ったニーズに応えるために、mRNA ワクチンの開発は 2020 年を通して急速に進みました。これにより、2 種類の高度に有効な mRNA ワクチンの緊急使用が認可されました1。 これらのワクチンには、送達のために脂質ナノ粒子に封入された合成 mRNA が含まれており、患者の体を用いて無害なバージョンのウイルススパイクタンパク質の in vivo 翻訳が行われ、免疫応答が誘起されます。
これらのワクチンの mRNA は、in vitro 転写(IVT)と呼ばれる酵素プロセスによって作り出されます。合成 mRNA は、細胞性 mRNA とよく似ており、7-メチルグアノシンヌクレオチドが 5’-5’-結合で含まれる(5’ キャップと呼ばれる)ように、5’ 末端で修飾される必要があります。ワクチン mRNA は、ポリ(A)テールと呼ばれる 3’ 末端のアデノシン鎖(通常は約 120 ヌクレオチド)が含まれるようにも修飾されます。これらの修飾は mRNA 構造の重要な特徴であり、細胞因子による mRNA の認識、合成 mRNA の安定性、合成 mRNA 分子の翻訳効率で、重要な役割を果たします2。 そのため、LC-MS 分析による 5’ キャップの性質の究明およびポリ(A)テールの長さの測定は、製品の品質を理解し、これらの新しいワクチンの安全性と有効性を確保するために不可欠です3。
このアプリケーションノートでは、合成 mRNA のキャッピング分析に適用できる迅速で高感度の LC-MS 分析法を開発しました。以前に、合成 mRNA の事前に定義された 5’ フラグメントを分析するための LC-MS 分析法が報告されました4。 ここでは、オリゴヌクレオチドの回収率が向上することが以前に示された、ACQUITY Premier カラムおよびその MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)によって、mRNA のフラグメント分析の性能も向上することを実証します。これに、使いやすく規制対応の BioAccord システムを組み合わせることで、IVT mRNA 調製物の 5’ キャッピングの迅速な分析用の、目的に適合したプラットホームが得られます。5 分未満の分析法が確立され、ターゲットの 5’ キャップフラグメントの 0.1% 未満の低レベルの製品関連不純物が検出され、直線性が実証されました。
Pfizer-BioNTech および Moderna の SARS-CoV-2 ワクチンの成功により、mRNA 分子に対する関心が一気に高まると同時に、新しいモダリティの開発および製造をより適切にサポートするための分析に対する、新しい要求も突きつけられています。完全長 mRNA の割合、mRNA の非翻訳領域(UTR)、3’ ポリ (A) テールの長さ、配列、構造、化学修飾などの重要品質特性(CQA)の中でも5、適切な 5’ キャップ構造の存在は、最大限の遺伝子発現を確保し、外来 RNA に対する生来の認識メカニズムを回避し、エキソヌクレアーゼ分解に対する耐性を高めるために重要です6。
真核生物では、mRNA の修飾された 5’ 末端は、5’から5’への三リン酸基によって 5’ ヌクレオチドに結合された N7-メチルグアノシンです。このような修飾構造はキャップと呼ばれています。酵母などの下等真核生物では、キャップされた mRNA の最初のヌクレオチドに 2’-O 修飾がなく、キャップは Cap-0 と呼ばれます。ヒトなどの高等真核生物では、キャップされた mRNA の最初のヌクレオチドの 2’-O 位置にメチル基があります。この哺乳類のキャップ構造は、Cap-1 と呼ばれます6。
適切なキャップ構造は mRNA の翻訳および生来の免疫応答に極めて重要な役割を果たすため、キャップされた RNA の効果的な製造が必要です。Cap-1 構造は、IVT 後にワクシニア mRNA キャッピング酵素(VCE)(図 2 の反応 1.1、1.2、1.3)をワクシニアキャップ 2’-O-メチルトランスフェラーゼ(図 2 の反応 2)と酵素的に併用して、または IVT の間に適切なキャップアナログを使用して、合成 mRNA に付加できます。ただし、RNA キャッピングの程度を確認することは取るに足らないことではありません。RNA キャッピングは、多くの場合キロベースの長さの RNA に単一のヌクレオチドを付加することです。例えば、BioNTech/Pfizer BNT162b2 の長さは 4,284 nt です。現在、インタクト RNA 分子の物理的特性のこのような小さな変化を検出および定量するための、効果的な分析法はありません。Novartis Institutes of Biomedical Research の Beverly と 共同研究者らは、合成 mRNA の 5’ キャップ構造の同定およびキャッピング効率の定量に使用できる、質量分析(LC-MS)と組み合わせた液体クロマトグラフィー分析法を報告しました4。この分析法では、ビオチン化プローブを使用して RNase H を導入して、合成 mRNA の 5’末端から事前定義したフラグメントを切断します。ストレプトアビジンビーズを用いて強化した後、5’ 切断フラグメントを LC-MS で分析し、5’キャッピングの程度を調べることができます。
このアプリケーションノートでは、MaxPeak High Performance Surfaces テクノロジーを採用した使いやすい規制対応の BioAccord LC-MS システムと ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムを用いて、合成 mRNA の 5’ キャッピング効率の評価における LC-MS の利点を実証します。この有機/無機ハイブリッド表面テクノロジーは、金属表面への相互作用を遮断することで、吸着による損失を最小限に抑えることが示されています7,8。 ここでは、MaxPeak Premier テクノロジーの性能を従来のカラムの性能と比較して、初回の注入から mRNA 5’ フラグメントの回収率が大幅に向上しています。これを BioAccord LC-MS システムと組み合わせることにより、MS 定量による合成 mRNA の 5’ キャップ構造の分析が容易になります。
このアプリケーションノートでは、MaxPeak High Performance Surfaces テクノロジーを採用した使いやすい規制対応の BioAccord LC-MS システムと ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムを用いて、合成 mRNA の 5’ キャッピング効率の評価における LC-MS の利点を実証します。この有機/無機ハイブリッド表面テクノロジーは、金属表面への相互作用を遮断することで、吸着による損失を最小限に抑えることが示されています7,8。 ここでは、MaxPeak Premier テクノロジーの性能を従来のカラムの性能と比較して、初回の注入から mRNA 5’ フラグメントの回収率が大幅に向上しています。これを BioAccord LC-MS システムと組み合わせることにより、MS 定量による合成 mRNA の 5’ キャップ構造の分析が容易になります。
濃度 2.5 pmol/μL の Cap-1 およびターゲッティングオリゴの等モル水溶液を調製しました。一定濃度 2.5 pmol/μL の Cap-1 に対して、1:10、1:100、1:1000 の希釈シリーズの 4 種類のプリカーサーオリゴヌクレオチドの水溶液を調製しました。
LC 条件 |
|
LC システム: |
BioAccord LC-MS |
検出: |
260 nm での UV 検出 |
バイアル: |
ポリプロピレンバイアル(製品番号:186002639) |
カラム: |
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、130 Å、1.7 μm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009484)、 ACQUITY UPLC Oligonucleotide BEH C18、130Å、1.7 µm、2.1×50 mm(製品番号:186003949) |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
5.0 µL(サンプル) |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
1.0% ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)水溶液、0.1% N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)水溶液 |
移動相 B: |
0.75% HFIP、0.0375% DIPEA 含有 65:35 アセトニトリル:水 |
グラジエント: |
5 分、10 分、または 20 分で 5 ~ 25% B |
MS システム: |
BioAccord LC-MS |
イオン化モード: |
フルスキャン、ESI ネガティブ |
取り込み範囲: |
m/z 400 ~ 5000 |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
40 V |
脱溶媒温度: |
400 ℃ |
クロマトグラフィーと MS ソフトウェア: |
waters_connect (UNIFI v1.9.12 付き) |
5’ キャッピング効率を調べるための LC-MS 分析法を開発する前に、LC-MS 分析からの mRNA フラグメントのクロマトグラフィー回収を評価しました。文献および以前のアプリケーションノートに記載されているように、オリゴヌクレオチドおよびリン酸化化合物は、ステンレススチールなどの金属表面に吸着することがあることが実証されています。この望ましくない効果は、MaxPeak Premier カラムを使用することで軽減できます9-11。 RNA 5’ のキャップの分析で、従来の ACQUITY UPLC Oligonucleotide BEH C18 カラムおよびこれと同じロットの固定相を充塡した ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムをそれぞれ使用して、5’末端に m7GpppGm 基がある Cap-1 分子種の LC-UV-MS 分離について調査しました。MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier カラムにより、コンディショニングや不動態化の必要なしで、回収率の向上や、準備不要で使用できる性能などの利点が得られました。
オリゴヌクレオチドの LC-MS 分析では、アミン移動相添加剤を用いるイオンペア逆相(IP-RP)分離が、その分離度と MS への適合性から、クロマトグラフィーの推奨モードです。ただし、酢酸塩や重炭酸塩などの酸性のカウンターイオンが含まれているアミンについては、効果的な分離に必要な濃度で、非常に強いイオン化抑制が見られます(ただし、IP 試薬の濃度を下げると軽減します)。ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)は、Apffel および共著者によって 1997 年に紹介されて以来、MS テクノロジーと IP-RP 分離のハイフネーテッド分析法に好まれています12。 HFIP は、バッファーアミンが含まれている移動相に対して、イオン化効率を大きく損なうことなく支援できる弱酸です。さらに、アルキルアミンは固定相に吸着して HFIP の存在下でより良好な IP システムとして機能する可能性が高く、ESI-MS でのオリゴヌクレオチドの脱溶媒に良い影響を与えるという理論が立てられています13。 本研究では、トリエチルアミンと比較して MS シグナル強度およびピーク形状が大幅に改善されることが示されているため14、HFIP でバッファリングした N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を使用しました。
初回の注入で得られたピーク面積に基づく Cap-1 フラグメントの回収率を、従来の ACQUITY UPLC カラムと ACQUITY Premier カラムで比較して評価しました。ACQUITY Premier カラムでの初回の注入、および従来の ACQUITY UPLC カラムでの初回から 5 回目までの注入で得られた代表的な UV クロマトグラムが、図 4 に示されています。従来のカラムでの初回の注入では、Cap-1 分子種のピークは見られませんでした(図 4)。対照的に、ACQUITY Premier カラムでは、最初の注入で強い強度のピークが得られ、後続する注入でも再現性のあるピーク面積が得られました。 従来のカラムでの Cap-1 の連続注入後の 5 回目の注入でも、Cap-1 フラグメントのピーク面積は、ACQUITY Premier カラムのわずか 37% に過ぎませんでした。
ACQUITY Premier カラムを装着した BioAccord システムで、5’ キャップの定量および質量確認を行うための LC-MS 分析法を開発しました。BioAccord システムは、使いやすい LC-光学-MS プラットホームとして、MS 装置の操作の複雑さを軽減し、バイオ医薬品の包括的な分析用に設計されています15-17。 BioAccord LC-MS システムにより、オリゴヌクレオチド分析用の頑健で効率的な LC-光学-MS 分析法を開発することができ、製品の品質を損なうことなく遺伝子ベースの治療法開発にかかるコストと時間が削減されます。多くの場合一部の分析者は、MS 装置にアクセスすることなく UV を使用する 5’ キャップフラグメントの定量を好みますが、当社では、BioAccord を使用して MS シグナルに基づく定量メソッドを最適化することを選択しました。それは、動作時間を短縮できる利点と MS 検出の正確さを利用するためです。
この戦略を用いて、短い 50 mm の ACQUITY Premier カラムを使用する高速 LC-MS 分析法を開発しました。目的は、迅速に分子種を溶出し、質量確認および相対的定量に高品質の質量スペクトルを使用することでした。図 5 に、5 分未満の分析法を使用して、Cap-1 分子種をほとんど損失なしまたはまったく損失なしで回収できることが示されています。さらに、図 5A では、5 分を下回る短い分析時間さえ達成できることが示唆されています。ただし、分析時間が短いと、分子種の存在量が少なければ、メインピークからの分離が悪くなり、これによって質量スペクトルの解析が妨げられることがあります。
前述のように、IVT で生成された Cap-1 mRNA 分子の割合は重要な CQA であり、合成 mRNA 調製物の有効性を理解および予測するために、正確に測定する必要があります。この測定での BioAccord LC-MS システムの機能を実証するために、Cap-1 の濃度をすべての溶液で一定にし、Cap-1 に対する 4 種類のプリカーサー分子種の比率がそれぞれ 1:10、1:100、1:1000 の一連の溶液を作成しました。溶液シリーズから得られたチャージ状態のプロファイルが図 6 に示されています。
図 6 では、Cap-1 の存在量が最も多いチャージ状態は [M-10H]10- でした。 それぞれの mRNA フラグメントが含まれているサンプルを分析した場合(データは示されていません)、それぞれのフラグメントについて 10 回脱プロトン化したイオンの存在量が最も多く、これらのチャージ状態は 1:10 希釈サンプルで視覚的に確認できます。このため、抽出イオンクロマトグラム(XIC)を用いるデータ分析および定量に、このチャージ状態を選択しました。
Cap-0 のチャージ状態 [M-10H]10- の代表的な XIC が、各希釈液について図 7 に示されています。それぞれの希釈について、チャージ状態の同位体分布を明確に観察することができ、XIC は同位体質量全体から質量誤差 10 ppm で取得しました。1:1000 希釈(製品関連不純物のわずか 12.5 fmol のオンカラム質量ロードに対応)であっても、Cap-0 分子種の XIC を容易に生成して波形解析できました。
希釈シリーズの XIC から検量線を生成することができ、各プリカーサーフラグメントについてその検量線を図 8 に示されています。ここでは、各チャートの線形回帰による R 平方値は 1.000 であり、この高速 LC-MS 分析法の 5’ キャッピングの程度を評価する能力が示されています。
RNase H ベースの mRNA フラグメント分析を行う際の重要な検討事項は、分析種からの RNase H プローブ(ターゲッティングオリゴ)の LC 分離です。この例では、RNase H プローブは、3’ デスチオビオチン親和性タグ修飾 RNA:DNA キメラで、長さは切断された 5’ フラグメントとほぼ同じです。このプローブは、ターゲット 5’フラグメントの補完物として設計されており、これら 2 つが溶液中でハイブリッド化して 2 本鎖の RNA-DNA 二本鎖構造を形成します。事前に定義された部位での RNase H 切断の後、プローブと 5’フラグメントは、溶液中で二本鎖として関連したままであり、サンプル混合液中に存在すると推測される RNase H オリゴプローブから対象の分子種を分離する必要があります。
RNase H プローブと分析種フラグメントの LC 分離をバリデーションするため、より長い RNA からの 25-nt RNA オリゴヌクレオチドの生成に使用できる RNase H プローブを設計して合成しました。図 9 に、高速 LC-MS メソッドにより、Cap-1 RNA オリゴヌクレオチドと RNase H プローブの等モル溶液中のこれら 2 種の分子種を分離できることが示されています。
ワクチンモダリティとしての mRNA の価値は、今や世界人口の 25% 以上に接種された新型コロナウイルス感染症に対する mRNA ベースのワクチンの高い有効性によって証明されています。mRNA ワクチンの適切な設計、開発、および再現性のある製造を確認するための分析手法が重要です。このアプリケーションノートでは、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムと BioAccord LC-MS システムを組み合わせて使用して、合成 mRNA の重要な CQA である合成 mRNA の 5’ キャッピングの程度の評価に適用できる、高速 LC-MS 分析法を実証しました。MaxPeak High Performance Surfaces テクノロジーを採用した ACQUITY Premierカラムにより、初回注入時の RNA 回収率を大幅に向上できました。BioAccord LC-MS との併用によるテクノロジーの組み合わせによって、低い検出下限でも正確な定量が可能になり、Cap-1 mRNA 分子の製造や製品のプリカーサーに関連する不純物の存在をバリデーションできます。さらに、これらの結果により、mRNA モダリティの開発を加速する可能性がある、ハイスループット分析法での MS ベースの定量の可能性が強調されます。
Jennifer Nguyen, Weibin Chen, Matthew Lauber, Martin Gilar (Waters Corporation, Milford, MA, USA).
Siu-Hong Chan, Bijoyita Roy, Brett Robb (New England Biolabs Inc., Ipswich, MA, USA).
720007329JA、2021 年 8 月