• アプリケーションノート

Bioaccord™ LC-MS システムを用いた細胞および遺伝子治療における細胞培養培地モニタリング

Bioaccord™ LC-MS システムを用いた細胞および遺伝子治療における細胞培養培地モニタリング

  • Yun Wang Alelyunas
  • Mark Wrona
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

HEK293 細胞株は一般にウイルスベクターの生産に使用されますが、これらの細胞株の健全性と増殖に合わせた細胞培養培地を使用する必要があります。ここでは、HEK293 ウイルスベクター培地の分析における BioAccord 液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)システムの使用について実証します。結果から、培地には代表的なクラスのアミノ酸やビタミン類などの細胞培養培地化合物が含まれていることがわかりました。また、少量の核酸とヌクレオシドも含まれていました。結論として、タンパク質生産用に開発された細胞培養培地のメソッドとワークフローは、ウイルスベクターベースの遺伝子治療に容易に適用できます。 

アプリケーションのメリット

  • 使いやすい LC-MS プラットホームにより、ウイルスベクターベースの遺伝子治療で使用される細胞培養培地を迅速かつ包括的にモニタリング
  • 1 つの HRMS プラットホームで、タンパク質とウイルスベクターの生産における培地モニタリングプロセス分析と製品品質分析をサポート3

はじめに

ウイルスベクターベースの遺伝子治療では、特定の DNA 配列を細胞に導入するための薬物送達の担体として、改変ウイルスが使用されます。不死化ヒト胎児腎細胞由来の HEK293 細胞株が、アデノウイルス(AV)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクターの生産に一般に使用されています1。 このテクノロジーブリーフでは、BioAccord 高分解能質量分析(HRMS)プラットホームをベースにして細胞培養培地分析用に開発された分析法を、HEK 293 ウイルスベクター培地の分析に適用しています。スキーム 1 はメソッドパッケージの一般的な説明です。詳細については、以前に発表したウォーターズのアプリケーションノートを参照してください2

スキーム 1.  培地分析に用いる BioAccord/waters_connect™ ベースのワークフローの概略図(ウォーターズのアプリケーションノート 2 から引用)

結果および考察

HEK293 ウイルスベクター培地は MilliporeSigma から購入しました(製品番号:14385C)。本製品の培地組成は公開されていないため、ポジティブ化合物同定を容易にするために、1:100、1:200、1:500、1:1000、1:2000 の比率で希釈し、ルーチンモニタリングに適した希釈率を特定しました。希釈溶媒は、内部標準として 0.1% ギ酸および 0.1 µM 3-クロロチロシンを含む H2O を用いました。1:100 希釈の基礎培地溶液(DMEM および IMDM)も調製しました。これらの溶液について、前述の記載に従って、BioAccord を使用して LC-MS 分析を行いました2。 サンプル分析の開始時と終了時に、濃度 0.01 ~ 10 µM の 17 種類のアミノ酸キャリブレーション溶液を注入しました。データ取り込みは m/z 50 ~ 800 の質量範囲で行いました。

得られた主要化合物の重ね描き抽出イオンクロマトグラム(XIC)を図 1 に、各化合物クラスの代表的な棒グラフのトレンドプロットを図 2 に示します。その結果、HEK293 培地中に、アミノ酸、ビタミン、および複数の核酸とヌクレオシドという 3 種類の主要なクラスの化合物が検出されました。最も存在量の多い化合物のクラスはアミノ酸で、続いてビタミンでした。核酸とヌクレオシドは、最も存在量の少ない化合物です。グルタミンは速やかに代謝されるアミノ酸ですが、アラニルグルタミンという安定なジペプチドに含まれていました。HEK 293 ウイルスベクター培地は、基礎培地である DMEM や IMDM と比較して、全般的にアミノ酸とビタミンの濃度が高くなっています。核酸とヌクレオシドは通常、基礎培地には含まれていません。上位 35 種の化合物を、希釈比 1:200 および 1:500 で LC-MS 分析した場合の優れた再現性を表 1 に示します。複数の希釈比で見られたレスポンスに基づき、ウイルスベクター生産プロセスにおける培地成分のルーチンモニタリングには、希釈比 1:500 が推奨されます。

図 1. ポジティブイオンエレクトロスプレー(ESI+)条件下で HEK 293 培地中に観察された上位 34 種の化合物の重ね描き XIC。表示目的で、アミノ酸は 1:2000 希釈のサンプルから抽出し、ビタミン類およびその他の化合物は 1:100 希釈のサンプルから抽出しています。ビタミンであるミオイノシトールは、ネガティブイオン化モード(ES-)で観察されます(データは示していません)。
図 2. 化合物のレスポンスの代表的な棒グラフのトレンドプロット(3 回繰り返し注入/サンプル)。(A)アミノ酸の例としてイソロイシン。標準検量線を注入の開始時と終了時に示しています。イソロイシンは、標準試料およびすべての培地サンプル中に存在します。(B)ビタミンの例としてピリドキシン。この化合物は予想通り、HEK293 培地および DMEM 培地には含まれますが、IMDM 培地には含まれないことがわかります。(C)核酸塩基の例としてヒポキサンチン。この化合物は、HEK293 培地には含まれますが、DMEM 培地および IMDM 培地には含まれないことがわかります。
表 1. 3 回繰り返し注入に基づく、上位 35 種の化合物のレスポンスと再現性のサマリー。表では、化合物のクラスおよび化合物名の順に並べています。

結論

BioAccord LC-MS システムを用いて開発された細胞培養培地分析法を HEK293 ウイルスベクター培地の分析に用いました。この分析により、HEK293 には、アミノ酸、ビタミン、核酸、ヌクレオシドなどの化合物クラスを含む 35 種以上の化合物が含まれていることが明らかになりました。これらの化合物は、容易に検出およびモニタリングできます。このデータからは、細胞培養培地の分析法が、タンパク質生産における細胞培養および微生物の培地モニタリングに加えて、遺伝子治療における一般的な培地モニタリングに適用できることが示唆されています。 

参考文献

  1. Tan E. et al.“HEK293 cell line as a platform to produce recombinant proteins and viral vectors:, Front Bioeng.Biotechnol.2021, 9 796991.
  2. Alelyunas YW, Wrona MD, Chen W, Monitoring Nutrients and Metabolites in Spent Cell Culture Media for Bioprocess Development Using the BioAccord LC-MS System With ACQUITY Premier Waters Application Note 720007359, 2021 September.
  3. Zhang X, Koza SM, Yu YQ, Chen W. Optimizing Adeno-Associated Virus (AAV) Capsid Protein Analysis Using UPLC and UPLC-MS, Waters Application note 720006869, May 2020.

720007705JA、2022 年 9 月

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