MaxPeak Premier カラムテクノロジーを使用した、変性 UPLC 条件での siRNA 医薬品の分析
要約
このアプリケーションノートでは、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムを用いて、短鎖干渉 RNA (siRNA)治療薬の候補化合物を分析する方法について説明します。二本鎖 siRNA は、二本鎖が変性して二本の相補的な一本鎖オリゴヌクレオチドになるように、高温で分析されます。このアプリケーションノートの目的は、製剤中の siRNA オリゴヌクレオチドを定量することです。ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムは、従来のステンレス製カラムハードウェアよりも核酸の分析において優れた性能を示しているため選択されました。MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY Premier カラムでは、siRNA の回収率の変動が最小限に抑えられ、一貫した定量性能が示されました。従来の ACQUITY UPLC Peptide BEH C18、300 Å カラムと比べて、オリゴヌクレオチドシグナルの再現性とキャリブレーションの直線性が大幅に改善されています。
アプリケーションのメリット
- 従来のカラムと比較して、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムでは分析の再現性が向上
- ACQUITY Premier カラムにより、金属表面およびカラムフリットへの望ましくないオリゴヌクレオチドの吸着を排除
- MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier カラムにより、カラムコンディショニングが不要に
- ステンレス製カラムでは、核酸サンプルの回収率を安定させるためのカラムコンディショニングが必要
はじめに
この 10 年間で、オリゴヌクレオチド医薬品化合物は、製薬業界において重要性を増してきました。この新しいモダリティは、広範な疾患治療能力と、オリゴヌクレオチドの製造および薬剤送達におけるテクノロジーの進歩によって登場しました。2016 年までに医薬品当局により承認されたオリゴヌクレオチドは 3 種でしたが、その後オリゴヌクレオチド医薬品の研究が大幅に増加しました1,2。 臨床試験におけるオリゴヌクレオチドの増加に伴い、これらの化合物の定量および特性解析に適した分析法が求められています。
オリゴヌクレオチド医薬品の特性解析のための分析法は、初期の開発段階から承認済み製品の品質管理に至るまで必要です。分析は、頑健で信頼性が高く、さまざまな環境において、多くの場合専門家以外の分析者が実行できるような簡単なものである必要があります。siRNA 分析は非常に複雑であるため、この要件を満たすことは困難になります。
siRNA 医薬品は二本鎖型で投与され、化学修飾された 2 本の相補的オリゴヌクレオチドで構成されています。通常、siRNA は変性 LC 条件下で 2 本のオリゴヌクレオチドを変性して一本鎖と呼ばれる 2 つの独立した分子として分析します。一方、二本鎖に過剰な望ましくない一本鎖オリゴヌクレオチド分子種が混入していないことを確認する場合は、siRNA を非変性条件下でインタクトな二本鎖として分析します。
このアプリケーションノートでは、変性条件下で使用するイオン対逆相液体クロマトグラフィー(IP-RP LC)について説明します。二本鎖 siRNA の融解は、カラム温度を上昇させて行い、これによって二本鎖 siRNA 構造が対応する一本鎖オリゴヌクレオチドに完全に解離できるようにします。製薬業界において、変性 IP-RP LC は、オリゴヌクレオチドの LC-UV および LC-MS 分析において好まれる分析法です。IP-RP LC 分析法は、MS 分析との適合性があるため、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)医薬品および siRNA 医薬品の化合物の高感度分析に適しています。
分析法開発の最初のステップにおいて、複数の BEH 18 カラムの長さとポアサイズ(130 Å または 300 Å)を評価しました。複数のカラム設定で十分な分離が得られましたが、対象の siRNA サンプルについて最高の分離の選択性と分離能が得られたのは、2.1 mm × 150 mm の ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムでした。
実験方法
サンプル調製
Milli-Q 水に二本鎖 siRNA C を溶解して、0.40 mg/mL 溶液を調製しました。この濃度には、100% 標準溶液「二本鎖 C」というラベルを付けています。検量線を作成するには、200% 溶液を調製し、この溶液を希釈して残りの濃度(130%、100%、70%、8%、4%、2%、0.2%)を調製しました。別の siRNA 配列の追加のサンプルを 1 つ、対応する質量の siRNA を Milli-Q 水に溶解して、0.40 mg/mL の分析法開発用溶液を調製しました。このサンプルには、「二本鎖 A」および「二本鎖 B」の 100% 溶液とラベル付けしました。
装置
ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システムは、クオータナリーソルベントマネージャー QSM、カラムヒーターモジュール CM-A、アクティブカラムプレヒーター APH、フロースルーニードルサンプルマネージャー FTN SM、チタン製セルを備えたフォトダイオードアレイ検出器 PDA で構成されています。
データ管理
サンプルの波形解析と定量は、Empower 3.0 ソフトウェアで行いました。
分析条件
カラム 1: |
ACQUITY UPLC Peptide BEH C18 カラム、300 Å、1.7 μm、2.1 mm × 150 mm(製品番号:186003687) |
カラム 2: |
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラム、300 Å、1.7 µm、2.1 mm × 150 mm(製品番号:186010541) |
移動相: |
移動相 1:0.07%(v/v)TEA および 0.60% v/v HFIP 含有 Milli-Q 水(5 mM TEA、60 mM HFIP 水溶液) 移動相 2:70/30% v/v メタノール/アセトニトリル 移動相 3:移動相 1 と 2 の 85/15%(v/v)混合液 移動相 4:移動相 1 と 2 の 30/70%(v/v)混合液 |
カラム温度: |
75 ℃ |
検出(UV): |
260 nm PDA、5 mm のチタン製検出器セル |
注入量: |
3 μL |
グラジエント
データ処理と分析
ピーク面積を計算するために、260 nm での UV クロマトグラムから、すべての主要なピークの面積(約 15.9 分 + 17.5 分のグループ)を合計しました。合計ピーク面積を表 1 ~ 4 に示します。波形解析の例については、図 2 を参照してください。
結果および考察
従来の ACQUITY UPLC Peptide BEH C18、300 Å カラムでのオリゴヌクレオチド分析
最初の実験では、siRNA の分析について ACQUITY UPLC Peptide BEH C18、300 Å カラムを評価しています。事前のコンディショニングを行っていない新しいカラムにサンプルを注入しました。図 1 に、変性 IP-RP LC 分析法を用いた、二本鎖 C の最初の 5 回の注入の結果を示します。15.9 分および 17.5 分付近のシグナルは、二本鎖 siRNA C の変性によって生成する一本鎖オリゴヌクレオチドであることに注意してください。オリゴヌクレオチドには 1 つ以上のホスホロチオエート結合が含まれているため、ジアステレオマーの存在によって追加のピークに分離します。
図 1 から、最初の方の注入の UV 面積が予想よりも低く、後の方の注入ではシグナルが増大していることが分かります。この観察結果は、文献(3–7)に記載されている現象と一致しています。簡単に説明すると、酸性オリゴヌクレオチドが、イオン性相互作用によってカラムの金属表面(主にフリット)に吸着されます。その結果、サンプルの回収が不完全になります。繰り返し注入を行うと、イオンが吸着可能な部位が飽和し、サンプル回収率が改善します。この現象は「サンプルコンディショニング」と呼ばれます。
二本鎖 C の最初の 5 回の注入面積を表 1 に記載しています。従来のステンレス製カラムでは、繰り返しのサンプル注入やその他のコンディショニングプロトコルでコンディショニングすることで、一貫したオリゴヌクレオチドの回収を得ることが可能ですが、金属製カラム表面への酸性サンプルのイオン性吸着により、分析法開発およびサンプル定量が複雑になります。そのため、金属製ハードウェアをハイブリッドシリカ層で修飾した ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å のカラムに切り替えました。メーカーによると、この修飾により、カラムハードウェアへのオリゴヌクレオチドの望ましくない吸着が排除されます。
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å カラムでのオリゴヌクレオチド分析
図 2 に、前のセクションの説明と同じ LC 条件下で同じサンプル(二本鎖 C)を 4 回注入した例を示します。サンプル分析は、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムを使用して実施しました。このカラムには図 1 で使用した従来のカラムと同じ吸着剤を充塡しているため、オリゴヌクレオチドの保持と分離は同様になることが予想されます。予想どおり、ACQUITY Premier カラムでは、4 回の注入すべてにおいて一貫した回収率が見られます(ピーク面積は表 2 に記載)。シグナルの変動が非常に小さいため、図 2 の 4 つのクロマトグラムにはほとんど違いがありません。結果からは、ACQUITY Premier カラムでは検出可能なサンプルの損失が認められないことが示唆されています。そのため、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムを選択し、siRNA 分析法開発をさらに進めました。
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å カラムで得られた二本鎖オリゴヌクレオチドの直線性、回収率、再現性、および正確度
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムで開発した分析法をさらに適格性評価して、siRNA の純度分析に適しているかどうかを評価しました。試験したパラメーターは、品質管理アプリケーションに必要な濃度レベルでの検量線の直線性、分析種の回収率、定量精度でした。二本鎖 C の必要な濃度範囲での正確度と回収率のデータを表 3 に記載します。すべての結果は十分、許容基準の範囲内に入っています。
*データの正規化には 100% 標準溶液の値を使用しました。
最低公称濃度 0.20 の二本鎖 C の相対回収率は、事前のコンディショニングなしでの最初の注入では 99.88% で、表 3 に記載したすべての公称標準試料を注入した後、公称濃度 100% での対照標準溶液の回収率は 100.07% でした。このような数値は、オリゴヌクレオチド化合物においては極めて良好であり、サンプルキャリーオーバーの影響が最小限であることを示しています。キャリーオーバーについては別の試験でより詳細に調査しました。結果は別のアプリケーションノートに記載しています8。
二本鎖 C の 0.20% 溶液の 3 回繰り返し注入と 100% 溶液の 5 回繰り返し注入の %相対標準偏差のデータを表 4 に示します。結果は十分許容基準内に収まり(公称濃度 0.20% の 3 回繰り返し注入で RSD ≤ 15.0%、公称濃度 100% の 5 回繰り返し注入で RSD ≤ 2.0%)。
次の試験では、2 種の siRNA 分子の混合物(二本鎖 A + 二本鎖 B)被験分析種として定量の直線性を評価しました。ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å、および ACQUITY Peptide BEH C18、300 Å カラムの両方を使用して、直線性を評価しました(図 3 を参照)。
検量線の線形回帰では、両方のカラムで許容範囲内の相関係数が得られましたが(それぞれ 0.9977 および 0.9995)、従来のステンレス製カラムの公称濃度 0.2% および 1.0% でのシグナルは 0 に等しくなります。非特異的吸着があるため、低濃度でのサンプルの損失が顕著になり、検量線のダイナミックレンジの低下につながっています。つまり、低公称濃度においては、従来のカラムではオリゴヌクレオチドを確実に定量することができません。ACQUITY Premier カラムにおいては若干の直線性の低下が認められました。回収率の値を表 5 に示します。この軽度のサンプル損失は、UPLC システムに存在する金属吸着部位(ニードル、チューブ、検出器セル)に関連しています。
結論
イオン対逆相変性 LC 分析法は、siRNA の分析および品質管理に適しています。変性オリゴヌクレオチドを一本鎖の形で分離および定量しました。ハイブリッドシリカ層で修飾した MaxPeak 高性能表面カラムハードウェアを採用した ACQUITY Premier カラムは、同じ吸着剤を充塡した従来のステンレス製カラムと比較して、オリゴヌクレオチドサンプルの回収率が優れています。ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムは、siRNA の頑健な分析に適しており、時間がかかるカラムコンディショニングや品質面での妥協を回避できます。ACQUITY Premier カラムは、定量結果の正確性に対する信頼性が高く、回収率、再現性、直線性という適格性評価のパラメーターの品質要件を満たす性能を示しています。
参考文献
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謝辞
Janssen Pharmaceutical Companies of Johnson & Johnson 社の Irene Suarez Marina、Willy Verluyten、J-P Boon、およびウォーターズコーポレーションの Mario Hellings、Evelien Dejaegere、Leslie Napoletano、Martin Gilar。
720007362JA、2023 年 2 月 改訂