複雑な分離に最も影響を与えるのはカラム充塡剤の選択性ですが、精製を目的とした分離法の開発では、高速スカウティンググラジエントで作成したサンプル分離の最適化から始めることが最も効率的です。スカウティンググラジエントの目標は、カラムから目的化合物を溶出するのに必要なおおよその溶媒濃度を決定することです。スカウティンググラジエントは通常、同じ強溶媒 %(2 ~ 10%) から始めて、直線的に 25%、75%、50%、および 90 ~ 95% まで増加させます。
分析 |
グラジエント開始時の B % |
グラジエント終了時の B % |
高速グラジエント 1 |
2 ~ 10% |
90 ~ 95% |
高速グラジエント 2 |
2 ~ 10% |
75% |
高速グラジエント 3 |
2 ~ 10% |
50% |
高速グラジエント 4 |
2 ~ 10% |
25% |
スカウティンググラジエントの完了時に、次のステップに移る前に以下の一連の確認により結果のレビューと評価を行います:
スカウティンググラジエントで適切な結果が得られない場合、分析法にフォーカスして最適化するか、その他の方法として分離を pH、溶媒、またはその他のクロマトグラフィー変数全体を修正することができます。
目的化合物に対して最高の分離能が得られるスカウティング分析は、強溶媒および弱溶媒の組成を変更することで最適化できます。この組成は、一定に保つことも(アイソクラティック)、単位時間またはカラム容量あたりで変化させる(グラジエント)こともできます。
アイソクラティック分離では、弱溶媒と強溶媒が単位時間当たり一定の比率に維持されます。アイソクラティック溶媒は使用者がオフラインで調製することも、異なる溶媒を一定に設定した比率で混合する機能を備えた HPLC ポンプを用いてオンラインで混合することもできます。この溶出モードは、システム間で分析法を移管する場合のデュエルボリュームによる保持時間への影響が無視できるレベルであるため、一貫性と頑健性のある使いやすいモードです。
アイソクラティック溶出には欠点があり、すべての分離に適しているわけではありません。特有の問題として、速く溶出するピークの分離度の低下、ピークテーリングによる対称性の低下、バンドの広がりによる感度の低下、および強く保持された化合物の蓄積によるカラム汚染などがあります。
逆相またはイオン交換でのグラジエント分離では通常、移動相をオンラインで混合して、分析中に有機溶媒を一定の割合で増やします。溶媒強度が低いグラジエントの開始時、分析種は固定相に分配されるか、カラムヘッドに留まります。溶媒強度の上昇に伴い、分析種は移動相へと移り、カラムの中を通って、最終的に溶出されます。
グラジエント溶出では、妥当な時間枠内でさまざまな疎水性を持つ分析種を分離することができます。その他の利点には、ピーク分離度の向上やピーク高さの増加による感度の上昇があります。分析終了時に強く保持されている成分がカラムから洗い流されるため、カラムの劣化も最小限に抑えられます。
グラジエント溶出の使用には欠点もあります。脈流がない一貫したオンライングラジエント混合が必要なため、多くの場合、高価なポンプが必要です。また、複数の移動相を特定の組み合わせで混合すると析出のおそれがあります。グラジエント後の再平衡化のため実行時間が長くなり、また装置間のデュエルタイム(Vd)のばらつきにより、適切な補正を行わないと分析法移管の問題が発生することがあります。
リニアグラジエントでは、分析時間全体を通して強溶媒の組成が一定に増加していきます。高速スクリーニング実験において目的のピークを溶出する溶媒比を迅速に決定し、実行時間を妥当な時間内に収めて溶出時間を短縮し、時間を短縮するおよび溶媒コストを削減するためによく使用されています。
セグメントグラジエントは、傾きが異なる一連のリニアグラジエントの組み合わせです。緩やかな勾配の部分では目的化合物を分離し、急勾配の部分は分離後の洗浄など高い分離能が不要な領域です。
フォーカスグラジエントは通常、セグメントグラジエントよりも短く、より強調されています。一般的に、注入直後は溶媒強度を非常に低くします。その後、目的化合物の溶出に必要な溶媒比よりも 2 ~ 5% 低い割合まで急速に増加させます(例えば、溶出濃度 22% – 2% = 20% で緩やかなグラジエントを開始)。次に、緩やかなグラジエントを高速スカウティング分離で決定した傾きの約 1/5 で進み、最終的に目的化合物の溶出濃度よりも 2 ~ 5% 高い濃度で終了させます(例えば、22% + 2% = 24% で緩やかなグラジエントを終了)。最後に、溶媒の割合を急速に上昇させて、カラムに残ったサンプル成分を洗い流します。
高速スカウティンググラジエントによるサンプル分析後に、以下の計算を用いて目的化合物のフォーカスグラジエントを作成できます。各等式の後には理論的例を記載します。
まず、スカウティンググラジエントの実行で使用した装置のシステムデュエルボリュームを決定しなければなりません。デュエルボリューム決定の手順は、本ガイドの「デュエルボリュームの決定」セクションまたは www.waters.com/prepcalculator の「分析から分取へのグラジエントカリキュレーター」アプリケーションツールにあります。
また、スカウティングの実行で使用したカラムのカラム容量も決定しなければなりません。カラム容量は、シリンダーの容量 V = πr²h および充塡剤が占める容量の補正(V = πr²h(66%))を用いて算出できます。この計算には「分析から分取へのグラジエントカリキュレーター」アプリケーションツールも使用できます。
式 1: カラム容量
カラム容量 = π r² × 高さ×66% 移動相占有容量/1000 (mm³ から mL への変換)
例:
CV = 3.14 × (4.6 mm/2)² × 50 mm × 0.66/1000
CV = 548 mm³ = 0.548 mL
式 2: グラジエント組成と検出器の間のオフセット容量
オフセット容量 = システム容量* + カラム容量
*システム容量またはデュエルボリューム
例:
オフセット容量 = 1.04 mL + 0.548 mL
オフセット容量 = 1.588 mL
式 3:検出器までの時間
検出器までの時間 = オフセット(mL)/流量(mL/分)
例:
検出器までの時間 = 1.588 mL/1.5 mL/分
検出器までの時間 = 1.06 分
式 4:溶出濃度が形成された時間
ピークが溶出した時間 = 目的ピークの保持時間 – 検出器までの時間 – グラジエントホールド時間
例:
ピークが溶出した時間 = 6.0 分 – 1.06 分 – 0.0 分
ピークが溶出した時間 = 4.94 分
式 5:溶出時の溶媒比率
% 溶出濃度 = ピークが溶出した時間/スカウティンググラジエントセグメントの長さ × スカウティングの変化 + 最初のスカウティンググラジエント(%)
例:
% 溶出濃度 = 4.94 分/6.0 分 × 90% + 5%
% 溶出濃度 = 79.1%
式 6:カラム容量(CV)の数
# カラム容量 = 1 カラム容量/mL × 流量(mL/分) × スカウティンググラジエントセグメントの長さ
例:
# CV = 1 CV/0.548 mL×1.5 mL/分×6 分
# CV = 16.4
式 7:スカウティンググラジエントの傾き
スカウティンググラジエントの傾き = スカウティンググラジエントの変化 (%) /カラム容量
例:
スカウティンググラジエントの傾き = (95% – 5%) /16.4 CV
スカウティンググラジエントの傾き = 5.49%/CV
式 8:フォーカスグラジエントの傾き
フォーカスグラジエントの傾き = 1/5 × スカウティンググラジエントの傾き
例:
フォーカスグラジエントの傾き = 1/5 × 5.49%/CV
フォーカスグラジエントの傾き = 1.1%/CV
フォーカスグラジエントのセグメントは、推定溶媒比率の 5% 下から 3 ~ 5% 上までで作成します。例として、ピークが溶出する溶媒比率を 79% とします。
式 9: フォーカスグラジエントセグメントの時間の長さ
フォーカスグラジエントセグメントの時間の長さ = 範囲 (%) × (1/スカウティンググラジエントの傾き) × カラム容量 × (1/流量)
例:
フォーカスグラジエントセグメントの時間の長さ = (79%+5%) - (79%-5%) ×(1/1.1%)×(0.548 mL) × (1/1.5 mL/分)
フォーカスグラジエントセグメントの時間の長さ = 3.32 分
最終ステップは、以上の式で算出された値を用いてフォーカスグラジエントを書き出すことです。
時間(分) |
流速(mL/分) |
溶媒 |
|
%A |
%B |
||
0 |
1.5 |
95 |
5 |
7 |
1.5 |
5 |
95 |
8 |
1.5 |
5 |
95 |
9 |
1.5 |
95 |
5 |
時間(分) |
流速(mL/分) |
溶媒 |
|
%A |
%B |
||
0 |
1.5 |
95 |
5 |
1 |
1.5 |
26 |
74 |
4.32 |
1.5 |
16 |
84 |
6 |
1.5 |
5 |
95 |
7 |
1.5 |
95 |
5 |
スカウティンググラジエント