分取液体クロマトグラフィーの入門書

分取液体クロマトグラフィーの入門書

分取液体クロマトグラフィー(LC)の紹介

分取液体クロマトグラフィー(LC)の紹介

クロマトグラフィーは、混合物を含有成分の化学的性質に基づいて分離することと定義されます。分取クロマトグラフィー(分取精製クロマトグラフィー)は、クロマトグラフィーを使用して化合物をその後の実験やプロセスに十分な量や純度レベルで分離するプロセスと定義されます。目的化合物が決まったら、その化合物を出発材料、副生成物、他の不純物から十分に分離する分析法を開発します。全体的な目的は、ハイスループットと生産性のニーズの高まりに対応し、同時に精製法を適応させて適切なスケール、純度、および再現性の要件を満たすことです。

分取クロマトグラフィーは、大手製薬企業から小規模の天然物研究グループまで数多くの環境で利用されています。アプリケーション領域は異なるかもしれませんが、要求される一般的なユーザー要件はほぼ同じで、95% 以上の純度レベルでの目的化合物の分離です。

本ガイドの目的は、急激に拡大する LC による分離精製分野に関する基礎情報を液体クロマトグラフィーユーザーに提供することです。クロマトグラフィー分離法の開発、分析法のスケールアップに必要な計算式、および一般的に使用されているフラクション分取モードなどの基本原則を紹介します。大多数の分取 LC アプリケーションで使用されている逆相を中心に分離モードを説明します。

液体クロマトグラフィーによる分取精製

LC 分取精製システムのセットアップは、フラクションコレクターを追加すること以外、一般的な液体クロマトグラフィーシステムと同じです。サンプル混合液をクロマトグラフィーカラムに注入すると、成分が特定の化学的性質または物理的性質に基づいて分離されます。成分が検出されると、その後の実験のために分取するか、廃液として捨てるかのいずれかが可能です。溶出液の回収プロセスは、シンプルに成分が溶出する際にユーザーがマニュアルで分取することも、完全に自動化して、検出器がフラクションコレクターにシグナルを送って分取容器向けに流れを変えさせることもできます。分取容器に向かう分離されたフラクションの純度は、近接して溶出するその他の不純物からその化合物がどの程度分離されるかに左右されます。

図 1.分取 LC システム

分離精製の成功は、分離され得られた成分のスループット、回収率、および純度により決定されます。分離はピークの分離、つまり「分離能」により決まります。以下のクロマトグラフィーパラメーターが分離能に非常に大きな影響を与えます:

  • カラム充塡剤(固定相)
  • 溶媒強度

最適な分離能が得られる条件は、分析法開発ワークフローを行って決定されます。このワークフローは非常に単純ですが、各サンプルに固有の性質に基づいて複雑性および必要性においてさまざまな複数のステップで構成されています。アプリケーションやサンプル分離モード(逆相、イオン交換など)には関係なく、ワークフローは一般的に同じになります。

図 2.一般的な分取ワークフロー

ワークフローを設計する前に検討すべき最も重要な要素は、目的化合物の性質です。既知の化合物を同じソースまたは新しいソースから分離する場合、その目的化合物のクロマトグラフィー挙動に関する文献情報を得るのは比較的簡単で、適切な分離法を過去に発表された分析法から選ぶことができます。しかしながら、化合物の種類が不明な粗抽出液の分離プロトコルを設計するのはより困難です。このような場合、最初の分離後に一連の予備実験を実施することで pKa、分子量、溶解度、安定性、UV スペクトル、生物学的活性など、目的化合物に関してより多くの情報を得ることができます。これらの情報に基づいて、目的化合物の化学的要件や物理的要件を満たすよう、最初の分離法を調整することができます。これらの情報は、分析法開発に役立つだけでなく、分離された化合物の安定性が重要になる回収後プロセスにも有用です。

最初のステップは、サンプル前処理で、高速スカウティンググラジエントを使用して一般的な分離を実施します。これは通常、貴重なサンプルを節約するため、小スケールで実施します。小スケールの分離に基づいて、目的化合物を溶出させる溶媒条件を計算し、分離条件をさらに最適化して分離能を最大化することができます。高純度の分離物を得るのに適切な分離能を維持しつつロードできるサンプル量を決定するために、負荷量試験を実施することもあります。

分離法および必要なサンプル負荷量を確立した後、一部例外はあるものの、多くの場合、有用な分離物や潜在的価値のある分離物のために分析法スケールアップを実施します。本ガイドの目的における「スケール」という用語は、アプリケーションの純度、スループット、および収率の目標を達成するのに必要な装置および方法を表すことを意図しています。分析法を「スケールアップ」すると、より高いサンプル負荷量を取り扱うのに適したハードウェアを備えたシステムへと移行します。スケールアップでは基本的に、一連のスケールアップ計算およびハードウェア変更を通して分離能を維持しつつ、分析用カラムから分取用カラムに切り替えます。

図 3.分析スケールと分取スケールの分取精製に用いるカラムの内径の比較

サンプル

特定の化合物の分離に用いるサンプルは、医薬中間体、天然物、栄養補助食品、飲料、または工業製品など、ソースがさまざまです。サンプルが抽出でき、溶媒中に溶解できる限り、クロマトグラフィーを使用して個々の成分を精製できます。

サンプル抽出に使用する手法は、抽出するサンプルの複雑さにより異なります。天然物の場合、通常、サンプルを乾燥・粉砕し、微粒子にして抽出効率を高めます。次に、サンプルサイズが大きい場合にはパーコレーション、サンプルサイズが小さい場合には浸漬などの手法を使用して目的化合物を抽出します。どちらの手法でも、サンプルに溶媒を添加し、超音波処理、旋回振とう、または浸漬の後に溶質の回収を行います。抽出物の回収後は、すべての HPLC サンプルと同じく、粒子状物質を除去するためにろ過し、注入前にすべての気泡が除去されていなければなりません。

分離モード

分取クロマトグラフィーで使用する主な分離モードは、逆相、順相、ゲル浸透、およびイオン交換の 4 つのモードです。適切な分離モードは、分析対象であるサンプル、抽出物、または混合物と固定相および溶媒との適合性により決まります。

精製法開発で最も多く使用されている逆相法では、溶出溶媒よりも極性の低い固定相が使用されます。溶離液は水とアセトニトリルまたはメタノールの混合物を使用することが多いですが、サンプルのイオン化を調整し、固定相に含有する非修飾の遊離シラノール基と結合させるために、酸または塩基のバッファーが添加されます。結合相材料(シリカベースの固定相中の充塡剤)をアルキルシリル試薬で誘導体化することで、ピークテーリングを低減し、クロマトグラフィーの再現性を高めます。これらの誘導体化(シリル化)試薬による炭素負荷量の程度により、異なる製造者が製造したカラムに独自の分離特性を付与することができます。

クイックスタート分析法開発

逆相分離を確立するには多くの場合、将来のスケールアップを容易にするために、大スケール(直径 10 mm 以上)で使用可能なカラム長と充塡剤を持つ、小スケールの分析カラム(直径 4.6 mm 以下)を選択します。最適な分離を達成するには適切な溶媒系を見つけることが重要です。酸性化合物の場合、一般的に水性移動相を酸性 pH で調製し、強溶媒としてメタノールまたはアセトニトリルを調製します。濃度 0.1% 相当のギ酸が、UV と質量分析計の両方に適合性があるため、バッファー添加剤として一般的に使用されます。MS 適合性は、未知化合物の同定や、その後の試験のために精製済み分離物を調製する場合に役立ちます。酸性 pH ではなく塩基性 pH の移動相を使用することで、塩基性分子を非イオン化型のままに保つことができます。どの pH のバッファーを使用する場合もカラム固定相の添付文書で適合性を確認してください。

水性移動相は一般にポンプ位置 A に設置し、強溶媒はポンプ位置 B に設置します。このガイドでは、ポンプ表中で、水性移動相と強溶媒をそれぞれ「A」および「B」と呼びます。

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