コンバージェンスクロマトグラフィーの用途の範囲

コンバージェンスクロマトグラフィーの用途の範囲

すでに説明したように、コンバージェンスクロマトグラフィーでは選択性範囲が拡大しているため、多種多様なアプリケーションに適しています (表 5)。

研究分野や目的の分析種の正確な性質に関係なく、CC は以下の 3 つの形で分析上の課題の克服に役立ちます:

  • コンバージェンスクロマトグラフィーにより、ワークフローが簡素化します。
  • コンバージェンスクロマトグラフィーにより、化学構造が類似した化合物も分離します。
  • コンバージェンスクロマトグラフィーは逆相 LC に相補的な分離モードです

次に、アプリケーションの例を挙げて CC の主なメリットを説明します。

表 4.研究分野と化合物の種類で分類した CC の主なアプリケーション

  • 単純さ

  • 単純さ
図 40.MS 検出器を搭載した ACQUITY UPC2 システムを用いたマウス心臓抽出物の包括的脂質プロファイル
図 41.MS 検出器を搭載した ACQUITY UPC2 システムを用いた遊離脂肪酸(FFA)、トリアシルグリセロール(TG)およびコレステロールエステル(CE)のターゲット分析。

SFC から CC への進化の過程における最も有益な発見の 1 つは、圧縮 CO2 がさまざまな有機溶媒と混合し、以前は不可能であったクロマトグラフィー分析が可能になったことです。本セクションでは、CC がどのように分析ラボにおけるワークフローを大幅に簡素化するかを説明します。

一般に、最初のサンプル収集から最終的な分析までのワークフローを簡素化することで、あらゆる分析ラボの業務に大きな影響をもたらします。CC により、多くのアプリケーションのワークフローが大幅に簡素化し、コストと時間の削減、エラーのリスクの低減、生産性の向上をもたらします。簡素化には、以下が含まれます:

  • 複数の分析手法を組み合わせる(LC と GC)
  • 複数の分析法を組み合わせる(順相 LC と逆相 LC)
  • サンプル前処理時間の短縮

複数の手法の組み合わせ- 脂質分析

脂質の分析は多くの理由で重要です。医薬品分野では、薬剤の有効性を検証するために被験者を投与群と対照群に分けて、脂質プロファイルを調査します。

臨床研究では、さまざまな疾患や治療の有効性を示すバイオマーカーとして、脂質レベルを研究します。食品分野では、栄養や製品の真正性を検証するために、トリグリセリドなどの特定のクラスの脂質をプロファイリングします。化学工業の分野では、バイオディーゼルなどの石油製品中の脂肪酸やトリグリセリドを分析します。必要な結果に応じて、脂質の分析には異なる手法が必要となります。通常 GC で分析する遊離脂肪酸の場合、ピーク形状と検出限界を向上させるために(特に炭素鎖が長い場合)、脂肪酸メチルエステル(FAME)への誘導体化が必要です。誘導体化には数時間かかることもあり、さらにその後の GC 分析に最長 30 分程度かかります。リン脂質やスフィンゴ脂質などの極性の高い脂質の場合には、さまざまな脂質クラスを極性基の性質に基づいて分離するために HILIC や順相 LC が必要になります。その後、炭素鎖長や二重結合の数に基づいてクラス内の疎水性の高い脂質をターゲットにするために、逆相 LC を使用します。このように、脂質を完全にプロファイリングするには通常、複数の手法が必要となります。CC ではこのようなことがなく、1 回の注入ですべての脂質クラスを分離することができます。図 40 に、ACQUITY UPC2 システムで分析したマウス心臓抽出物の包括的な脂質プロファイルを示します。この例では、BEH カラムと汎用的なグラジエントを使用してさまざまな脂質クラスが分離されており、順相 LC や HILIC と同様の分離が得られました。

トリアシルグリセロール(TG)、ジアシルグリセロール(DG)、コレステロールエステル(CE)、遊離脂肪酸などの中性脂肪については、カラムとグラジエント条件を変えることで各クラス内のさまざまな脂質を脂肪酸の鎖長および二重結合の数に基づいて保持し、分離することが可能です(図 41)。

このアプリケーションでは CCは GC より分析時間が短いだけでなく(最大 10 倍の速さ)、誘導体化が不要であるため、脂質分析のワークフロー全体が大幅に簡素化されます。誘導体化を行わないために時間を節約でき、ワークフローに追加のステップを追加することで起こる可能性のあるエラーが最小限に抑えられます。CC を使用しない場合、この種のプロファイリングおよびターゲット分析には最大 3 種類の手法が必要になり、サンプルスループットが低下し、溶媒使用量が増え、分析時間が長くなり、全体的な分析コストが増大します。

複数の LC 分析法の組み合わせ - 脂溶性ビタミン

脂溶性ビタミンの分析は、医薬品業界、臨床研究、診断、および食品や燃料の業界で重要です。脂溶性ビタミンおよびカロテノイドの分析は通常、逆相 LC または順相 LC を用いて行われます(表 6)。1 回の注入でこれらの化合物を分離するのは困難であるため、さまざまなカラムと移動相を用いて個別に分析しますが、それぞれの分析は 10 ~ 30 分かかります。これに対して、CC を用いることで、すべてのビタミンおよび関連化合物を 10 分未満で分析することができます(図 42)。表 6 に記載する従来の分析法とは異なり、効率化された CC 法で必要なのは 1 つのカラム、1 つの移動相条件および 1 つの検出器です。CC では多くの場合、化合物の抽出や溶解に使用するのと同じ溶媒(イソオクタンやヘキサンなど)を用いる直接注入を用いるため、逆相分析で通常必要な溶媒交換が不要です。

表 5.脂溶性ビタミンと関連非極性化合物の代表的な分析条件
図 42.10 種類のビタミンのスタンダードについて、CC を用いて単一の分析法で分析して得たクロマトグラムの重ね描き

サンプル前処理時間の短縮

CC では、複数の分析法や手法を 1 つに集約できることで、より迅速にサンプルを分離できるだけでなく、サンプル前処理にかかる時間も短縮します。CC と有機溶媒の適合性により、以下の利点が得られます:

  • 加水分解や誘導体化のステップが不要
  • 溶媒置換のための蒸発や再溶解が不要
  • ハンドリングのステップが減少することで、実験のエラーが減り、データの質が向上

例えば食品中の脂溶性ビタミン類の場合は、複数のサンプル前処理ステップと分析が必要です。図43 に、ビタミン A、D、E の分析の代表的なサンプルワークフローを示します。ビタミン A と E には、ビタミン D とは異なるサンプル前処理手順が必要です。また、各ビタミンに 3 種類の別々の HPLC 分析(順相と逆相の両方)が必要です。ビタミン D のサンプル前処理は特に複雑で、場合によってはセミ分取 HPLC も含む多くのステップが含まれていることがあります。

図 43.乳児用調製粉乳に含まれるビタミン A、D および E の分析のための一般的なサンプルワークフロー
図 44.乳児用調製粉乳に含まれるビタミン A、D および E の分析のための CC を用いたサンプルワークフロー

CC は、抽出プロセスの初期に用いる非極性有機溶媒と適合するため、CC を用いる同じビタミンの分析のためのサンプル前処理ワークフローの方がはるかに単純です(図 44)。この例では、ヘキサン抽出で得たサンプルを直接注入することで、ビタミン E を定量することができます。次にサンプルを濃縮してビタミン A と D3 を分析し、従来の分析法よりも分析時間が 20 分の 1 に短縮します。また、CC に必要なのは、3 ステップのサンプル前処理、1 つの分析法、1 台の装置のみです。一方、図 43 の従来のワークフローでは、12 ステップのサンプル前処理、3 種類の分析法、2 台の装置が必要でした。表 7 に、説明したアプリケーションにおける CC のメリットをまとめ、同様の簡素化が可能なその他のアプリケーションも示しています。

表 6.ACQUITY UPC2 システムによるワークフロー簡易化のメリット

構造的に類似した化合物の迅速分離

異性体や構造類縁体(特に光学異性体)は、構造が類似しているために分離が困難です。そこで、次に下記の構造的に類似した化合物の CC を使用した分析法を説明します。

  • キラル分離(エナンチオマーおよびジアステレオマー)
  • 位置異性体(官能基の位置が異なる)
  • 構造類縁体
    • バイオマーカー(抱合型/非抱合型)
    • 薬剤(代謝物、不純物、分解物)

キラル分離

キラル分離
図 45.CC による血漿中のワルファリンエナンチオマーの分離
図 46.CC と順相 LC によるワルファリンエナンチオマーの分離

1 つの化合物の異なるエナンチオマーがさまざまな薬効や毒性のプロファイルを示す場合があるため、研究、開発、製造の各段階を通してモニタリングを行う必要があります。キラル分離は主に、セルロースまたはアミロースをベースとした固定相を用いた順相 LC で行います。しかし、順相 LC のグラジエント分離は容易ではありません。順相 LC には、別のカラムで、移動相の組み合わせ(多くの場合毒性の強い溶媒)を用いたアイソクラティック分析が必要です。分析法開発のプロセスには多大な時間がかかります。CC では、毒性のない溶媒を使用してグラジエント分析を行い、幅広い選択性をカバーすることが可能なため、1 日でキラル分離を開発することができます。

クロマトグラフィー精製の現場では、この種の分離における SFC の価値が長年認められていました。分析的 SFC 分離は、正しく行うことは難しいですが、迅速キラルスクリーニング、キラル分析法開発、鏡像体過剰率測定、キラル反転試験において大いに期待されています。CC では、順相 LC とは異なり、質量分析検出への適合性が高く、反応中や製造プロセスにおいて、あるいは生体系でエナンチオマーとその生成を同定し、特性解析することができます(図 45)。

図 46 は、順相クロマトグラフィーとコンバージェンスクロマトグラフィーによるワルファリンのエナンチオマーの分離を比較した結果です。CC では、順相と較べてわずかな時間(最大 30 倍の速さ)で、エナンチオマーがベースライン分離しました。また、購入と廃棄の両方のコストが大きい毒性溶媒を使用しないため、キラル分離のコストを 1 回の分析あたり 100 分の 1 までも削減できます。これらのメリットにより、CC は、あらゆる種類のキラル分析で優先される手法になっています。

位置異性体と構造類縁体

CC は、位置異性体やその他の構造類縁体の分離にも有用です。位置異性体は、同じ分子量を持つ(同重体)、官能基の位置が異なる化合物です。位置異性体は、出発原料の分析や反応モニタリング、不斉触媒などのアプリケーションでしばしば見られます。これらの化合物は、異性体を分離しやすくするために、GC 分析の前に誘導体化することもよくあります。順相 LC 分析法は元来、頑健性とスピードに欠けます。一方 CC では、その分離の選択性により、位置異性体を誘導体化することなく汎用的な条件下で簡単に分離が行えます。

図 47.CC によるジメトキシ安息香酸(DMBA)の位置異性体の分離

ACQUITY UPC2 システム(図 47)では、これらの異性体が迅速に分離でき、反応の出発原料や中間体、最終生成物の最適化をリアルタイムで評価できます。構造類縁体は互いに類似しているために分離が困難であり、抱合型または非抱合型(例:グルクロニド、硫酸塩)バイオマーカー、並びに薬物化合物の代謝物、分解物、および不純物を含む場合があります。構造類縁体の最もよく知られたクラスの 1 つはステロイド類です(図 48)。ステロイド類はそれぞれ構造が類似しており、質量差が小さいため MS 検出器でも分離や分析が困難です。CC では、複数のカラムで汎用的なスクリーニンググラジエントを行うと、これらステロイド類を 2 分未満で簡単に分離できます(図 49)。化合物に極性がないためこの分離は逆相 LC では困難であり、また、GC で分離するには、ピーク形状と検出限界を向上するために誘導体化が必要です。MS 検出器と組み合わせた ACQUITY UPC2 システムは、ステロイド類を同定し、定量するのに適しています。

図 48.非抱合型(遊離)ステロイドの構造
図 49.コンバージェンスクロマトグラフィーによるステロイド 9 種の分離
図 50.硫酸化エストロゲンの構造。同じ色の分子量は同重体です。

抱合型の構造類縁体はさらに分離が困難です。遊離ステロイド(図 48)は水に不溶性ですが、硫酸化型に変換することで水溶性の誘導体になります。この過程で負に荷電した親水性側鎖基が生じ、水溶性になります(図 50)。これらの化合物は、治療目的のために天然物から分離され、疾患および治療の有効性の試験のためのバイオマーカーとして使用されています。これらの化合物の分析には大きな課題が 2 つあります。

まず、30 分 の GC 分析を行うのに、硫酸基の酵素的加水分解と誘導体化を要するサンプル前処理に約 2.5 時間もかかります。2 つ目の課題は、これらのエストロゲンの一部は同重体(m/z が同じ)であるため、質量分析法では区別できないことです。そこで、同重体化合物同志を分離できるクロマトグラフィーが必要になります。

CC を使用すると、これら 10 種の硫酸化エストロゲンすべてを 15 分以内に分離することができます(図 51)。これには、30 分間の GC 分析でも容易に分離できない近接して溶出する 2 つのピーク(ピーク 6 と 7)が含まれます(図 52)。CC では、硫酸化化合物をネイティブの形で分析できるため、加水分解と誘導体化は必要ありません。これにより、治療薬の分析に必要なステップが大幅に減り、スループットと生産性が向上します。

図 51.CC を用いた 10 種類の硫酸化エストロゲンの分離
図 52.抱合型エストロゲン向けの USP 法を用いた 10 種類のエストロゲンの GC-FID 分離サンプル前処理には、抱合型エストロゲンの化学的誘導体化の前の硫酸基の開裂が含まれます。サンプル前処理にかかる合計時間は 2.5 時間を超えました。それでも、これら 2 つの化合物(黄色い枠内のピーク 6 と7)は完全には分離していません。
表 7.構造的に類似した化合物の分離における CC のメリット

表 8 に、上記で説明したアプリケーションにおける CC のメリットをまとめ、エナンチオマーや位置異性体、構造類縁体を分離するその他のアプリケーションも示しています。

直交性

直交する分離モードは互いを補完するとともに、独自の形でピークを保持するので、単一の分離モードのみを使用する場合よりもサンプルに関する情報が多く得られます。異なる手法を用いて分析種を分離する能力は、次のような理由で極めて重要です:

  • 不純物や分解物のピークまたは類似した化合物(同重体化合物や共溶出する化合物など)を確実に同定し、特性解析できる。
  • サンプルの完全な特性解析が保証される。
  • サンプルに関するより多くの情報を得ることができる。
  • マトリックス干渉成分から目的の化合物を分離できる。

直交的な分離手法には、順相と逆相のクロマトグラフィーなどの補完的なモードが含まれます。CC の選択性は、順相クロマトグラフィーの選択性と似ていますが、頑健性と信頼性が高く(第 2 章を参照)、あらゆる順相の分析法より高い再現性を示します。以下のセクションでは、CC を相補性のある分離モードとして用いて、前述の目標を達成した例を示します。

図 53.ACQUITY UPLC システムと ACQUITY UPC2 システムを用いたメトクロプラミドと類縁物質の分離による CC の直交性の実証
図 54.RPLC と MS 検出(MRM モード)システムを搭載した ACQUITY UPC2 を用いた、除タンパク後のヒト血漿中のクロピドグレルの分析

ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY UPC2 システムを用いた、医薬品有効成分(メトクロプラミド)の類縁物質からの分離により、この直交性が実証されました(図 53)。一方の手法で分離できないピークが他方の手法で分離できることもあれば、その逆もあります。CC では、RPLC より長く極性化合物(ピーク 1 と 2 など)を保持することができます。この例では、ACQUITY UPC2 システムでクリティカルペア(ピーク 5 とメトクロプラミド)が分離でき、より大規模の精製や未知化合物の分離が促進され、その後、同定や特性解析が可能になりました。このように CC は、他のルーチン手法と並行して用いることで、さまざまな分離上の課題を解決できる理想的な手法です。

直交する分析法も、バイオアナリシスや食品分析などにおいて、目的の分析種をマトリックス干渉成分から分離するのに重要です。

図 54A に、除タンパクを用いてヒト血漿から抽出したクロピドグレルの代表的な LC-MS/MS クロマトグラムの例を示します。クロピドグレルは疎水性であるため、この分析ではかなり遅く溶出します。干渉成分であるリン脂質(コリンを含む頭部基を持つ)も同じ領域に溶出して(図 54B)、クロピドグレルのピークのイオン化抑制を起こし、定量結果がばらつく可能性があります。興味深いことに、干渉成分であるリン脂質は、ACQUITY UPC2 システムでもほぼ同じ領域に溶出しています(図 54C)。CC は、逆相 LC と直交するため、目的の分析種ははるかに早く溶出し、これらの干渉するリン脂質から離れて溶出します(図 54D)。これにより、マトリックス影響の可能性が最小限に抑えられ、より正確かつ精密な定量が確保されます。

表 8.直交的な分離モードとしての CC のメリット

これらのメリットはすべて本章のはじめで述べた CC の以下の 3 つの主要な特性を示すものです。

  1. コンバージェンスクロマトグラフィーにより、ワークフローが簡素化します。
  2. コンバージェンスクロマトグラフィーにより、化学構造が類似した化合物も分離します。
  3. コンバージェンスクロマトグラフィーは逆相 LC と直交する分離モードである
  • 複数の手法を 1 つに統合する
  • サンプル前処理にかかる時間と分析時間を短縮
  • 有機溶媒/抽出液の直接注入が可能
  • エナンチオマー(キラル)
  • 位置異性体
  • 構造類縁体と抱合体
  • 不純物や分解物の同定における信頼性が向上
  • サンプルの完全な特性解析が可能
  • マトリックス干渉を受けずに分析種を分離

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