• アプリケーションノート

LiveID を備えた RADIAN ASAP – 高速、特異的、容易な薬物スクリーニング

LiveID を備えた RADIAN ASAP – 高速、特異的、容易な薬物スクリーニング

  • Michelle Wood
  • Waters Corporation

法医学目的のみに使用してください。

要約

押収薬物の分析は、違法薬物の使用、密売、流通の規制を目的とする国内および国際的なプログラムの有効性に、極めて重要な役割を果たします。ただし、分析用に受け取るサンプルは非常に多く、薬物管理施設や麻薬取締機関の重荷になっています。

ほとんどの法医学の薬物化学研究施設は、薬物サンプルの分析に 2 つの独立した分析手法を使用する必要があると規定している、業界ガイドラインに従います1.2。 通常のワークフローには、比色分析や TLC による推定スクリーニング分析、およびこれらに後続する GC-MS などのより選択的な分析法が含まれます。ただし、多くの薬物では、比色分析が利用できなかったり、偽陽性率が高くなったりすることがあり、TLC 分析には多くの時間がかかります。これにより、多数のサンプルに GC-MS が必要になり、その結果サンプルがボトルネックになり、分析待ちのサンプルが山積みします。結果として、薬物の迅速で正確なスクリーニングが容易になる分析法に関心が持たれます。

本試験では、大気圧固体試料分析プローブ-質量分析 (ASAP-MS) に基づく新しいコンパクトなデバイスである RADIAN ASAP を、迅速な薬物スクリーニングに使用する可能性について、詳しく検討します。薬物サンプルは、メタノールで単純希釈し、続いてガラス製キャピラリーをサンプルに「浸漬」した後、分析しました。m/z 50 ~ 600 の範囲にわたってフルスキャン MS を用いて分析されました。特異性をさらに高めるため、4 つの異なるコーン電圧(15、25、35、50 V)で分析結果を同時に取り込みました。これにより、プリカーサーイオンとプロダクトイオンの両方が生成されました。データは、LiveID 2.0 ソフトウェア(ウォーターズ製)で解析し、取り込まれたデータはスペクトルライブラリーにリアルタイムでマッチングされ、平均マッチ係数が計算されました。

アプリケーションのメリット

  • シンプルで使いやすい
  • 直接分析 – 最小限のサンプル前処理
  • 複数のコーン電圧でデータを収集し、特異性を高めた迅速な分析
  • LiveID 2.0 を使用したリアルタイムライブラリーマッチング
  • 低コストのコンパクトな装置

はじめに

世界中の規制当局が、従来の薬物および新規薬物の拡散を防ぐために常に努力しています。薬物の数、多様性、潜在的な毒性の増加は、主要な懸念事項です。これはまた、押収物質の分析に関与し、迅速に結果を出すよう重圧がかかっている法医学研究施設にとって、重要な課題をもたらしています。

押収薬物分析のための米国科学ワーキンググループ(SWGDRUG)や麻薬取締局(DEA)などから提供されている業界ガイドラインにより、薬物や化学物質に対する信頼できる科学的に裏付けられた同定を行うために必要な、検査の種類およびその最小数に関する推奨事項が提供されています1.2。 最低限、少なくとも 2 種類の独立した手法を適用することが推奨されています。一連の分析手法はその識別力によって分類され(図 1)、カテゴリー A の手法は選択性の点で最高ランクに位置付けられています。このため、カテゴリー A の手法を適用する場合、少なくとも 1 つの他の手法(カテゴリー A、B、または C から)によってサポートされる必要があります。一般に使用されるワークフローには、比色分析、FTIR、または TLC による推定スクリーニング分析に続いて、質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC-MS)を用いる確認分析が含まれます。ただし、多くの薬物では、比色分析が利用できないことや、偽陽性率が高くなることがあり、混合物の FTIR の結果が決定的でないことや、TLC 分析に長い時間が必要な場合があります。これにより、GC-MS 分析が必要なサンプルの数が多すぎて、サンプルがボトルネックになり、分析待ちのサンプルが滞ってしまいます。結果として、薬物の迅速で正確なスクリーニングを提供できる分析方法に重大な関心が集まることになります。

図 1. 装置による試験および装置によらない試験が含まれている、押収薬物の分析に適用される分析手法の例。カテゴリー A の手法は最も高い選択性を有します。カテゴリー A の手法を使用しない場合は、最低限 3 種類の試験を実施する必要があり、そのうち 2 つはカテゴリー B のものである必要があります。

質量分析は、高い特異性を提供する強力な分析ツールであると長い間考えられてきました。ただし、これまでスクリーニングとしての質量分析の採用は、薬物管理施設内ではいくつかの理由(例えば、保有コスト、装置の複雑さと専門知識の必要性、多くの場合クロマトグラフィー分離に関連する比較的長い分析時間)で限られていました。ただし、これらの分析システムは進化を続けており、最近では、大気圧固体試料分析プローブ-質量分析(ASAP-MS)のような堅牢な大気圧イオン化質量分析手法が開発されています。これにより、最小限のサンプル前処理で、時間のかかるクロマトグラフィー手法を必要とせず、サンプルを直接分析可能にします。

RADIAN ASAP は、ウォーターズの新しい省スペースシステムであり、ASAP のシンプルさと MS の特異性が組み合わされています3。認証標準物質(CRM)、医薬品/一般用(OTC)製剤、およびさまざまな音楽イベント/夜の会場で警察が押収した 60 を超える未知サンプルなど、一連のサンプルを分析しました。LiveID 2.0 ソフトウェアが、取得したデータをライブラリーと照合し、結果を一致係数として表示することで、リアルタイムに結果が得られます。確立された高分解能質量分析(HRMS)スクリーニングメソッドを、その後の確認分析に使用しました。この分析法には、15 分間のクロマトグラフィー分離と QTof 質量分析計による分析が組み込まれています4-5

実験方法

物質およびサンプルの前処理

67 種の原薬の認証標準物質は、Merck Life Science(英国 Dorset)から入手しました。医薬品および OTC 製剤は、地域の薬局から入手しました。音楽イベント/夜の会場で押収された一連の未知/被検物質は、英国の警察から提供されました。

認証標準物質は通常、メタノール(またはアセトニトリル)中 1 mg/mL の濃度で供給されました。分析の前に、個々の標準液をメタノールで希釈し、濃度 50 µg/mL の溶液を作成しました。

固形錠剤医薬品、OTC、押収された錠剤/物質を、10 mL のメタノール:水(50:50 v/v)の入ったガラス製バイアルに単に加えて、10 分間超音波処理しました。分析の前に、25 µL のアリコートを 475 µL のメタノールに加え、ボルテックスで混合しました。追加の希釈が必要な場合は、メタノールを用いて希釈しました。 

カプセル入り物質の場合、内容物をすべて取り出し、この物質 10 mg を 10 mL のメタノール:水 (50:50 v/v) の入ったガラス製バイアルに加え、超音波処理しました。分析の前に、25 µL のアリコートを 475 µL のメタノールに加え、ボルテックスで混合しました。追加の希釈が必要な場合は、メタノールを用いて希釈しました。

押収された粉末/結晶性物質の場合、材料 10 mg をメタノール:水(50:50 v/v)の入ったガラス製バイアルに加え、超音波処理しました。分析の前に、25 µL のアリコートを 475 µL のメタノールに加え、ボルテックスで混合しました。追加の希釈が必要な場合は、メタノールを用いて希釈しました。

RADIAN ASAP 分析

サンプリング手順 – 「浸漬」メソッド

各サンプルについて、新しいガラス製キャピラリーを選択し、付属の自動ベークアウト手順を使用して洗浄しました。各サンプルに「浸漬」メソッドを使用しました。つまり、洗浄したキャピラリーを、液体サンプルの液面下約 1 cm の深さで 5 秒間保持しました。その後、キャピラリーをホルダーに納めて、RADIAN ASAP ソースに挿入しました。これらの試験では、各サンプルを 3 回繰り返しで分析しました(3 サイクルの「浸漬と検出」に同じガラス製キャピラリーを使用しました)。

分析メソッド

LiveID 2.0 を用いたデータ解析

データ解析には、新しい LiveID 2.0 ライブラリーマッチングソフトウェアを使用しました。これによってリアルタイムのライブラリーマッチングやデータファイルの取り込み後解析が可能になります。LiveID を、約 50 種の一般的な原薬のスペクトルデータを収録したスターターライブラリーと組み合わせて使用しました。スペクトルマッチングでは、LiveID によってリバースフィットモデルを用いて平均一致係数(最大 1,000)が計算されます。これらの試験では、一致係数 850 がレポートのカットオフとして使用され、一致係数 900 以上を信頼性の高い検出と見なしました。

結果および考察

洗浄したガラス製キャピラリーをサンプルに浸した後、希釈サンプルを直接分析しました。サンプルホルダーをデバイスに挿入すると、データ取り込みが自動的に開始されました。

ASAP イオン化では、加熱した窒素ガスを用いてキャピラリーからサンプルを脱着し、続いてコロナ放電によってイオン化します。ASAP イオン化は、大気圧化学イオン化(APCI)プロセスに似ており、ほとんどの極性薬物に対して通常 [M+H]+ イオンが得られます。 質量検出は、m/z 50 ~ 600 の範囲にわたるフルスキャンを用いて行いました。ただし、薬物同定の特異性をさらに高めるために、4 つの異なるコーン電圧(15、25、35、50 V)で分析結果を同時に取り込みました。これにより、プリカーサーイオンとプロダクトイオンの両方が生成されました。図 2 は、MDMA 用の認証標準物質のデータを示しており、このアプローチを使用して生成される豊富な情報が示されています。

図 2. MDMA の RADIAN ASAP 分析。スペクトルフィンガープリントを生成するために 、4 つのコーン電圧でデータが収集されます。最も低いコーン電圧では通常、イオン化したプリカーサー分子が含まれます。この例では、ASAP イオン化により、m/z 194 の [M+H]+ 分子種が生成されています。

RADIAN ASAP 装置に付属している押収薬物ライブラリーは、同じ条件を使用して取り込まれているため、取り込んだスペクトルデータと用意されているライブラリーのスペクトルを比較しながら解析されます。これは、LiveID ソフトウェアを使用して、ほぼリアルタイムで自動的に行われます。平均一致係数計算値。図 3 に、ケタミンの認証標準物質について得られた LiveID データの例が示されています。

図 3. ケタミン認証標準物質の LiveID 分析。パネル A に、ケタミン標準物質の「浸漬と検出」の繰り返し分析と、最初の繰り返しで得られた一致係数 996(最大 1,000)が示されています。パネル B に、このスペクトルマッチングの詳細が表示されています。この同定プロセスでは、4 つのコーン電圧すべてが使用されています。

これらの予備試験では、2 つの脱溶媒温度(450 ℃ および 600 ℃)の影響を、20 種の代表的な薬物について認証標準物質を用いて評価しました。検出された分析種のほとんどは、いずれの温度でも(3 回のサンプリングの)平均一致係数 > 900 で、平均一致係数は一般に、いずれの温度でも互いに 5% 以内でした。3 つの分析種(メタンフェタミン、MDEA、オキサゼパム)では、高温で一致結果のわずかな改善が認められました。例えば、メタンフェタミンの平均一致係数は、600 ℃ での 994 と比較して、450 ℃ で 918 であったため、以降の分析ではより高い温度を適用しました。

RADIAN ASAP の性能を、濃度 50 µg/mL の 67 種の一般的な原薬の認証標準物質の分析によって評価しました。全体的な結果が図 4 に要約されており、優れた感度であることが示されています。分析した薬物のうち 40 種はライブラリーに存在し、そのうち 39 種は LiveID によって、最小カットオフ値 850 を超えて、正しく同定されました。これらの物質について、一致係数はすべて 877 以上でした。さらに、これらの分析の大部分(90%)では、1 種の化合物のみが提案されました。残りの分析では、2 つ目の化合物も提案されましたが、一致係数は低い値でした。例えば、ヒドロコドンの認証標準物質の分析により、ヒドロコドンとコデインの 2 つの物質(平均一致係数はそれぞれ 970 と 885)が提案されました。

図 4. 67 種の認証標準物質についての RADIAN ASAP の結果のサマリー

手法の特異性も 92.6% で優れていました。予備スクリーニングでの許容できないレベルの偽陽性の結果は、ラボの全体的な効率に悪影響を及ぼし、追加の分析手順が必要になるサンプルが増えるため、このパラメーターはラボにとって非常に重要な考慮事項です。

これらの特定の分析では、記録された偽陽性は 2 件のみでした。ただし、どちらの場合も、現行のライブラリーには該当する標準物質のデータが実際には含まれておらず、同じ薬物クラスの別の類縁物質が提案されていることがわかりました。例えば、パラメトキシアンフェタミン(PMA)の認証標準物質の分析で、アンフェタミン薬物クラスの別の物質であるメタンフェタミンが提案されました。このため、その関連データを使用してライブラリーを拡張/更新することにより、その後の同定の正確性が向上し、類縁物質よりも高い一致係数で物質が提案されるはずです。

この試験には、さまざまな音楽イベント/会場で警察によって押収された多数の医薬品/OTC 製剤および 60 種を超える未知サンプルの分析も含まれていました。全体として、LiveID を備えた RADIAN ASAP は、確立された高分解能質量分析(HRMS)スクリーニング法との、非常に良好な定性的一致が実証されました4-5。 押収薬物のスクリーニングの結果、薬物エクスタシー(MDMA)およびケタミンに対して、高い割合で陽性でした。サンプルの 1 つの RADIAN ASAP データが図 5 に示されています。この結果は、1 分以内に得られたものです。

図 5. 押収されたサンプルの 1 つの RADIAN ASAP 分析

結論

RADIAN ASAP は、小型で、堅牢で、使いやすいシステムであり、これによって迅速な薬物スクリーニングが可能になります。このシステムには、質量分析で実績のあるゴールドスタンダード技術が組み合わせられており、特異性が優れており、直接分析の簡便さが備えられています。

LiveID ソフトウェアにより、ほぼリアルタイムでデータ解析でき、解釈の容易な結果が通常 1 分以内で得られます。

RADIAN ASAP は LiveID とともに、押収薬物分析の分析ワークフローに組み込まれることへの大きな期待が寄せられており、これによって、比色分析に適さないサンプルや、比色分析や FTIR では決定的な結果が得られないサンプルの、迅速で正確なトリアージの可能性が法医学研究施設に提供されます。

参考文献

  1. Scientific Working Group for the Analysis of Seized Drugs (Recommendations) – Edition 8, 13 June 2019.https://www.swgdrug.org/approved.htm (accessed 18 Dec 2020)
  2. ASTM E2329-17: Standard Practice for Identification of Seized Drugs Oct 2017.https://www.astm.org/VIEW_ONLY/web/viewer.html?file=baqv_8121M (accessed 05 Jan 2020).
  3. RADIAN ASAP brochure 720007023.
  4. UNIFI Forensic Toxicology Screening Solution brochure 720004830
  5. Rosano TG, Wood M, Ihenetu K and Swift TA.Drug Screening in Medical Examiner Casework by High-Resolution Mass Spectrometry (UPLC-MSE-TOF).J. Anal.Toxicol. (2013) 1–14.

720007125JA、2021 年 1 月

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