精製タンパク質およびペプチドの加水分解

精製タンパク質およびペプチドの加水分解

「タンパク質およびペプチド」という言葉は、バイオリアクターまたは精製プロセスからの比較的純粋なサンプルを意味します。これらのサンプルには、他のタンパク質以外の物質がほとんどまたはまったく含まれていません。インタクトタンパク質またはペプチドから遊離アミノ酸を生成することは、有用で正確なアミノ酸分析データを生成する極めて重要なステップです。この生成を可能にするには、タンパク質/ペプチドをその個々のアミノ酸成分に分解または加水分解する必要があります。

このセクションでは、気相および液相でのタンパク質およびペプチドの加水分解の基本的な手順が示され、最適な分析に必要な予備的検討事項が強調されています。

追加のサブセクションでは、標準的な酸(塩酸)加水分解手法に適合しない、アミノ酸(トリプトファンおよびシステイン/シスチン)が含まれている特殊なサンプルを分析するための、代替の加水分解手順について説明されてます。

2.1 タンパク質の酸加水分解

2.1 タンパク質の酸加水分解

このセクションでは、アミノ酸サンプルの前処理に最も一般的に使用される方法である塩酸による酸加水分解に焦点を合わせます。ただし、タンパク質サンプルを(何らかのメソッドで)完全に加水分解するには、いくつかの要因を考慮する必要があります。中和バッファーおよび存在するあらゆる固形物を、手順を判断する際に考慮する必要があります。加水分解の速度や程度は、タンパク質中に存在するアミノ酸によっても異なり、加水分解プロセスの時間経過試験およびメソッド全体の適切なバリデーションが必要です。加水分解時の適切なサンプルの取り扱いにより、質の高い結果が確保されます。この種類の分析で最も一般的な課題は通常、不適切または粗雑な手法によるものです。このメソッドで加水分解が効果的であるためには、まず以下の 4 つの質問に答える必要があります。

  1.  サンプルの希釈は必要か?
  2.  加水分解チューブに分注するサンプル量はどれだけか?
  3.  チューブに加える酸の具体的な量は(液相加水分解のみ)どれだけか?
  4.  内部標準溶液の量は(この段階で使用する場合)どれだけか?

以下のセクションでは、必要な測定の概要が示され、該当する場合は計算例が示されています。

2.1.1 準備での検討事項

サンプルが限られていない限り、加水分解には、汚染の影響を最小限に抑えるために、2 ~ 25 μg のタンパク質が存在する必要があります。加水分解のモードに関係なく、20 μg を推奨します。

  • サンプルに固形物質が過剰に含まれていない必要があります。この物質は、気相加水分解を妨害することがあります。
  • タンパク質が含まれているサンプルに他の固形物が含まれている場合は、それらの重量を、酸の量あたりの固形物の濃度で、タンパク質に加える必要があります。
  • 加水分解での酸の正味濃度は、約 6 N である必要があります。
  • 外部標準よりも内部標準溶液(Nva(ノルバリン)など)の使用を推奨します。
  • 内部標準は、加水分解の前に加える必要があります。必要に応じて、サンプル前処理時に加えるか、酸に添加してそれを加水分解チューブに加えることもできます。通常、内部標準の濃度は、キャリブレーションに使用する標準溶液の濃度と一致するように計算します。
  • 加水分解に使用する酸にフェノールを添加し、これは脱酸素剤として作用します。

2.1.2 液相加水分解の前のサンプル希釈(必要な場合)

  • 10 μL 以上のサンプル(希釈されていてもしていなくても)を加水分解チューブに加えます。これより少ないと、体積測定の不確かさが原因で、許容できない誤差が生じます。
  • 加水分解では、サンプルより 10 ~ 100 倍多い重量の酸も必要です。過度に濃縮されたサンプルでは、加水分解が効果的に行われない場合があります。このような場合は、サンプルを希釈する必要があります。液相加水分解物中の固形物の、約 100 倍(重量)の酸が確実に含まれるようにします。
  • サンプル中の酸がバッファーより 25 倍モル程度多いことを確認します。3 つの滴定可能基の存在を考慮して、リン酸塩バッファーのモル数に 3 を乗算します。
  • 加水分解の合計量は、加水分解チューブまたは容器の全容量の 50% を超えてはなりません。6 × 50 mm チューブの場合、推奨最大量は 100 μL です。この最終的な合計量には、酸および内部標準溶液の量を含めます。

計算例:希釈要件の決定

150 mM NaCl 中 5 mg/mL のタンパク質について、固形物(塩を含む)の量と希釈係数を決定します。

ステップ 1:サンプル中の総固形物量を決定します。

ステップ 1:サンプル中の総固形物量を決定します。

最初のステップで、サンプル中の総固形物量を決定します。このためには、タンパク質濃度(μg/μL)に塩重量濃度(濃度 x MW)を乗算して総固形物量を算出します。

ステップ 2:20 μg のターゲットの希釈比。

ステップ 2:20 μg のターゲットの希釈比。

次のステップで、20 μg(20 μL 中)のタンパク質のターゲットに対して必要な希釈を決定します。これには、必要な量/体積にサンプル濃度の逆数を乗算します。これにより、上記のサンプルに必要な希釈比が 1:5 になります。

2.1.3 加水分解チューブに分注するサンプル量

加水分解の総推奨量は 100 μL(6 × 50 mm チューブ使用時)で、サンプル量は 10~20 μL です。このサンプル量は、希釈の有無にかかわらず、実行する加水分解の種類によって異なり、以下のガイドラインに従います。

  • 気相加水分解:サンプルを加水分解チューブの底で薄膜として真空乾燥します。
  • 液相加水分解:適切な量を分注して、加水分解チューブ内で少なくとも 2 μg のタンパク質を加水分解するか、より多量のサンプル(最大 25 μg のタンパク質)を十分な量の 0.1 N 塩酸に再溶解して、約 0.2 μg のタンパク質(理想的には 10 μL)を加水分解チューブに移します。

ここでも、サンプル中のタンパク質の量が少ないほど、分析は汚染に対して脆弱になる可能性があることに注意することが重要です。

2.1.4 加水分解に加える酸の量

加水分解に加える酸の量は非常に重要です。これは、特に液相加水分解に当てはまります。酸の量のガイドライン(詳細例付き)は以下のとおりです。

  • 気相加水分解:
    • 0.1 ~ 0.5% のフェノールが含まれている 200 μL の 6 N 塩酸を、加水分解ベッセルの底に加えます。(市販の加水分解ワークステーションを使用する場合は、ベンダーが推奨する量を加えます。詳細については、セクション 4 および 5 を参照してください)。
  • 液相加水分解(以下の例を参照):
    • 最終酸濃度が 6 N(フェノールを加えた状態で)であることを確認します。
    • 酸の過剰モル数がバッファーを中和するために十分(約 25 倍)であることを確認します。
    • 総固形物に対して酸の重量過剰が十分である(約 100 倍)ことを確認します。この推定には、サンプルマトリックスおよびその他の固形物を、タンパク質と共に含めます。

計算例:液相加水分解に加える酸の量を決定します

上記のガイドラインに従い、加水分解のために加える酸の最少量は、バッファー濃度の 25 倍、サンプルの重量過剰の 100 倍であることが必要です。このため、必要な酸の量を決定するには、以下を計算する必要があります。

  1. 存在するバッファーの量
  2. サンプル中のバッファーの中和に必要な酸の量(25 倍)
  3. 酸の量を容積に変換
  4. サンプル中の総固形物量
  5. サンプルに対する目標の過剰酸を得るために必要な、酸の最小量(100 倍)。
  6. 酸の量を容積に変換
  7. 必要な酸の合計量(中和と過剰の合計)

2 mM Na/K2PO4 中 2.1 mg/mL のタンパク質の場合:

ステップ 1:各チューブのバッファー量を決定します。

ステップ 1:各チューブのバッファー量を決定します。

各チューブのバッファーの量は、バッファーのモル濃度に滴定可能基の数(リン酸バッファーの場合は 3)を乗算し、分注したサンプルの合計量(この場合は 10 μL)に対して調整することによって決定します。

各チューブには 60 nmol のバッファーが含まれます。

ステップ 2:バッファーの 25 倍過剰に必要な酸の量を決定します。

ステップ 2:バッファーの 25 倍過剰に必要な酸の量を決定します。

次に、この量に 25 を乗算て 25 倍過剰を決定します。

この数値は、効果的な中和に必要なバッファー酸のモル数です。

ステップ 3:サンプルバッファーを中和するために各チューブに必要な 6 N 塩酸の量を決定します(モルを体積に変換)。

ステップ 3:サンプルバッファーを中和するために各チューブに必要な 6 N 塩酸の量を決定します(モルを体積に変換)。

中和に必要なバッファーのモル数を、各チューブに加える酸の体積に変換する必要があります。

このサンプルでは、0.25 μL の体積を使用すると、バッファーが効果的に中和されます。

ステップ 4:各チューブ内の総固形物(タンパク質 + バッファー)を決定します。

ステップ 4:各チューブ内の総固形物(タンパク質 + バッファー)を決定します。

サンプルに対して 100 倍過剰の酸を得るには、サンプル中の総固形物量を決定する必要があります。総固形物量は、タンパク質とバッファーとその他の存在するあらゆる物質の合計です。この場合、サンプルは精製タンパク質です。

このためには、タンパク質濃度(μg/μL)に塩重量濃度(濃度x MW)を掛けて総固形物量を算出します。

このサンプルの総固形物量は 24.9 μg になります。

ステップ 5:100 倍過剰の酸に必要なチューブ内の総塩酸を計算します。

ステップ 5:100 倍過剰の酸に必要なチューブ内の総塩酸を計算します。

目標の 100 倍過剰の酸を決定するには、総固形物量に 100 を乗算します。

ステップ 6:各チューブの酸過剰に対して、酸の過剰量を 6 N 塩酸の量に変換します。

ステップ 6:各チューブの酸過剰に対して、酸の過剰量を 6 N 塩酸の量に変換します。

最後に、1 モルあたりの重量による重量に、酸のモル濃度を乗算して、重量過剰を、各チューブに加える 6 M 塩酸の量に変換します。

この場合、11.4 μL の 6 M 塩酸を使用すると、サンプルに対して 100 倍過剰の酸になります。

ステップ 7:各チューブに加える 6 N 塩酸の最終量(ステップ 3 + ステップ 6)。

ステップ 7:各チューブに加える 6 N 塩酸の最終量(ステップ 3 + ステップ 6)。

各チューブに注入する酸の最終量は、サンプルバッファーを中和して 100 倍過剰にするのに必要な量の合計です。

効果的な加水分解を保証するには、11.65 μL の 6 M 塩酸が必要です。 この量は、正確に移せる量に切り上げることができます。

2.1.5 内部標準溶液(IS)

内部標準(IS)を使用すると、サンプルの個々のアミノ酸の加水分解のばらつきを最も適切に補正できます。ノルバリン(NVA)は、一般的に使用される内部標準です。

内部標準を使用する場合:

  • サンプル中に調製し、サンプルと一緒に分注できます。
  • サンプルとは別に加えることもできます。
  • 酸中に調製し、一緒に分注することもできます。
  • 装置での 1 μL の注入量がオンカラムでのサンプル量と同じになるように、内部標準を調製します。

出発サンプル中に必要な IS の量を決定するには、サンプル中に必要な IS の量から逆算します。この計算の一環として、誘導体化ステップを考慮することが重要です。

計算例:サンプルの内部標準の量の決定

ステップ 1:チューブあたり必要な合計 IS 量を決定します。

ステップ 1:チューブあたり必要な合計 IS 量を決定します。

合計 IS 量は、最終サンプルに必要な IS 量、誘導体化の希釈係数、および加水分解チューブ中に再溶解したサンプル量を掛けて逆算して求めます。この例では、最終的な誘導体化サンプルに 25 pmol の IS が必要です。この場合、サンプルは誘導体化中に 10 倍希釈、誘導体化前に 5 倍希釈されます。つまり、

これは、加水分解サンプル中に 1250 pmol の IS が必要であることを示しています。

ステップ 2:IS のモル濃度を重量に変換します。

ステップ 2:IS のモル濃度を重量に変換します。

MW(mg/mol)と μL から mL への変換を考えると、出発サンプル 1 mL に 0.14 mg の IS を加える必要があることがわかります。

2.1.6 気相酸加水分解

気相加水分解は、粒子状物質がほとんどまたはまったく含まれていない比較的純粋なタンパク質またはペプチドのサンプルに推奨します。これは、最も感度の高いアプローチと考えられます。この種類の加水分解には、スタンドアロンの自動加水分解ワークステーションの使用が好ましいです。この手順に必要な真空制御、温度維持、窒素フラッシュ、サンプル乾燥は、セクション 4 で説明されている Eldex 加水分解ワークステーションなどの自動システムで行うのが最適です。

試薬:

  • 1% フェノール含有 6 N 塩酸(容積比)
  • 窒素(精製グレード)
  • ドライアイス

注記:試薬の詳細については、加水分解ワークステーションの取扱説明書を参照してください。

手順(自動ワークステーションの使用に基づく):

  1.  6 × 50 mm 加水分解チューブで 0.5 ~ 20 μg のタンパク質を含むアリコートを乾燥させます。
  2.  0.5% フェノールが含まれている 200 μL の定沸点塩酸を真空バイアルの底に加えます(以下のヒントを参照)。
  3.  3 回の真空-窒素フラッシュステップの後、バイアルを真空下で密封します。
  4.  112 ~ 116 ℃ で 24 時間加水分解します。
  5.  バイアルを冷却し、ラボティッシュでチューブの外側の過剰塩酸を拭き取り、真空下で乾燥します。

ヒント:

  • 血漿フェノールを使用し、その 1 個(約 0.5 mg)をバイアルの底に入れます。結晶フェノールの方が、液体フェノールよりも清浄で安定しています。
  • サンプルと内部標準をチューブの底に慎重にピペットで注入します。正確かつ容易に注入できるように、シリンジを使用します。
  • やすりまたはダイヤモンドペンシルで削ってラベル付けできます。
  • 塩酸の液滴がチューブに流入しないようにします。チューブを、真空バイアル内で直立させます。チューブが 10 ~ 12 本より少ない場合は、支持用にブランクチューブを追加します。冷却の間、バイアルを少し傾けることは役に立ちます。

注記:加水分解後に塩酸が茶色に見えるのは一般的です。これはフェノールによるものです。バイアルや蓋の汚れを取り除くにはエタノールまたはアセトンが適しています。

注意:加水分解の問題を、誘導体化の 問題と区別するのは難しい場合があります。

2.1.7 液相酸加水分解

サンプルがより複雑な場合は、液相加水分解を使用します。この場合、気相プロセスを妨害する可能性のある粒子状物質またはその他の異物が存在します。このアプローチは全体的に感度が低いと考えられていますが、注意深く正確に行うと、良好な結果が得られる可能性があります。

この方法に必要な器具と試薬:

  • 分析天秤
  • 設定温度 ±0.1 ℃ を維持できるオーブンまたは加熱ブロック
  • ボルテックスミキサー
  • 容積測定ピペット
  • アジャスタブルマイクロピペット
  • キャップ付き加水分解チューブ(6 × 50 mm を推奨)
  • フラッシュ用窒素供給源
  • 6 N 塩酸

手順:

開始する前に -

タンパク質約 20 mg(最も近い 0.1 mg 単位)を加水分解チューブに量り取るか、希釈済みのサンプル(セクション 2.1.3 および 2.1.4 の計算に従って)をチューブに移します。通常、総容量 10 μL です。混合します。

  1. セクション 2.1.5 で計算した適切な量の内部標準溶液を加水分解チューブに正確に加えます。混合します。
  2. 過剰の 6 N 塩酸(セクション2.1.4 のステップ 3 で計算)を加えて、混合し、窒素で 30 秒間パージします。直ちにキャップを取り付けます。
  3. 110 ℃ で 24 時間、オーブンに入れます。(これらのパラメーターは、対象のタンパク質およびアミノ酸についての時間経過試験で得られる必要があります)。
  4. オーブンから取り出して冷やします。
  5. サンプルは、誘導体化ステップに進む準備が完了しました。

2.1.8 酸加水分解のトラブルシューティング

不適切な加水分解によって、いくつかのアミノ酸が影響を受けます。例:

  • メチオニン(Met)およびチロシン(Tyr)の低収量は通常、加水分解手順が不良(純粋でない塩酸または酸素除去が不十分のいずれか)であることによる症状です。どちらの問題も、塩素生成とそれに続く Tyr の塩素化につながる可能性があります。
  • 疎水性アミノ酸(Ile、Leu、Val など)の低収量は、オーブン温度が低い、加水分解時間が短い(特に高速・高温の加水分解を使用する場合)、または窒素でパージした後の過剰な真空引きによって塩酸が失われたことにより、加水分解が不完全であることを示していることがあります(これはサンプル固有の問題である可能性があり、Ile-Val-Leu などの一部のシーケンスは加水分解に対して極度に抵抗性があります)。バイアルをオーブンに入れる前に、その中の液体塩酸が目視できるままであることを確認します。過剰な塩酸も問題になる可能性があります(液体がサンプル中に凝縮して茶色の残留物が生じる、Tyr および Met が失われる、ストレイピークが出現する、などを引き起こす)。
  • 気相加水分解ワークステーションを使用していない場合は、加水分解のセットアップが適切であることを確認します。オーブン中で加水分解バイアル全体を囲う必要があります。バイアルの下半分のみを囲む加熱ブロックを使用すると、上部で液体塩酸が凝縮し、加水分解の効果がなくなります。 

2.2 トリプトファン(Trp)の分析

2.2 トリプトファン(Trp)の分析

タンパク質およびペプチド中の Trp の分析は、6 N 塩酸を用いる通常の加水分解条件下では、このアミノ酸が不安定であるため、複雑です。別の加水分解手順を使用して、分析用のインタクト Trp を生成できます。

  • スルホン酸加水分解(メタンスルホン酸および p-トルエンスルホン酸など)
  • 塩基加水分解、および β-メルカプトエタノール(BME)やチオグリコール酸など、塩酸中のチオール試薬の使用

2.2.1 トリプトファン分析用のメタンスルホン酸(MSA)加水分解

MSA 試薬は、酸が揮発性ではないため、6 × 50 mm サンプルチューブに直接加える必要があります(液相加水分解)。加水分解後にメタノールを加えて中和することにより、トリプトファンに対して良好な結果が得られ、以降の誘導体化プロセスは妨げられません。図 2 に、MSA のタンパク質との反応が示されています。

図 2.Trp 分析のための MSA 加水分解

注意: この手順は、Cys および Met 測定使用できます。これにより、Cys Cyaに変換されMet メチオニンスルホンに変換されます。

注記: Tyr および Trp は、Cys および Met の分析で従来から使用されている過ギ酸酸化手順では不安定です。

2.2.1.1 器具と試薬

  • 0.2%(w/v)トリプタミン塩酸含有 4 M MSA
  • 超純水
  • メタノール-水-トリエチルアミン(2:2:1)
  • 加水分解チューブ(6 × 50 mm)
  • 真空乾燥器具
  • 水浴または加熱ブロック

2.2.1.2 手順

  1.  乾燥サンプルが入っている 6 × 50 mm の各サンプルチューブに、0.2%(w/v)トリプタミン塩酸が含まれている 4 M MSA を 20 μL 加えます。
  2.  反応バイアルに 100 μLの水を加えます。
  3.  加水分解のために密封します。
  4.  110 ℃ で 20 ~ 24 時間加水分解します。
  5.  バイアルを冷却して開き、各サンプルチューブに 22 μL の 4 M KOH(中和に十分な量)を加えます。
  6.  真空下で乾燥します。
  7.  サンプルは誘導体化の準備が完了しました。

ヒント:

コントロールブランクサンプルを用いて干渉を確認します。

  • 新鮮で純粋な MSA を使用します。
  • 市販の酸の添加剤として使用されているトリプタミンにより、Tyr または Val が時折不明瞭になる干渉が起こることがあります。この添加剤が含まれていない MSA を使用することで、解決する場合があります。
  • 新鮮な KOH を使用します(ラボで NaOH の方が清浄とわかっている場合はこちらを使用します)。試行サンプルで、塩基が酸を中和する能力をテストします。塩基過剰を最小限に維持する量の塩基を加えます。
  • Trp 標準溶液 2.5 μmol/mL を水中で作成します。冷凍庫に保管します。キャリブレーション用に Trp 標準溶液と H 標準溶液を 1:1 に混合します。

注意:

  • Tyr および Val に対する干渉が発生する可能性があります。その原因は不明です。(Tyr の加水分解には塩酸の方が優れています。)
  • 低 Met 収量は加水分解条件によります。
  • Trp および Met の収率は、分析手順ではなく加水分解プロセスが原因で、非直線性です。加水分解された量が減少するにしたがって収量が低下し、Met ではこれはより激しいです。
  • Arg の結果の再現性が低い - 原因は不明。

2.2.2 トリプトファン分析のためのアルカリ加水分解

トリプトファンの酸加水分解で安定性の問題が生じる場合、塩基を用いるタンパク質の加水分解も代替策です。

2.2.2.1 器具と試薬

2.2.2.1 器具と試薬

  • NaOH
  • 酢酸
  • 超純水
  • 加水分解チューブ(6 × 50 mm)
  • 真空乾燥器具
  • 水浴または加熱ブロック

2.2.2.2 塩基加水分解の手順

2.2.2.2 塩基加水分解の手順

  1.  ケイ酸塩の生成、および後続する可溶化または誘導体化の問題を防止するために、プラスチック(Teflon など)チューブの使用が必要な場合があります。
  2.  上記の MSA 手順のように、20 μL の新しい 4 M NaOH を加水分解チューブに直接加えます。
  3.  チューブを密封し、112 ℃ で 16 時間加熱します。
  4.  冷やして、過剰の酢酸で中和します。
  5.  サンプルは誘導体化の準備が完了しました。
  6.  ブランク溶液を分析して、汚染レベルを測定します。
  7.  標準溶液および既知サンプルで、メソッドを検証します。

2.3. 含硫アミノ酸(システイン、シスチン、メチオニン)の分析用の加水分解メソッド

2.3. 含硫アミノ酸(システイン、シスチン、メチオニン)の分析用の加水分解メソッド
図 3.含硫アミノ酸

タンパク質サンプル中のシステイン(Cys)の定量は、標準的な酸加水分解条件ではこのアミノ酸が不安定であるため、複雑です。残念ながら、Trp とは異なり、代替の酸または塩基加水分解では不十分です。Cys 分析のための 2 つの一般的な手順には、システインのより安定した誘導体への変換などがあります。1 番目の手順はスルフヒドリル基のアルキル化で、2 番目の手順は酸安定性のスルホン酸、システイン酸、またはシアヌル酸(Cya)への酸化です。

注意: Cys 分析がさらに複雑になる要因は、多くのアミノ酸が二量体であるシスチン(Cys2)として存在することで、Cys2 は、システインに還元してからアルキル化手順を行う必要があります。

これらの特定のステップを、標準的な酸加水分解ステップの前に実行することに注意することが重要です。

2.3.1 システイン、シスチン、メチオニンの脱アミド化のための過ギ酸酸化

2.3.1 システイン、シスチン、メチオニンの脱アミド化のための過ギ酸酸化

図 4.シスチン/システインからシステイン酸への過ギ酸酸化

過ギ酸は強力な酸化試薬で、システイン(Cys)およびシスチン(Cys2)をシステイン酸(Cya)に定量的に変換します(図 4)。この試薬のさまざまな条件や手順での使用に関する多くの参考試料が、文献に含まれています。以下の手順は、Tarr, G.E., 1986 の手順に基づいています。

注記:この手順により、システインおよびメチオニンについて最も正確な結果が得られます。

2.3.1.1 器具と試薬

2.3.1.1 器具と試薬

  • 真空乾燥器具
  • キャップ付き 6 × 50 mm 加水分解チューブ
  • 超高純度ギ酸
  • 超高純度過酸化水素
  • 分析天秤
  • マイクロピペット

2.3.1.2 手順

2.3.1.2 手順

  1.  サンプル(0.1 ~ 10 μg のタンパク質または 50 ~ 2000 pmol のペプチド)を 6 × 50 mm 加水分解チューブ中で真空乾燥します。
  2.  97% ギ酸と過酸化水素を 19:1 で混合し、蓋をして 22 ℃ で 1 時間放置します。
  3.  この試薬 10 μL を乾燥したサンプルに加えて 22 ℃ で 30 分放置し、真空乾燥します。
  4.  標準の 6 M 塩酸手順を使用して加水分解します(セクション 1.1 を参照)。

注記:この酸化手順では、 Tyr および Trp は安定していません。

2.3.2 シスチンのアルキル化

2.3.2 シスチンのアルキル化

図 5.シスチンおよびシステインのアルキル化

アルキル化手順は、過ギ酸の酸化より選択性が高く、他のアミノ酸はほとんどまたはまったく変化しません。そのため、完全タンパク質の分析や、ペプチドマッピングなどの Cys 修飾に続いて行う可能性のあるその他の手順に適しています。

このメソッドでは、アルキル化に 4-ビニルピリジンを使用します。以下に概説されている一般的な手順は、他の複数のアルキル化剤にも適用できます。シスチン(Cys2)をシステイン(Cys)に変換するには、原理上、十分な還元試薬をサンプルに添加する必要があります。これに続いて、還元済みサンプルに過剰のアルキル化試薬を添加します(図 5)。

2.3.2.1 器具と試薬

2.3.2.1 器具と試薬

  • 真空乾燥機、乾燥用窒素供給源、または凍結乾燥機
  • ジッパー付きバイアル
  • 分析天秤
  • pH メーター
  • マイクロピペット
  • 標準溶液としてピリジルエチルシステイン(PEC)
  • 塩酸グアニジニウム(Gu-HCl)
  • ジチオトレイトール(DTT)
  • 4-ビニルピリジン(4-VP)
  • N-メチルモルホリニウム酢酸塩
  • 超高純度酢酸
  • アミノ酸標準溶液(製品番号:WAT088122)

2.3.2.2 試薬調製:0.5 M、pH 8.3

2.3.2.2 試薬調製:0.5 M、pH 8.3

  1. 6.4 mL の N-メチルモルホリニウムに水を加えて、100 mL にします。
  2. 酢酸で pH 8.3 に滴定します。

2.3.2.3 手順

2.3.2.3 手順

1 ~ 1000 nmol のタンパク質またはペプチドには、以下の手順を使用できます。

  1.  ジッパー付きバイアルにサンプルを入れ、真空乾燥、N2 乾燥、または凍結乾燥します。
  2.  サンプルを 1 mL のバッファーに溶解します。
  3.  1 g の Gu-HCl を加えます。混合します。
  4.  4 mg の DDT を加えます。混合します。
  5.  N2 を満たしたブランケットサンプルをしっかり密封し、室温で 4 時間培養します。
  6.  8 μL の 4-VP を加え、N2 で覆い、密封して室温で 4 ~ 16 時間培養します。
  7.  3 mL の水を加えます。
  8.  脱塩します。
  9.  これでサンプルを加水分解できます。

注記:総反応量は、バッファーを 0.25 mL に、Gu-HCl を 250 mg に、DTT を 1 mg に、4-VP を 2 μL に減らすことによって、削減できます。これは、最大 250 pmol のサンプルに十分です。アルキル化後、750 μL H20 で希釈してから続行します。

2.3.2.4 後続の誘導体化用のキャリブレーション標準溶液(オプション)

2.3.2.4 後続の誘導体化用のキャリブレーション標準溶液(オプション)

  1.  ピリジルエチルシステイン(PEC)の 2.5 mM 溶液を作成します。
  2.  200 μL のアミノ酸標準溶液を 200 μL に加えます。
  3.  10 μL の組み合わせた PEC キャリブレーション混合物を誘導体化します。
  4.  100 μL に再溶解し、キャリブレーションするために 250 pmol のレベルで 4 μL を注入します。

注記: 8 μL の 4-VP は約 74 μmol です。手順の 4-VP を他のアルキル化試薬(ヨウ素酢酸など)に同じ試薬濃度で置き換えることができます。

関連情報

従来の HPLC または UHPLC 装置を使用して、タンパク質/ペプチド加水分解物、生体液、飼料、食品、医薬品製剤、そして多種多様なその他のサンプルから、正確なアミノ酸組成を取得できます。

HPLC、UHPLC、および UPLC 用の Waters AccQ•Tag および AccQ•Tag Ultra アミノ酸分析用標準品およびキットを使用することによって、細胞培養培地、タンパク質加水分解物、食品、および飼料中のアミノ酸を正確に分離、同定、定量できます。

ウォーターズは、正確なアミノ酸分析のための、非常に信頼性の高い 3 つの分析法を提供しています。これら 3 つの分析法ではすべて、プレカラム誘導体化メソッドに続いて、UV 吸光度または蛍光検出のいずれかを使用してピークを十分分離し、オンライン検出を行う逆相クロマトグラフィーを利用しています。

Waters サンプル前処理キットを用いてオートメーションワークステーションの機能を最大限に発揮させ、Waters ワークフローをシームレスに自動化して、ラボの効率を改善できます。
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