• アプリケーションノート

BioAccord™ LC-MS システムを使用した、細胞培養培地中の非誘導体化アミノ酸の定量

BioAccord™ LC-MS システムを使用した、細胞培養培地中の非誘導体化アミノ酸の定量

  • Yun Wang Alelyunas
  • Mark Wrona
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

バイオプロセシングでの細胞培養培地成分の正確な測定は、原料検査(バッチ間および複数ベンダーからの調達)、培地開発、および培養プロセス中のフラックス中の代謝物を対象とする使用済み培地のモニタリングにとって重要です。ここでは、細胞培養培地中のアミノ酸(AA)の非誘導体化条件下でのルーチン定量における、BioAccord LC-MS システムの利点と機能を実証します。得られた結果により、この分析法により、3 桁(0.01 µM ~ 10 µM)の直線性範囲で高い正確性と優れた精度で、AA を定量できることが示されています。非標識化合物を内部標準試料として使用することは、レスポンスの正規化に効果があります。データから、この分析法は、未使用の培地中のアミノ酸の品質管理および使用済み培地中のアミノ酸消費率の管理に適していることが示唆されています。

アプリケーションのメリット

  • 使いやすい BioAccord LC-MS システムを使用した、細胞培養培地の定量的および定性的モニタリング
  • 単一のコンプライアンス対応インフォマティクスパッケージでデータ取り込み、データレビュー、未知化合物の解析、レポートテンプレート、多変量データ解析に対応

はじめに

細胞培養培地分析のために、BioAccord™ LC-MS システムで ACQUITY™ Premier HSS T3 カラムを使用するワークフローを用いる逆相液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)メソッドを開発しました(スキーム 1)1。 Premier システムとカラムでは、ハードウェア設計に MaxPeak™ High Performance Surfaces テクノロジーが採用されています。この分析法は、抗体製造1、微生物発酵2、細胞治療および遺伝子治療での細胞培養培地のモニターに適用されています3。さまざまなバイオリアクター中の培地成分の変化や、培養プロセス中の経時的変化をモニターすることは、培地開発おびプロセス最適化に対して価値があることが示されています4。逆相メソッドにより、メソッドライブラリーに含まれる 200 種を超える化合物に対して、アミノ酸(AA)の誘導体化を行わないダイレクト分析が実現し、誘導体化を伴うサンプル前処理が不要になります。アミノ酸は、タンパク質バイオ医薬品の製造に不可欠な構成要素であり、これまでに分析されたすべての培地中の最も存在量の多い化合物です。培養プロセスで供給原料と使用済み培地をモニターして、これらが最適範囲にあることを確認することは、薬物の力価と製品品質にとって重要です。このアプリケーションノートでは、逆相クロマトグラフィーを使用する非誘導体化アミノ酸の定量に焦点を合わせています。

スキーム 1.細胞培養培地の分析に用いる BioAccord システム/waters_connect™ に基づくワークフローの概略図

実験方法

サンプルおよび標準試料の調製

17 種のアミノ酸のストック溶液を濃度 0.01 ~ 10 µM に連続希釈して、外部キャリブレーション溶液を調製しました。上記で使用した希釈液は、Earle の平衡塩類溶液(EBS)のストック溶液(MilliporeSigma 製品番号:E2888)を 1:1000 に希釈したもので、内部標準試料として 0.1 µM の 3-クロロチロシンが含まれている 0.1% ギ酸(FA)水溶液を使用しました。EBS を使用したのは、使用済み培地の一般的な塩条件を模倣するためでした。

内部標準試験で使用したサンプルは、市販の培地溶液 IMDM (MilliporeSigma 製品番号:I3390)および安定同位体標識(SIL)アミノ酸標準混合液(ウォーターズ製品番号:186009051)でした。SIL 混合液を内部標準試料(IS)として使用し、これを 1:100 に希釈した IMDM 0.1% FA 溶液に添加して、最終的な SIL 濃度が 5 µM になるようにしました。

LC 条件

グラジエントテーブル

MS 条件

結果および考察

標準検量線

BioAccord LC‐MS プラットホームを使用して、細胞培養培地分析法と 17 種のアミノ酸混合液を用いてアミノ酸の定量レスポンスを収集しました。培地調製用の平衡塩類溶液である EBS を用いてキャリブレーション標準試料溶液を調製し、品質管理(QC)サンプルセットの開始時と終了時に注入しました。各アミノ酸について、両対数線形の曲線適合に基づいて線形レスポンスが得られました。クロマトグラム、サマリーレスポンスプロット、および 2 つの同重体化合物(イソロイシンとロイシン)の検量線を示すキャリブレーションデータの例が、図 1 に示されています。これら 2 種の化合物については、優れたベースラインクロマトグラフィー分離と再現性のあるレスポンスが観察されました(表 1)。観察された直線性の範囲は 0.01 ~ 10 µM つまり 3 桁のダイナミックレンジで、R2 = 0.9996 でした。残りのアミノ酸の検量線と直線性の範囲は、図 2 と表 1 に要約されています。データによると、大部分の化合物は、直線性範囲 0.01 ~ 10 µM つまり 3 桁のダイナミックレンジを示し、R2 > 0.996 でした。例外は、感度が低いアラニンとグリシン、および直線性の範囲が狭いスレオニンです。 

図 1.ロイシンおよびイソロイシンのクロマトグラム、レスポンスの棒グラフ、検量線
図 2.アミノ酸の標準検量線。曲線適合には両対数線形キャリブレーションを使用しました。

分析法の正確性と精度は、0.05 µM の低 QC と 5 µM の高 QC の 2 つの QC サンプルについて測定しました。3 回繰り返し注入に基づくデータが表 2 にまとめられています。全体として、85 ~ 115% の優れた正確性と、高 QC で 4% 未満、低 QC で 15% 未満の再現性が観察されています。全体として、これらのデータにより、逆相分析法は、未使用の培地の品質管理や培養プロセス中の使用済み培地の定量モニタリングのための、細胞培養培地中アミノ酸の定量測定に使用できることが示唆されています。

表 1.QC サンプルの 3 回繰り返し注入での直線性、精度、正確性のサマリー 

内部標準試料に関する検討事項

定量バイオアナリシスでは、高い再現性と正確性を確認するために、シグナルの正規化のためのサンプルに内部標準試料(IS)を添加します。同じ分析種の SIL バージョンの使用が、一般に望まれます。IS 補正を使用した例が図 3 に示されており、ここでは、SIL-ロイシンが IS として含まれているロイシンを 100 回繰り返し注入した場合のトレンドプロットが示されています。ロイシンまたは SIL‐ロイシンの個々のプロットでは、注入の初期段階でレスポンスのドリフトが見られました。SIL 補正を使用することで、ばらつきが大幅に減少し、正確性およびシグナルの再現性が向上しました。

図 3.100 回の注入で得られた生レスポンスの棒グラフ形式のトレンドプロット。(a)ロイシン、(b)安定同位体標識ロイシン、(c)ロイシン/SIL‐ロイシンのレスポンス比。プロットにより、内部標準試料の採用によって、生レスポンスのシグナルの変動が補正されていることが示されています。

この試験では、さまざまな化合物を使用した単一の IS に基づくレスポンスの再現性が調べられています。使用したサンプルは、SIL アミノ酸混合物を添加した基礎培地混合物 IMDM であり、100 回の注入または 35 時間にわたるデータ取り込みを行いました。100 回の注入での再現性を次のように計算しました:(1)IS なし、(2)早期に溶出する化合物 SIL-プロリン(Pro)を IS として使用、(3)中間で溶出する SIL-ロイシン(Leu)を IS として使用、(4)後期に溶出する SIL-フェニルアラニン(Phe)を IS として使用。

図 4 は、上記の IS 補正を使用して 100 回の注入について計算した %RSD のサマリープロットです。結果によると、レスポンスを補正しない場合、%RSD は約 5% です。IS 補正を行ったすべての分析法の結果は、%RSD が 3% 未満に下がり、対応する SIL 化合物を使用した場合に最高の再現性が得られました。これらのデータから、化合物固有の SIL により、予想どおり最高の再現性が得られ、構造が異なる化合物を IS として使用することも、再現性を改善する現実的なアプローチの可能性があることが示唆されました。現行の未使用培地分析および使用済み培地分析で、3-クロロチロシンは内部標準試料として正常に使用されています2-4

図 4.内部標準試料としてさまざまな化合物を使用した場合の %RSD のサマリープロット。青色のバー:プロリン(r.t. = 1.73 分)、オレンジ色のバー:ロイシン(r.t. = 5.64 分)、グレーのバー:フェニルアラニン(r.t. = 8.11 分)。 

結論

  • 細胞培養培地分析法と BioAccord LC‐MS システムを用いて、非誘導体化アミノ酸を正常に定量しました
  • すべてのアミノ酸について、関連するバイオプロセシングレベルで、優れた正確性と再現性が得られます
  • 内部標準試料で試験したところ、単一の化合物を内部標準試料として使用することは、良好な再現性を得るのに有効であることが示唆されています
  • 標準キャリブレーション溶液が利用可能な場合、プロセス開発をサポートする使用済み細胞培養培地のモニタリングに加えて、この分析法を原料検査の品質管理に導入できる可能性があります

参考文献

  1. YW Alelyunas, MD Wrona, W Chen, Monitoring Nutrients and Metabolites in Spent Cell Culture Media for Bioprocess Development Using the BioAccord LC-MS System with ACQUITY Premier, Waters Application note, 720007359, September 2021.
  2. YW Alelyunas, MD Wrona, YQ Yu, Monitoring Nutrients and Metabolites in Microbial Culture Media using the BioAccord LC-MS System with ACQUITY Premier, Waters Application note, 720007485, January 2022.
  3. YW Alelyunas, MD Wrona, YQ Yu, Cell Culture Media Monitoring in Cell and Gene Therapy Using the BioAccord LC-MS System, Waters Application note, 720007705, September 2022.
  4. YW Alelyunas, C Prochaska, C Kukla, MD Wrona, YQ Yu, In-Process Media Monitoring Using the BioAccord™ LC-MS for the Automated High Throughput Multi-Parallel Ambr®15 Microbioreactor System, Waters application note, 720007581, April 2022.

謝辞

著者らは、このノートをレビューしていただいたことに対し、同僚の Magnus Wetterhall と Steve Preece に感謝いたします。

720007766JA、2022 年 10 月

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