精製化合物の分離

精製化合物の分離

分離法を開発し、目的のスケールにスケールアップしたら、最終ステップとして、目的化合物を分離または回収します。フラクションは、オペレーターがピーク溶出をモニターしながらマニュアルで分取することもでき、検出器シグナルや保持時間に基づいて自動的に分取することもできます。

図 34.精製化合物の分離のためのワークフロー

フラクション遅延時間

フラクション分取は、ユーザーが定義した分取トリガーの要件を満たすピークを検出器で確認した場合に行われます。検出器でピークを確認した時点では、そのピークはまだフラクションコレクターには到達していません。フラクションコレクターのトリガーが早すぎると、フラクションコレクターはそのピークを回収できません。フラクション分取のタイミングを正確に決定するため、システム固有のフラクション遅延時間を事前に決定しなければなりません。キャリブレーションの方法の 1 つとして、濃縮色素を注入し、色素が検出器で確認されてからフラクションコレクターに到達するまでの時間を比較する方法があります。フラクション遅延時間のキャリブレーションは通常、一度実施してそれをソフトウェアに入力すればすべての流速で再計算できます。フロースプリッターが追加された場合など、検出器からフラクションコレクターまでの流路に変更が加えられた場合には、フラクション遅延時間を再キャリブレーションしなければなりません。

図 35.フラクション遅延時間に寄与するシステムフローセグメント(円で囲んでいます)

マニュアルフラクション分取

マニュアル分取は非常に単純で簡単です。オンラインベースの装置ソフトウェアのリアルタイムシグナルプロットで化合物の溶出を視覚的にモニターしている間に、ユーザー自身がフラクションコレクターの切替バルブを切り替えます。マニュアル分取では、精製分析の目的の部分のみが回収されるため非常に高い柔軟性が得られますが、自動ではないためスループットは低くなる傾向があります。

ピークに基づくフラクション分取

ピークに基づくトリガーは、検出器シグナルに基づいてフラクションを自動的に回収する方法です。クロマトグラム中のピークがフラクションコレクターをトリガーすべきかどうかを決定するのに使用されるパラメーターは通常、ピーク高さ、しきい値および傾きのいずれかまたはその組み合わせです。

最も一般的なピークに基づくフラクション分取の方法は、高さまたはしきい値に基づきます。シグナルが検出器で設定した所定の高さに達すると直ちにフラクションコレクターがトリガーされます。シグナルが設定した高さを下回ると、分取動作が停止します。

傾きに基づくフラクション分取はより難しい分取法であることが多いですが、ベースライン分離されないピークの分取に使用できます。傾きに基づいて分取する際、クロマトグラムの一次導関数で検出された数学的変曲点においてソフトウェアが自動的にフラクション回収をトリガーします。

図 36.ピークに基づくフラクション分取

質量検出によるフラクション分取

質量検出に基づくフラクション分取では、ユーザーが定義した目的の質量を持つ化合物のみが回収されます。そのため、質量情報に基づく分取は、ピークに基づく分取より効率的である場合があります。質量検出に基づくフラクション分取の要件を以下にまとめます:

  • 化合物の分子量はあらかじめ分かっていなければならない。
  • 質量検出のため化合物をイオン化する必要がある。
図 37.質量検出に基づくフラクション分取

フラクション分析

フラクションが分取されたら、分取容器中から直接分析したり、精製化合物を得るために溶媒を除去したりできます。ロータリーエバポレーター(rotavap)を使用してフラクションを蒸発乾固できます。ロータリーエバポレーターでは、溶媒をサンプルから蒸発させ、水分を凍結乾燥させます。無機バッファーを使用していた場合や水分が著しく多い場合は、フラクションを逆相固相抽出(SPE)カートリッジを通過させて目的化合物を SPE カートリッジにトラップすることができます(脱塩と呼ばれます)。トラップされた化合物は、少量の有機溶媒で溶出され、この溶媒は簡単に蒸発させて除去することができます¹。

図 38.ロータリーエバポレーターのセットアップ

回収率の推定値は、UV、IR、MS、NMR、X 線、アッセイ、構造解析などのさまざまなルーチン分析法を用いるフラクション分析により決定することができます。標準物質がある場合には分離物を文献データと直接比較することが簡単ですが、目的化合物が未知の場合、純度および安定性プロファイルを確立するために、さまざまな物理的方法、化学的方法、および分光法を実施する広範かつ包括的な系統的アプローチが必要になります。

式 14:%回収率

分離された成分の分析において、純度、回収率、または活性が予測と異なる場合、分離物を以下の状況について評価します:

  • 分取容器から直接試験する場合、分取容器内で濃度の偏りがある可能性があります。その結果、サンプルを分取容器のどの位置から取り出すかに純度結果が左右されます。正確な結果を得るためには、分析前にサンプルを十分に混合する必要があります。
  • サンプルが DMSO などの強溶媒に最もよく溶解し、移動相には溶解しない場合、回収したフラクションが分取容器での保管中に時間の経過とともに結晶化する可能性があります。精製と濃度測定のために液相を取り出す場合、結果はその可溶性部分のみのものです。
  • 活性化合物も、回収時点、純度試験、および活性試験の間に分解により失われる可能性があります。また乾燥濃縮過程でも分解する可能性があります。したがって、活性試験はほぼ必ず乾燥濃縮の前後で実施します。
  • 活性化合物がカラムに保持されていた。
  • 活性化合物が分離プロセスで使用した条件において不安定である。
  • 抽出溶液が移動相と適合性のある溶媒を使用して調製されていないため、析出が起きた可能性がある。
  • ほとんどの活性化合物が広範なフラクションに広がっているため、フラクションに含まれる化合物の量が検出不可能な量である。
  • 抽出物の活性がクルードサンプルに含まれる他の化合物によるものであり、個別には活性がない可能性がある。
  • 近接して溶出する不純物が吸収しない UV 波長で分離物を回収した場合、その分離物の純度は予想ほど高くない可能性がある。

分離物がアプリケーションの純度要件、スループット要件、または回収要件の範囲内にない場合、同じ分離法を用いてその分離物を再精製する場合や、異なるカラム選択性を用いて全体として新しい分離法を開発する場合があります。目的の純度、スループットおよび回収を満たすために精製にどのくらいの時間や労力を費やしたいかの決定はクロマトグラフィーを行う人次第です。

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