加水分解について

加水分解について

1.1 加水分解の種類

1.1 加水分解の種類

ペプチドおよびタンパク質は、ペプチド結合によって結合した多数のアミノ酸で構成されています。これらの生体分子が、バイオ医薬品、食品、飼料など、さまざまなサンプルの構成成分になります。これらの生体分子に含まれるアミノ酸を分析するには、結合を加水分解して遊離アミノ酸を生成することが不可欠です。一方、このプロセスでは、結合しているアミノ酸結合のさまざまな化学的性質が、アミノ酸結合の切断の効率と個々のアミノ酸の回収率の両方に影響を及ぼす可能性があります。例えば、加水分解時のアミノ酸の回収率は、特定の化学反応、試薬マトリックスによる干渉、およびアミノ酸自体の安定性に影響される可能性があります。

サンプルとアミノ酸における化学的性質と物理的性質に大きな違いが存在することから、さまざまな加水分解手順が長年にわたって開発されてきました。手順は、反応の種類(化学的または酵素的)、化学反応の性質(酸または塩基)、反応の物理的状態(液相または気相)によって異なります。これらの違いが、特定のアミノ酸(特定の試薬によって破壊される可能性がある)の回収率や加水分解に要する効率と時間に影響を及ぼす可能性があります。場合によっては、サンプルの総アミノ酸含量を測定するのに、複数の加水分解手順が必要になることがあります。一般的な化学的加水分解反応の種類と加水分解のモードについては、以下に説明されています。

注:一般には使用されていない酵素的加水分解は、このドキュメントでは取り扱いません。

また、化学的加水分解反応の多くは、さまざまな種類の装置で実行できます。従来、加水分解手順では、反応を確実に完了させるために真空下の熱源を使用していましたが、最新の装置の登場により、マイクロ波による加水分解も広く利用されています。それぞれの方法に異なるメリットがあるので、装置を選択する前に検討する必要があります。

1.1.1 酸加水分解

タンパク質サンプルの加水分解において最も一般的なメソッドは酸加水分解で、このメソッドは気相または液相のいずれでも行えます。この反応にはさまざまな種類の酸を使用できますが、最も一般的なのは 6 M 塩酸です。塩酸は蒸発するため、少量のバッファー中の加水分解物の回収にも使用できます。この特性は、少量のサンプルの場合に特に有用です。さらに、塩酸は汎用的であり、液相加水分解または気相加水分解のいずれにも使用できます。

6 M 塩酸による酸加水分解反応により、ペプチドの各共有結合に水が付加されて目的の個別のアミノ酸が生じます(図 1)。ただし、塩酸による加水分解では、すべてのアミノ酸が完全に回収されるわけではありません。アスパラギンやグルタミンなどの一部のアミノ酸は、酸性型に加水分解され、それぞれアスパラギン酸とグルタミン酸になります。また、他のアミノ酸を確実に測定することができません。例えば、トリプトファンは反応中に破壊されます。また、含硫アミノ酸(システイン、メチオニンなど)も部分的に破壊されるため、確実に測定することができません。さらに、チロシン、セリン、スレオニンなどのアミノ酸は、酸加水分解の性質上、回収率が低くなる場合があります。

図 1.タンパク質の酸加水分解

ただし、一部の含硫ミノ酸(システイン、メチオニンなど)は、前処理を行えば、塩酸による酸加水分解でも保存されます。塩酸による酸加水分解の前にサンプルを酸化またはアルキル化することで、これらのアミノ酸を正確に定量することができます。酸化の場合、通常は過ギ酸を使用して硫黄含有アミノ酸を酸化してから、塩酸による酸加水分解を行います。その結果、酸化型のこれらのアミノ酸を正確に定量できます。アルキル化により、含硫ミノ酸(システイン)が保存され、アルキル化型で正確に定量できます。最も一般的な 2 種類のアルキル化試薬により、システインは、ピリジルチルシステインまたはカルボキシルメチルシステインのいずれかになります。このアルキル化処理の利点は、他のアミノ酸に影響を及ぼさないことです。

最後に、一部のアミノ酸は塩酸による加水分解による定量が困難であることから、特定のアミノ酸に適用できる代替の酸加水分解手法があります。1 つの手法では、メタンスルホン酸(MSA)などのスルホン酸を使用して、トリプトファンとメチオニンを(スルホキシド型で)定量します。この試薬は不揮発性ですが、トリプトファンおよびメチオニンスルホン酸化物が保存されて定量可能になります。

1.1.2 アルカリ加水分解

塩酸を用いた酸加水分解がタンパク質やペプチドの加水分解に用いる最も一般的な手法であるのに対し、アルカリ(または塩基)加水分解はトリプトファンの測定によく使用されます。トリプトファンは塩基性条件下で安定であるため、この手法によりトリプトファンの正確な定量が可能になり、食品・飼料からペプチド・タンパク質まで、さまざまなサンプルに広く使用されています。アルカリ加水分解では通常、NaOH または KOH を試薬として使用します。ただし、アルカリ加水分解は、すべてのアミノ酸が定量できる酸加水分解に代わるものではありません。アルカリ性条件下では、アルギニン、システイン、セリンおよびスレオニンが破壊され、定量できません。他のアミノ酸も影響を受けるため、一般にアルカリ加水分解はトリプトファンにのみ使用されます。

1.2 加水分解のモード

1.2 加水分解のモード

加水分解反応は、液相または気相のいずれかで行います。いずれのモードでも、加水分解用に特別に設計された装置により反応が容易になります。従来、加水分解反応の多くは高温の真空状態で数時間から数日間かけて行っていましたが、マイクロ波加水分解装置の登場により、低温で数分間で同じプロセスを行うことができます。

1.2.1 気相加水分解

液相加水分解では、サンプルと塩酸の両方を加水分解チューブに直接添加して反応させます。この手順では、サンプル、内部標準試料、酸を直接に加水分解チューブに添加する必要があります。チューブを窒素でフラッシュ洗浄し、密封して、加水分解の完了に必要な時間加熱します。液相加水分解は完了まで数時間から数日かかることがあります。この手順は通常、複雑なサンプルに使用します。

1.2.2 気相加水分解

気相加水分解では、サンプルは気相中の塩酸とのみ反応します。この手順では、加水分解チューブにサンプルと内部標準試料(使用する場合)を入れる必要があります。次にサンプルを乾燥させ、各チューブを開いたままの状態で加水分解容器に入れます。酸(6 M 塩酸)をチューブの入った容器の底に加え、容器を密封して真空引きし、窒素でフラッシュ洗浄します。容器を加水分解の完了に必要な時間加熱します。このモードでは、塩酸などの不純物が含まれる試薬による汚染が低減します。気相加水分解は通常、液相加水分解よりも速い速度で進み、また、サンプルが高純度であることが必要です。

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