SPE(固相抽出)の入門ガイド

SPE(固相抽出)の入門ガイド

サンプル前処理改善のための強力なツール

サンプル前処理改善のための強力なツール

分析科学者は、必要な結果を達成するために使用できる最適なツールを決定する際に、多くの課題に直面します。サンプル前処理ツールやアプローチの決定は、重要な検討事項であり、成功に顕著な影響を与える可能性があります。

サンプル前処理が不要になるのが理想的です。ただし実際には、多くの場合サンプル前処理は必要不可欠です。1 回の分析当たりのスループットを改善したり、コストを低減したりするには、既存のサンプルに対する前処理メソッドの最適化が必要になることがあります。または、新しい対象化合物について報告するために、多種多様なサンプルを分析するように依頼される場合もあります。新しいサンプルの種類によっては、さまざまな分析課題が提示される可能性があります。さらに、現在の科学者は、これまでになく低い濃度で、正確性や精度を損なわずに報告するという重大な課題に直面しています。

本書は、サンプル前処理手法における非常に強力なツール、固相抽出(SPE)について探索し、理解できるように設計されています。このテクノロジーでは、クロマトグラフィー充塡剤を含むデバイスがどのように分析課題への対処に役立つかについて示します。

固相抽出の定義

SPE は通常、固体粒子のクロマトグラフィー充塡剤を含むカートリッジ型のデバイスを使用して、サンプルに含まれるさまざまな化合物を分離するサンプル分離テクノロジーです。サンプルはほぼ常に液体状態です(ただし、特殊なアプリケーションでは、一部のサンプルが気相の場合があります)。図 1 には、黒色で表示されているサンプルが SPE デバイスで処理され、サンプルを構成する個々の色素化合物がクロマトグラフィー分離されています。

図 1.SPE メソッドの例

クロマトグラフィー吸着剤ベッドを使用してサンプル中のさまざまな化合物を分離することにより、次の分析試験を成功に導きます。例えば、SPE は多くの場合、干渉を選択的に排除するために使用されます。

このテクノロジーの技術的に正確な名称は「液相-固相抽出」です。クロマトグラフィー粒子は固相であり、サンプルは液相であるためです。HPLC で使用される液体クロマトグラフィーと同じクロマトグラフィーの基本原理が、ここでも使用されていますが、型式も理由も異なっています。ここでは、サンプルを試験に送る前に適切に前処理するために、クロマトグラフィーが使用されます。

サンプル前処理において、サンプルの入手源は広範囲に及ぶことがあります。入手源の例として、生体液(血漿、唾液、尿など)、環境サンプル(水、空気、土など)、食品(穀物、肉、海産物など)、薬剤、栄養補助食品、飲料、工業製品が挙げられます。サンプルに蚊の頭を使用する場合もあります。蚊の脳から抽出した神経ペプチドを分析する場合、SPE が最適なサンプル前処理メソッドとして用いられました(Waters アプリケーションデータベース、1983 年)。

SPE の 4 つの主要なメリット

SPE の 4 つの主要なメリット

SPE の使用には多くのメリットがありますが、特に注目に値する 4 つの主要なメリットをご紹介します。

1. 化合物の精製による複雑なサンプルマトリックスの単純化。

分析化学者にとって最も困難な問題の 1 つは、対象化合物が複雑なサンプルマトリックスに含まれている場合(穀物中のマイコトキシン、小エビ中の抗生物質残留物、血漿/血清/尿中の薬物代謝産物など)です。サンプルマトリックス中に対象化合物とともに含まれている多数の干渉成分や干渉物質により、分析は極端に困難になります。

解決の必要がある 1 つ目の問題は、分析自体の複雑さであり、これは対象化合物を同定および定量するために分離する必要がある物質が非常に多く存在することによります。図 2 を参照してください。

図 2.複雑なサンプルの例

わずかな変化でも分析種のクリティカルペアの分離度に影響することがあるため、分析法の頑健性が十分でない場合があります。

もう 1 つの検討事項は、元のサンプルマトリックス中の干渉物質の存在により、注入ごとに汚染が蓄積し、装置のダウンタイムが発生する可能性があることです。サンプル前処理の一環として干渉物質が取り除かれると、対象化合物の分析法はより簡単でより頑健になります。これは、元のサンプル(上段)を SPE 前処理をしたサンプル(下段)と比較した図 3 に示されています。

図 3.サンプルマトリックスの複雑さの比較

サンプルマトリックを簡素化することのもう 1 つのメリットは、定量正確性の向上です。図 4 の化合物 1 の青色のトレース(上段)は、一見したところ許容できるように見えます。ただし、そのすぐ下に赤色で示されているブランクサンプルマトリックスのトレースと比較すると、実際にはサンプルマトリックスからの汚染が含まれています。下のトレースでは、適切な SPE プロトコルにより、同じ化合物が干渉の問題なく示されており、定量がはるかに正確になっています。

図 4.より優れたサンプル前処理による定量の改善

図 5 にもう 1 つの例が示されています。上のトレースには、化合物 1 および 2 へのサンプルマトリックスからの著しい干渉が示されています。下のトレースでは、SPE による適切なサンプル前処理により、はるかに改善された結果(明確なベースライン)が示されています。はるかに明確なベースラインによって、分析結果の正確性が向上することに注目してください。サンプルにおいて化合物の分離および精製が必要な場合、はるかに純粋な抽出液を得ることができます。

図 5.SPE テクノロジーの使用によるベースラインでの大幅な改善

2. MS アプリケーションでのイオン化抑制の低減または増加

複雑なサンプルマトリックスの 2 つ目の問題は、質量分析計(LC-MS または LC/MS/MS)の出力に示されます。適切な MS シグナルレスポンス(感度)を得るには、化合物イオンが適切に形成される必要があります。化合物イオンの形成がサンプルマトリックスでの干渉によって抑制される場合、シグナル強度が大幅に低下します。

この影響は図 6 に示されています。上の出力は、塩溶液に注入したときの対象化合物のシグナルです。下のトレースには、同じ化合物をヒト血漿中で分析したときのレスポンスの大幅な低下(90% を超える抑制)が示されています。下のトレースは、一般的な除タンパクステップのみを行って得られたものです。この手法では、イオン化抑制を引き起こすマトリックス干渉はクリーンアップされず、シグナルレスポンスは不良になります。

図 6.サンプルマトリックスによるイオン化抑制の例

この抑制効果のもう 1 つの良い例を図 7 に示しています。MS 出力の上のトレースでは、血漿サンプルが除タンパクステップのみで前処理されており、テルフェナジンのピークが 80% 抑制されていることが分かります。下のトレースでは、同じサンプルを SPE メソッドで前処理した場合に、イオン化抑制が最小限に抑えられていることが分かりますサンプルマトリックスからの干渉が取り除かれているため、化合物イオンが適切に形成され、より優れたシグナルが形成されます。

図 7.適切な SPE によるイオン化抑制の低減

場合よっては、サンプルマトリックスからの干渉により、化合物に対して報告されるシグナルが人為的に増加できます。これはイオン化促進と呼ばれ、報告値は不正確に高くなります。適切な SPE メソッドでは、このような干渉を化合物から一掃することによって、より正確な報告値が得られます。

3. 化合物をクラス別に分析するためにサンプルマトリックスをフラクション化する機能

多数の化合物が含まれているサンプルは、クラス別に分離して、その後の分析がはるかに効率的に実行できるようにする必要が生じる場合もあります。例えば、ソフトドリンク飲料には、多種多様な化合物が配合されています。SPE メソッドでは、さまざまなクラスの化合物を、例えば極性によって分離するように開発できます。極性化合物は、他の非極性の化合物から分離されたフラクションとして収集できます。次に、この 2 つのフラクションを別個に分析すると、化合物が類似しているため、はるかに効率的になります。

SPE による優れたフラクション化の例が図 8 に示されています。ここでは、乾燥粉末の複雑なサンプル(紫色のグレープ飲料混合物)が 4 つのフラクションに簡単に分離されます(極性化合物のみのフラクション、精製された赤色の化合物、精製された青色の化合物、残りすべての非極性の化合物を含むフラクション)。この機能の高い性能については、本書の別のセクションに記載しています。

図 8.SPE によるサンプル前処理

SPE によるサンプルのフラクション化の詳細については、「分析法開発」セクションの 125 ページを参照してください。

4. 非常に低濃度の化合物の微量濃度(濃縮)

今日の分析では、これまでになく低い濃度レベル(100 万分の 1 未満など)の化合物について報告する必要が多く見られます。通常、ニートサンプルのレベルは、分析装置の感度能力よりも低くなります。

この適切な例として、環境サンプル中の微量汚染の分析や、生体液中の代謝物の経時的変化の分析が挙げられます。図 9 の上のトレースでは、対象化合物に対する元のニートサンプルの応答不良が示されています。同じ分析条件で、微量濃度戦略を使用する SPE によって前処理したサンプルについて、下のトレースにこの化合物に対するシグナル強度の増加が示されています。この結果によって、ニートサンプルでの元の化合物濃度を正確に計算できます。

図 9.微量濃度の例

SPE においてクロマトグラフィー充塡剤の保持能力がない場合、特定の化合物を微量濃縮する能力は、他のサンプル前処理アプローチでは非常に困難です。

サマリー

上述したように、クロマトグラフィーベッド付き SPE 装置により、サンプル分析を成功に導く 4 つの極めて重要な機能を実行できます。図 10 を参照してください。

図 10.SPE の機能

本書では、過去 30 年間このテクノロジーを活用してきた世界中の科学者から得られた SPE の基礎知識および成功のための手法をすべて提供しようと努めました。今日の科学者は、難しいサンプルの前処理や分析の問題解決において、SPE がこれまで以上に有用であると認識しています。

本書により、皆様が SPE の機能を理解およびマスターして、ラボでこのテクノロジーを活用できるようになれば幸いです。

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