LC-MS/MS を用いたハチミツおよびミルク中のクロラムフェニコールの微量レベル分析
要約
欧州連合では、禁止物質の残留に対して許容範囲ゼロポリシーが適用されており、残留物の上限値が設定されていません。輸入または上市された動物由来食品の管理が機能していることを確認するために必要と考えられる場合は、禁止物質に対して措置を講じる基準点(RPA)が設定されています。動物由来のさまざまな組織、体液、食品中の残留クロラムフェニコール(CAP)を検出、定量、同定するには、信頼性の高い分析法が必要です。このアプリケーションノートでは、ミルクおよびハチミツの分析のための、液体クロマトグラフィー-タンデム四重極型質量分析法に基づいた分析法の開発について説明します。抽出物は、ミルクの分散型固相抽出ステップを含む溶媒抽出を使用して調製し、LC-MS/MS(Xevo™ TQ-S cronos)で測定しました。分析法の性能は、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 の許容基準に従って正常に検証できました。スパイクサンプルの分析の結果では、真度と併行精度がそれぞれ要求される許容範囲内に収まっていました。この高感度かつ正確な分析法は、詳細なバリデーションを行った結果、ミルクやハチミツ中の CAP を測定して、0.15 µg/kg の RPA に準拠しているかどうかを確認するのに適していると考えられます。
アプリケーションのメリット
- ミルクおよびハチミツ中の CAP を測定するための高感度かつ選択的な分析法
- CAP の RPA 0.15 µg/kg より大幅に低い最低キャリブレーション済みレベル(LCL)0.025 µg/kg での CAP の検出
- 分析法の性能が、(EU)2021/808 で定められている真度および併行精度の許容基準を満たしている
はじめに
動物用医薬品は病気の予防と管理のために使用されており、その残留物が動物の組織および関連する動物由来の食品に(通常は非常に低レベルで)残留することがあります。このような残留物が消費者に害を及ぼさないように、多くの国で、規制限度の設定に裏付けられた動物用医薬品の使用に関する登録および承認のシステムが運用されています。欧州連合(EU)では、動物用医薬品の食用動物への使用が承認される前に、その薬理活性物質および生成する残留物の安全性を評価し、最大残留限度(MRL)を推奨する必要があります。禁止物質とは、消費者に対するリスクを考慮して最大残留限度を設定できない物質のグループであり、食用動物への投与が許可されていません。このグループの 1 つの例がクロラムフェニコール(CAP)で、世界の一部の地域から EU に輸出される商品に依然として不法に使用されています。EU は、禁止物質の残留に対して許容範囲ゼロポリシーを採用しています。輸入または上市された動物由来食品の管理が機能していることを確保するために必要と考えられる場合は、禁止物質に対して措置を講じる基準点(RPA)が設定されています。RPA は、公的な管理検査室で分析上達成できる最小レベルに設定されています。委員会規則(EU)2019/1871 では、動物由来食品中の CAP の更新済み RPA を 0.15 µg/kg と定めています1。 このような厳格な規制要件への準拠をモニターするには、高感度で選択的かつ正確な方法が必要です。以前、ニワトリ中の CAP を測定する分析法を報告しました2。 この試験では、ACQUITY™ H-Class UPLC システムと Xevo™ TQ-S cronos を組み合わせて使用した、液体クロマトグラフィー-タンデム四重極質量分析法(LC-MS/MS)に基づく、ミルクおよびハチミツ中の CAP を測定する分析法の性能を実証しています。
実験方法
サンプルの説明
最寄りの販売店から購入したミルクとハチミツの均質化済みサンプルを、溶媒抽出に基づく 2 つのプロトコルを使用して抽出しました。ミルクでは、アセトニトリルベースの抽出により、ミルクタンパク質を除去しました。硫酸ナトリウムを用いた塩析後に遠心分離することで有機層を分離し、分散型固相抽出(dSPE)によるクリーンアップを行いました。ハチミツについては、メチル tert-ブチルエーテル(MTBE)とジエチルエーテルの混合液を使用して抽出し、続いて遠心分離と濃縮ステップを行いました。完全な詳細は、以下の図 1 に記載しています。
マトリックス添加標準試料(手順のキャリブレーションスタンダードとも呼ばれる)は、ミルクとハチミツの被験サンプルに、既知量の CAP を 0.025 ~ 0.50 µg/kg の範囲になるようにスパイクして調製しました。真度および室内併行精度は、0.025、0.050、0.100 µg/kg の 3 種類の濃度になるように調製した各製品を、6 回繰り返し分析して決定しました。この実験では、内部標準試料は使用しませんでした。
LC 条件
LC システム: |
FTN SM を搭載した ACQUITY H-Class UPLC |
バイアル: |
トータルリカバリー、キャップおよびスリット入り PTFE/シリコンセプタム付き、容量 1 mL(製品番号:186000385C) |
カラム: |
XBridge™ Premier BEH C18(2.5 µm、2.1 × 100 mm)(製品番号:186009828) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
メタノール |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-S cronos |
イオン化モード: |
エレクトロスプレー(ネガティブイオンモード) |
キャピラリー電圧: |
-1.0 kV |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
900 L/時間 |
コーンガス流量: |
0 L/時間 |
コーン電圧: |
40 V |
MRM メソッド(定量トランジションは太字で示した)
最適なデュエルタイムは、各ピークにわたって最低 10 データポイントになるように、オートデュエル機能を使用して自動的に設定されました。
データ管理
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx XS |
分析法の性能
(EU)2021/808 の要件に従った完全なバリデーションでは、繰り返しスパイクサンプルについて、同じ分析者が別々の 3 日間に前処理および分析を行う必要があります3。 今回、スパイクを行った繰り返しのミルクおよびハチミツサンプルの単一のセットを前処理および分析することで、分析法の性能を評価しました。評価は、感度、キャリブレーショングラフの特性、真度、併行精度について行いました。真度とは、大規模な一連の試験から得られた平均値と、許容されているレファレンス値(この場合はスパイク済みサンプルの濃度)の間の一致の程度を意味します。マトリックス添加によるキャリブレーションを使用したため、絶対的な回収率を評価する必要はありませんでした。
結果および考察
XBridge Premier BEH C18 カラムでは、CAP は 2.8 分に溶出し、総分析時間は 6 分間でしたが、CAP について十分な保持とガウス分布したピーク形状が得られました。
ミルクおよびハチミツのスパイク済みサンプルから調製したマトリックス添加標準試料の分析では、感度が優れていることがわかりました。図 2 に、ミルクおよびハチミツにおける最低キャリブレーションレベル(LCL)0.025 µg/kg のマトリックス添加標準試料の分析で得られたクロラムフェニコールの代表的なクロマトグラムを示します。この結果は、この分析法が、適切なバリデーションを行った後、RPA への準拠の確認に使用できることを示しています。クロラムフェニコールのレスポンスは評価した範囲にわたって直線的でした。グラフは 1/x 重み付けを使用して作成されています。決定係数(R2)の値は > 0.99 で、残差は 10% 未満でした。
実測回収率によって決定される真度を、スパイクサンプルの分析で得られたデータを使用して評価しました。3 種類の濃度でスパイクした各セットについて、両方の分析法で測定された平均回収率は 81 ~ 110% の範囲内(真度は -19 ~ +10%)でした。分析法の併行精度の値も満足できるものでした(2.7 ~ 9.7 %RSD)。真度と併行精度の値は、内部標準を使用しない場合でも、委員会実施規則(EU)2021/808 に定められた基準の範囲内、つまりそれぞれ -50 ~ +20% および 20% 未満でした。測定された回収率と併行精度(エラーバー)を図 3 に示します。
さらに、繰り返しスパイクの分析で得られたデータが、必要な同定基準を満たしているかどうかを評価しました。各分析種の 2 つのトランジションは、禁止物質について必要な 4 点の同定要件を十分に満たしており、標準試料と比較して、イオン比と保持時間が推奨許容範囲内にあるピークが得られました。
結論
このアプリケーションノートでは、LC-MS/MS(Xevo TQ-S cronos)を使用してミルクおよびハチミツ中の CAP を測定するための、高感度で正確な 2 つのメソッドについて説明します。このメソッドにより、改訂 RPA(0.15 µg/kg)を下回る低濃度まで信頼性の高い定量を行うことができ、その性能が正常に検証されました。この分析法は、ミルクおよびハチミツの両方で高い感度を示しました(LCL 0.025 µg/kg)。スパイクサンプルの分析結果では、真度と併行精度がそれぞれの必要な許容範囲内でした。この手順で適切なバリデーションを行った後、ミルクおよびハチミツの分析に適用して、CAP の RPA 0.15 µg/kg への準拠を確認することができます。
参考文献
- COMMISSION REGULATION (EU) 2019/1871 of 7 November 2019 on reference points for action for non-allowed pharmacologically active substances present in food of animal origin and repealing Decision 2005/34/EC.
- Renata Jandova, Sara Stead.Xevo TQ-S cronos for the Analysis of Banned Veterinary Drug Residues: Determination of Nitrofuran Metabolites and Chloramphenicol in Chicken Muscle at Regulatory Limits.Waters Application Note, 720007233.2021.
- COMMISSION IMPLEMENTING REGULATION (EU) 2021/808 of 22 March 2021 on the performance of analytical methods for residues of pharmacologically active substances used in food-producing animals and on the interpretation of results as well as on the methods to be used for sampling and repealing Decisions 2002/657/EC and 98/179/EC.
720007922JA、2023 年 7 月