ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とも呼ばれ、すべての液体クロマトグラフィー法の中で最も分かりやすいクロマトグラフィー法です。分離は溶液中のサンプルのサイズにのみ基づいて行われ、従来の HPLC で見られるようなカラム充塡剤との相互作用(吸着や分配など)は発生しません。分離のモードは、分子量ではなく、分析される材料(大抵はポリマー)の溶液中でのサイズに基づいています。つまり、GPC で正しく分析を行うには、サンプルを適切な溶媒に溶解しなければなりません。
溶液中のサンプル濃度は分子量により変わりますが、分子量が約 100,000 のポリマーの場合には 0.10%(w/v)濃度が一般的に使用されます(詳細については下の「サンプルの前処理」セクションを参照)。サンプルを溶解するためにサンプル溶液を加熱しなければならないこともあります。例えば、一部のポリオレフィンは 120℃ 以上でなければ溶解しないため、通常 140℃ の 1,2,4 トリクロロベンゼンに溶解して分析します。
サンプルを適切に溶解した後は、インジェクション機構を通して分子ろ過システムとして作用するカラムセットへと導入します。カラムには架橋ゲル(有機アプリケーション用スチレン/ジビニルベンゼン共重合体など)が充塡されており、このゲルの表面にはポアがあります。ポアサイズは小さいものもあればかなり大きいものもあり、上述したように分子フィルターとして機能します。大きな分子は小さなポアには入り込めません。逆に、小さな分子はほとんどのポアに入り込み、長くカラムに保持されます。
数十年前にウォーターズが実施した最初の GPC の実演の 1 つでは、チューイングガムを使用しました。チューイングガムは、実は合成ゴムにフレーバーや安定剤などの添加剤を加えたものです。
これが初代の GPC クロマトグラフィー装置です。直列に接続されたさまざまなポアサイズの複数のカラムに分かれています。ポリマー(この場合はゴム)は、最大の分子なので最初に溶出し、続いて添加剤が大きな順に溶出します。これは、可塑剤、抗酸化剤、および UV 安定剤の混合物である PVC のクロマトグラムとほとんど同じです。
モノマーは、分子量が単一で、単分散であると言われています。エチレン、スチレン、塩化ビニルなどが挙げられます。モノマーに続いて、ダイマー、トリマー、テトラマー、ペンタマーがあります。これらはオリゴマーと呼ばれます。分子量がさらに大きくなると、ポリマーと呼ばれます。ポリマーの鎖の長さは様々であるため、分子量も様々です。重合化の条件によって、この分布は狭くなったり非常に広くなったりします。例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)などの縮合重合または逐次重合により生成されるポリマーは、分子量分布が非常に狭くなります。一方、フリーラジカル重合では、鎖の長さおよび分子量の分布が非常に広いポリマー(ポリオレフィンなど)が生成されることがあります。重合化の動態を制御することは、対象サンプルの分子量分布を得る上で非常に重要です。これが、高分子科学者にとって GPC がとても重要な技術である理由です。
以下に 2 つのポリマー(この場合はポリスチレン)の分子量分布を重ねた図を示します。
ポリマーサンプルの分子量分布が得られたら、それを定量する方法が必要になります。統計処理を行ってこの分布全体に分子量平均を割り当てます。各スライスについて高さ(Hi、または濃度 Ci)、保持時間、分子量(Mi)があります。分子量は検量線から算出します(次のセクションを参照)。次に、ポリマーの分子量分布を表す様々な平均分子量を得るために合計します。表示される PD は、重量平均分子量と数平均分子量の比であり、ポリマーの多分散性あるいは単に分散と呼ばれます。この合計は、分子量に関する 4 つの統計学的モーメントを得るための簡易的な方法であり、分子量分布を表します。
これらの平均分子量を得るためには、他に下記の方法もあります。
GPC システムのキャリブレーションが完了したら、1 回のインジェクションでこれらの平均のすべてを得ることができます。
平均分子量について理解したところで、システムを構成する準備ができました。
システム(上の図)は、ポンプ、任意のインジェクター(手動または自動)、カラムセット、検出器、および任意のデータ処理装置で構成されています。さらに、脱気装置を使用するのもよいでしょう。特に、示差屈折率検出器を用いて THF を使用する場合には脱気装置の使用が推奨されます。カラムは、ほとんどの場合、一定の温度に加温されます。室温可溶性アプリケーションであっても圧力を低く抑え、粘度を均一にするために加温されます。以下のセクションではシステムの詳細について説明していきます。
ウォーターズの GPC システムで現在使用されているポンプは、非常に高機能の送液システムです。Alliance システムで使用されている送液システムは、ソルベントマネージャーです。GPC 分析用の送液モジュールを選択する際に考慮すべき最も重要なことは、送液精度です。システムのキャリブレーションでは、保持時間(または容量)に対して分子量の対数をプロットします。そのため、わずかな流速の変動で、分子量の誤差が大きくなる可能性があります。可能な限り精度の高い送液システムを使うことで、よりよい結果が得られます。送液精度の低い従来のポンプと比較すると、精度の高い装置では平均分子量測定の精度を飛躍的に向上させることができます。Alliance システムで使用されているソルベントマネージャーの送液精度は、流量補正を行わなくても 0.075% 未満という驚くべきレベルです。市販されているポンプには、同程度の送液精度を持つとされているものもありますが、ソフトウェアによる流量補正を行っていることがほとんどです。GPC システムの構成の際には、0.3%(以下)と仕様に記載されている市販ポンプには気を付けてください。
Alliance システムのソルベントマネージャーでは、比類のないグラジエントおよび流速プログラム性能も得られます。ポリマーの特性解析を行う化学者の多くは、ポリマーの分子量分布を決定することに加えて、添加剤パッケージを分析することの重要性も認識し始めています。多くの場合、添加剤パッケージは、最終製品のアプリケーションの成功という点において、製品の製造に使用されるポリマーと同じくらい重要です。主要組成物に添加剤を添加する際にエラーがあると(不適切な抗酸化剤や可塑剤量の間違いなど)、許容できないレベルの物理的性質や性能になる可能性があります。添加剤パッケージの評価を適正に行うため、逆相グラジエント HPLC 分析が行われます。ポリマー添加剤の他にも、エポキシ樹脂やフェノール樹脂も通常 GPC(オリゴマー分布の調査用)およびグラジエント HPLC(異性体および不純物の特定用)の両方を用いて分析します。Alliance システムでは、一つのシステムで高性能 GPC とグラジエント分析の両方を行うことができます。
システム構成の次のステップでは、分離のためにスタンダードおよびサンプルを導入する方法を決定します。最も費用のかからない方法は、マニュアルインジェクターを使う方法です。手動でループ(既知容量)を満たし、バルブを開けて溶液を溶離液の流れに乗せてカラムセットまで流れていくようにします。この方法は、時々数個のサンプルを分析するという場合には問題ないでしょう。しかし、毎日複数のサンプルを分析する場合は、オートサンプラーの使用を検討した方が良いかもしれません。
室温 GPC 分析で現在最もよく使用されているオートサンプラーは、2707 オートサンプラーです。このオートサンプラーを使用することで、時間のかかる分析であっても、トレイに入りきる数のサンプルであれば無人で分析することができます。また、注入精度および再現性も非常に優れています。分子量の影響を受けやすい検出器(粘度計や光散乱検出器など)を用いた質量測定では正確な質量負荷が分かっていなければならず、注入精度および再現性が非常に重要な意味を持ちます。オートサンプラーのもう一つの選択肢として Alliance システムがあります。Alliance システムには 5 個のカローセルが装備されており、それぞれに最大 24 サンプル(全体で 120 サンプル)をセットできます。
ポリマーの溶解に適した溶媒を選択し、適切な濃度で単分散標準試料およびサンプルを調製すれば、分析を開始する準備ができたことになります。サンプルの準備が整ったら、次は分析に適したカラムセットを選択します。ここで、適切なカラムセットを選択する手順について再確認しましょう。
多くの人は「リニア」カラムと呼ばれるカラムを好んで使います。これは「エクステンディッドレンジ」または「ミックスベッド」などとも呼ばれます。これらのカラムの粒子は、異なるポアサイズの混合物であり、単一ポアサイズのカラムよりも広い分子量範囲に対応できるという考えに基づいています。ポアの混合が十分慎重に行われていれば、カラムの検量線は必ず直線になります。
これらのミックスベッドカラムを使用する際の問題は、単一ポアサイズのカラムを複数使用する場合に比べて、一定の分子量範囲の分離能が低くなるということです。例えば、エポキシ樹脂やフェノール樹脂を分析する場合、分子量範囲が数百から 5000 であるとすると、どのカラムセットを使用しますか?最初の検討事項は、適切に分離するため、つまりポリマーの正確な分布プロファイルを得るために、カラムのポア容量を十分に確保するということです。カラム 1 本ではもちろん足りませんし、2 本でも足りないかもしれません。分離を適切に行うための十分なポア容量を確保するには、少なくとも 3 本のカラムを直列につなげて使用しなければなりません。
では、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を分析するのにはどのカラムを使ったらよいでしょうか?ポアサイズが混ざったミックスベッドカラムセットを使うのがよいでしょうか?あるいは対象サンプルの分子量範囲だけをターゲットとするために複数の単一ポアサイズカラムを直列につなげて使用するのがよいでしょうか?以下の表は、各ポアサイズのスチレン/ジビニルベンゼン充塡剤のカラムについて、分離可能な分子量範囲をポリスチレン鎖長の排除限界に基づいて表にしたものです(オングストローム単位)。
分子量範囲 |
ポアサイズ |
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100 ~ 1000 |
50 Å |
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250 ~ 2500 |
100 Å |
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1,000 ~ 18,000 |
500 Å |
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5,000 ~ 40,000 |
103 Å |
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10,000 ~ 200,000 |
104 Å |
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50,000 ~ 1,000,000 |
105 Å |
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200,000 ~ 5,000,000 |
106 Å |
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500,000 ~ 約 20,000,000 |
107 Å |
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約 1,000 ~ 10,000,000 |
ミックスベッド–高 |
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約 100 ~ 100,000 |
ミックスベッド–低 |
カラムについて最後に 1 つだけアドバイスがあります。GPC 溶媒ガイドに、一般的な操作温度範囲が記載されています。GPC 分析では、この溶媒ガイドに示されているように、ほぼ必ず(室温アプリケーションの場合でも)、カラムを一定の温度に加温します。カラムを加温する目的は、サンプルの溶解ではなく、分離能を向上させ、浸透プロセスを促進し、場合によっては溶媒の粘度を低下させて(DMF など)カラムバンクへの背圧を低下させることです。
現在 GPC 分析で最も広く使用されている検出器は示差屈折率検出器です。濃度に反応するこの検出器では、単にレファレンスセル側の溶離液とサンプルセル側のサンプルと溶離液の混合液の間の屈折率の差(dRI)を測定します。これは(UV 検出器などとは異なる)「ユニバーサル」検出器で、溶離液と比較して屈折率に大きな差があるポリマーすべてでレスポンスが得られます。サンプルと溶離液の dRI が非常に小さい場合(シリコーンと THF など)には良好なシグナルが得られません。そのような場合には、ポリマーが溶解し、dRI が大きい別の溶離液を見つける必要があります。ウォーターズの 2414 示差屈折率検出器(と旧モデルの 2410 および 410)は、長年にわたり業界標準として使用されてきました。
その他に GPC でよく使用される検出器として UV 検出器があります。当然のことながら、シグナルを得るには UV を吸収する発色団が必要です。UV 検出器は、スチレン系ポリマー(ポリスチレン、スチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、ABS など)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、および芳香族ポリエステルなどの測定に適しています。グラジエント分析を行う場合(分析中に溶媒組成を変化させる場合)、RI 検出器は溶離液組成が変化するたびにドリフトし続けるため、UV 検出器を使う必要があります。Waters 2489 UV 検出器では、UV を吸収するポリマーや添加剤の GPC/HPLC 分析において高い感度、優れた直線性、そして他に類を見ない総合的性能が得られます。
フォトダイオードアレイ(PDA)検出器を用いることもできます。PDA 検出器は UV 検出器がさらに進化したもので、多くの情報を得ることのできる強力な検出器です。この検出器には多数のフォトダイオードが使用されており、幅広い波長を瞬時に調べることができます。例えば、ほとんどの UV 検出器では 1 つか 2 つの波長しか調べることはできませんが、PDA を設定して 190 ~ 800 ナノメートル(nm)の波長範囲を調べることができます。これで、ポリマーサンプル(または添加剤)の実際の UV スペクトルを見ることができます。これにより、化学組成分布に関する情報が得られます。例えば、SBR(スチレン/ブタジエンゴム)がブロック共重合体なのかランダム共重合体なのかがわかります。スペクトルライブラリーを作成し、未知のサンプルを照合することができます。この作業は、ポリマーのみの場合もポリマー添加剤が入っていても可能です。PDA では、配合後の完成材料にどの添加剤が含まれているかを特定することができます。PDA は、競合化合物を分離する際にも役立ちます。
ポリマー特性解析を行う化学者は、サンプルに関してできるだけ多くの情報を得る努力をしており、その他の検出オプションも検討されています。GPC 分析での検出はさらに「高度」な領域に達しており、粘度測定や光拡散のような、分子量の影響を受けやすい検出器も検討されるようになりました。粘度計の詳細については、以下のキャリブレーションに関するセクションで説明します。原則的に、粘度計を屈折計と直列に配置すると、ポリマーの固有粘度 [h] がわかるだけでなく、「絶対」分子量もわかり、長鎖の分岐も推定することができます。RI 検出器は濃度検出器(C)で、粘度計では [h](C)がわかります。2 つのシグナルを併用することで、ポリマーの溶出プロファイル全体の各スライスの固有粘度がわかります。このため、ポリマーサンプルの絶対分子量を得るために、次に説明する Benoit のユニバーサルキャリブレーションを利用できます。
光散乱検出器を屈折計と併用する方法は、GPC 分析で使用できる別の進化した検出法です。基本的には、サンプル溶液が入っているセル(この場合オンライン)にレーザー光が当てられます。入射ビームは溶液中のポリマー粒子により散乱します。光散乱検出器のデザイン(小角または多角度)により回転半径の結果の有無という違いはありますが、溶液中のポリマーの重量平均分子量(Mw)を正確に測定することができます。
RI 検出器と直列に粘度計をつないだ場合でも光散乱検出器をつないだ場合でも、非常に有用な情報を数多く得ることができます。検出器を 3 つ使用するアプローチでも、ユーザーがすべてのデータを解釈することができれば、非常に意味のあるデータが得られます。複数の検出器を用いて得たデータの整理の詳細な説明については、「参考文献」をご覧ください。
ポリマーおよび添加剤の高度な検出法には他に質量分析計などがありますが、GPC 分析で現在一般的に使用されている検出器は RI、UV/PDA、粘度計、および光散乱です。
システムの主要なハードウェア部が構成できたら、次にシステムの制御とデータ処理のためのソフトウェアを検討する必要があります。現在の非常に高性能なコンピューターを使えば、キャリブレーションおよび分子量分布の計算は数秒で完了します。Empower ソフトウェアは、従来の GPC(RI のみ)データ整理および RI/粘度計検出の両方で使用することができます。Empower 3 は、相対的キャリブレーション、累積識別および Hamielec のブロードスタンダードキャリブレーション、ユニバーサルキャリブレーションなどのさまざまなキャリブレーション処理をサポートしています。独自の制限付きキャリブレーションに加えて 0 次から 5 次曲線の適合、そしてスプラインフィットもすべてサポートされます。
GPC の基本ケミストリー