• アプリケーションノート

RADIAN™ ASAP 押収薬物ライブラリーの迅速な更新:キシラジンの新規出現

RADIAN™ ASAP 押収薬物ライブラリーの迅速な更新:キシラジンの新規出現

  • Emily Lee
  • Jane Cooper
  • Waters Corporation

法医学目的のみに使用してください。

要約

キシラジンは、ヒトでの使用が承認されていない動物用医薬品中に使用されている非オピオイド系の鎮静鎮痛筋弛緩薬です1。 最近、キシラジンが他の乱用薬物(特にフェンタニル)と組み合わせて乱用されているという報告が増加しています2。 キシラジンが検出された致命的過量摂取の件数が増加しているという報告もあります3

以前、スペクトルデータを押収薬物のレファレンスライブラリーと照合する、RADIAN ASAP を使用した押収物質の迅速スクリーニングについて説明しました4。 また、新規化合物をレファレンスライブラリーに追加する方法についても説明しました5

今回、押収薬物のレファレンスライブラリーを拡張してキシラジンを含めることにより、薬物化学ラボが新規に出現する薬物に迅速に対応し、ルーチンスクリーニングを更新して密売、流通、使用の管理に役立てることができることについて実証します。 

アプリケーションのメリット

法医学ラボや薬物化学ラボで RADIAN ASAP を使用して、押収薬物サンプル中のキシラジンをスクリーニングできるようになります。

はじめに

近年、ヒトでの使用が承認されていない非オピオイド系の動物用鎮静剤であるキシラジンが、米国での薬物の過剰摂取による死亡の増加に関連していることが示され、他の地域でも検出され始めています3,6。 ヒトにキシラジンを使用すると、低血圧、中枢神経系機能低下、呼吸抑制、徐脈を引き起こすことがあります1。 また、皮膚潰瘍を引き起こすことも分かっており、これが切断手術などの困難な事態につながる可能性もあります3,7

キシラジンは、単独で使用されることもありますが、多剤混合物から検出されることが最も多く、混和物として、特にフェンタニルやヘロイン、コカインなどのオピオイドとともにしばしば使用されています2。 いずれも中枢神経系抑制薬であるフェンタニルやキシラジンなどのアヘン類と併用すると、致命的な薬物過剰摂取のリスクが大幅に高まります6。 フィラデルフィアでは、2010 年から 2015 年の間に、フェンタニルおよび/またはヘロインの致命的な過剰摂取の 2% においてキシラジンが検出されていましたが、2019 年にはこれが 31% に増加しました1。 したがって、キシラジンをルーチンの法中毒学および押収薬物検査に追加すべきであると提案されています1,6

最近、ウォーターズでは、RADIAN ASAP レファレンスライブラリーに新規化合物を追加する方法について記載し(図 1)、このプロセスを、イソトニタゼンを使用して説明しました5。 今回、キシラジンを分析できるようにライブラリーを拡張して、薬物化学ラボがキシラジンをルーチンにスクリーニングできるようになったことについて紹介します。

実験方法

フェンタニルおよびキシラジンの認証標準物質(CRM)は、Cayman Chemical(米国ミシガン州)または Merck(英国ドーセット州プール)から入手しました。CRM は、メタノール/アセトニトリル中の 1 mg/mL 溶液または 1 g の固形物質として提供されました。CRM は、1 mL のメタノールに溶解して、1 mg/mL の個別のストック溶液を得ました。分析の前に、CRM のストック溶液をメタノールで濃度 10 µg/mL、50 µg/mL、500 µg/mL になるように希釈しました。これらの溶液を使用して、さまざまな濃度のフェンタニルとキシラジンの混合液を調製しました。偽造 M-30 錠剤の抽出液は、サンディエゴ郡保安局管理物質課から提供を受けました。これは、約 1 mg の M-30 錠剤を 1 mL のエタノールに溶解し、続いて 20% 水系メタノールで希釈したものです。

図 1 のステップを使用して、キシラジンを含むように以前に更新したレファレンスライブラリーに対してデータを照合しました5

図 1.RADIAN ASAP レファレンスライブラリーに、新規化合物を追加して更新する手順のサマリー

フェンタニルとキシラジンの CRM 混合液および錠剤抽出液について、RADIAN ASAP で「浸漬と検出」サンプリング手順を使用して、ポジティブイオン化モードでデータを取り込み、コンティナムモードで m/z 50 ~ 600 の範囲にわたってフルスキャン MS を使用して質量検出を行いました4。 データは、4 種類のコーン電圧(15、25、35、50)で取り込み、プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンを含むスペクトルフィンガープリントを生成しました。

押収薬物のルーチン分析に使用される LiveID™ ライブラリー検索ソフトウェアにより、取り込まれたスペクトルとレファレンスライブラリースペクトルの間でスペクトルマッチが実行されます。ソフトウェアは、各コーン電圧で取り込まれたデータに対してリバースフィットモデルを使用して、平均マッチスコア(最大 1000)を計算します。サンプルが陽性と見なされるレポートのカットオフ値として、マッチスコア 850 が使用されました。

結果および考察

LiveID を更新済みライブラリーと組み合わせて使用して、データを解析しました。分析した物質には、3 種類の濃度(10 µg/mL、50 µg/mL、500 µg/mL)のキシラジンが含まれており、マッチスコアは >980(範囲 981 ~ 995)でした。図 2 に、濃度 10 µg/mL のキシラジン CRM について得られた LiveID の結果の例を示します。

図 2.10 µg/mL のキシラジン CRM の LiveID 分析。パネル A は、キシラジン標準物質の 3 回繰り返し「浸漬と検出」分析、および 3 回繰り返しの 1 回目で得られたマッチスコアが 990 であることを示しています。パネル B は、各コーン電圧で取り込んだサンプルと新規ライブラリーのスペクトルマッチの詳細を示しています。

さまざまな濃度のキシラジンとフェンタニルの混合液も分析しました。これらの混合液において、陽性同定(マッチスコアが >850)を得るのに必要な最低濃度は、キシラジンは 25 µg/mL 以上、フェンタニルは 2.5 µg/mL 以上でした。一方、フェンタニル(40 µg/mL)との混合液では、濃度 10 µg/mL でキシラジンが検出され、マッチスコアは >700 でした。図 3 に、キシラジン CRM(25 µg/mL)およびフェンタニル CRM(25 µg/mL)の混合液について得られた LiveID の結果の例を示します。

図 3.キシラジンおよびフェンタニルの CRM の混合液の LiveID 分析。パネル A は、この混合液の 3 回繰り返し分析、および 3 回繰り返しの 1 回目で得られたマッチスコア 966(キシラジン)および 975(フェンタニル)を示しています。パネル B は、キシラジンについての、取り込んだサンプルと新規ライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細を示しています。パネル C は、フェンタニルについての、取り込んだサンプルとライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細を示しています

M-30 錠剤抽出液の分析(3 回繰り返しの RADIAN ASAP 分析の平均)により、フェンタニルが平均マッチスコア 962.33、キシラジンが平均マッチスコア 781.67 で陽性同定されました(3 回繰り返しの 1 回目の分析ではキシラジンがマッチスコア 826 で検出されました)。メトデスニタゼン、パラセタモール、カフェインなどのその他の化合物も検出されました(マッチスコア >800)。この結果は、メトデスニタゼン以外、確認 LC-ToF 分析を用いて得られた M-30 錠剤の分析結果と良く一致していました8。 図 4 に、M-30 錠剤抽出液の分析について得られた LiveID の結果を示します。

図 4.M30 錠剤抽出液の LiveID 分析。パネル A は、錠剤抽出液の 3 回繰り返し分析、および 3 回繰り返しの 1 回目で得られたマッチスコア 958(フェンタニル)および 826(キシラジン)を示しています。パネル B は、フェンタニルについての、取り込んだサンプルとライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細を示しています。パネル C は、キシラジンについての、取り込んだサンプルと新規ライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細を示しています。

結論

押収薬物レファレンスライブラリーを、キシラジンのエントリーを追加して更新しました。押収薬物レファレンスライブラリーは、Waters™ Marketplace の LiveID resources(LiveID リソース)セクション(https://marketplace.waters.com/apps/170156/liveid#!resources)からダウンロードできます。

ライブラリーのこの迅速な更新により、RADIAN ASAP および LiveID を使用して、押収薬物サンプル中の新規出現した混和物であるキシラジンをスクリーニングすることができます。スクリーニングメソッドを更新したレファレンスライブラリーと組み合わせることで、多剤混合物のスクリーニングが有望になり、スクリーニングメソッドを、傾向分析や新規の薬物使用パターンに合わせて最新の状態に保つことができます。

参考文献

  1. Johnson, J et al.Increasing Presence of Xylazine in Heroin and/or Fentanyl Deaths, Philadelphia, Pennsylvania, 2010–2019.Injury Prevention 2021; 27: 395–398.
  2. Drug Enforcement Administration, Diversion Control Division, Drug and Chemical Evaluation Section, May 2023.https://www.deadiversion.usdoj.gov/drug_chem_info/Xylazine.pdf (accessed 02 June 2023).
  3. National Institutes of Health, National Institute on Drug Abuse.https://nida.nih.gov/research-topics/xylazine (accessed 02 June 2023).
  4. Wood M. RADIAN ASAP with LiveID - Fast, Specific, and Easy Drug Screening.Waters Application Note Library Number, 720007125, 2021.
  5. Lee E, Cooper J, Martin N, Wood M. Updating the RADIAN ASAP Seized Drug Reference Library.Waters White paper, 720007838, 2023.
  6. Rock, K.L et al. The First Drug-Related Death Associated with Xylazine Use in the UK and Europe.Journal of Forensic and Legal Medicine 2023; 97: 102542.
  7. Drug Enforcement Administration.Public Safety Alert, DEA Reports Widespread Threat of Fentanyl Mixed with Xylazine.https://www.dea.gov/alert/dea-reports-widespread-threat-fentanyl-mixed-xylazine (accessed 02 June 2023).
  8. Wakefield M, Salamat J, Harvey A. Screening and Confirmation Testing of a Counterfeit M30 Pill Extract Adulterated with Xylazine.Waters Application Note Library Number, 720008086, 2023.

720008012JA、2023 年 8 月

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