溶出したポリマーの保持時間ごとのスライスに分子量を割り当てるには、システム、より細かく言えばカラムセットのキャリブレーションを行う必要があります。キャリブレーションにはいくつかの方法があります。最も簡単な方法は、特性が十分に明らかで、分子量分布ができる限り狭い範囲のスタンダードを用いて相対的なキャリブレーションを行う方法です。理想的には、単分散、つまり重量と数平均の比(分散度)が 1(Mw/Mn = 1)である、単一の分子量のスタンダードのセットを使用したいと考えます。
この方法に最も近い方法は、陰イオン重合されたポリスチレンの単分散スタンダードなど、キャリブレーション用に重合化されたポリマーのスタンダードを使用することです。スタンダードは、モノマーから分子量 10,000,000 超までの非常に広範な分子量範囲をカバーし、分散度は 1.10 未満です。キャリブレーションスタンダードの範囲が狭く、GPC キャリブレーションで使用できると考えられる場合、分散度は 1.10 未満になるはずです。また、ブロードスタンダードキャリブレーションを行う方法もあり、Benoit のユニバーサルキャリブレーション手順(オンライン粘度計あり/なし)も使用できます。これらのキャリブレーション方法について詳しく説明していきます。
従来の単分散スタンダードを用いたキャリブレーション法は、得られる分子量平均がキャリブラントに対して相対的であるため、ここでは相対的キャリブレーションと呼びます。例えば、サンプルとしてポリエチレンを分析していて、カラムセットがポリスチレンの単分散スタンダードでキャリブレーションされていた場合、波形解析後に得られる分子量は、ポリスチレンに基づいたものであり、ポリエチレンとしては正しくないものとなります。しかし、未知物質に関して得られた分子量を一連の「許容できる」値と単に比較する多くの研究者にとって、これは問題となりません。これら分子量の値が関心ポリマーの「絶対」分子量であるかどうかは重要ではなく、得られた値が「許容できる」範囲内でれば問題はありません。
有機溶媒系 GPC 分析で利用できる単分散スタンダードにはこの他に、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリ THF などがありますが、有機溶媒系 GPC 分析で主に使われる単分散スタンダードは間違いなくポリスチレンです。水系 GPC では、低分子量用のポリ(エチレングリコール)と並んでポリ(エチレンオキシド)が最も広く使用されています。また、三単糖構造の多糖のプルランも使用されています。単分散スタンダードの分析後、多項式近似(通常 3 次または 5 次)を行い、保持時間(または容量)に対して得られた対数 M の検量線をプロットします。
GPC カラムセットのキャリブレーションは、未知物質として分析するポリマーと同じポリマーのブロードスタンダードを用いて行うこともできます。ブロードスタンダードは様々な製造元から購入できますが、十分に特性解析されているものである必要があります。つまり、代替の方法(膜浸透圧法、光散乱法、超遠心法など)により、数平均分子量、重量平均分子量、Z 平均分子量、そして可能であれば粘度平均分子量がわかっているものを使用する必要があります。また、これらの他の方法により平均分子量がわかっている材料の実際の「サンプル」(大量にあるもの)をスタンダードの代わりに使用することもできます。この方法のメリットは、毎日分析する未知サンプルと同じ構造を持つポリマーを使用できるということです。
既知の平均分子量をソフトウェアに入力し、未知物質を分析する場合と同じ条件かつ通常の方法で、ブロードスタンダードのクロマトグラフィー分析を行います。シンプレックス検索ルーチンが行われ、クロマトグラフィーを行ったブロードスタンダードの形状を、与えられた平均分子量に適合させます。こうして得られる検量線は、各平均のデータポイントで構成されます。数平均と重量平均のみが既知の場合、得られる検量線は、これらの 2 点とピーク分子量で構成される 3 点の検量線となります。このブロードスタンダードは、Hamielec が 1969 年に行った研究に基づいています。分子量が異なる 2 種類のブロードスタンダードを使用して、検量線の分子量範囲を広くすることをお勧めします。2 つの平均分子量がわかっている 2 種類のブロードスタンダードを使用しても、(シンプレックス法の検索結果のピーク分子量値を用いて)6 点の検量線しか得られません。しかし、ブロードスタンダードと分子量範囲が同じポリマーを毎日分析する QC ラボにとって、このキャリブレーションは非常に都合がよく、絶対分子量もわかります。
有機溶媒系 GPC 分析で利用できる単分散スタンダードにはこの他に、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリ THF などがありますが、有機溶媒系 GPC 分析で主に使われる単分散スタンダードは間違いなくポリスチレンです。水系 GPC では、低分子量用のポリ(エチレングリコール)と並んでポリ(エチレンオキシド)が最も広く使用されています。また、三単糖構造の多糖のプルランも使用されています。単分散スタンダードの分析後、多項式近似(通常 3 次または 5 次)を行い、保持時間(または容量)に対して得られた対数 M の検量線をプロットします。
ユニバーサルキャリブレーションの概念は、1967 年に Benoit らにより導入されました。保持時間に対する単分散スタンダードの対数分子量をプロットする代わりに、保持時間に対する固有粘度 [η] と分子量 M の積の対数をプロットします。[η] と M の積は、流体力学的容積と関連しています。Benoit は、様々な単分散スタンダードの一連の流体力学的容積値をプロットすることによって非正則な検量線が作成されることを発見しました。つまり、これらすべてのポイントが同じ曲線に適合するということです。この「ユニバーサル」キャリブレーションを行った後であれば、あらゆるランダムコイルポリマーを適切な溶媒に溶解して分析し、ユニバーサル検量線に基づいて分子量を決定することができます。Benoit は、単分散スタンダードとサンプルの粘度を測定するためにガラスキャピラリー粘度計を使用しました。ユニバーサルキャリブレーション曲線がわかっていれば、単分散スタンダードの分子量の対数に対して固有粘度の対数をプロットすることもできます。このプロットは、粘性法則プロット、または Mark-Houwink プロットと呼ばれます。このプロットの傾きはアルファ(α)で、切片は対数 K と呼ばれます。得られる公式は、Mark-Houkink 式と呼ばれ、以下のようになります。
『Polymer Handbook』には、ポリマーと溶媒をさまざまな組み合わせた場合の K 値およびアルファ値が記載されています。これらの実験に基づいた定数を現在市販されている GPC ソフトウェアパッケージに入力することで、多数のポリマーの「絶対」分子量、つまり精密分子量がわかります。ただし、このハンドブックに掲載されている、分析するポリマーの値が正確であることを確認する必要があります。確認しなければ、誤差が生じる場合もあります。
現在では、オンライン粘度計検出器と示差屈折率(dRI)検出器を組み合わせて使用し、各スライスの分子量を直接得ることができます。dRI 検出器は濃度(C)検出器で、粘度計検出器では固有粘度と濃度の積([η]C)がわかります。粘度計のシグナルを dRI 検出器のシグナルで割ると、ポリマーピーク全体の各スライスの固有粘度 [ni] を得ることができます。これで、各スライスの固有粘度と保持時間(または容量)がわかるため、ユニバーサル検量線に戻って各スライスの分子量 Mi を調べることができます。このユニバーサルキャリブレーションの概念は幅広く適用できます。特に、今日分析されているポリマーの大部分を占めるランダムコイルポリマーに適用できます。ロッド状、球状(タンパク質など)などの他のポリマー構造は、ユニバーサルキャリブレーションの概念に合わない場合があります。ユニバーサルキャリブレーションは、ポリマーと溶離液、またはポリマーとカラム充塡剤との間に相互作用がない場合でも適用できます。
ユニバーサルキャリブレーションとオンライン粘度計/dRI 検出を使用するもう 1 つの利点として、既知の直鎖ポリマースタンダードとの比較で、ポリマーの分岐度がわかることがあります。この方法は、(短鎖分岐とは対照的に)長鎖分岐への感度が高い方法です。直鎖ポリマーと比較して、特定のポリマーを加工する方法や最終的な物性を予測するうえで役立ち、重要です。
例えば、直鎖ポリエチレンの広い範囲のポリマー(NBS 1475 や他の既知のリニアポリエチレン)を分析し、Mark-Houwink 値をこの実験で決定することができます。得られる Mark-Houwink プロット(粘性法則プロット)は、傾きが一定の直線となります(アルファは分子量分布にわたり一定になる)。次に K 値およびアルファ値をソフトウェアに入力し、続けて未知のポリエチレンを分析し、粘性法則プロットをこの既知の線状ポリエチレンのものと比較することができます。
未知の物質に長鎖分岐がある場合は、粘度と分子量の関係は直線的ではありません。つまり、粘度は分子量の上昇に伴って直線的に上昇しないということです。この直線性からの逸脱が大きいほど、長鎖分岐のレベルが高くなります。分岐ポリマーの正確なアルファ値は、長鎖分岐がなく傾きが一定の低分子量の範囲でのみ得ることができます。長鎖分岐が見られる分子量のポリマーの場合、アルファ値は変化しつづけるため(ゼロに近づく場合もあります)、意味がなくなります。分岐ポリマーの粘度法則プロットと直鎖ポリマーの単純な比率によって、分岐指数(g')が得られます(g'=[η]br/[η]lin)。さらに計算を行って分岐頻度や分岐の種類などを決定することができます。示差屈折率検出器とオンラインの粘度計検出器を追加することで、ポリマーに関するより多くの情報が得られることは明らかです。具体的には、次のような情報が得られます。
GPC 分析の準備において最も重要な条件は、ポリマーを溶解する適切な溶媒を見つけることです。これはそれほど重要ではないように思われるかもしれませんが、GPC は溶液中のポリマーのサイズに基づいて分離する手法であることを思い出してください。ポリマー鎖は、溶液中では一定の弛緩構造になり、そのサイズは選択した溶媒により異なります。多くのポリマーは室温でさまざまな溶媒に溶解しますが、溶解させるのに高温を要する場合(特に高結晶性ポリマー)もあります。GPC サンプル前処理で重要な点としてもう 1 つ、濃度の選択があります。サンプルのカラムセットへの質量負荷が大きすぎると、濃度または粘度による効果が発生し、溶出容量が不正確になります。さらに、ポリマー溶液をろ過するかどうかも考慮事項です。サンプル前処理におけるこれらの考慮事項のいくつかについて、以下で詳しく説明していきます。
ポリマー |
クラス |
溶離液 |
ポリエチレンオキシド |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
ポリエチレングリコール |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
プルラン(多糖) |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
デキストラン |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
セルロース(水溶性) |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
ポリビニルアルコール |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
ポリアクリルアミド |
ニュートラル |
0.10M NaNO3 |
ポリビニルピロリドン |
中性、疎水性 |
80:20 0.10M NaNO3/アセトニトリル |
陰イオン性ポリアクリル酸 |
陰イオン性 |
0.10M NaNO3 |
ポリアルギン酸/アルギン酸 |
陰イオン性 |
0.10M NaNO3 |
ヒアルロン酸 |
陰イオン性 |
0.10M NaNO3 |
カラギーナン |
陰イオン性 |
0.10M NaNO3 |
ポリスチレンスルホン酸 |
陰イオン性、疎水性 |
80:20 0.10M NaNO3/アセトニトリル |
リグニンスルホン酸 |
陰イオン性、疎水性 |
80:20 0.10M NaNO3/アセトニトリル |
DEAE デキストラン |
陽イオン性 |
0.80M NaNO3 |
ポリビニルアミン |
陽イオン性 |
0.80M NaNO3 |
ポリエピアミン |
陽イオン性 |
0.10% TEA |
n-アセチルグルコサミン |
陽イオン性 |
0.10M TEA/1% |
ポリエチレンイミン |
カチオン性、疎水性 |
0.50M 酢酸ナトリウム/0.50M |
ポリ(n-メチル-2-ビニルピリジニウム)ヨウ素塩 |
カチオン性、疎水性 |
0.50M 酢酸ナトリウム/0.5M 酢酸 |
リゾチーム |
カチオン性、疎水性 |
0.50M 酢酸/0.30M 硫酸ナトリウム |
キトサン |
カチオン性、疎水性 |
0.50M 酢酸/0.30M 硫酸ナトリウム |
ポリリジン |
カチオン性、疎水性 |
5% リン酸二水素アンモニウム/3% |
ペプチド |
カチオン性、疎水性 |
0.10% TFA/40% |
コラーゲン/ゼラチン |
両性 |
80:20 0.10M NaNO3/アセトニトリル |
硝酸ナトリウムが示されている場合にも、多くの場合、酢酸、硫酸、塩化ナトリウムなどが使用されてきました。当社では、中性化合物および陰イオン化合物のイオン干渉を一貫して最小化することが示されている硝酸ナトリウムの使用を推奨します。これらのさまざまな溶離液が使用されている理由は、充塡剤が全体的に陰イオン電荷を帯びているためです。水性溶媒系 GPC のためのメタクリレート系ゲル充塡剤は全体的に陰イオン電荷を帯びているため、水のみで溶解して分析した場合、陰イオン性サンプルではイオン排除、陽イオン性サンプルではイオン吸着が起こります。
溶離液は、クロマトグラフィーシステムで使用する前にかならずろ過しなければなりません。有機溶媒には通常フルオロカーボンフィルターを使用します。フィルター膜のポアサイズは一般に 0.45 m です。水系 GPC(水のろ過)の場合、アセテートタイプのメンブレンフィルターを使用します。光散乱分析を行う場合、溶離液は 0.20 μm フィルターでろ過することを推奨します。DMF などの一部の有機溶媒は非常に粘度が高く、フルオロカーボンフィルターの表面をあまり湿らせることができません。この場合、フィルターの表面を先にメタノールで濡らし、すぐに DMF のろ過を開始するとよいでしょう。最初に出てきた少量のメタノール/DMF 混合液は廃棄し、フィルターが乾いてしまう前に DMF のろ過を開始します。
分析に適した溶媒を選択したら、次のステップは単分散スタンダード溶液およびサンプル溶液の調製です。許容範囲の S/N 比が得られ、カラムへの負荷が高すぎることがなく、濃度効果が起こるリスクもない濃度にする必要があります。下の表に、調製時の濃度の一般的な「目安」を示します。濃度はパーセント単位です。例えば、1.0 mg/mL は 0.10% です。温度に関する補正は行っておらず、すべて室温で調製すると想定しています。粘度計または光散乱検出器を使用した分析を行う場合は、注入する精密質量を決定する必要があることを忘れないでください。分析を高温で行う場合、これには密度補正が必要になります。表に示している濃度は、カラムあたり最大 100 μL 注入すると仮定した場合の濃度です。
分子量範囲 |
濃度範囲(体積あたりの重量)w/v |
MW > 1,000,000 |
0.007 ~ 0.02% |
500K ~ 1,000,000 |
0.02 ~ 0.07% |
100K ~ 500K |
0.07 ~ 0.10% |
50K ~ 100K |
0.10 ~ 0.13% |
10K ~ 50K |
0.13 ~ 0.16% |
< 10K |
0.16 ~ 0.20% |
選択した溶媒にスタンダードとサンプルを溶解し、GPC カラムを装着しました。これで注入を開始する準備が整いました。次に決めなければならないのは、サンプル溶液をろ過するかどうかです。ほとんどの場合、注入前にサンプル溶液をろ過する必要があります。
一般に、既に説明した溶媒のろ過と同様、0.45 μm のフルオロカーボンのメンブレンフィルターを選択します。非常に微細な粒子状物質(カーボンブラック、二酸化チタン、シリカなどの充塡剤)が含まれている場合は、0.20 μm フィルターを使ってもよいでしょう。
非常に小さなサイズのフィルターを使用する場合、ポリマーのせん断が問題となります。高分子量のポリマーを 0.20 μm フィルターでろ過するとせん断が起こり、一部分解が発生します。サンプルを全くろ過せず、システムに内蔵されたフィルターやカラムフリットがつまって圧力が上昇しないことを願う、という選択をしなければならない場合もあるかもしれません。 非常に小さなサイズのフィルターを使用する場合、ポリマーのせん断が問題となります。
これで、スタンダードとサンプルの注入を開始することができます。既に説明したように、カラムあたり最高 100 μL を表に記載された濃度で注入します。分析時間は、流速 1.0 mL/分 でカラムあたり約 15 分となるため、3 本のカラムセットの場合は約 45 分になります。 非常に小さなサイズのフィルターを使用する場合、ポリマーのせん断が問題となります。
サンプルの分析後、指定した波形解析メソッドに従ってデータ解析システムで結果が解析され、レポートが作成されます。これは Empower ソフトウェアの[分析とレポート]モードで自動的に行うことができますが、各生データファイルにアクセスして手動で各サンプルを統合することもできます。
GPC システムのキャリブレーション