• アプリケーションノート

MaxPeak Premier カラムテクノロジーを使用した、非変性 UPLC 条件での二本鎖 siRNA の分析

MaxPeak Premier カラムテクノロジーを使用した、非変性 UPLC 条件での二本鎖 siRNA の分析

  • Pratheeba Yogendrarajah
  • Willy Verluyten
  • Evelien Dejaegere
  • Leslie Napoletano
  • Jean-Paul Boon
  • Mario Hellings
  • Martin Gilar
  • Analytical Development, Janssen Pharmaceutical Companies of Johnson & Johnson
  • Waters Corporation

要約

ウォーターズでは、Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムを搭載した Waters ACQUITY UPLC H-Class システムの、非変性条件下での 2 種のサイレンシング RNA または短鎖干渉 RNA(siRNA)混合物の分析への適用について検討しました。インタクト二本鎖とその一本鎖オリゴヌクレオチド混入物を分離して定量することを目的として、2 種の二本鎖 siRNA からなる製剤を分析しました。ウォーターズでは、治療薬の特性解析用に UV 検出を用いたイオン対逆相(IP-RP)UPLC 分析法を開発しました。このカラムを非変性条件(カラム温度 20 ℃)で使用することで、siRNA 分子種を二本鎖型に維持し、一本鎖オリゴヌクレオチドから優れたクロマトグラフィー分離を達成しました。MaxPeak Premier カラムテクノロジーにより、siRNA 分析において良好なサンプル回収率、分離の選択性、定量の再現性、および直線性が得られます。

アプリケーションのメリット

  • Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムにより、二本鎖 siRNA を正確かつ高い再現性で分離
  • ACQUITY Premier カラムにより、金属表面およびカラムフリットへの望ましくないオリゴヌクレオチドの吸着を排除オンカラムの分解および大きなキャリーオーバーを回避
  • 二本鎖 siRNA のクロマトグラフィー分離により、個々の分子種の確実な同定および定量が可能製剤中の二本鎖のモル比が得られ、二本鎖の不純物/変異体の正確な定量が実現
  • 過剰な一本鎖オリゴヌクレオチドの正確な測定を達成

はじめに

オリゴヌクレオチドおよび二本鎖 siRNA は、成長中の核酸ベースの治療用化合物のクラスに属しています1,2。 IP-RP LC 分析法は、LC-UV および LC-MS の設定におけるこれらの新しいモダリティの高感度分析に適しています。siRNA 分子は、in vivo でのタンパク質発現調節能を有する短い(約 20 ~ 25 塩基対)化学修飾二本鎖 RNA です。siRNA は、変性条件で二本鎖が 2 本の相補的なオリゴヌクレオチドになっても3、非変性状態でインタクトな二本鎖としても分析できます4。後者の分析法は、例えば二本鎖 siRNA 製剤中における過剰な一本鎖オリゴヌクレオチドの推定が望まれる場合などに使用します。非変性 IP-RP LC 分析は、オリゴヌクレオチド合成に続くアニーリング手順の最適化において重要な役割を果たします。このアプリケーションノートでは、2 種の二本鎖 siRNA からなる製剤の分析について説明します。製剤の安全性と有効性においては、複雑な混合物の定量的測定と特性解析が最も重要です。複雑な分析におけるサンプル成分の解釈には、MS 検出器を備えた IP-RP LC が重要です。

実験方法

サンプル調製

サンプルのレファレンス溶液は脱塩水中に調製しました。2 種の二本鎖 siRNA のレファレンス溶液は濃度 2.0 mg/mL で調製しました。これが 100% の標準溶液になります。レファレンス溶液の 70%、100%、130% の濃度(高レベル)、および 0.2%、2.0%、4.0%、6.0% の濃度(低レベル)で、関連するレファレンス溶液を調製しました。製剤を脱塩水中に溶解して、公称濃度 2.0 mg/mL にしました。濃度 0.10 mg/mL の個々の一本鎖オリゴヌクレオチド標準試料および個々の二本鎖 siRNA(「二本鎖 1」および「二本鎖 2」)を脱塩水中に調製し、分離選択性試験に使用しました。 

装置

ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システムは、クオータナリーソルベントマネージャー QSM、カラムヒーターモジュール CM-A、アクティブカラムプレヒーター APH、フロースルーニードルサンプルマネージャー FTN SM、分析用フローセルを備えたフォトダイオードアレイ検出器 PDA で構成されています。HFIP 溶媒が適切に機能するように、QSM ポンプには THF/ヘキサン適合チェックバルブ(製品番号:700005273)を使用することを推奨します。カラムマネージャーのプレヒーター機能は有効にしています。サンプルマネージャー(SM)洗浄溶媒はメタノールで、SM のパージ溶媒およびシール洗浄溶媒には水/アセトニトリル(90/10、v/v)を使用しました。 

データ管理

サンプルの波形解析と定量は、Empower v3.0 ソフトウェアを用いて行いました。

分析条件

カラム:Oligonucleotide BEH C18 カラム、300 Å(製品番号:186010541)。保管後のカラムで二本鎖について信頼性の高い分離能を確保するために、流速 0.30 mL/分のアセトニトリル/水/ギ酸(90/10/0.1、v/v)で、カラム温度 50 ℃ でカラムを 2 時間以上洗浄しました。

移動相 A:0.2% ヘキシルアミン(HA)および 0.5% 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液(v/v)含有 Milli-Q 水(濃度は 15 mM HA および 47.5 mM HFIP 水溶液に対応)。移動相 A を調製するには、500 mL の水を 1,000 mL のメスフラスコに移し、ピペットを用いて HFIP を 5.0 mL 加え、さらに 2.0 mL の HA を加えます。アミンが溶解するよう、マグネチックスターラーで十分混合します。残りの 493 mL の水を加えて計 1,000 mL にし、十分混合します。

移動相 B:80% メタノール/20% アセトニトリル(v/v)。移動相 B を調製するには、800 mL のメタノールと 200 mL のアセトニトリルを混合します。使用前に十分混合します。

カラム温度:

20 ℃

オートサンプラー温度:

10 ℃

流速:

0.15 mL/分

検出:

UV 260 nm、サンプリングレート 5 ポイント/秒

注入量:

6 μL

プログラムしたリニアグラジエントを表 1 に記載します。

グラジエント

データ処理と分析

ピーク面積推定の例を図 1 に示します。ピーク面積は、クロマトグラムの二本鎖 1 のエリア(ピークの溶出時間約 21.19 分)と二本鎖 2 のエリア(ピークの溶出時間約 23.34 分)のピーク面積を合計して算出しました。合計ピーク面積を、分析法の適格性評価に使用しました(表 2 を参照)。

図 1.非変性 IP-RP LC によるレファレンス溶液、2 種の二本鎖 siRNA の混合液の分析。siRNA 分子種は二本鎖型として溶出します。二本鎖 1 と二本鎖 2 が複数のピークに分かれるのは、親オリゴヌクレオチドにジアステレオマーが存在するためです。 

分析法による定量結果のサマリー

表 2.IP-RP LC 分析法による二本鎖 siRNA の分析結果

結果および考察

LC での非特異的 siRNA 損失への対処

オリゴヌクレオチドや二本鎖核酸は、正電荷を持つ金属表面に対して高い親和性を示すことが報告されています5-9。 ウォーターズのラボで従来の ACQUITY UPLC Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムを使用した場合、あるいはステンレス材質で構築した一般的なカラムを使用した場合、オリゴヌクレオチドのサンプル損失が観察されました3,6,7。 最近の報告では、サンプル損失は主に LC カラムの構造中に使用されているステンレス(および未修飾チタン)製のフリットで発生していることが示されています。これは、フリットにはサンプル吸着が起こりうる表面積が大きいためです6。サンプル損失は、低濃度の酸性サンプル(核酸など)で最も顕著にみられます。サンプル損失を軽減するために、MaxPeak Premier カラムテクノロジーをベースにした新しいカラムテクノロジーが開発されました。このテクノロジーでは、ハイブリッドシリカを用いて、カラムハードウェア(または LC システム)内での望ましくないサンプル吸着を低減します5,8,9。 ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å カラムを用いた実験では、複数のベンダーの従来のカラムと比較してサンプル回収率が向上することが分かったため、このカラムを用いてさらなる分析法開発を行うことにしました3

一本鎖オリゴヌクレオチド不純物からの二本鎖 siRNA の分離

図 2 に、一本鎖オリゴヌクレオチドと 2 種の二本鎖 siRNA の分離のために開発され、最適化した分析法(「実験方法」を参照)を示します。一般に、DNA や RNA の二本鎖分子種の方が、一本鎖オリゴヌクレオチドよりも、IP-RP LC でより強く保持されます4。 一本鎖分子種はクロマトグラムの初期に溶出し、二本鎖から十分に分離されます。ただし、今回の分離タスクでは、製剤中に 2 種の異なる二本鎖 siRNA が存在することにより複雑化しています。二本鎖 1 と二本鎖 2 の分離は困難であることが判明しました。150 × 2.1mm の長い ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムに 1.7 µm の吸着剤を充塡することで、試験したカラムすべてにおいて最適な分離が得られました。二本鎖 1 および 2(図 2 の茶色と濃い青色のクロマトグラムを参照)は、部分的に複数のピークに分かれていることに注意してください。二本鎖 siRNA 溶出領域範囲内のすべてのピークに、予想質量が付けられています。この分離は明らかに、二本鎖分子種に存在する光学異性体(ジアステレオマー)の存在によるものです10,11。 親の一本鎖オリゴヌクレオチドには分子内ヌクレオチドホスホロチオエート結合が含まれていて、光学異性体が生じます。ジアステレオマーの存在による「ピークの拡がり」は一本鎖分子種にも見られ、二本鎖 2 のアンチセンス鎖のピークで最も顕著です。

図 2.一本鎖および二本鎖 siRNA 成分の IP-RP LC での保持試験

siRNA のキャリーオーバー試験

金属製 LC ハードウェアおよび標準的なステンレス製カラムへのサンプルの吸着は、核酸の LC 分析におけるサンプルのキャリーオーバー増加の原因になると疑われます6。 ウォーターズでは、最適化した分析法を用いて、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムでのサンプルキャリーオーバーを評価しました。図 3 は、ブランクのクロマトグラムには大きなシステムピークが含まれていないことが示されています。また、グラジエントプログラムによるわずかなベースラインドリフトが認められます。次に、比較のために 0.2% の定量限界標準試料(LOQ サンプルレベル)を注入しました。許容キャリーオーバーは LOQ サンプルのシグナルよりも大幅に低くなることが求められます。続いて、100% のサンプル標準試料を注入しました(データは示していません)。主要な siRNA シグナルのレスポンスはそれぞれ 1.2 AU と 0.6 AU です(図 2 の赤色のクロマトグラムを参照)。続いてもう一度ブランク注入を行いました(図 3 の赤色のクロマトグラム)。図 3 から、キャリーオーバーがノイズレベルを下回っていることが分かります。この結果から、キャリーオーバーによって定量結果が損なわれていないことが確認されます。

図 3.IP-RP LC でのキャリーオーバー試験 

結論

イオン対逆相非変性 IP-RP LC 分析法は、二本鎖 siRNA から一本鎖の不純物を分離するのに適しています。最適化したイオン対システムにより、製剤に存在する 2 種の二本鎖 siRNA の分離と特性解析が可能になりました。移動相は MS 検出に適合しており、分子量に応じて溶出する分子種を確認できました。ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムは、品質面での妥協やキャリーオーバーが生じることなく、二本鎖 siRNA の頑健な定量を行うのに適していることが実証されました。ACQUITY Premier カラムは、定量の正確性に対する信頼性が高く、回収率、再現性、直線性という適格性評価のパラメーターの品質要件を満たす性能を示しています。

参考文献

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  3. I. Suarez Marina, W. Verluyten, E. Dejaegere, L. Napoletano, M. Gilar, J-P. Boon, M. Hellings (2021).Analysis of siRNA Drugs at Denaturing UPLC Conditions Using MaxPeak Premier Column Technology.Waters Application Note, 720007362EN, 2021.
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  11. M. Gilar, K. J. Fountain, Y. Budman, J. L. Holyoke, H. Davoudi, J. C. Gebler.(2003).Characterization of Therapeutic Oligonucleotides Using Liquid Chromatography with On-line Mass Spectrometry Detection.Oligonucleotides.13: 229–243.

謝辞

Pratheeba Yogendrarajah, Willy Verluyten, Jean-Paul Boon, Mario Hellings - Analytical Development, Janssen Pharmaceutical Companies of Johnson & Johnson

Evelien Dejaegere, Leslie Napoletano, Martin Gilar - Waters Corporation

720007361JA、2021 年 9 月

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