このシリーズですでに説明したように、ピーク形状の変化は HPLC 分析における一般的な問題です。ピークは、理想的には、左右対称でガウス形状をしている必要があります [D. R. Stoll, LC-GC N. Am.39 (2021), pp.353–362]。ピークの対称性は、図 1 に示すように、USP テーリング係数(T)を計算することで定量できます。テーリング係数 1 は完全な対称性を示し、値が 1 より小さい場合はフロンティング、1 より大きい場合はテーリングと呼ばれます。多くの分析法では、すべてのピークのテーリング係数が指定範囲内である必要があります。テーリング係数が 1 から大きく外れると、近接して溶出するピークの分離度が低下し、波形解析が困難になる場合があります [D. R. Stoll, LC-GC N. Am.39 (2021), pp.353–362]。
以前に使用していたカラムで確立した分析法を実行するためにセットアップする場合は、適合性試験を行ってカラムの状態が良好であるかどうか確認する必要があります。この試験では、許容可能な圧力、保持時間、ピーク面積、ピーク幅、ピークの対称性が得られるかどうかについて、カラムおよびシステムの能力を評価する必要があります。これらのレスポンスのいずれかが、そのカラムで過去に得られた結果から大きく変化している場合、そのカラムに問題があることを示している可能性があります。例を図 2 に示しており、この例では、Waters 逆相品質管理標準(製品番号:186006363)を使用しています。このレファレンス物質には 7 種類の化合物が含まれ、これらをグラジエントメソッドを使用して分析しました。最初は(図 2A)、USP テーリング係数が 0.90 ~ 1.27 と許容範囲内でした。カラムをシステムから取り外してから再度接続した後、同じ分析法を実行したところ、図 2B に示すクロマトグラムが得られました。保持時間、ピーク面積、カラム圧は最初の結果と同様でしたが、7 本のピークすべてで USP テーリング係数が 1.32 ~ 1.65 と高くなりました。
ピーク |
A |
B |
分離度 |
1 |
0.9 |
1.32 |
0.91 |
2 |
1.27 |
1.61 |
1.27 |
3 |
1.2 |
1.65 |
1.2 |
4 |
1.1 |
1.46 |
1.09 |
5 |
1.1 |
1.47 |
1.11 |
6 |
1.11 |
1.44 |
1.09 |
7 |
1.08 |
1.47 |
1.08 |
パート 1 で説明したように、ピークの対称性の変化には、HPLC システム、移動相、サンプル、カラムの問題など、いくつかの原因が考えられます [J. W. Dolan and L. R. Snyder, Troubleshooting LC Systems, Springer Science+Business Media, New York, 1989, pp.385–420]。以前説明したように、トラブルシューティングの良い出発点は、クロマトグラムを注意深く分析して、ピーク形状の変化がすべてのピークで見られるか、あるいは一部のピークのみで見られるかを観察することです。図 2B のように、クロマトグラム中のすべてのピークに同様のピーク形状の変化が見られる場合、カラムに空隙が存在する、カラムにサンプルマトリックス成分が蓄積している、カラムの HPLC システムへの接続不良などの原因が考えられます。過去にカラムを使用していた時には問題が見られなかったことから、カラムに空隙がある、あるいはサンプルマトリックスが蓄積している可能性は低いと考えられます。したがって、HPLC システムへの接続の不良が、最も可能性のある原因として残ります。カラムを接続し直し、適合性試験法を再度実行しました。図 2C に示すように、USP テーリング係数は最初の値に戻りました。これにより、問題の原因は、カラムの不適切な接続により、カラムをシステムに接続しているチューブとカラムの間にギャップができたことであると確認されます(図 3 参照)。わずかなギャップでも、ピーク形状の歪みが引き起こされます。異なる種類のエンドフィッティングを使用してカラムを複数の HPLC システムに接続する方法のデモについては、次の URL に掲載した一連の動画を参照してください:HPLC カラムを Waters LC システムに接続する方法