マイクロバイオリアクター細胞培養培地サンプルのモノクローナル抗体サブユニットの迅速ハイスループット LC-MS スクリーニングの自動化
要約
モノクローナル抗体(mAb)は、急速に成長しているバイオ医薬品の 1 種であり、世界中の患者の QOL を大幅に向上させています。優れたモノクローナル抗体医薬品の探索と開発には、これらの薬剤の安全性と有効性に大きな影響を与える重要製品特性を迅速に測定できる高度な分析技術が必要です。そのため、クローン選抜段階および工程開発時に生産されたタンパク質をモニターするためのハイスループット分析プラットホームがますます求められています1。
宿主細胞培養での生産、大きな分子サイズ、不均一な構造により、モノクローナル抗体生産のモニタリングに多くの分析上の課題が生じます。適切なクローンを選抜するには通常、数十から数百の遺伝子導入系統の並列培養が必要であり、多数のサンプルを分析する必要があります。細胞培養条件の最適化には通常、各培養について実験ごとに少なくとも 1 回は分析を行う必要のある並列培養も必要です。これには、データの解釈が簡便で単純であることに加えて、迅速なサンプル前処理と頑健な分析装置を用いるハイスループットの分析法が必要です。自動サンプル前処理プロトコルにより、分析法の不可欠な部分として、サンプルスループットが向上し、バイオ医薬品開発における分析ワークフローの効率を向上させることができます2。
本研究では、サンプル前処理のための完全に自動化されたワークフローと、宿主細胞タンパク質を含む使用済み細胞培養培地などの複雑なサンプルから直接得たモノクローナル抗体の LC-MS 分析を説明します。この分析法には、プロテイン A を用いたモノクローナル抗体の精製ステップ、続いて FabRICATOR®(IdeS)消化、次に DTT での還元によるモノクローナル抗体サブユニット生成が含まれ、Waters™ BioAccord™ LC-MS システムを用いたハイスループット LC-MS 分析に適しています。
アプリケーションのメリット
- Andrew+™ ピペッティングロボットを使用して完全に自動化したプロテイン A および Ides 消化プロトコルを使用したモノクローナル抗体サブユニットの迅速分析
- BioAccord™ LC-MS システムと waters_connect インフォマティクスソリューション/INTACT Mass™ アプリ3 を使用したハイスループット LC-MS 分析
- BioResolve™ RP mAb Polyphenyl カラムを使用した還元サブユニットの逆相 UPLC™ 分析における、ポアサイズ 450 Å のソリッドコア粒子を用いたピーク形状と分離度の最適化
はじめに
治療用モノクローナル抗体の開発と製造には、多数の製品品質特性の詳細なモニタリングが必要です。評価される製品品質特性には、N-グリコシル化、酸化、C 末端リジンの切断、糖化などが挙げられます。最終製品を成功に導くには、多くの場合、クローンの選抜時および工程開発全体を通して多数のサンプルを分析する必要があります。これがボトルネックになり、新しい医薬品の開発が遅れたり、工程の最適化の程度が限定されたりする可能性があります。最終的には、迅速な LC-MS 分析法と、手間のかかるサンプル前処理およびサンプル分析の自動化が、このボトルネックを解消するのに役立ちます。これまで、インタクトレベルでのモノクローナル抗体分析は、迅速に最小限のサンプル前処理で行えることをすでに実証してきました4。一方、インタクトモノクローナル抗体分析では、高分解能 LC-MS 装置を使用せずに追跡できるタンパク質の特性は限られる可能性があります。
モノクローナル抗体をサブユニットの形で迅速かつハイスループットにスクリーニングすることで、バイオ医薬品の開発を強化し、全体的な質を向上させつつ製造コストを削減することができます。この試験では、モノクローナル抗体サブユニット(サイズ 23 ~ 25 kDa)を、FabRICATOR(IdeS)プロテアーゼを用いてヒンジの下の特定の部位で切断し、続いて軽鎖と重鎖の間のジスルフィド結合を DTT で還元します。サブユニットはインタクトモノクローナル抗体より均質で、質量も小さいため、比較的安価な MS 装置を使用して十分な質のスペクトルを取得することができ、同時に分析時間が大幅に短縮してデータの解釈が簡素化します。ここでは、細胞培養培地から直接採取した治療用モノクローナル抗体の精製および消化のための完全に自動化されたワークフローを紹介します。この分析法では、磁気プロテイン A ビーズを用いた精製の後に、消化/還元を組み合わせて行います。Andrew+ ピペッティングロボットを使用してサンプル前処理プロセス全体を自動化し、Waters BioAccord LC-MS システムにより分析できるサブユニットを生成しました。この試験では、モノクローナル抗体培地サンプルの小容量(20 µL ~ 100 µL)のマイクロバイオリアクターでの使用に適した手順を開発するために、(未精製培地を使用して)直接またはプロテイン A 精製済みサンプルのいずれかとして、インタクトなサブユニットレベルでの分析について評価しました5。
サンプルの説明
遺伝子導入されていないチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養培地は、Syd Labs, Inc. から調達しました。簡単に説明すると、1 日目に 6 × 106 の CHO-K1 細胞/mL をフラスコに播種し、120 mL の培養培地中で培養しました。2 日目に、フラスコから 100 mL の使用済み培地を採取し、0.2 µm フィルターでろ過しました。これを毎日、15 日目まで繰り返しました。採取した培地はすべてプールし、4 ℃ で保存しました。細胞培養プロセス全体にわたって、細胞生存率と細胞数を適宜記録しました(図 1a)。次に、採取した細胞培地にトラスツズマブ(T-mAb)を添加して 0.5 µg/µL になるようにサンプル調製し、濃度が既知の模擬培地サンプルを作成しました(図 1b–c)。この細胞培養の終盤で見られた細胞生存率が低いアリコートを模擬サンプルに含め、サンプル精製ステップにおいてより大きな問題になるようにしました。
サンプル前処理
Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、サンプル前処理の完全に自動化したワークフローを開発しました。細胞培養培地からのモノクローナル抗体は、(濃度が示されている)サンプル 100 µL を Magne® プロテイン A ビーズ(Promega、1 サンプルあたり 50 µL のスラリー)とインキュベートし、続いて Andrew+ ロボットにおいて、Magnet+ デバイスで 96 ウェルプレート型式を使用して磁気ビーズを捕獲して精製を行いました。洗浄後、精製済みモノクローナル抗体を 50 µL グリシン-HCl(2 M、pH 2.5)で 2 回溶出し(計 100 µL)、pH 7.5 の MES(100 mM)と Tris-HCl(900 mM)の組成の中和バッファー 60 µL に添加しました。
その後、20 µL の精製モノクローナル抗体のアリコート(濃度 0.5 µg/µL 未満)の各サンプルに 2 単位/µL の FabRICATOR(Ides)10 µL および 40 mM のジチオトレイトール(DTT)30 µL を加えて 37℃ で 60 分間インキュベートし、消化およびジスルフィド結合還元を行って、3 つのモノクローナル抗体サブユニット(Fc/2、軽鎖、Fd')を生成しました。Andrew+ ロボットの詳細なプロトコルは、OneLab ライブラリー(onelab.andrewalliance.com)からダウンロードできます。使用した試薬および化学物質はすべて以下の表に示されています(表 1)。
Andrew+ による自動化
Andrew+ ピペッティングロボットは、タンパク質の精製と消化のために、効率化されて完全に自動化したプロトコルが提供されます(図 2)。これに対し、他の自動リキッドハンドリング装置は半自動のプロトコルを提供する場合があり、これには同様の手順に対して 1 ~ 5 ステップの手動操作が必要になります5。
LC-MS 分析
Waters BioAccord システムで、モノクローナル抗体サブユニットの LC-MS 分析を、表 2 のパラメーターに従って、0.1% ギ酸とアセトニトリル移動相を用いた 4.5 分間の逆相 LC-MS メソッドで行いました。すべてのデータは、UNIFI v2.1.2.14 を使用して取り込みおよび解析を行いました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY™ UPLC I-Class PLUS |
検出: |
TUV 検出器 |
サンプル収集: |
twin.tec PCR プレート 96、スカート付き、緑色、Eppendorf、製品番号:951020443 |
カラム: |
BioResolve RP mAb Polyphenyl カラム 450 Å、2.7 µm、2.1 mm × 100 mm 製品番号:176004157 |
カラム温度: |
80 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
3 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
分析時間: |
4.5 分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY RDa™ |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
m/z 50 ~ 2000 |
キャピラリー電圧: |
1.50 kV |
スキャンレート: |
2 Hz |
コーン電圧: |
30 V |
ロックマス: |
waters_connect ロックマスキット(製品番号:186009298) |
データ管理
データ取り込みおよび解析ソフトウェア: |
INTACT Mass アプリを搭載した waters_connect |
結果および考察
Andrew+ ピペッティングロボットで 96 ウェルプレート型式を使用して、小容量(20 ~ 100 µL)の細胞培養培地の精製および消化のための完全に自動化したサンプル前処理を行いました。細胞培養培地などの粗サンプルからのモノクローナル抗体のアフィニティー精製は、治療用抗体の工程開発および製造における標準的な手順です。これは通常、IgG に特異的に結合するプロテイン A などのアフィニティーリガンドを使用して行います。プロテイン A による精製には、多数の平衡化と洗浄ステップが含まれ、分析に相当長い時間がかかり、面倒なプロセスになる場合があります(図 3a)。インタクトのレベルにおいて、未精製サンプルと精製サンプルの両方において同等の MS の結果が得られました。一方、プロテイン A 精製サンプルでは、製剤のバッファー中のインタクトモノクローナル抗体と非常によく似た質の高いクロマトグラムが得られました(図 3b)。
再現性と拡張性が高い、完全に自動化された 96 ウェルプレートプロトコルは、Andrew+ ピペッティングロボットにおいて細胞培養培地サンプルに対して使用するように設計されています。サンプルを Shaker+ デバイス上の磁気プロテイン A ビーズとともにインキュベートし、次に Magnet+ 装置を使用してプロテイン A ビーズの磁気捕獲を行い、フロースルー画分を除去しました。捕獲したモノクローナル抗体を含む磁気プロテイン A ビーズを洗浄し、低 pH 洗浄で精製モノクローナル抗体を溶出させました。pH を中和した後、ジスルフィド結合還元剤である DTT の存在下で FabRICATOR(Ides)を使用し、精製モノクローナル抗体サンプルを消化しました。これにより、96 ウェルプレート上に、BioAccord LC-MS システムのオートサンプラーに直接移すのに適した還元されたモノクローナル抗体サブユニットが得られました。画分の分析により、細胞培養培地からモノクローナル抗体が効果的に捕獲され、精製モノクローナル抗体が溶出されて FabRICATOR(Ides)と DTT によりサブユニットに消化されたことが実証されました(図 4)。
還元サブユニットは、BioAccord LC-MS で BioResolve RP mAb Polyphenyl カラムを使用して逆相 UPLC で分離しました。Waters モノクローナル抗体サブユニットスタンダード(製品番号: 186008927)を使用して、システムの性能評価を行いました。サブユニット分析用の RDa 検出器の質量精度は、20 ppm 未満の仕様範囲内と判定されました。精製サンプルの LC-MS 分析により、3 つのサブユニットすべてについて質の高いスペクトルが得られ(図 5 a ~ c)、Fc のグリコシル化などのさまざまな修飾の相対的定量が可能になりました。未精製細胞培養サンプルの直接 LC-MS 分析では、LC-MS 分析に適したサブユニットが得られませんでした(図 5d)。これは、未精製細胞培養培地中での非効率的な酵素反応と、宿主細胞タンパク質の存在が原因であると考えられます。
手作業と Andrew+ ロボットの両方で得られた精製済みで消化済みのモノクローナル抗体の LC-MS 分析結果は類似しており、すべての結果が対照サンプルの結果と同等でした(表2)。これらのサブユニットレベルの分析により、LC、Fd’、Fc/2 の実験結果の解釈が容易になり、モノクローナル抗体 Fc のグリコシル化に関する情報も得られました(図 6)。
結論
組換えタンパク質プロセスの開発を促進するための分析法の開発と導入には、効率的で頑健な分析が不可欠であるため、困難になる場合があります。有効な自動サンプル前処理と LC-MS スクリーニングにより、複雑な培地からモノクローナル抗体 を直接分析することで、いくつかの重要な製品品質特性を決定できることがわかりました。
この完全に自動化された精製・消化複合プロトコルにより、8 サンプルで約 2 時間、48 サンプルで 3 時間で、手作業での実行と同様の一貫した信頼性の高い結果を得ることができます。さらに、必要なサンプル量が少なく、磁気ビーズ精製ステップの拡張性が高いため、この手順は、最低 0.5 µg の限られたサンプル量から最大 10 µg までのモノクローナル抗体の前処理に導入することができます。したがって、マイクロバイオリアクターと大規模バイオリアクターの両方の設定で使用することができます。
また、waters_connect インフォマティクスソリューション/INTACT Mass アプリを備えた BioAccord LC-MS システムの使いやすさにより、自動データ取り込みおよび解析による分析の効率が向上して、モノクローナル抗体サブユニットのハイスループット質量確認が可能になります。
参考文献
- Lu, RM., Hwang, YC., Liu, IJ.et al. Development of Therapeutic Antibodies for the Treatment of Diseases.J Biomed Sci 27, 1 (2020).
- Jia Dong, et al., High-Throughput, Automated プロテイン A Purification Platform with Multiattribute LC-MS Analysis for Advanced Cell Culture Process Monitoring, Anal.Chem. 2016, 88, 8673−8679.
- Shion et al., INTACT Mass™ - a Versatile waters_connect™ Application for Rapid Mass Confirmation and Purity Assessment of Biotherapeutics, Waters Application Note 720007547, Feb 2022.
- Lindsay Morrison, et al., Direct LC-MS Characterization of Glycoform Distribution and Low Molecular Weight Impurities in mAb Process from Ambr® 15 Bioreactors, Sartorius Application Note, March 29, 2022.
- Elsa Wagner-Rousset, et al., Antibody-Drug Conjugate Model Fast Characterization by LC-MS Following Ides Proteolytic Digestion, mAbs, 6:1, 173–184.
- Kuhn, E.; Fabbami, L.; Heuvel, Z. V. D.; Murphy, S.; Jaffe, J. D.; Carr, S. A. Automation of the Multiplexed Peptide Immune-MRM-MS Workflow on Bravo AssayMAP Platform.Broad Institute, Cambridge, MA; Agilent Technologies, Santa Clara, CA.
720007615JA、2022 年 5 月