GPC の室温アプリケーション

GPC の室温アプリケーション

有機溶媒可溶性ポリマーを対象とした GPC の室温アプリケーションはすべて Alliance システムで実施しました。ほとんどの分析で Styragel HR カラムを使いました。Alliance システムのソルベントマネージャーの独自のデザインにより、流量精度は 0.075% を上回り、フローにほとんどパルスが発生しません。ポンプからパルスが発生するとカラムの微粒子が緩み、クロマトグラムにスパイクが現れる原因となるため、フローにパルスがないことは光散乱検出を行う場合に非常に重要です。

キャリブレーション

キャリブレーション

すべての GPC 分析の最初のステップはシステムのキャリブレーションです。下の図は、THF を溶離液として用いて Alliance™ で得られたポリスチレンの単分散スタンダードの検量線です。分子量範囲は約 250 ~ 300 万にわたっています。カラムセットとして HR 5E(ミックスベッド)2 本と HR2(500 Å)カラム 1 本を使用しました。カラムはカラムヒーターで 40℃ に加温し、流量は 1.0 mL/分としました。検量線は 5 次多項式近似です。曲線はきれいに見えますが、留意すべき非常に興味深いこともあります。曲線には各スタンダードの 3 回の注入が示されています(3 本のバイアルからそれぞれ 1 注入)。したがって、曲線上のポイントの総数は 39 になります。(注意して見ると、複数のスタンダードに非常に小さなばらつきがあることがわかるかもしれません)。単分散スタンダードの保持時間の再現性は 0.04% 未満です。これは Alliance システムの送液の精度が優れているために得られる結果です。THF 以外の溶媒で GPC 分析を行うことが必要な場合もあります。

下の図は、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶離液として用いた、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の単分散スタンダードの検量線です。

低分子量のポリスチレンスタンダードの保持時間には一貫性がなく、溶出が予測より遅れる傾向があるため、DMF を使う場合はポリスチレンよりも PMMA を使います。ポリスチレンオリゴマースタンダード(例えば、分子量が約 700 未満)では、全容量 VT を超える保持容量が示される場合もあります。PMMA の単分散スタンダードにはこのような傾向がなく、DMF を使う分析ではこれが好まれます。ポリスチレンのキャリブレーションと同じカラムセット(HR 5E カラム 2 本と HR2 カラム 1 本)をこの分析でも使用しました。唯一の違いは、これらのカラムに DMF が封入されていたことです。濃度 0.05 M の臭化リチウムが DMF に添加されています。これは、DMF を溶離液として分析するサンプルのほとんどは極性が非常に高い傾向があるので、サンプルと溶離液の極性相互作用を防止するためです。ポリスチレンの検量線では各スタンダードを 3 回注入しましたが、この分析でも同じ操作を行ったため、検量線上のポイント数は 36 になります。この検量線は、ポリスチレンの検量線と比較して、ばらつきがさらに少なくなっているようです。なお、DMF の粘度を低下させるためにカラムを 80℃ に加温しました。

超低濃度溶液の分析

超低濃度溶液の分析

十分に特性解析されているポリスチレンのブロードスタンダード Dow 1683 を、dRI 検出器を装備した Alliance システムで THF を溶離液として使用して分析しました。濃度は 0.15%、注入は 300 µL で行いました。ブロードスタンダードを再度注入(300 µL)しましたが、2 回目の注入の濃度は 0.015%(10 分の 1)としました。下の図でこれらを比較できます。0.15% 濃度のシグナルは約 15 mV です。ベースラインノイズは 14 µV で、S/N 比は 1000:1 を上回っています。0.015% を注入した際のシグナルはわずか 1.5 mV ですが、S/N 比は 100:1 を上回っているため、簡単に波形解析できます。フローが一定で、脱気装置も組み込まれているため、超低濃度のポリマー溶液を分析できます。また、再現性のある GPC 分析に必要な S/N 比も得ることができます。このことは、超低濃度の高分子量サンプルを分析する必要がある場合に非常に重要です。このように、超低濃度のサンプルも分析でき、S/N 比を犠牲にすることなく正確な結果を得ることができます。

エラストマー分析

エラストマー分析

エラストマー(天然および合成)の分子量分布の決定は、物性と関連付けるために使われる非常に重要な分析手法です。エラストマー構造は、さまざまなポリマーが使用されていることに加えて、抗酸化剤、可塑剤、加硫剤、促進剤、およびさまざまな充塡剤(カーボンブラック、二酸化チタン、シリカなど)が添加されているため、非常に複雑です。全組成のうち、エラストマーは 50%(あるいはそれ以下)に過ぎない場合もあります。このような組成は、自動車産業や航空宇宙産業においてタイヤから O リングシールまであらゆるものに広く使用されています。GPC 分析では必ず最初にシステムをキャリブレーションする必要があります。このため、キャリブラントとしてポリブタジエンの単分散スタンダードを用いた 3 次多項式近似による検量線をここに示します。

ポリイソプレンの単分散スタンダードも使用できます。この場合も、カラムバンクとして HR 5E カラム 2 本と HR2 カラム 1 本を使い、カラム温度は 75℃ に保ちました。エラストマーの場合、通常は溶媒としてトルエンを選択します。多くの場合に THF が使われますが、天然ゴム(シス-1,4 ポリイソプレン)などの一部のエラストマーの溶解にはトルエンの方が優れている傾向があります。Alliance システムで dRI 検出器を使用しました。ポリブタジエンは分析するエラストマーの大部分と構造が似ているため、ポリブタジエンの単分散スタンダードを選択しました。複数の分析結果の分布を重ね合わせて示してあります。アプリケーションの再現性が優れていることをご確認ください。

 

以下に、これ以外のエラストマーアプリケーションをいくつか示します。

GPC によるポリカーボネート分析

GPC によるポリカーボネート分析

GPC 分析は、溶離液に THF または塩化メチレンを使用して、非常に簡単に行うことができます。当社では、条件を一部変更して分析を行い、Alliance システムの精度レベルを調べてみることにしました。ポリカーボネートを準備してミルフォードにある Alliance システムで GPC 分析を行いました。また、同じサンプルをアメリカ国外のウォーターズ施設にある Alliance システムでも分析しました。この際、カラムセットの構成を一部変更しました。以下に、2 箇所のラボで得られたデータを示します。両方の結果が見事に一致しています。

水系サンプルの GPC 分析

水系サンプルの GPC 分析

水系 GPC 分析では、ポリマーの特性解析を行う化学者が全く新しい問題に直面します。水系 GPC 分析用の最も標準的な高性能充塡剤は、カルボン酸残基を持つ親水性メタクリレートゲルから調製され、カラムケミストリーは全体として陰イオン電荷を帯びています。水溶性ポリマーの GPC 分析を行う際に一定の対策手順を行わない場合、サンプルと充塡剤の間に電荷相互作用が生じる可能性があることを認識していなければなりません。理論上は、ポリマーが中性であれば、純水を溶媒として分析できます。ポリマーが陰イオン電荷を帯びている場合に溶離液として純水を用いると、ポリマーはカラムによって排除され、ボイドボリューム時間に溶出します。逆に、ポリマーが全体的に陽イオン電荷を帯びている場合は、サンプルがカラムに吸着し、溶出しません。このようなイオン性に関する多くの問題は、0.10 M NaNO3 などの電解質を添加することで簡単に解決することができます。中性サンプルの場合も、溶離液として 0.10 M NaNO3 を使用するとよいでしょう。適切な溶離液(「水溶性ポリマーの溶媒選択ガイド」を参照)を使用することで解決する必要のある問題には、以下のようなものがあります。

  1. 分子内静電相互作用 - 高分子電解質は分子自身の電荷により膨張します。
  2. イオン排除 - サンプルの高分子電解質と充塡剤が同じ電荷を帯びている場合です(例えば、両方とも陰イオン性である場合)。
  3. イオン吸着 - 高分子電解質と充塡剤が反対の電荷を帯びている場合(陽イオンサンプルなど)、サンプルはカラムに吸着して溶出しません。pH の調節が必要になることもあります。
  4. イオン交換 - この現象は、充塡剤とサンプルが反対の電荷を帯びているイオン吸着の場合に発生します。イオン交換反応が起きると、サンプルが遅れて溶出する場合と、まったく溶出しない場合があります。
  5. 疎水性相互作用 - 高分子電解質サンプルの非イオン性部位が充塡材の非極性部位と相互作用します。この問題は、溶離液に 20% の有機性重合調整剤(アセトニトリルなど)を添加することで簡単に解決できます。

吸着や分配作用など上記以外の相互作用が起きることもありますが、上記の 5 つの問題が最もよく見られるものです。既に示した水系溶媒の選択ガイドは、特定のアプリケーションに適した溶離液を選択する上で役に立ちます。このガイドに示したアプリケーションのほぼすべてのクロマトグラムを用意しています。特定のサンプルについてサポートが必要な場合は、当社までご連絡ください。

3 つの異なる水溶性ポリマーを、示差屈折率検出器を備えた Alliance システムで分析しました。分析したポリマーは(以下のとおり)、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、およびポリアルギン酸です。複数の分析結果の分子量分布の重ね描きです。再現性が優れていることがわかります。すべての分析で、3 本の Ultrahydrogel カラム(Ultrahydrogel Linear を 2 本および Ultrahydrogel 120 を 1 本)のカラムセットを使用しました。なお、溶離液は、中性および陰イオン性の親水性ポリマーに最適な 0.10 M の硝酸ナトリウムを使用しました。

ポリエチレンオキシド(PEO)の単分散スタンダードを使用して作成した検量線であるため、表示されている分子量平均は PEO に基づいたものです。

ナイロンおよびポリエステルの GPC 分析

ナイロンおよびポリエステルの GPC 分析

ナイロンおよびポリエステルの GPC 分析では、長年にわたり 100℃ の m-クレゾールが溶媒として使用されており、実施が非常に困難という歴史がありました。m-クレゾール以外にもさまざまな溶媒が試されてきましたが、その中ではヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が優れています。HFIP にはナイロンとポリエステルが室温で溶解するという点で、m-クレゾールより優れています。欠点はコストです。HFIP のコストは 1 リットルあたり約 1,000 ドルします。このため、HFIP と溶媒効率の高いカラム(内径 4.6 mm)を使用して、これら 2 つの一般的なポリマーの GPC 分析を調査してきました。このカラム長さは 30 cm で、(従来の 7.8 mm カラムと比較して)より狭い内径により、溶媒使用量(および廃棄コスト)を大幅に削減できます。通常、流量は約 0.35 mL/分です。これは通常使用する 7.8 × 300 mm カラムを 1.0 mL/分の流量で使用した場合とほぼ同じ溶離液の線速度となります。この溶媒効率の高い HFIP カラムには、0.05 mL/分で直接 HFIP に置換できるように、メタノールが封入されています。

当社の行ったナイロンおよびポリエステルの分析では、極性相互作用を防ぐため HFIP に 0.05 M トリフルオロ酢酸ナトリウムを添加しました。特にナイロンでは、HFIP に塩を添加しないと、低分子量側にテーリングが出現します。この分析でも、dRI 検出器を備えた Alliance GPC システムを使用しました。Alliance システムのシステム容量は小さい(分散度が低い)ため、4.6 mm カラムでも優れた分離能が得られます。カラムは、HR2、HR3、および HR4 を使用しました。これらはそれぞれ 500 Å、103 Å、および 104 Å の範囲の高分離能カラムです。RI 検出器およびカラムの温度は 30℃ に保ち、PMMA の単分散スタンダードとサンプルの注入量はわずか 25 µL です。ポリスチレンは HFIP に溶解しないため、ポリ(メチルメタクリレート)の単分散スタンダードを使用します。これにより、優れた結果が得られます。

以下に、HFIP を溶離液として用いた PMMA スタンダードの 3 次多項式近似による検量線を示します(スタンダードはそれぞれ 3 回の注入)。この検量線で、スタンダードの保持時間の再現性が優れていることがわかります。

最初に分析を行ったサンプルは、以下に示すポリ(エチレンテレフタレート)(PET)およびポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)でした。

ナイロン 6/6 の 5 つの分子量分布を重ね描きした結果も示しています。ナイロン 6/6 のブロードスタンダードを使ってキャリブレーションを行ったため、ナイロンサンプルの「精密」分子量が示されています。

HFIP を溶離液として使用した最後の分析では、カテーテルの製作に使用される医療用プラスチックグレードのポリエーテル/アミド共重合体の 2 つのサンプルを対象としています。これらの 2 つのサンプルは物性も加工性も異なりますが、FTIR、熱分析、レオロジー的測定、メルトフローインデックスなどではサンプル間の違いを確認できませんでした。

それぞれの分子量分布では(ここでは 5 つを重ね合わせて示してあります)、これら 2 つのサンプルは全く同じように見えます。

しかしながら、それぞれのサンプルの 5 つの MWD の重ね描きでは、2 つのサンプル間に違いがあることが容易にわかります。Alliance システムの再現性が優れているため、これらの MWD のわずかな違いが実際に存在しており、注入間のばらつきによるものではないと確信することができます。

ELSD および PDA 検出によるポリマー混合物、共重合体、添加剤のグラジエント分析

ELSD および PDA 検出によるポリマー混合物、共重合体、添加剤のグラジエント分析
  • はじめに
  • 実験方法
  • 結果および考察
  • サマリー

要約

近年、共重合体の組成ドリフト、ポリマー混合物の組成の評価、ポリマー添加剤の分析などポリマーの分析にグラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー(GPEC)などのグラジエント HPLC を使用することに対する関心が高まっています。分析用に選択したグラジエント条件およびカラムに応じて、分子量による分離または沈殿や吸着メカニズムに基づいた分離を行うことができます。蒸発光散乱検出器(ELSD)の使用により、ユニバーサル質量検出器を併用して溶媒グラジエントを実施し、溶媒グラジエントによるベースラインの乱れを発生させることなく、UV を吸収するポリマーおよび UV を吸収しないポリマーのサンプルを観察することができます。フォトダイオードアレイ検出器(PDA)を追加することで、多くの共重合体の分子量分布にわたって組成分析を行うことができ、ポリマー混合物中の成分同定における有用な手段となります。さらに従来の逆相分離におけるポリマー添加剤およびその他の小分子の定量において有益な手段となります。

このセクションでは、ゲル浸透クロマトグラフィーで得られる結果と比較した場合の、ポリマーのグラジエント分析のメリットを示します。また、この研究を実施するために使用した装置を説明し、ポリマー混合物の分析においてこの技術を使用した例をいくつか紹介します。ポリスチレンスタンダードおよびサンプルの分離におけるカラムの機能および溶媒組成の効果を説明し、確認された最適条件を使用して様々な共重合体のモノマー組成分析を行います。最後に、同装置で従来どおりのグラジエント分離を用いて行ったさまざまな種類のポリマー添加剤の分析も紹介します。

はじめに

ポリマーの分析で最も広く使用されているクロマトグラフィー法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)です。GPC では、溶液中のポリマーサンプルのサイズまたはポリマー溶液の流体力学的容積に基づいてポリマーを分離します。図 1 は、それぞれ GPC で分析したポリスチレンサンプル、ポリスチレン-アクリロニトリル共重合体(アクリロニトリル 25%)、およびポリスチレン-ブタジエンゴム(スチレン 50%)のクロマトグラムです。これらのサンプルの分子量は異なりますが、ポリマーのピークがほぼ同じ保持時間で確認されるほど流体力学的容積が似ています。ポリスチレン、ポリスチレン-アクリロニトリル、およびポリスチレン-ブタジエンの各サンプルをそれぞれほぼ同濃度で混合したサンプルを GPC 分析して得られたクロマトグラムを図 1 に示します。このクロマトグラムを見ると、これらの 3 種類のポリマーが分離されていないことがわかります。したがって、大部分のポリマー混合物の分析に GPC が実用的でないことが証明されています。 

しかしながら、このポリマー混合物をグラジエントモードで分析すると、図 2 に示すように 3 つの成分が簡単にベースライン分離されます。図 2 は、このポリマー混合物を 2 回注入し、プロトタイプのジビニルベンゼン-ビニルピロリドンカラムを使用して、100% アセトニトリル(ACN)から 100% テトラヒドロフラン(THF)へのグラジエント(20 分間)で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。

この方法を用いて、サンプルを THF に溶解し、100% ACN が流れているクロマトグラフィーシステム中に注入します。混合物中のポリマーはアセトニトリルに溶解しないため、カラムに沈殿します。グラジエントが進行すると、混合物中のポリマーは溶解度に応じて再び溶解し、溶解ピークとしてカラムから溶出されます。このメカニズムは、グラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー(GPEC)と似ています。ポリマーの分析で使用される別のグラジエント法も文献で報告されています。このグラジエント法は、ポリマーが溶液中に溶解した状態で、吸着メカニズムにより分離される条件下で行われますが、一般的にアルコールやケトンに溶解する極性ポリマーを未修飾シリカカラムで分析する場合に使用されるため、ここでは説明しません。

実験方法

すべてのグラジエント分析は、特記しない限り以下のシステム構成を用いて実施しました。

システム:

Waters Alliance 2690 セパレーションモジュール、カラムヒーター設定 30 ℃

検出器 1:

Waters 996 フォトダイオードアレイ検出器

検出器 2:

Alltech モデル 500 ELSD、LTA アダプター付き (ドリフトチューブ設定 40 ℃、窒素 1.75 L/分)

データシステム:

Waters Millennium 32 クロマトグラフィーマネージャー

カラム:

図中に記載、30 ℃

流速:

1 mL/分

サンプル:

0.2 ~ 0.5% のサンプルを 10 ~ 25 µL 注入

グラジエント:

リニアグラジエント、条件および移動相は図中に記載

GPC で最も広く使用されている検出器は示差屈折率(RI)検出器ですが、RI は移動相の組成変化の影響を受けやすいため、グラジエントポリマー分析の検出器としては適していません。図 3 は、スチレン-アクリロニトリル共重合体(25% アクリロニトリル)の 0.5% 溶液を 25 µL 注入し、プロトタイプの DVB/ビニルピロリドンカラムを用いて 100% ACN から 100% THF までのグラジエント(20 分間)で分離し、示差屈折率検出器(RI)、フォトダイオードアレイ検出器(PDA)、および蒸発光散乱検出器(ELSD)で検出して得られたクロマトグラムです。

グラジエントで変化した移動相が RI 検出器に到達すると(約 2.5 分)、RI シグナルは測定限界を超え、完全に検出器がオーバーロードしています。PDA 検出器(または UV 検出器)の測定波長を 260 nm に設定して得られたクロマトグラムを見ると、RI 検出よりも UV 検出の方がグラジエント分析に適していることがわかります。このクロマトグラムにも移動相の変化に伴うベースラインのドリフトが見られますが、ポリマーサンプルに対する感度は良好で、ドリフトはグラジエントブランクを使ってベースラインサブトラクションを行うことで簡単に除去することができます。図 3 の 3 つ目のクロマトグラムは、ELSD を用いて得られたもので、グラジエントアプリケーションには ELSD が優れた性能を発揮することを確認できます。この検出器では検出前に溶媒が蒸発するため、基本的に移動相組成の変化の影響を受けません。この特性とポリマーサンプルに対する高い感度を備えているため、ELSD はポリマーグラジエント分析に最適な検出器です。PDA を ELSD と併用することで、ELSD で未知の物質を検出および定量し、PDA でピーク純度を計算し、未知の物質をライブラリーマッチングにより同定し、共重合体の組成分析を行うことができます。

このシステムを用いると、さまざまな種類のポリマー、ポリマー混合物、および共重合体を分析することができます。図 4 は、多種類のポリマーを Nova-Pak C18 カラムを用いて 100% ACN から 100% THF のグラジエント(30 分間)で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。分析したポリマーは、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリスチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン-イソプレンブロック共重合体、およびブチルゴムです。

この手法を使用してポリマー混合物または共重合体を分析する場合、ポリマーが組成のみで分離されるようにするためには、分離が分子量に依存しないことが必要です。残念なことに、これは主に沈殿/再溶解メカニズムであるため、分子量へのある程度の依存は避けられませんが、カラム、移動相、グラジエント条件を適切に選択することで最低限に抑えることができます。

図 5 は、ポリスチレンの単分散スタンダードを SymmetryShield C8 カラム(3.9 mm × 15 cm)を用いて 100% ACN から 100% THF までのグラジエント(10 分間)で分析して得られたクロマトグラム重ね描きしたものです。

分子量 43,900 から 2,890,000 のスタンダードは、およそ 9 分から 9.5 分の間に溶出しています。低分子量のスタンダードが先に溶出し、多くのオリゴマーが良好に分離されています。これらの低分子量スタンダードは、グラジエントの開始条件(100% ACN)で溶解するか、ほぼ溶解する(分子量 9100)ため、従来の逆相メカニズムにより分離されます。図 6 は、同じスタンダードを同条件下でプロトタイプの DVB/ビニルピロリドンカラム(3.9 mm × 15 cm)を用いて分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。

同じようなパターンが得られますが、分子量が 43,900 から 2,890,000 のスタンダードは図 5 よりもやや狭い幅で溶出されています。低分子量スタンダードの分離に多少の差は見られますが、2 つのカラムの逆相特性は異なるため、予想外なことではありません。

Nova-Pak C18 カラム(3.9 mm × 30 cm)に変更し、30 分間のグラジエントを使用したところ、図 7 のクロマトグラムが得られました。これらの条件を用いることで、分子量 43,900 以上のポリスチレンスタンダードの分子量依存性はほとんどなくなりました。ACN に溶解する低分子量のスタンダードはクロマトグラムの早い時間に溶出した点で予測どおりでしたが、低分子量オリゴマーは 3 つのピークに分かれており、異なる末端基により分離されていることがわかります。

非溶媒として使用される移動相の選択が、ポリマーのグラジエント分析での分離に大きな影響を与える可能性があります。

図 8 に、同じスタンダードについて、Nova-Pak C18 カラム(3.9 mm × 15 cm)で、100% メタノール(MeOH)から 100% THF までの 30 分でのリニアグラジエントを用いて得られたクロマトグラムの重ね描きを示します。これらの結果から、分子量 800 万のスタンダードまで、クロマトグラムの初期段階から、よく分離されたオリゴマーの分子量に明確に依存していることがわかります。これは、共重合体やポリマー混合物の分析を目的とする場合は望ましくないことです。なぜなら、保持時間の違いが組成の違いによるものなのか分子量の違いによるものなのかという判断が難しいからです。

この非溶媒効果は、幅広い分子量のポリマーサンプルを分析する際にも見られます。

図 9 は、NBS706 ポリスチレンブロードスタンダードを Nova-Pak C18 カラム(3.9 mm × 15 cm)を用いて分析して得られたクロマトグラムです。この際、非溶媒として 1 回目は ACN、2 回目は MeOH を使用し、溶媒として THF を使用したグラジエント(30 分間)を行いました。非溶媒として ACN を用いた場合は望ましいシャープなピークが得られたのに対し、MeOH を非溶媒として用いた場合には非常にブロードなピークが得られました。この研究から、THF 可溶性ポリマーに関しては、100% ACN から 100% THF グラジエントで最も良好な分離が得られることを確認できました。これらの条件から、さまざまなポリマー混合物や共重合体に使用できる頑健な方法が得られます。

グラジエント分析は、共重合体材料の評価において強力なツールです。一連のランダムスチレンブタジエンゴム(SBR)を、プロトタイプの DVB/ビニルピロリドンカラム(3.9 mm × 15 cm)で、20 分で 100% ACN から 100% THF へのグラジエントを使用して実行しました。組成が 50% のスチレンから 5.2% のスチレンまでにわたる 5 種類の SBR を、ポリスチレン単分散スタンダード(355 KMW)およびポリブタジエン単分散スタンダード(330K MW)とともに注入しました。得られたクロマトグラムを重ね描きしたものを図 10 に示します。

さまざまな SBR が、スチレンおよびブタジエンの相対量により簡単に分離されています。これらの SBR はあらかじめ、分子量依存性を無視できるのに十分な高分子量であることを確認するために従来の GPC で分析されており、ポリスチレンでの相対的キャリブレーションによりすべての SBR の分子量が約 200,000 から 300,000 の範囲にあることが確認されていました。

グラジエント分析の結果を使い、保持時間に対するスチレンの割合(%)を決定するために作成した検量線を図 11 に示します。

プロットからは、スチレンの割合(%)と保持時間の間に良好な相関関係があり、この方法を未知の SBR の近似組成を決定するのに使用できることがわかります。PDA で得られた UV データも、ELSD で得られた結果を照合確認するのに使用できます。

同様に、図 12 は、ブロックスチレン-ブタジエン共重合体を上記のランダム SBR と同様に分離して得られたクロマトグラムです。

図 13 にプロットされたデータは、上記のランダム SBR で得られたものに似た検量線です。このグラジエント法を用いて、構造上にわずかな違いしかないサンプルも簡単に分離することができます。

図 14 は、ポリメチルメタクリレート、ポリ-n-ブチルメタクリレート、ポリ-n-ヘキシルメタクリレート、およびポリ-ラウリルメタクリレートを、Nova-Pak C18 カラム(3.9 mm × 15 cm)を用いて 100% ACN から 100% THF までのグラジエント(30 分間)でそれぞれ分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。クロマトグラムからは、メタクリレート同族列の各成分がきれいに分離されており、さらに速いグラジエントでも簡単に分離が可能であることが確認できます。

図 15 のクロマトグラムは、上記のメタクリレートを混合物として注入して同一条件下で分析して得られた結果です。成分を混合して分析しても同一の分離が得られることを確認できます。

同一の条件を用いたこの方法は、低分子量化合物の分析にも使えます。図 16 は、2 つの低分子量ワックスのクロマトグラムを重ね描きしたものです。2 つのワックスは良好に分離されており、オリゴマー比がわずかに異なることを確認できます。

この方法を用いて、低分子量ポリマー添加剤を従来の逆相メカニズムで分析できます。質量分析計と互換性があるように選択した以下の条件を用いてさまざまな種類のポリマー添加剤を分析した結果を、以下に示します。

システム:

Waters Alliance 2690 セパレーションモジュール、カラムヒーター設定 30 ℃

検出器 1:

Waters 996 フォトダイオードアレイ検出器

検出器 2:

Alltech モデル 500 ELSD、LTA アダプター付き (ドリフトチューブ設定 40 ℃、窒素 1.75 L/分)

データシステム:

Waters Millennium 32 クロマトグラフィーマネージャー

カラム:

Symmetry C8、2.1 mm × 15 cm、30 ℃

流速:

0.29 mL/分

グラジエント:

3 液リニアグラジエント、30 分、H2O/ACN/THF(70/10/20 から 1/79/20)

図 17 は、ポリオレフィン樹脂で広く使用されている UV 安定剤である Tinuvin 440、Tinuvin 900、および Tinuvin 328 の分離の結果です。これらの化合物を良好な回収率でポリオレフィンから抽出するのは困難ですが、抽出してしまえばこの方法を用いて高い感度で簡単に分析することができます。

数種類のフタル酸エステル系可塑剤を分離した結果を図 18 に示します。フタル酸エステルは、PVC 樹脂の可塑剤として広く使用されていますが、発がん性の可能性があることから最近精査されるようになりました。フタル酸エステル、特にフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)は、カテーテルや点滴バッグなどの医療用具や子供の玩具などによく使用されており、患者や子供がこの発がん性の疑われる物質に高レベルで曝露されています。この方法は、これらのフタル酸化合物を分析する簡単な手段です。

図 19 は、スリップ剤のオレイン酸アミドとエルカ酸アミドおよび静電気防止剤のステアリン酸のクロマトグラムです。これらの化合物はほとんど UV 吸収がなく、UV 検出の感度は低くなりますが、蒸発光散乱検出器では簡単に検出することができます。

図 20 は、ポリオレフィンや他のポリマーで一般的に使用されている 2 つの抗酸化剤である Irganox 1076 および Irgafos 168 の分離の結果です。Irganox 1076 はヒンダードアミンで、Irgafos 168 は簡単に分解する亜リン酸化エステルです。クロマトグラムには、Irgafos 168 に対応する 2 つのピークがあります。2 つ目のピークは Irgafos 168 の主要ピークで、1 つ目のピークはサンプル中に含まれる、酸化した Irgafos 168 の不純物です。この方法は、最適化された方法としてではなく、様々な添加剤で使用できる一般的な方法として示しています。

図 21 は、広く使用されている 10 種類の抗酸化剤を、ポリオレフィン中の添加剤の分析法として承認されている ASTM メソッドの改訂版を用いて分析して得られた 12 の分離結果をを重ね描きしたものです。カラム、移動相、流量、およびグラジエント条件を最適化して、分析時間を最短に、感度を最大化することにより、10 種類の抗酸化剤を 10 分以内に分析することが可能となりました。

この方法では移動相グラジエントと流速グラジエントの両方を利用することで、再現性と感度が非常に高くなりました。分析種の検出は PDA の測定波長を 230 nm に設定して行いました。この場合、感度が非常に高いだけでなく、フォトダイオードアレイ検出器のライブラリーマッチング機能を用いてピーク同定も可能になります。この分離に用いた装置および条件を図 22 に示します。

サマリー

ポリマーの分析にグラジエント法を使用することで、基本的に分子量に依存しない分離を行うことができます。混合物に含まれるそれぞれ同じ分子量分布を持ったポリマーを簡単に分離し、共重合体をモノマー比により分離することが可能です。同じ装置を用いて最も広く使用されているポリマー添加剤を分析することも可能です。蒸発光散乱検出器は移動相のグラジエント組成の変化の影響を受けないユニバーサル検出器です。また、フォトダイオードアレイ検出器では多くの化合物を確実に同定し、共重合体の組成分析を行うことができます。これらのグラジエント法は、非常に再現性の高い技術であり、組成物成分の分離同定アプリケーションに最適です。

グラジエント HPLC(GPEC)を使用したポリマー添加剤の分析

グラジエント HPLC(GPEC)を使用したポリマー添加剤の分析

クロマトグラフィー法を用いてポリマーの特性解析を行う場合、サンプルの分析に GPC だけを用いるわけではありません。多くの場合、必要な情報を得るには、吸着クロマトグラフィーや分配クロマトグラフィーによる液体クロマトグラフィー法を用いる必要があります。

例えば、ポリマー添加剤の定量には、従来の逆相分離法や、時には順相分離法が使用されます。ポリマーサンプルの分子量分布がわかったとしても、それは特性解析プロセスの一部に過ぎません。安定性や加工性を高めるためにポリマーに添加されている添加剤はどうでしょうか?ポリマー自体よりも重要かもしれません。分解を防ぐための UV 安定剤や抗酸化剤、柔軟性を高めるための可塑剤、ポリオレフィンの静電気防止剤、難燃剤、架橋(または硬化)プロセスを促進するための促進剤などは、適切なものを使用することを考える必要があります。

当社では、ポリマー添加剤に関して広範な研究を行ってきました。すでに発表した研究の一部については、Journal of Liquid Chromatography、volume 14 #3(1991)および volume 16、#7(1993)で詳細をご覧いただけます。

ポリマー添加剤はどのように分析すればよいでしょうか?まず、何を行うかを考える必要があります。組成中に各添加剤が適切な量で含まれていることを知る必要があるのでしょうか?競合物質の「成分の分離同定」を行いたいのでしょうか?ポリマーマトリックスから添加剤パッケージを抽出する必要があるのでしょうか?これらの質問への答えは、すべて「はい」です。GPC 分析は、含まれている添加物の分析、同定、および定量には最適な方法ではありません。ほとんどの添加剤は、サイズおよび分子量が非常に似ているため、分離するには HPLC を使用する必要があります。シンプルなグラジエント手法は、オプションのフロープログラミングを併用して、短い分析時間で多くの異なる種類の添加剤を分離するのに非常に有効です。グラジエント分析は、一定時間にわたり、通常は溶出力の「弱い」溶媒から「強い」溶媒へと、溶離液(移動相の組成)を変化させて行います。この組成の変化は、大抵の添加剤分析ではリニアで行われます。クロマトグラフィー分析中は常に溶離液組成が変化しているため、示差屈折率検出器を使うことはできません。

分析対象となるポリマー添加剤の大部分は、紫外線を吸収する発色団を持っているため、UV 検出器が主に使用されます。発色団がない場合、蒸発光散乱検出器を使うこともできます。分析中に流速を変化させることもできます。通常は流速を高めて、後で溶出する成分が早く溶出するようにします。添加剤分析で通常選択されるカラムは、長さが約 15 cm のオクタデシルシラン(C18)カラムまたはオクチルシラン(C8)カラムです。一般的な抗酸化剤および UV 安定剤の 12 回の注入を重ね描きした逆相グラジエント(フロープログラム併用)分離の例を以下に示します。

グラジエント条件は非常に単純で、最初は 70% アセトニトリル/30% 水、次にわずか 5 分で 100% アセトニトリルに直線的に進めます。流速のプログラムもあり、開始時から 6 分まで 2.0 mL/分にして、その後わずか 12 秒で 3.0 mL/分まで上昇させます。データの表は、各添加剤についての優れた再現性の結果(保持時間および面積 RSD)を示しています。これは、Alliance システムのフローとサンプル送液における非常に高い再現性をさらに証明するものです。

UV 検出は、230 nm で行いました。PDA 検出器ではすべての波長(測定対象とするすべての波長)を同時に調べるため、各添加剤の UV スペクトルを得ることができます。このスペクトルをライブラリーに保存し、保存されている既知の添加剤スタンダードのライブラリーと比較することができます。このライブラリーサーチの唯一の欠点は、抗酸化剤の大部分がほぼ同じスペクトルを持つヒンダードフェノールであることです。その場合、同定は保持時間のみに基づいて行わなければなりません。別の手段として、システムに質量分析計を追加することができます。これにより、ライブラリーサーチが可能な MS スペクトルを得ることができます。

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