Waters バイオプロセスウォークアップソリューションによるバイオリアクターのプロセス内モニタリングの簡素化
要約
バイオプロセスエンジニアがウォークアップソリューションを用いることで、特性を迅速かつ容易に収集して、プロセス関連のモニタリングおよび最適化ができる方法について説明します。Waters™ バイオプロセスウォークアップソリューションを使用することで、自動化されたサンプル前処理とデータ取り込みへのシンプルな単一ポイントアクセスが可能になります。このソリューションは、バイオリアクターからのサンプル情報の管理、LC-MS サンプル分析リストの作成、自動サンプル前処理の実行、分析およびインタクトプロテインデータ解析の開始を行います。インタクトプロテインと細胞培養培地の両方について、事前定義されたワークフローを使用して、自動サンプル前処理およびデータ取り込みを単一のシステムで連続して行えるため、使いやすさが最大化され、人による操作が最小限に抑えられます。
アプリケーションのメリット
- 1 回のアクセスで自動サンプル前処理および LC-MS データ取り込みができるウォークアップシステム
- 確立された方法を用いて、インタクトプロテインおよび細胞培養培地のサンプルデータを容易に取得可能に
- インタクトプロテイン分析、細胞培養培地分析や、必要に応じてその他の多くの製品分析を含むプロセス関連および製品関連のモニタリングにおいて、質の高いデータが得られる使いやすい自動サンプル前処理と LC-MS のプラットホーム
はじめに
タンパク質生産における細胞培養や菌の接種は時間のかかるプロセスであり、通常約 2 週間かかります。栄養成分プロファイルの変化や原薬の高レベルのグリコフォームの情報など、重要なプロセス特性や製品特性をルーチンにモニターすることがますます必要になっています。フィードや代謝物の成分のモニタリングは、栄養補充のためのフィード戦略の設計や最適化、毒性代謝物生成の検出および定量に役立ち、最適な細胞増殖やバイオ生産に役立つリアクター条件を明らかにするために使用できます。プロセス内のタンパク質生成をモニターする頻度が高いほど、最も好ましい細胞培養期間の決定や収率の最適化ができるようになります。また、最も重要なこととして、原薬の質が仕様基準の範囲内に収まるようにできるようになります。これらのアッセイとテクノロジーをバイオプロセシンググループに移転することで、プロセスエンジニアはより詳細な情報に容易かつ迅速にアクセスできるようになります。一方、MS の専門家でなくてもこのテクノロジーをルーチンに適用できるようにするためには、システムを、使いやすく、情報が豊富な結果やレポートへのアウトプットが迅速に得られるようにする必要があります。以前のウォーターズアプリケーションノートで、タンパク質および培養培地の両方を分析できる自動サンプル前処理および LC-MS 分析法について公表しています1。 このテクノロジーブリーフでは、バイオプロセスラボでの LC-MS の自動化に向けての 1 ステップとして、バイオプロセスウォークアップソリューションを説明しています。OneLab™ ソフトウェアに基づくシングルユーザーインターフェースにより、サンプル入力、自動サンプル前処理、LC-MS データの取り込みおよび分析の間がシームレスにつながります(図 1)。さらに、Sartorius Ambr® 15 および 250 ハイスループットバイオリアクターのユーザーは、データインターフェースを利用してすべてのサンプル情報を自動的にアップロードし、結果を Ambr ソフトウェアに戻してさらに評価することができます。このインターフェースは、重要な製品品質特性およびプロセスの品質特性のために事前に開発された分析ワークフローと組み合わせることで、LC および MS テクノロジーに関するトレーニングや知識のない初心者のバイオプロセスエンジニアでも、アッセイを実行して質の高いデータが得られるように設計されています。
結果および考察
I. Waters バイオプロセスウォークアップソリューションの全般的な説明
バイオプロセスエンジニアがサンプル前処理および LC-MS データ取り込みを自動的に実行できることを目的とした、統合ウォークアップシステムが開発されました。Waters バイオプロセスウォークアップソリューションは OneLab ソフトウェアに基づいており、これにより、バイオプロセスエンジニアは、Andrew+™ ピペッティングロボットを使用した自動サンプル前処理と、それに続く LC-MS データの取り込みおよび解析を開始することができます。このウォークアップソリューションは、中央分析ラボが通常実施するルーチンのプロセスモニタリングの負担を軽減し、LC-MS の使用に慣れていないバイオプロセスエンジニアが、ラボで必要になった時点でこのデータを自動的に取り出せるように設計されています。このソリューションのトップレベルのフローチャートを図 2 に示します。具体的には、OneLab LC-MS インターフェースにより以下を実行します。
- 試験プロトコル(例:インタクト質量分析および/または細胞培養培地分析)を選択します。このプロトコルは、Andrew+ ピペッティングロボットを使用したサンプル前処理および BioAccord™ を使用した LC-MS 分析/レポート作成に使用するメソッドをまとめたものです。
- バイオリアクターからのサンプル情報を入力します。Ambr 15 または 250 HT システムを実行しているユーザーの場合、OneLab ファイルウォッチャーにより、サンプル情報ファイルが自動的にインポートされます。
- Continue(続行)をクリックして分析名および関連情報を入力すると、Andrew+ ピペッティングロボットを使用したサンプル前処理が開始されます(図 2C)。
- サンプルの前処理が完了すると、サンプルを BioAccord LC-MS システムに入れるように指示されます。Continue(続行)をクリックすると、BioAccord のデータ取り込みが自動的に開始されます(図 2D)。
- ユーザーは OneLab からアクセスして、インタクト質量の結果の表示および細胞培養培地のデータ取り込みのステータスを有効化します。
バックグラウンドで、OneLab インターフェースが waters_connect™ ソフトウェアとやり取りして、BioAccord 装置のコントロールおよびデータ取り込みを行います。現行の OneLab インターフェースでは、2 カラムコンパートメントカラムマネージャーでカラムを切り替えることで、1 回の実行でインタクト質量分析と培養培地分析を連続して行います。Andrew+ のサンプル前処理および BioAccord LC-MS システムを使用した LC-MS 分析法の説明は、別のアプリケーションノートに記載されています1。 サンプル前処理に必要な消耗品のサマリーリストを付録に示します。
II. インタクトプロテイン分析の結果
インタクトプロテイン分析の場合、取り込まれたデータは Intact Mass™ アプリによって自動的に解析されます。Intact Mass アプリは、生スペクトルデータを自動的に解析(MS デコンボリューション)し、タンパク質修飾(主要なグリコフォーム)の決定およびモノクローナル抗体(mAb)バイオ医薬品の分子量特定(合格/不合格)を行う、使いやすい専用のデータ解析アプリケーションです。Intact Mass アプリの詳細な説明は、以前に公表したウォーターズアプリケーションノートにあります2。 図 3 は、分析された mAb サンプルの結果の表示です。トップレベルのダッシュボード表示では、すべてのサンプルが色分けシステムによって視覚化されています。緑色は合格ステータスを示し、サンプル同定が分析メソッドで設定されている基準を満たしていることを示します。各サンプルをクリックすると、LC-MS クロマトグラム、タンパク質修飾結果テーブル、実測マススペクトル、デコンボリューションスペクトルなどのサンプルレベルの情報が表示されます(図 3 B ~ D)。データのエクスポートでは、結果は、Ambr ソフトウェアまたはその他のサードパーティ製ソフトウェアにすぐに読み込め、さらにデータの統合、表示、分析を行える形式でエクスポートされます。インキュベーション時間およびバイオリアクターの関数としての %修飾の重ね描きを示す Ambr データ表示の例が、以前に公表したアプリケーションノートに記載されています1。
III. 細胞培養培地の分析
取り込まれたデータは、細胞培養培地の栄養成分および代謝物の分析を行うために、waters_connect ソフトウェア内の UNIFI™ スクリーニングアプリケーションおよびワークフローで解析されます。このスクリーニングワークフローでは、低分子の定量分析および定性分析が行われます。この例では、プロセスモニタリングのために、試験中にサンプリングした各培地溶液について、コリンおよびその代謝物であるリン酸コリンがモニターされています(図 4)。UNIFI を使用した細胞培養培地分析の詳細な説明は、以前に公表したアプリケーションノートに記載されています3。 この分析は、その他の細胞培養成分や同定済み代謝物に容易に拡張できます。データマイニングのための追加のツール(以前に報告済み)3を活用して、多変量データ分析(MVDA)アプローチにより、培地溶液中に存在する化合物および代謝プロセスと細胞プロセスとの関係を深く理解できます。
結論
Waters バイオプロセスウォークアップソリューションは、Andrew+ ピペッティングロボットを使用した自動サンプル前処理および LC-MS データ取り込みの開始のための、シンプルで強力なインターフェースを提供します。Andrew+ ピペッティングロボットと BioAccord LC-MS システムの組み合わせにより、バイオリアクターシステムからのサンプルを迅速に解析し、最小限のユーザー操作で容易に質の高い結果を得ることができます。特長と機能は以下のとおりです。
- OneLab のシングルアクセスの使いやすいインターフェースおよび事前に開発されたワークフローにより、ウォークアップ形式でサンプル前処理と後続のデータ取り込みを開始できる
- 自動サンプル前処理およびサンプル情報の転送により、生産性を最大化し、人的ミスを最小化
- 2 カラムコンパートメントカラムマネージャーを使用したカラム切り替えにより、タンパク質のインタクト質量データと細胞培養培地データの両方を連続して取り込める
- プロセスのモニタリングと理解に役立つ、タンパク質の糖鎖プロファイリングと細胞培養培地組成のシームレスな収集
- コンパクトで使いやすい BioAccord LC-MS システムにより、優れたデータの質を実現して、より頑健なプロセスの開発を支援できる
結論として、Waters バイオプロセスウォークアップソリューションを使用することで、プロセスエンジニアは質の高いデータをルーチンで容易に取得できるようになり、プロセスのモニタリングおよび最適化に役立てることができます。
参考文献
- YW Alelyunas, C Prochaska, C Kukla, C Hanna, M Wetterhall, MD Wrona, Monitoring Intact Glycoprofiles and Spent Media Metabolites in Samples From Sartorius Ambr 250 High Throughput Bioreactor System to Support Upstream Process Development, 2023 Waters Appnote.
- H Shion, P Boyce, SJ Berger, YQ Yu, Intact Mass™ - a Versatile waters_connect™ Application for Rapid Mass Confirmation and Purity Assessment of Biotherapeutics, 2022 Waters Appnote, 720007547.
- YW Alelyunas, MD Wrona, W Chen, Monitoring Nutrients and Metabolites in Spent Cell Culture Media for Bioprocess Development Using the BioAccord LC-MS System with ACQUITY Premier, 2021 Waters Appnote, 720007359.
付録
Andrew Alliance システムでのインタクトサンプル、培地サンプル、標準試料の前処理に使用する消耗品のサマリー720008062JA、2023 年 8 月