• アプリケーションノート

Xevo™ G3 QTof 質量分析計での天然物ソリューション

Xevo™ G3 QTof 質量分析計での天然物ソリューション

  • Lisa Reid
  • Mark Towers
  • Lee A. Gethings
  • Jayne Kirk
  • Waters Corporation

要約

Waters™ Xevo G3 QTof 質量分析計を用いた天然物の迅速で正確なスクリーニングにより、これが天然物分析用の強力で頑健かつ柔軟なプラットホームであることが実証されます。最大 5 桁のダイナミックレンジ、約 30,000 FWHM の質量分解能、低分子アプリケーションにおいて通常 2 ppm 以内という高い質量精度を誇るこのコンパクトなベンチトップ QTof 質量分析計は、天然物のスクリーニングおよび真正性試験のルーチンプラットホームとして最適です。非常に柔軟なソリューションであり、さまざまな取り込みメソッド(MS、MSE、MRM、DDA、SONAR など)を使用してデータを取り込むことができ、ラボのコンプライアンス要件に応じて、waters_connect™ または MassLynx™ のいずれかが装置コントロールソフトウェアプラットホームのオプションとして付属しています。

アプリケーションのメリット

  • 高い質量精度、優れた質量分解能、天然物活性化合物について広いリニアダイナミックレンジを備えた、頑健で再現性のあるシステム
  •  アッセイの目的に応じて複数の取り込みメソッドから選択できる、汎用性の高いシステム
  • 迅速なデータ解析およびレポート作成が可能になる包括的スクリーニングライブラリー
  • ラボのコンプライアンス要件に応じた装置コントロールソフトウェアのオプション

はじめに

EU および米国内では、治療効果を謳った天然物を供給する場合は、厳格な規制に忠実に従う必要があります。これらの規制により、医薬品・医療製品規制庁(Medicine and Healthcare Products Regulatory Agency:MHRA)や食品医薬品局(Food and Drug Agency:FDA)などの規制当局の評価を受けた製品のみが販売できます。これらの当局は、遵守しなければならない厳格な品質管理プロセスを製造者が整備することを要求し、強制しています。これらのプロセスにより、製品が厳格な規格に従って製造されていることが証明され、あらゆる有効成分に関して、一貫して明確に記載された量が含まれていることが保証されます。この規制により、製造者および受託検査機関は、製品に含まれる天然物質の出所、純度、量を明確に実証する必要があります。

製造者や当局が、天然物に含まれる有効成分のレベルを管理したいと考える場合、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)は、信頼性が高く、十分に確立された測定用のプラットホームです。これらのシステムにより、さまざまな異性体分析種(カテキンやエピカテキンなど)を分離し、特異性の向上により、フラボノイド分子種(ケンフェロールケルセチンなど)やポリフェノール分子種(テオガリンなど)など、対象成分を他の多量に存在する複雑なマトリックス分析種から確実に区別することができます。試験の速度と効率を確保するため、これらのばらつきが非常に大きい天然化合物に対して直線性範囲が広いメソッドが求められます。

緑茶は、何千年もの間、収穫した新鮮な Camellia sinensis の葉を素早く蒸し、乾燥させて作られてきました1。緑茶には、さまざまなフェノール化合物(特にカテキンとして知られているフラボン-3-オール)が含まれています2。カテキンは、抗炎症作用および抗酸化作用を有することが実証されている分子のクラスで、緑茶製品を飲むことは健康に良いと考えられています。ただし、市販の緑茶の抗酸化成分の濃度は、生育条件、収穫時期、加工、保管、最終調製など(これらに限らない)の条件によって大きく変わることがあります1。 また、緑茶の摂取(特に過剰なカテキン曝露やピロリジジンアルカロイド(PA)混入の可能性)に伴う有害な健康上の影響(特に肝障害)が発生する可能性もあります2

このドキュメントで概説されている分析法により、クロマトグラフィーでの保持時間、精密質量およびフラグメンテーションパターン(理論上および分析によって導出されたものの両方)に基づいて、緑茶の既知成分を同定・定量することができます。有効成分(カテキン)に焦点を当てて、この分析法の選択性、および複数の異なる取り込みモードを備えたこの柔軟なプラットホームの利点について紹介します。

実験方法

サンプルの説明

緑茶マトリックス(製品番号:186006962、Waters Wilmslow、英国)を、25:75(v/v)メタノール:水で濃度 8.25 mg/mL に希釈し、ボルテックス混合した後、30 分間超音波処理し、4 ℃、10,300 g で 10 分間遠心分離して、微粒子を除去しました。

カテキンの検量線は、Sigma(Dorset、英国)から購入したカテキン標準試料 100 μg/mL を 25:75(v/v)メタノール:水で希釈して作成しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ I-Class Premier FTN

カラム:

ACQUITY Premier UPLC™ HSS T3(100 mm × 2.1 mm、1.8 μm)

カラム温度:

40 ℃

注入量:

1 µL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

緑茶用グラジエント:

99% A で 0.5 分間ホールド、99% ~ 65% A を 0.5 ~ 16 分、1% A で 16 ~ 18 分間ホールド、初期条件に 18 ~ 20 分で再平衡化。

MS 条件

MS システム:

Xevo G3 QTof

キャピラリー電圧(kV):

ポジティブイオンモードで 1.5

サンプルコーン電圧:

20 V

イオン源オフセット:

80 V

イオン源温度:

120 °C

脱溶媒温度:

600 ℃

コーンガス流量:

150 L/時間

脱溶媒流量:

800 L/時間

StepWave モード:

ソフト透過3

検出器のオートゲイン:

オン

測定モード:

感度

データ形式:

MSE コンティナム/MRM/DDA/SONAR

取り込み範囲:

50 ~ 1200 Da

SONAR 取り込み範囲:

250 ~ 500 Da(10 Da のウィンドウ)

スキャン速度:

10 Hz(SONAR の場合 5 Hz)

フラグメンテーション CE:

25 ~ 45 V

ロックスプレー流量:

10 µL/分

LockSpray 設定:

60 秒ごとに平均 3 スキャン

IDC:

オフ

結果および考察

このアッセイは、市販の緑茶のマトリックスおよびカテキンの標準混合物で実施しました。これらは、液体標準試料の希釈または凍結乾燥マトリックスの再溶解により調製した後、遠心分離して微粒子を除去しました。緑茶マトリックスのクリーンアップは行いませんでした。

ACQUITY Premier UPLC クロマトグラフィーシステムおよび Xevo G3 QTof 質量分析計を使用して、8.25 mg/mL の緑茶マトリックス標準試料およびカテキン標準試料を 1 µL 注入して、MSE、MRM、DDA および SONAR の各取り込みモードで分析しました。新規の StepWave™ 設計を利用して、データをソフトイオン化パラメーターで取り込むことで、四重極の前でのプリカーサーのフラグメンテーションを最小限に抑え、分析種の最適な透過を確保しました3

図 1 に示すデータは、カテキン標準試料(示している化合物はエピカテキン-3-ガレート)の 1 回の注入における選択した成分のレスポンスを示しており、この視覚表示には、選択した同定済み化合物のすべての分析データ、選択したサンプルおよび成分のクロマトグラフィーピークの XIC、選択した分析種の高エネルギースペクトルと低エネルギースペクトルの両方、が記載されたテーブルが含まれています。積み重ねプロットにより、両方のスペクトル(プリカーサーイオンとフラグメントイオン)を視覚的にマッチさせることができます。高エネルギースペクトルの視覚表示には、陽性同定されたフラグメントが含まれており、これらを展開して、対応する化学構造式の候補を(この図のように)表示することができます。

図 1. 各化合物についてのサマリー、選択した化合物(この場合はガロカテキン-3-ガレート)の XIC、選択した化合物の低エネルギースペクトルおよび高エネルギースペクトルを含む、選択した 1 回の注入における同定の表を示す waters_connect/UNIFI™ のディスプレイ。高エネルギースペクトルは同定されたフラグメントを示し、これを拡大表示すると、示されているようにフラグメント質量情報と構造を表示できます。

Xevo G3 QTof 質量分析計により、MassLynx と waters_connect の間で装置コントロールソフトウェアを選択できるため、ラボの環境に合わせて操作をカスタマイズできます。waters_connect インフォマティクスプラットホームにより、データ解析に UNIFI アプリケーションを利用でき、このアプリケーション内で、ダウンロード可能な Camelia Sinensis ライブラリーに対してこれらのデータが解析されました。このライブラリーを使用して、クロマトグラフィー保持時間(特定の分析法に対して)、質量精度、および理論的なフラグメンテーションパターンと比較した場合のフラグメントイオンの存在に基づく化合物の同定に役立てることができます。MSE スクリーニングの取り込みを行い、UNIFI アプリケーション内で解析された場合、「未同定」成分およびライブラリー内に含まれる成分が表示される可能性があります。未同定化合物は、既知成分の確認と包括的なスクリーニングのどちらに焦点を当てるかに応じて、解析セッションの中でまたは外でフィルタリングできます。

緑茶の注入から得られたデータを、27 種の緑茶の天然化合物が含まれている Camelia Sinensis でフィルタリングした UNIFI ライブラリーを用いて解析したところ、ポジティブイオン極性に対して 24 種のマッチした同定(標準試料で 8 種が確認され、質量および理論的フラグメンテーションマッチングのみにより 16 種が推定)が得られ、ネガティブイオン極性に対して 23 種のマッチした同定(標準試料で 7 種が確認され、質量および理論的フラグメンテーションマッチングのみにより 16 種が推定)が得られました。 

データ非依存的分析(DIA)モードである MSE により、分析質量範囲内のすべてのイオンが四重極を通過して低エネルギーチャンネルで検出され、質量範囲内のすべてのイオンがフラグメント化されて、高エネルギーチャンネル内のすべてのフラグメントデータが表示されます。すべてのイオンが四重極を透過するため、高エネルギースペクトルでは、共溶出する分子種に由来するすべてのイオンが表示されます。これは、プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンの情報を得るのに最も制約の少ない取り込みメソッドであり、情報が豊富なデータセットが得られます。

Tof-MRM 機能は Xevo G3 QTof 質量分析計での DIA 取り込みであり、タンデム四重極質量分析計での MRM 実験と同じ原理に基づいていて、定量的情報を得るのに最適です。この実験はターゲットを絞った実験であり、ユーザーが選んだプリカーサーイオンが四重極で選択され、コリジョンセルでフラグメント化されます。低エネルギープリカーサー情報と高エネルギー/プロダクトイオン情報の両方が、データセット内でチャンネルとして使用できます。このモードでは高い感度が得られるため、ターゲットを絞った定量的情報が必要な実験に適しています。

DIA モードの取り込みである SONAR 機能では、対象の質量範囲(例えば 200 ~ 500 Da)を選択することにより、スキャン四重極テクノロジーを利用できます。四重極は、ユーザーが決めた質量範囲(例えば 2 Da)内でイオンをフィルタリングし、これらのイオンはコリジョンセル内でフラグメント化され、任意の時間に一度に検出されます。これにより、質量差が設定した範囲より大きい化合物がそれぞれ個別にフラグメント化され、データを高エネルギー機能内に保管することができます。この取り込みモードでは、対象分析種を手動で設定したり(MRM)、シグナルが最も高いイオンのみを選択したりしても(DDA)、化合物のデータが失われることなく、きれいなスペクトルが得られます。スキャン四重極の性質により、このデータは、他の取り込みモードによるデータよりも低強度になります。取り込みの感度を改善するため、幅 300 Da 以下のスキャン四重極質量範囲を使用することを推奨します。これにより、この範囲外の化合物の質量は取り込まれません。

より詳細な情報は、ウォーターズのホワイトペーパー 720006033 を参照してください。

データ依存的取り込み(DDA)モードでは、プリカーサーイオンは強度に基づいて分離され、フラグメント化されます。包含リストや荷電状態(通常は生体分子に使用される)を使用して行うことも、イオン強度に基づいて行うこともできます。四重極によってイオンが分離されると、コリジョンセル内でフラグメント化され、プロダクトイオンを分析できます。四重極を使用して対象のイオンを選択し、透過させることで、MS/MS プロダクトイオンのスペクトルが得られ、プリカーサーイオンの割り当ておよび同定に役立ちます。DDA サンプルの設定を最適化することで、マトリックスまたはバックグラウンドイオンのスイッチが入るのを最小限に抑えつつ、複雑なマトリックス内で適切な数のプリカーサーイオンが選択されるようにすることができます。

上記で詳述したすべての取り込みモードを使用して緑茶サンプルを分析した場合。ターゲット/半ターゲット:MRM、DDA、SONAR の各取り込みモードにより、スペクトルの明瞭さが向上し、プロダクトイオン同定の信頼性が高まります。図 2 に、4 種類の分析モードでのエピカテキンの高エネルギースペクトルの比較を示します。ポジティブイオン化モード(図 3)では、対象分析種は主に m/z 123.1(式 C7H7O2)、m/z 139.0(式 C7H7O3)、m/z 147.0(式 C9H7O2)、m/z 165.0(式 C9H9O3)にフラグメント化します。すべての分析モードで、すべてのフラグメントイオンが観測されました。ただし、MSE 取り込みモードでは、共溶出する分子種のフラグメンテーションにより、その他のイオンが多数生じています。これらは、取り込み時のチューンパラメーターのオプションとして使用できるバックグラウンド減算機能で減少します。四重極でプリカーサーフラグメントイオンが分離される取り込みモードでは、共溶出するピークによる干渉が低減または排除されます。

MSE 取り込みモードは、未知化合物のスクリーニングに最適なモードです。SONAR Tof MRM 分析および DDA 分析では、高エネルギースペクトルの複雑さが減少し、バックグラウンドの分子種または共溶出する(m/z が異なる)分子種から生じるイオンが除去されるため、これらのモードはターゲット/半ターゲット分析に適しています。

図 2.エピカテキンプリカーサー(m/z 291.1 Da)プリカーサーの MSE、MRM、DDA、SONAR 分析を示す高エネルギースペクトル。スペクトル A(赤)は対象分析種の MSE 高エネルギースペクトル、スペクトル B(緑)は対象分析種の SONAR 高エネルギースペクトル、スペクトル C(青)は対象分析種の MRM 高エネルギースペクトル、スペクトル D(紫)は、対象分析種の DDA 高エネルギースペクトルを示します。
図 3.エピカテキンプリカーサー(m/z 291.1 Da)プリカーサーのフラグメンテーションパターンを示す予想高エネルギースペクトル(MRM)

結論

Xevo G3 QTof プラットホームは、天然物スクリーニングアプリケーションの強力なソリューションになります。

さまざまな取り込みモードにより、問われている内容に応じて分析者は柔軟に対応できます。既知の化合物にターゲットを絞った実験であっても、複雑なサンプルの包括的スクリーニングであっても、このプラットホームによってそれぞれに適した種類の実験が行えます。

ソフトウェアプラットホームの選択肢により、ラボの環境、アプリケーション、またはユーザーの要件に基づいて、カスタマイズされた操作が可能になります。新規の StepWave 設計により、対象化合物の脆弱性に基づいて透過を最適化することができ、ターゲットの分析種に対する感度が確実に向上します。Xevo G3 QTof 質量分析計には、優れた質量精度・感度、広いダイナミックレンジに加えて、効果的な天然物分析に必要なすべてのツールが備わっています。

参考文献

  1. Pinto, G; Illiano, A; Carpentieri, A; Spinelli, M; Melchiorre, C; Fontanarosa, C; Di Serio, M; Amoresano, A. Quantification of Polyphenols and Metals in Chinese Tea Infusions by Mass Spectrometry, Foods 9(6):835; June 2020.
  2. Younes, M; Aggett, P; et al.EFSA Panel on Food Additives and Nutrient Sources added to Food (ANS), Scientific Opinion on the Safety of Green Tea Catechins, EFSA Journal 16(4); April 2018.
  3. Lisa Reid, David Pickles.Improved Transmission of Labile Species on the Xevo™ G3 QTof Mass Spectrometer with the StepWave™ XS, Waters Application Note 720007794, November 2022.

720008021JA、2023 年 8 月

トップに戻る トップに戻る