StepWave™ XS を搭載した Xevo™ G3 QTof 質量分析計による不安定な分子種の透過率の向上
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要約
質量分析計のイオン光学系内で不安定なイオンの望ましくないフラグメンテーションが発生すると、分析種イオンの透過率が低下し、誤解を招く MS スペクトルが生成される可能性があります。これは、アッセイの検出下限、データベース検索、構造解析に悪影響を及ぼす可能性があります。この課題に対処するため、Xevo G3 QTof には、シグナル透過率を最大 22 倍向上できる新しい種類の StepWave XS イオンガイドが搭載されています。「ソフト透過」モードを使用すると、この評価で実証した化合物由来の特定の壊れやすい分析種について、この改善を最大 57.8 倍までさらに向上できます。イオン透過率が増加すると、感度およびインタクト分析種対フラグメントイオン比が大幅に向上し、分析種イオンの検出と構造確認の両方が向上します。
利点
新規の StepWave XS イオンガイドの採用の結果、不安定な分子種の透過率が改善され、その結果として、感度およびインタクト分析種対フラグメントイオン比が向上することが実証されます。StepWave XS での不安定な化合物の透過率に関して最適化されたパラメーターがバリデーションされ、既定のパラメーターからの簡単で迅速な移管に対応します。
はじめに
精密質量分析は、成分をプロファイリングし、個々の分析種を同定するために、医薬品の QC、プロテオミクス、メタボロミクス、天然物、薬物代謝、環境モニタリング、法医中毒学、食品分析など、多くの分野で、不安定な化合物の分析に広く使用されています。これらのアプリケーション領域すべてでは、低分子医薬品、薬物代謝物、農薬、内因性生体分子など、顕著な意図しないフラグメンテーションを示すことがある分析種を検出し、構造解析するために、感度と特異性が非常に重要です。
意図しない分析種のフラグメンテーションは通常、イオン源から質量分析計へのイオン移動の間に与えられたエネルギーによって引き起こされる、不安定な分子結合の解離によって発生します。このフラグメンテーションにより、インタクトな分析種イオンシグナルが減少または完全に消失することがあり、主要分析種の誤同定が発生する可能性があります。他の市販の QTof 質量分析計を使用してこれらの不安定な化合物を確認または定量するには、対象の分析種(プリカーサー)イオンではなくプロダクトイオンを波形解析する必要があり、分析種の同定や定量を確信を持って行えない場合があります。
Waters Xevo G3 質量分析計(図 1)には、不安定なイオンのインタクトな透過を促進する新規設計である StepWave XS イオンガイドが搭載されています。ここでは、Xevo G3 QTof では、既定の StepWave XS 設定であっても、以前のイオン移動光学系設計の QTof 装置と比較して、不安定な分析種のフラグメンテーションが大幅に減少することを実証します。「ソフト透過」モードに合わせて StepWave XS の設定を調整して、意図しないフラグメンテーションの影響をさらに低減し、分析種イオンの検出が向上する機能についても説明します。
結果および考察
LC/MS 分析での StepWave XS イオンガイドのメリットを評価するため、フラグメンテーションの疑いがあることが既知の低分子化合物の混合液を、Xevo G3 QTof と旧世代の Xevo G2-XS QTof の両方で分析しました。選択した分析種が以下にリストされています(表 1)。
- 低分子医薬品:アンフェタミン、ノルセトラリン、イブプロフェン、アスピリン。
- 農薬:クロロプロファム。
- 内因性化合物:25-ヒドロキシビタミン D3。
これらの被験化合物を逆相クロマトグラフィーグラジエントを用いて分析し、ポジティブおよびネガティブのイオン化 MS モードで検出しました。評価は、既定の StepWave チューンパラメーターを使用する以前の StepWave 設計(Xevo G2-XS QTof)を採用した QTof 装置、および既定の StepWave XS チューンパラメーターおよび最適化された「ソフト透過」チューンパラメーターを使用する、Xevo G3 QTof で行いました(表 2)。各動作モードの各装置に被験溶液を 6 回注入し、プリカーサーイオンの平均ピーク面積値を各分析モードについて測定しました。
既定のチューンパラメーターを使用した場合、Xevo G3 QTof では、Xevo G2-XS QTof と比較して、すべての分析種についてインタクト分析種イオンのレスポンスの大幅な向上が観察されました。この改善は化合物によって異なり、イブプロフェンのプリカーサーピーク面積での 3.9 倍増からアンフェタミンのプリカーサーピーク面積での 22.7 倍増までにわたりました。さらに、Xevo G3 QTof の StepWave XS のチューン設定を「ソフト透過」用に最適化した場合、Xevo G3 QTof を既定の StepWave XS チューン設定で操作した場合と比較して、試験したすべての分析種で、インタクト分析種イオンのレスポンスがさらに向上しました。このインタクト分析種イオンのレスポンスのさらなる向上により、Xevo G3 QTof でのプリカーサーピーク面積が、Xevo G2-XS QTof の場合と比較して、5.6 倍 ~ 57.8 倍に全体的に増加しました(図 2)。
不安定な分析種のピーク面積レスポンスの増加をモニターするだけでなく、意図しないフラグメンテーションを分析種イオンに対する割合として評価できました。このフラグメンテーション値は、インタクト分析種のプリカーサーイオンのレスポンスの、プリカーサーイオンおよびフラグメントイオンのトータルイオンレスポンスに対する割合として計算しました(プリカーサー/(プリカーサー+フラグメント)× 100)。この計算を使用して、Xevo G3 QTof では、Xevo G2-XS QTof と比較して、試験した 6 種類の分析種のうち 5 種類で、分析種のプリカーサーイオンのフラグメンテーションが著しく少ないことがわかります。イブプロフェンは、フラグメントイオンと比較して高いプリカーサーイオンシグナル(> 50%)を両方の装置ですでに示しており、Xevo G3 QTof で分析しても改善が見られない唯一の分析種です。
分析した化合物はすべて、Xevo G3 QTof で「ソフト透過」チューンパラメーターを使用して分析した場合、インタクト分析種のイオン強度が、合計のトータルイオンシグナルと比較して向上していることが示されました。ノルセルトラリンでは、「ソフト透過」パラメーターを使用する Xevo G3 QTof を使用した場合、Xevo G2-XS QTof の従来のイオン光学系と比較して 20 倍超の増加(0.7% から 20.3% に相当)が示されました。2 つの化合物クロロプロファムおよびアスピリンでは、分析して 99% 以上のフラグメンテーションが示されました。フラグメンテーションは顕著なままですが、Xevo G3 QTof で「ソフト透過」チューンパラメーターを採用した場合、これらの分析種のいずれでもインタクトプリカーサーイオンシグナルのわずかな向上が示されました(図 3)。
結論
不安定な化合物は、質量分析計のイオン源およびイオン光学系でフラグメンテーションを受ける可能性があり、このことが、ピークの検出、アッセイでの感度の限界、データベース検索、構造解析に悪影響を及ぼすことがあります。Waters StepWave XS の設計により、質量分析計のイオン光学系内での不安定イオンの望ましくないフラグメンテーションが軽減されることが示されています。本研究では、不安定な化合物のインタクトな分析種イオンの実験により、Waters StepWave XS イオンガイドによって、不安定な化合物のインタクト分析種イオンの透過率が、特に「ソフト透過」モードを使用してパラメーターを最適化する場合に、大幅に改善されることが実証されています。StepWave テクノロジーの詳細については、ドキュメント StepWave - Enhancing MS Sensitivity and Robustness(『StepWave - MS の感度と頑健性の向上』)(720004175)を参照してください。
試験した 6 種の不安定な化合物のうち、4 種はポジティブイオン化モードで最も効率的にイオン化され、2 種はネガティブイオン化モードで最も効率的にイオン化されました。このデータセットで分析した化合物の大部分で、「全体の」合計イオン強度と比較して、インタクト分析種のイオンシグナルの向上が実証されました。注入したすべての分析種で、StepWave XS を使用したレスポンス抽出イオンクロマトグラム(XIC)でのプリカーサーイオンのピーク面積が、以前の StepWave 設計と比較して、大幅に向上しました。すべての分析種で、最適化した「ソフト透過」 StepWave パラメーターを使用して Xevo G3 QTof で分析した場合も、既定の StepWave 設定と比較して向上していることが示されました。
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720007794JA、2022 年 11 月