コンバージェンスクロマトグラフィーによる分析法開発

コンバージェンスクロマトグラフィーによる分析法開発

本章ではまず両方の CC で使用される用語を確認し、さらに ACQUITY UPC システムで分析対象候補となるサンプルおよび分析種の種類について説明します。また、共溶媒、移動相添加剤およびサンプル希釈液の役割、そして圧力や温度が密度に及ぼす影響とそれが分離に与える影響についても説明します。最後に、分析法開発のための汎用プロトコルを紹介します。

用語

先に説明したように、CC は RPLC と似ていますが、弱溶媒(移動相 A)に水ではなく圧縮 CO2 を使用します。溶媒、共溶媒、モディファイヤーなどの従来の用語はすべて、強溶出溶媒である移動相 B に使用する主な液体成分を指します。通常、CC では共溶媒はメタノールですが、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、またはこれらの組み合わせなどのその他の有機溶媒も使用できます。添加剤は、ピーク形状や分析種の溶解度を改善するために低濃度で共溶媒に添加される塩または溶液です。添加剤はクロマトグラフィーの選択性にも影響を与えます。代表的な添加剤は、ジエチルアミン、水酸化アンモニウム、ギ酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは少量の水などです。適切な濃度は添加剤の種類によって異なります。例えば水を 5% を超えて添加すると、その他の分析法条件が適切に選択されていない場合、移動相が二相化する恐れがあります。

コンバージェンスクロマトグラフィーを使ってこのサンプルを分析できるか?

コンバージェンスクロマトグラフィーを使ってこのサンプルを分析できるか?
図 23.塩基性化合物とその有用な物理的・化学的特性の一部
図 24.分配係数 P の算出方法

新しい分析法について、最初に浮かぶ疑問は「この手法(CC)で自分のサンプルが分析できるか?」です。ごく簡単に答えると、サンプルが有機溶媒に溶解するのであれば、CC で分析できる可能性があります。この疑問に対する普遍的な回答はなく、実験で確認する必要があります。多くのサンプル前処理手法(液液抽出、固相抽出、除タンパクなど)ではサンプルを有機溶媒に溶解するため、注入に用いる有機溶媒との適合性は極めて有用です。CC のメリットの一つは、有機溶媒中に溶解したサンプルを ACQUITY UPC2 システムに直接注入でき、RPLC では必要な手間や時間のかかる蒸発や再調製手順が不要であることです。これについては第 5 章で詳しく説明します。分析科学では、サンプルに関して可能な限り知っておくことが有用です(図 23)。情報が多ければ多いほど、頑健な分析法を開発できる確率が高くなります。さまざまな有機溶媒中の化合物の溶解度に関して重要な情報の一つは、分配係数(P)(通常 log10 と表します)に関連する情報です。分配係数(P)とは、平衡状態にある 2 つの混和しない溶媒の混合液からなる 2 つの相(通常水と 1-オクタノール)中の化合物の濃度比です(図 24)。分配係数は、これら 2 つの溶媒に対する化合物の溶解度の違いの尺度で、化合物の親水性または疎水性の程度を表します。

CC では、目的化合物が ACQUITY UPC2 システムで分析できるかどうかを判断する根拠の 1 つとして分配係数を用いることができます。経験則では、化合物の log P 値が -2 から 9 の間であれば CC での分析に適していると考えられます。

コンバージェンスクロマトグラフィーの共溶媒

共溶媒は 2 つの役割を担っています。1 つ目として、CO2 の溶媒和力に影響します。2 つ目として、分析種と固定相との間の相互作用に影響を与えます。共溶媒の変更(例えば、メタノールからアセトニトリル)は、保持と選択性の両方に影響を及ぼします。CC における共溶媒の役割は、逆相 LC における強溶媒の役割と似ています。CO2 のみではヘプタンの溶出強度とほぼ同等です。

第 1 章の表 1 に、さまざまな有機溶媒の溶離力(溶出強度)系列を示しており、これには CC で最も一般的に使用される共溶媒であるアセトニトリル、イソプロピルアルコール、エタノールおよびメタノールが含まれます。この表中の有機溶媒はすべて CO2 と混和するため、幅広い保持と溶出強度が得られます。

図 25.アイソクラティック分離における共溶媒濃度の変更の影響
図 26.グラジエント分離における共溶媒種類の変更の影響
図 27.グラジエント分離における共溶媒の混合の影響

CO2 移動相に添加する共溶媒により、一般に分析種の保持時間が短縮します。共溶媒濃度が高くなると、移動相の極性が変化し、保持時間が短縮します。図 25 は、アイソクラティック分離における共溶媒の濃度変更が保持に与える影響を示します。強い溶出共溶媒(メタノール)の濃度が低下すると、分析種の保持が高まります。これは RPLC で見られるのと同じ現象です。

図 26 は、さまざまな共溶媒により移動相の強度がどのように変わるかを示します。メタノールは最も強い共溶媒で、分析種を最も速い速度で溶出させます。イソプロピルアルコールは、メタノールより弱いですがアセトニトリルよりは強く、アセトニトリルは、3 種類の CC の強溶媒のうちで最も弱く、分析種を最も長く保持します。他のクロマトグラフィーモードでも同じ関係性のクロマトグラフィー挙動が見られ、強い溶媒では保持が低下し、分析種が早く溶出します。

CC では、異なる共溶媒を混合することで溶媒強度を変化させ、保持の差を生み出すことができます。図 27 は、メトクロプラミドと関連不純物のグラジエント分離において、弱い共溶媒(アセトニトリル)をメタノールに加えた場合の影響を示します。アセトニトリルの濃度が上昇するにつれてメタノール濃度と溶媒強度が低下し、保持時間が長くなります。この分離に異なる共溶媒を用いることにより、選択性がわずかに変化し、分離能が向上し、ピークがシャープになります。

コンバージェンスクロマトグラフィーで使用される添加剤

RPLC と同じく、CC でも添加剤を用いると、ピーク形状や分離能が向上します。図 27 に、ギ酸アンモニウムをすべての共溶媒の混合液に加えた場合に 4 種類のクロマトグラムに表れた影響を示します。添加剤は、固定相の表面を修飾したりイオン対として作用したりして、選択性が変化します。塩基性の添加剤は、塩基性化合物のピーク形状を向上させ、選択性をわずかに変化させる傾向があります。代表的な塩基性添加剤には、水酸化アンモニウム、2-プロピルアミン、トリエチルアミンがあります。酸性の添加剤は、酸性化合物のピーク形状を改善し、選択性を変化させることがあります。代表的な酸性添加剤には、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸があります。図 28 に酸性分析種の分離を示します。この例では、酸性添加剤の濃度が上昇するにつれピーク形状が向上しています。

図 28.CC において添加剤の濃度の変化がピーク形状に与える影響
図 29.CC において添加剤の種類の変更が塩基性分析種のピーク形状に与える影響

添加剤を変えるとピーク形状と保持が大きく変化する可能性があります(図 29)。これらの塩基性分析種(ベータブロッカー)では、添加剤を加えないメタノール共溶媒では、形状の悪いピークになります。ギ酸を添加するとピーク形状が悪化します。またギ酸は検出波長の 220 nm に吸収を持つため、ベースラインの傾きも発生します。これらの強塩基性化合物の場合、酢酸アンモニウム(20 mM)を添加した共溶媒を用いると、ジエチルアミンと同様、ピーク形状が顕著に向上します。これは、塩基性化合物のピーク形状が、塩基性添加剤を添加することで向上することが多いためです。

コンバージェンスクロマトグラフィーのサンプル希釈液

CC ではさまざまなサンプル希釈液を使用できますが、最良のピーク形状を得るには適切な希釈液を選択することが時として必要になります。サンプル希釈液の溶媒強度は、CC におけるピーク形状と溶解度に大きく影響する可能性があります。他のクロマトグラフィーモードと同様、できる限り弱いサンプル希釈液を使用して分析種の溶解度とピーク形状のバランスを取ることを推奨します。つまり、CC では、溶離力系列の最上位に近い有機溶媒にサンプルを溶解する必要があります(表1)。ウォーターズは、溶解度(イソプロピルアルコール)とピーク形状(ヘプタン)のバランスが取れる汎用的な希釈液として、ヘプタン/2-プロパノール(90:10)を推奨します。サンプル中の含水量を下げるか、可能であれば完全に水を除去してください。図 30 に、中性化合物ブチルパラベンのピークを示す 7 つのクロマトグラムの重ね描きを示します。注入量が増えるにつれ、ピーク形状に対する注入溶媒の強度の影響が顕著になります。強い共溶媒であるメタノールを使用すると、注入量が増えるにつれてピークフロンティングが発生します。比較的弱いイソプロピルアルコールでは、メタノールに比べてピークフロンティングが少なく、ピークがわずかに高くなります。推奨サンプル希釈液であるイソプロピルアルコールとヘプタンの混合溶液では、すべての注入量で左右対称のシャープなピークを示します。

図 30.サンプル希釈液の強度が CC のピーク形状に与える影響。ウォーターズでは混合比率 90:10 を推奨しますが、この例では 70:30 としました。

圧力、温度、密度

自動背圧レギュレータ―(ABPR)の設定値を変更すると、CO2 の密度が変化するため保持時間に影響を与えます。ABPR 圧力設定値の上昇に伴い、密度は上昇し、保持時間は短くなります。分離に最も大きく影響するのは移動相の組成ですが、圧力の調節によって移動相密度を変化させることでも分析法を微調整できます。図 31 は、ABPR の設定圧力を上昇させ、他のパラメータをすべて一定に保った例です。このクロマトグラムに示される通り、ABPRの圧力設定を上げると保持時間は短くなります。

図 31.保持に与える圧力(密度)の影響。一般的な ABPRの動作範囲は 1500 ~ 2200 psi(100 ~ 150 bar)です。

 カラム温度は、RPLC と同様、CC でも選択性と保持に影響を与えますが、分析種の種類によってこの影響の大きさは異なります。カラム温度を上げると、分析種分子のエネルギーが増大し、LCや GC と同様に固定相への保持が低下します。しかし CC では、一定の圧力で温度を上げると移動相の密度も低下し、移動相の溶媒和力が低下するため、保持が高まります。つまり、CC の場合は温度を変化させると逆に作用する影響が現れます。ほとんどの場合、カラム温度が上昇すると、移動相密度が低下し、保持時間が長くなります(図 32)。また、50 ℃ では小さなピークが検出されています。温度は分析種によって異なる影響を及ぼすため、わずかな選択性の変化によりこのピークが検出されました。

図 32.カラム温度(密度)が CC の保持と選択性に及ぼす影響

ピーク形状、保持、選択性は、共溶媒、添加剤、サンプル希釈液、圧力、温度、固定相などの役割を理解し、これらを幅広く調節することで操作できます。本章で説明したパラメーターをすべて組み合わせ、これらのツールを使用して CC の分離能を最適化する方法を表 5 にまとめました。ただし、実際のサンプル分離では、各パラメーターの重要性はこの表とは異なる可能性があります。例えば、選択性を変化させる場合、固定相が共溶媒よりも大きな影響を持つこともあります。また、メタノールからメタノールとアセトニトリルの混合液(50:50)に変更する方がカラムケミストリーを変更するよりも大きな影響をもたらすこともあります。

汎用分析法開発プロトコル – アプローチ 1

図 33 に、CC に適合する注入溶媒にサンプルが溶解できるかどうかを速やかに決定するプロトコルを説明しています。分析種の log P 値が -2 から 9 の間であれば溶解する可能性があります。-2 未満であれば、その分析種は水系溶媒にしか溶解しない可能性が高く、CC には適合しないかもしれません。分析種の log P 値が不明の場合、注入する前に適切な有機溶媒に溶解させる必要があります。CC は、メタノールのような溶媒が非常に強い溶媒になる場合(非常に弱い溶媒になる逆相 LC とは逆)は、順相分離に近い挙動を示します。

したがって、サンプルをヘプタン/イソプロピルアルコールなどの弱い溶媒に溶解(または希釈)する必要があります。サンプルの溶解度とピーク形状のバランスをうまく取らなければなりません。CC においてサンプル希釈液がピーク形状に及ぼす影響についてはすでに本章で説明しています。

図 33.目的の分析種が CC で分析できるかどうかを判断するためのプロトコル

サンプル希釈液の選択以外にも、クロマトグラフィー分析法開発で留意すべきことがあります。例えば、目的の分析種に最適なクロマトグラフィー条件を設定しなければなりません。図 34 に、幅広い分析種を保持・分離できることが知られている推奨される汎用的な初期条件を示します。他のクロマトグラフィーモードと同様、これらの条件がすべての事例に当てはまるとは限りません。また、ピーク形状の向上や選択性と保持を変える方法も使用できます。

図 34.推奨される CC でのスクリーニング条件

そのような場合のために、ピーク形状と保持時間・選択性を調整するための系統的なアプローチを図 36、35、37 で解説します。これらは逆相 LC の場合とそれほど大きな違いはありません図 35 はピーク形状の向上のためのプロトコルです。最初の出発点は、目的の分析種が塩基性か酸性かに基づいたそれぞれの推奨条件です。酸性化合物では酸性条件下で良好なピークが得られ、塩基性化合物は塩基性条件下で良好なピーク形状を示す傾向にあります。ピーク形状を改善するためには、添加剤の種類や濃度の変更、カラムケミストリーの変更があります。

図 35.CC でピーク形状を向上する方法
図 36.CC で保持を向上する方法
図 37.CC で選択性を変更する方法

図 36 は保持を向上するためのプロトコルです。他の液体クロマトグラフィーと同様、最初の選択肢は異なる(弱い)共溶媒の使用です。メタノールは CC で使用できる最も強い共溶媒です。従ってより弱い共溶媒(アセトニトリルまたは他のアルコール類)を使用することでカラムでの保持時間が遅くなります。グラジエントの勾配を平らにするまたは緩やかにする(共溶媒の最終割合を下げる、またはグラジエント時間を長くする)ことも効果的です。さらに共溶媒を混ぜたり、メタノール濃度を下げたりすることで、共溶媒の全体的な強度が低下し、保持が強くなります。カラム内で移動相の密度をコントロールできることは SFC と CC に特有の性質です。そうすることで全体的な保持が変化し、密度が低いと保持が強くなります。これは ABPR の設定値を下げるか、温度を上げるか、もしくはその両方によって行うことができます。最後に、カラムケミストリーを変更しても保持を強くできます。

図 37 は、分離の選択性(溶出順序、相対保持)を変化させるプロトコルです。メタノールの代わりにアセトニトリルを使用するなど、共溶媒の変更も 1 つの方法です。アルコールベースのプロトン性共溶媒からアセトニトリルなどの非アルコール性非プロトン性共溶媒への変更の方が、メタノールから他のアルコールへの変更よりも選択性に大きく影響します。共溶媒を混合してメタノール濃度を低下させることで共溶媒の全体的な強度が低下するため、保持が強まり、選択性が変化します。移動相密度を操作することでも分析種の全体的な保持は変化します。この密度の影響は分析種により異なるため、目的の分離によっては最適化するのに十分であるかもしれません。最後に、このプロトコルでは、必要に応じてカラムケミストリーの変更も推奨しています。

カラムシリーズ別分析法開発プロトコル – アプローチ 2

前のセクションで説明した分析法開発プロトコルでは、汎用的な初期条件および分離の微調整のために移動相の性質を変化させることの影響に焦点を当てています。このセクションでは、キラル分離とアキラル分離という 2 つの代替法について説明します。これらの代替法のいずれにも、多様な被験化合物の大きなグループについて統計的に最も成功する確率が高い分析法とカラムの組み合わせが求められます。一般的に、CC でのカラムの選択には「総当たり」法が使用されますが、本セクションで推奨するプロトコルではステップバイステップの方法を提案します。

UPC² Trefoil カラムを用いるキラル分離のための分析法開発方法

提案するキラル化合物のスクリーニングプロトコルは、AMY1、CEL1 および CEL2 という 3 種類の Waters UPC² Trefoil キラルケミストリーに基づいています。図 38 に示すスクリーニングプロトコルでは、成功率を最大限に高めるため、4 ステップ 4 カラム最適経路スクリーニングと最適化した共溶媒混合液を使用することを推奨しています。

このプロトコルでは、20 mM 酢酸アンモニウムを含むエタノール:イソプロパノール:アセトニトリル(1:1:1)混合液を使用して AMY1 を用いてスクリーニングを開始します。この分析法で目的の分離が達成されない場合、次の分析法では CEL1 カラムと 0.2% TFA を添加したメタノール:イソプロパノール(1:1)混合液を使用します。分析法条件の詳細は図 38 の枠内に記載しています。

図 38.キラル分析を成功させるキラルカラムと分析法のスクリーニングメソッド

UPC² Torus カラムを用いるアキラル分離のための分析法開発方法

アキラル分離のスクリーニングプロトコルでも同様のアプローチを用います。これは、以下で説明する最大 3 ステップで達成できます。

ステップ 1

まず、Torus 2-PIC(3.0 × 100 mm)カラム、および 1.2 mL/分、3 分で 4 ~ 50% MeOH、30 ℃、2,000 psi BPR のクロマトグラフィー条件を使用して迅速スカウティングを行います

得られた結果に基づき、以下を判断します:

a)選択性およびピーク形状に関する要件は満たされている。この場合、必要な場合にのみ分析法をさらに最適化する。

b)良好な選択性が得られたが、ピーク形状に改善が必要である。この場合、添加剤(酸性化合物にはギ酸、塩基性化合物には塩基性添加剤)を用いて Torus 2-PIC カラムで分析する。

c)データから、異なる選択性が必要であることが示された場合、ステップ 2 に進む。

ステップ 2

サンプルの性質に基づいて、規定のスクリーニングフローチャートで概説されている適切な経路を選択します。適切な分離が達成されるまで、推奨されているカラムと共溶媒の組み合わせを使ってフローチャートに沿って進みます。

ステップ 3

分離を微調整するために、分析法の共溶媒組成、温度、添加剤および圧力を調整して分離を最適化します。セクション 4.7 の図に、この方法を用いた分析法の最適化の方法を説明しています。

図 39.アキラル分析を成功させるカラムと分析法のスクリーニングメソッド

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