EU、米国食品医薬品局、国際食品規格委員会、FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議(JECFA)により確立された規制に基づき、世界の大半の地域では、食用の家畜および水産物における特定の抗菌化合物の使用が、毒性に対する懸念から禁止されています。今回、動物由来の食品中の禁止動物用医薬品残留物(クロラムフェニコールおよび 4 種のニトロフラン代謝物)について、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに Xevo TQ-S cronos を組み合わせた分析法を紹介し、性能特性を報告します。キャリブレーション特性および再現性はすべて、鶏肉筋肉中のそれぞれの EU の措置を講じる基準レベルの残留物の測定に適していることがわかりました。性能評価の結果、Xevo TQ-S cronos は、ルーチン操作でも頑健で、複雑な抽出物中の難かしい低分子の比較的極性が高い分析種でさえも、長期にわたる分析にオペレーターの介入やメンテナンスが最小限で済むことが分かりました。
抗菌剤残留により汚染された動物由来の食品の安全性については、以前より世界的に懸念されていました。欧州連合内では、特定の禁止物質あるいは未承認の薬理活性物質について、欧州委員会規則(EU)2019/1871 により食品における措置を講じる基準点(RPA)が確立されました1。 RPA は、公的な管理検査室で分析的に達成できる最小レベルに設定されています [欧州委員会規則(EU) 2017/625]2。 結果として、RPA は、食品中のこれらの物質に対して分析法の最小要求性能限界(MMPR)も規定しています。これらの残留物を RPA 以上の濃度で含むことが判明した動物由来の食品は、規制不遵守とみなされ、食物連鎖に入ってはならないとされています。
2019 年、EU 内では、クロラムフェニコール、マラカイトグリーン、ニトロフランおよびそれぞれの代謝物の RPA が 0.15、0.5、0.5 µg/kg に設定されました1。また、米国食品医薬品局、国際食品規格委員会、FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議(JECFA)により確立された規制に基づき、世界の大半の地域では、食用の家畜および水産品におけるこれらの抗菌化合物の使用も禁止されています3-5。
ニトロフランは in vivo で迅速に代謝され、組織結合性の安定な代謝物が生じます。弱酸による加水分解によりこの代謝物のフラグメントが放出されることがあり、残留マーカーとしてモニターされています6。例えば、3-アミノ-2-オキサゾリジノン(AOZ)は、医薬品フラゾリドンの残留マーカーとしてモニターされています。3-アミノ-5-モルホリノメチル2-オキサゾリジノン(AMOZ)はフラルタドンの残留マーカーであり、1-アミノヒダントイン(AHD)はニトロフラントイン、セミカルバジド(SCA)はニトロフラゾンの残留マーカーです。分析を完了し、逆相クロマトグラフィーで対応できる抽出物を得るために、得られた代謝物を通常、2-ニトロベンズアルデヒド誘導体化し、「NB」誘導体を取得します。
Xevo TQ-S cronos 装置は、複雑なマトリックス中での頑健なルーチン定量分析のための信頼性の高いシステムとして開発されました。Xevo TQ-S cronos は、広く使用されている ACQUITY QDa に採用されたサンプルコーンに類似した設計を取り入れています。この逆コーン設計に加えて、イオン源の直交設計、StepWave イオンガイド、T-Wave を使用したコリジョンセルなど、定評のあるウォーターズの特許取得済み技術も、Xevo TQ-S cronos の頑健な性能に寄与しています。以前に公開したアプリケーションノートでは、農薬、アクリルアミド、トリメチルフェニル染料など、その他の定量的残留物分析アプリケーションにもたらすメリットを報告しています7-9。
この試験では、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極型質量分析計を ACQUITY UPLC I-Class PLUS と組み合わせて、禁止された動物用医薬品残留物(クロラムフェニコール(CAP)およびニトロフラン代謝物(NF))の測定を行った場合の性能を調査しています。
この試験では、ウォーターズ社内のサンプル抽出法および SPE ベースのクリーンアップ法を用いました。評価試験の前に、UPLC グラジエント、ESI イオン源、MS/MS 条件を分析種に合わせて最適化しました。CAP および NF に対する EU RPA に準拠して、事前に誘導体化した標準試料(該当する場合)を用いて Xevo TQ-S cronos の性能を評価しました。
鶏肉の筋肉抽出物を前処理するための全体的なワークフロースキームを図 1 に示します。ニトロフラン代謝物を逆相モードクロマトグラフィーで分離するには、誘導体化のステップが必要です。この試験の目的に応じて、事前に誘導体化した NF 標準品(Merck および LGC から購入)を使用し、これを鶏肉の筋肉抽出物にスパイクして Xevo TQ-S cronos の性能を評価しました。
CAP には Oasis HLB(製品番号:WAT094226)、NF には Oasis MCX(製品番号:186000254)の 2 種の異なる SPE 吸着剤ケミストリーを使用して、鶏肉抽出物を抽出し、CAP および NF をスパイクしました。。両者をトラップ・溶出モードで使用し、分析種を濃縮して、共抽出分子を最大限除去しました。
CAP の場合、5.0 g のブランクサンプルを 50 mL のプラスチック製遠心分離チューブに入れました。eTrac を 6 mL 添加してから、混合液を手で 1 分間振とうし、自動シェーカーで 5 分間振とうしました。混合液を遠心分離し、溶媒を 5 mL 蒸発・乾燥させ、5 mL の 10% メタノール水溶液に再溶解して、SPE 手順に使用しました。SPE カートリッジは、メタノール 2 mL および水 2 mL でコンディショニングしました。コンディショニングしたカートリッジにサンプルを 3 mL 注入し、2 mL の 5% 酢酸で洗浄しました。3 mL の メタノール/NH3 90/10 v/v を溶出溶媒として使用し、溶出液を蒸発・乾燥させました。この抽出物を 1 mL の水/メタノール 80/20 v/v に再溶解し、15,000 rpm で遠心分離してろ過し、オートサンプラーバイアルに注入して UPLC-MS/MS 分析を行いました。
NF をスパイクするためのブランクの鶏肉抽出物を前処理するには、サンプル 2 g を 50 mL のプラスチック製遠心分離チューブに入れ、メタノール 10 mL と混合しました。サンプルを手で 1 分間振とうし、自動シェーカーで 5 分間振とうして、遠心分離してから、SPE 手順を適用しました。SPE カートリッジは、酢酸エチル 3 mL、メタノール 3 mL、水 3 mL でコンディショニングしました。コンディショニングしたカートリッジに抽出物を 3 mL 注入し、2 mL の水および 2 mL の 30% メタノール水溶液で洗浄しました。3 mL の酢酸エチルを溶出溶媒として使用し、溶出液を蒸発させた後、1 mL の水/メタノール 60/40 v/v に再溶解してから 15,000 rpm で遠心分離し、ろ過してオートサンプラーバイアルに入れて、UPLC-MS/MS による分析を行いました。
UPLC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS(FTN サンプルマネージャーを搭載) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18 カラム(1.7 µm、2.1 × 100 mm、製品番号:186002352) |
移動相 A: |
0.5 mM ギ酸アンモニウム |
移動相 B: |
メタノール |
流速: |
0.45 mL/分 |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
MS 装置: |
Xevo TQ-S cronos |
イオン化: |
ESI |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1,000 L/時間 |
イオン源温度: |
150 ℃ |
コーンガス流量: |
0 L/時間 |
NF はポジティブ ESI モードで分析し、CAP はネガティブ ESI モードで個別で分析しました。キャピラリー電圧は CAP では -0.3kV、NF では +0.5kV に最適化しました。
4 種のニトロフラン代謝物およびクロラムフェニコール用に最適化したコーン電圧とコリジョンエネルギー、および関連する内部標準を表 1 にまとめます。最終的なマルチプルリアクションモニタリング(MRM)メソッドのポジティブモードでの MS サイクルの計算は、MassLynx ソフトウェアでピーク幅 4.5 秒、ピークあたり最低 12 ポイントに基づいて自動的に最適化されました。結果の解析は TargetLynx で ApexTrack 機能を使用して行い、ルーチン分析において短時間で一貫した波形解析を行うことができました。ApexTrack アルゴリズムにより、データ解析ソフトウェアがクロマトグラムの二次導関数のしきい値を設けて、自動的にピークの位置を把握することが可能になりました。
ニトロフラン代謝物およびクロラムフェニコールをスパイクした鶏肉抽出物を UPLC-MS/MS で分析し、結果について直線性、マトリックス効果、イオン比、保持時間の安定性、精度、感度を評価しました。BEH C18 カラムによって優れた保持とピーク形状が得られ、両方の分析に同一の移動相を使用することができました。すべてのピークが 1.7 ~ 4 分の間に溶出し、合計分析時間は 10 分でした。
内部標準化した検量線のプロットには、重み付け係数 1/x を適用しました。濃度範囲全体(通常は 3 桁)にわたって直線性を評価したところ、R2 係数は 0.99 より大きく、残留物の計算値の真の値からの偏差は、ニトロフラン代謝物の濃度範囲 0.05 ~ 10 µg/kg および SCA の濃度範囲 0.25 ~ 10 µg/kg において 20% 未満であることが分かりました。鶏肉中のクロラムフェニコールについては、0.02 ~ 10 µg/kg の範囲内で内部標準による補正を用いた R2 係数は 0.99 を超え、残差は 15 % 未満であることが分かりました。すべての分析種についての複数の平均検量線の代表的な例を図 2 に示します。
マトリックス効果(ME)は、マトリックス中で作成した検量線の傾きと溶媒中で作成した検量線の傾きの比を計算して評価しました。両方の分析法についてマトリックス効果を評価し、表 2 にまとめました。ルーチンの定量 LC-MS/MS で ME を補正するには、マトリックスマッチド検量線を適用できます。ただし多くの場合、未知サンプル中の分析種についてできるだけ精度の高い定量を行うには、同位体標識類縁体を内部標準として使用することが必要です。
複雑な食品マトリックス中の禁止薬物確認のための多成分残留分析には、規制ガイドラインである欧州委員会決定 2002/657/EC に記載されている複数の物理化学的パラメーターの比較が含まれます10。 スパイクしたサンプル中で 2 つの濃度レベルにおいて 2 つの MRM チャンネルで計算したイオン比は、ESI+ で分析した NF および ESI- で分析したクロラムフェニコールの一連のマトリックスマッチド検量線で得られた許容範囲内に十分収まっていました。スパイクしたサンプルの保持時間は、一連のマトリックスマッチド検量線で得られた保持時間の許容範囲である 0.2 分未満の範囲内でした。
測定の日間再現性を調べるため、マトリックスマッチド標準品の 3 つの代表的なバッチにわたり、鶏肉中の 2 濃度(ニトロフランは 0.5 および 5.0 µg/kg、クロラムフェニコールは 0.15 および 5.0 µg/kg)で、複数回の注入(n=36)を取り込みました。合計分析時間は CAP では 16 時間、NF では 36 時間でした(3 つの連続分析バッチ)。この間、イオン源の洗浄やメンテナンスなどのユーザー介入は行いませんでした。
ブランクサンプルを調製し、分析したところ、ターゲット分析種の溶出が予想される領域に有意な干渉はみられず、特異性は良好でした。NF および CAP のピーク面積の %RSD 計算値を表 3 に示し、すべてのニトロフラン代謝物およびクロラムフェニコールの代表的なクロマトグラムを図 3 に示します。これらの結果は、この分析法が、鶏肉中の分析種についての規制準拠の確認に適していることを示しています。
図 4 に TrendPlot (TargetLynx)でプロットした QC チャートの例を示します。これには標準偏差の 2 倍および 3 倍と決めた「警戒区域」が含まれています。「警戒区域」(>2SD)に近づいているまたは入っている注入は、イオン源の清潔度を含めてシステムの点検を行い、メンテナンスを行う必要があるというサインである場合があります。
このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S cronos と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class の性能が、動物由来の食品抽出物中の、EU 規則で要求されている濃度レベルの禁止された動物用医薬品残留物の定量分析に適していることを示しています。
キャリブレーション特性(直線性、感度)、イオン比の基準、保持時間の安定性および日間再現性のすべてが、分析法のバリデーションについての 2002/657 ガイドラインで定義されたパラメーターの範囲内であることが示されました。
このユーザーによるメンテナンスを不要とする優れた性能には、内部コーンを汚染から防ぐ逆コーン設計、直交設計のイオン源、StepWave イオンガイド、T-Wave を使用するコリジョンセルなど、Xevo TQ-S cronos のテクノロジーの特徴が寄与しています。
720007233JA、2021 年 4 月