注入量の増加に伴うピーク形状の変化

注入量の増加に伴うピーク形状の変化

注入量の増加に伴うピーク形状の変化

注入量の増加に伴うピーク形状の変化

このシリーズですでに説明したように、ピーク形状の変化は HPLC 分析における一般的な問題です。ピークは、理想的には、左右対称でガウス形状をしている必要があります [D. R. Stoll, LC-GC N. Am.39 (2021), pp.353–362]。ピークの対称性は、図 1 に示すように、USP テーリング係数(T)を計算することで定量できます。テーリング係数 1 は完全な対称性を示し、値が 1 より小さい場合はフロンティング、1 より大きい場合はテーリングと呼ばれます。多くの分析法では、すべてのピークのテーリング係数が指定範囲内である必要があります。テーリング係数が 1 から大きく外れると、近接して溶出するピークの分離度が低下し、波形解析が困難になる場合があります [D. R. Stoll, LC-GC N. Am.39 (2021), pp.353–362]。また、ピークの対称性が悪いと、多くの場合ピークが本来より幅広くなり、ピーク高さが低下します。低濃度の分析種を検出および定量するアプリケーションでは、これによって、結果の精度が低下するだけでなく、定量限界および検出限界も悪影響を受ける場合があります。

図 1.  USP テーリング係数の計算。W0.05 はピーク高さの 5% の位置で測ったピーク幅で、f はピークの前半部の幅です。

低濃度の分析種を定量する分析法を開発する場合の重要なステップとして、注入量の最適化が挙げられます。理想的には、ピーク高さとピーク面積は、サンプル組成を固定した場合、質量、ボリューム、または検出器のオーバーロードが発生し始めるまで、注入量の増加とともに直線的に増加します [U. D. Neue, HPLC Columns: Theory, Technology, and Practice, Wiley-VCH, New York, 1997, pp.355–356]。図 2A の例では、濃度がそれぞれ 0.2 µg/mL の 6 種の分析種の混合物を、5 ~ 95% のアセトニトリルグラジエントを使用して分離しています。2.1 × 50 mm のカラムで 2 µL の注入量を使用しているため、注入量はカラム容量の 1.1% でした。一般的なガイダンスでは、注入量はカラム容量の 1 ~ 10% である必要があることから [ウォーターズのナレッジベース 48961]、注入量を増やしてシグナル対ノイズ比を高める余地があるように思われました。注入量を 4 µL に増やすと、図 2B に示したクロマトグラムが得られました。6 本のピークすべての面積が 2 倍に増加しましたが、最初の 2 本のピークは、予想通り高さが増加せず、幅が広くなってフロンティングが目立ちました。

図 2.  50/50(v/v)アセトニトリル/水中に調製したサンプルの 2 µL 注入(A)および 4 µL 注入(B)と、10/90(v/v)アセトニトリル/水中に調製したサンプルの 4 µL 注入(C)で得られた分離を比較するクロマトグラム。

USP テーリング係数

ピーク

A

B

分離度

1

0.84

0.71

1.07

2

1.27

0.72

1.29

3

0.93

1.09

1.33

4

1.03

1.22

1.41

5

1.3

1.35

1.26

6

1.15

1.25

1.32

最初の 2 つのパートで説明したように、ピークの対称性の変化には、HPLC システム、移動相、サンプル、カラムの問題など、いくつかの原因が考えられます [J. W. Dolan and L. R. Snyder, Troubleshooting LC Systems, Springer Science+Business Media, New York, 1989, pp.385–420]。以前説明したように、トラブルシューティングの良い出発点は、クロマトグラムを注意深く分析して、ピーク形状の変化がすべてのピークで見られるか、あるいは一部のピークのみで見られるかを観察することです。図 2B のように、クロマトグラムの一部のピークのみにフロンティングピークが見られる場合は、干渉化合物の共溶出、質量オーバーロード、強すぎるサンプル溶媒の使用が考えられます。この問題は注入量を増やした後に観察され、分析種の濃度が低かったことから、最後の要因が原因である可能性が最も高いように思われます。図 2A および 2B に示すクロマトグラムで使用したサンプル溶媒は 50/50(v/v)アセトニトリル/水でした。これを選んだのは、一部の分析種の水への溶解度が低いためです。このグラジエントはアセトニトリル濃度わずか 5% で開始することから、このサンプル溶媒は初期移動相よりもかなり強いことになります。最初に溶出する分析種は、疎水性が最も低いため、強サンプル溶媒の影響を最も強く受けます。この仮説を検証するため、分析種の濃度が同じでアセトニトリル/水の比が異なる一連のサンプルを調製しました。最初の 2 本のピークのテーリング係数の結果を図 3 に示します。いずれの分析種のテーリング係数も、アセトニトリル濃度が増加すると減少します。このことは、強サンプル溶媒の使用が、図 2B に見られるフロンティングピークの原因であることを示しています。この問題を回避し、同時に最も疎水性の高い分析種が確実に溶解するように、アセトニトリル濃度 10% を選択しました。10/90(v/v)アセトニトリル/水に溶解したサンプル 4 µL を注入して得られた結果のクロマトグラムを図 2C に示します。すべてのピークが、2 µL の注入と比較して、予想通り 2 倍の高さ向上を示し、ピークの対称性も良好です。注入量を最適化する際は、初期移動相組成に対するサンプル溶媒の強度を常に考慮する必要があります。

図 3.  4 µL 注入を用いた場合の、最初の 2 本のピークにおける、サンプル溶媒中のアセトニトリルの割合(%)に対する USP テーリング係数のプロット。

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