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新規合成オピエートに対する迅速な対応:RADIAN™ ASAP 押収薬物ライブラリーの最新情報

新規合成オピエートに対する迅速な対応:RADIAN™ ASAP 押収薬物ライブラリーの最新情報

  • Emily Lee
  • Jane Cooper
  • Michelle Wood
  • Waters Corporation

法医学目的のみに使用してください。

要約

新規向精神薬(NPS)またはデザイナードラッグの同定は、法医学ラボおよび薬物化学ラボが直面する主要な課題の 1 つです。最近、合成オピオイド、特にベンゾイミダゾール由来のオピオイドが、毒性学サンプルおよび押収薬物サンプルから検出されたという報告がありました1。これらの化合物の増加は、その効力により公衆衛生上の懸念を引き起こしています。現在、多くの薬物化学ラボでは、これらの化合物のルーチン試験が実施されていないため、サンプル中のベンズイミダゾールの同定には課題がありました。

ウォーターズでは以前に、RADIAN™ ASAP を使用した押収物質の迅速スクリーニングについて説明しました2。 最近、このライブラリーが拡張され、12 種類のベンゾイミダゾールのデータが追加されました。これにより、薬物化学ラボにおいてこれらの物質をルーチンでスクリーニングして、使用、密売、流通の管理を支援することができます。   

アプリケーションのメリット

法医学ラボや薬物化学ラボで RADIAN ASAP を使用して、新規のベンゾイミダゾールをスクリーニングできるようになります。

はじめに

最近では、NPS およびデザイナードラッグの数と種類が大幅に増加しています。増加の勢いと、潜在的な有害性が、世界的な懸念事項となっています1。 法医学ラボや薬物化学ラボに対しても、変化し続ける違法薬物市場のトレンドに対応するという圧力がかかっています。

新たに出現した薬物クラスは合成オピオイドであり、特にベンゾイミダゾールの構造クラスのものです。毒性学サンプルおよび薬物押収サンプルの両方でこれらの物質が同定されていることから、ベンゾイミダゾールが違法薬物市場を通じて乱用されていることを示す証拠があり、これらの化合物の使用は医薬的に承認されていません1。2020 年に、欧州薬物・薬物依存監視センター(EMCDDA)がベンゾイミダゾール系のイソトニタゼンに関する情報を受け取った結果、欧州において潜在的脅威に関する懸念が生じ、2020 年 5 月にはこの物質に限定したリスク評価が行われました3。これ以降、その他 9 種の化合物が、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の早期警戒報告プログラムに報告されました4。 これらの新しいオピオイドは、モルヒネやフェンタニルよりも数倍強力であると推定される強い鎮痛作用を持つため、健康に悪影響を及ぼし、死に至る可能性があることから、その増加は公衆衛上の懸念を引き起こしています5,6

違法薬物の使用、密売、および NPS の流通の管理の制限要因として、ラボで新規化合物のルーチンスクリーニング分析が十分行われていないことが広く報告されています3,7。 このことが、これらの化合物を同定して、早期警戒プログラムに報告する上での課題になっています。そのため、新規ではやりの分析種についての分析法を迅速に更新することができると、薬物化学ラボにとって大きなメリットになります。最近、ウォーターズでは、RADIAN ASAP の押収薬物のレファレンスライブラリーに新しい化合物を追加する方法を説明しました(図 1)。このプロセスは、ベンゾイミダゾール系のイソトニタゼンを使用して説明されました8。 本研究では、拡張したライブラリーを追加の 11 種のベンゾイミダゾールの分析に使用する方法を実証しています。これにより、薬物化学ラボは、これらの物質をルーチンでスクリーニングして、使用、密売、流通を管理するのを支援できます。 

図 1.  RADIAN ASAP レファレンスライブラリーに、新しい化合物を追加して更新する手順のサマリー

実験方法

12 種類のベンゾイミダゾール化合物の認定標準物質(CRM)は、Cayman Chemical(米国ミシガン州)から入手しました。CRM は 1 mg の固体として提供され、それぞれを 1 mL のメタノールに溶解して、個別の 1 mg/mL のストック溶液を調製しました。分析前に、CRM ストック溶液をメタノールで濃度 50 µg/mL に希釈しました。データは、12 種類のベンゾイミダゾールが含まれるように以前に更新されたレファレンスライブラリーと照合しました。

RADIAN ASAP で「浸漬と検出」のサンプリング手順を使用して、データを取り込みました2。 すべての分析種について、ポジティブイオン化モードでデータを取り込みました。m/z 50 ~ 600 の範囲にわたってコンティナムモードでフルスキャン MS を使用して、質量検出を行いました。データは、プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンを含むスペクトルフィンガープリントを生成するために、4 つの異なるコーン電圧(15、25、35、50)で取り込みました。

押収薬物のルーチン分析に使用される LiveID™ ライブラリー検索ソフトウェアにより、取り込まれたスペクトルとレファレンスライブラリースペクトルの間でスペクトルマッチが実行されます。ソフトウェアは、各コーン電圧で取り込まれたデータに対してリバースフィットモデルを使用して、平均マッチスコア(最大 1000)を計算します。サンプルが陽性と見なされるレポートのカットオフ値として、マッチスコア 850 が使用されました。 

結果および考察

LiveID ソフトウェアと更新された押収薬物ライブラリーを組み合わせて使用することで、データを解析しました。分析された物質には、イソトニタゼン、エトニタゼン、クロニタゼン、メトニタゼン、フルニタゼン、エトデスニタゼン、メトデスニタゼン、プロトニタゼン、ブトニタゼン、N-ピロリジノエトニタゼン、イソトデスニタゼン、AP-237 が含まれています。ライブラリーの更新後に再分析したところ、12 種の化合物すべてについて、900 を超えるマッチスコア(924 ~ 999 の範囲)が得られました。図 2 に、フルニタゼン CRM について得られた LiveID データの例が示されています。 

図 2.  フルニタゼン CRM の再分析での LiveID 分析。パネル A に、フルニタゼン標準物質の「浸漬と検出」の 3 回繰り返し分析と、2 回目の 3 回繰り返しで得られたマッチ係数 962 が示されています。パネル B に、各コーン電圧で取り込んだサンプルと新しいライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細が表示されています。 

ライブラリーに追加された 12 種類のベンゾイミダゾールのうち、イソトニタゼンとプロトニタゼンの 2 種類は異性体です。これらの分析種を個別に分析したところ、両方の分析種のマッチスコアが 850 を超えており、陽性のマッチとして返されました(図 3)。 

図 3.  イソトニタゼン CRM の LiveID 分析。パネル A に、イソトニタゼン標準物質の 3 回繰り返し分析と、2 回目の 3 回繰り返しで得られたマッチ係数 970(イソトニタゼン)および 962(プロトニタゼン)が示されています。パネル B に、イソトニタゼンについての、取り込んだサンプルおよび新しいライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細が示されています。パネル C には、プロトニタゼンについて取り込んだサンプルおよび新しいライブラリーエントリーのスペクトルマッチの詳細が示されています。 

RADIAN ASAP の画面ではこれら 2 つの異性体を区別することができませんでしたが、必要に応じて、クロマトグラフィー分離を利用する手法を続いて適用することで、区別ができます。例えば、UPLC 分離と TQS-micro タンデム質量分析計の組み合わせに基づく Waters™ MRM ベースのスクリーニングメソッドを適用すると、0.4 分を超えるクロマトグラフィー保持時間の差により、これら 2 つの物質を明確に区別できます9

結論

RADIAN ASAP および LiveID で使用する押収薬物のレファレンスライブラリーは更新され、12 種類のベンゾイミダゾール類が追加されました。押収薬物のレファレンスライブラリーは、Waters Marketplace の LiveID resources(LiveID リソース)セクション(https://marketplace.waters.com/apps/170156/liveid#!resources)からダウンロードできます。ライブラリーにこれらの分析種を追加することにより、LiveID を搭載した RADIAN ASAP でスクリーニングできる NPS(特に合成オピオイド)の数が増加します。これにより、新規ではやりの合成オピオイド物質に対応するよう、スクリーニングメソッドを最新の状態に保つことができます。 

参考文献

  1. Eupean Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction (2020). New psychoactive substances: global markets, global threats and COVID-19 pandemic. An update from the EU Early warning System (December 2020), Publications of the European Union, Luxembourg. https://www.emcdda.europa.eu/publications/rapid-communication/new-psychoactive-substances-global-markets-glocal-threats-and-covid-19-pandemic_en (accessed 24 Aug 2022).
  2. Wood M. Radian ASAP with LiveID – Fast, Specific, and Easy Drug Screening.Waters Application Note. 720007125, 2021.
  3. Evans-Brown M., et al. EMCDDA Technical Report on the New Psychoactive Substance N,N-diethyl-2-[[4-1(1-methylethoxy)phenyl]methyl]-5-nitro-1H-benzimidazole-1-ethanamine (isotonitazene). https://www.emcdda.europa.eu/publications/initial-reports/isotonitazene_en (accessed 24 Aug 2022).
  4. Advisory Council on the Misuse of Drugs.ACMD report – A Review of the Evidence on the Use and harm of 2-Benzyl Benzimidazole (‘nitazene’) and Piperidine Benzimidazolone (‘brorphine-like’) Opioids.July 2022. https://www.gov.uk/government/publications/acmd-advice-on-2-benzyl-benzimidazole-and-piperidine-benzimidazolone-opioids/acmd-advice-on-2-benzyl-benzimidazole-and-piperidine-benzimidazolone-opioids-accessible-version (accessed 24 Aug 2022).
  5. Drug Enforcement Administration, Diversion Control Division, Drug and Chemical Evaluation Section, May 2022. https://www.deadiversion.usdoj.gov/drug_chem_info/benzimidazole-opioids.pdf (accessed 24 Aug 2022).
  6. Canadian Centre on Substance Use and Addiction.CCENDU Drug Alert Nitazenes.March 2022. https://www.ccsa.ca/sites/default/files/2022-03/CCSA-CCENDU-Drug-Alert-Nitazenes-2022-en_0.pdf (accessed 24 Aug 2022).
  7. Di Trana A, et al.Synthetic Benzimidazole Opioids: The Emerging Health Challenge for European Drug Users.Frontiers in Psychiatry. 13:858234.2022.
  8. Lee E, Cooper J, Martin N, Wood M. Updating the RADIAN ASAP seized drug reference library, Waters White paper, 720007838 2023.
  9. Mistry N.S, Cooper J, Wood M. Expansion of the MRM Toxicology Screening Methodology for use with Waters Xevo TQ-S Micro.Waters Application Note. 720007748. 2022. 

720007839JA、2023 年 1 月

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