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Xevo™ TQ Absolute のダイレクト注入アプローチを使用した、環境水サンプル中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の検出感度の向上

Xevo™ TQ Absolute のダイレクト注入アプローチを使用した、環境水サンプル中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の検出感度の向上

  • Kari L. Organtini
  • Stuart Adams
  • Waters Corporation

要約

さまざまな種類の水に対して、消費者保護のための規制が作られ、更新され続ける中で、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の検出要件がますます難しくなっています。PFAS 分析にダイレクト注入を使用するこのシンプルな分析法では、必要な性能基準を達成するために、非常に感度の高い質量分析計が必要になります。Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計の陰イオンの感度向上により、10 µL という少ないサンプル注入量で、分析法の性能に関して妥協することなく、PFAS 分析にダイレクト注入が利用できるようになりました。4 種の水サンプルマトリックス(飲料水、地下水、表層水、流入下水)で高い性能が示されています。33 種の化合物(カルボン酸塩 11 種、スルホン酸塩 10 種、プリカーサー 8 種、新規化合物 4 種)の分析法の検出限界が 0.8 ~ 2.0 ng/L の範囲と決定されました。

アプリケーションのメリット

  • 「直接希釈注入」アプローチを使用した最小限で迅速なサンプル前処理により、ラボのスループットが向上するとともにサンプル汚染の可能性を排除
  • ダイレクト注入アプローチを用いて Xevo TQ Absolute で分析することにより、環境水サンプル中の PFAS 定量における感度が向上
  • サンプル注入量の減少により、カラム寿命が延び、イオン源をきれいに保てると同時に、適切なクロマトグラフィーを確保

はじめに

PFAS の分析は現在、水質検査プログラムの重要な部分となっており、環境および食品のソースの日常的なモニタリングが要件になっています。規制が作られ、更新され続ける中で、分析法の感度に対する要件が不可欠になっています。固相抽出(SPE)は、サンプルを注入前に濃縮して分析法の感度を高めるために利用できるツールの 1 つです。別のアプローチとしてダイレクト注入があり、これは質量分析計の感度性能に依存します。PFAS 分析における選択肢として、ダイレクト注入がポピュラーになっています。それは、ダイレクト注入が迅速かつシンプルな前処理メソッドであり、ハイスループットな選択肢になります。更に、サンプルの前処理にあまり多くの溶媒やラボの消耗品を用いる必要がなくなり、サンプル汚染を大幅に低減でき、溶媒の廃液も削減できます。

Xevo TQ Absolute の陰イオンに対する感度向上により、環境サンプルにおける PFAS のダイレクト注入での定量可能範囲が拡がりました。従来の水サンプル中の PFAS の分析におけるダイレクト注入メソッドでは、目的の検出限界を得るために比較的大容量の注入(30 ~ 50 µL)が必要でした1,2。Xevo TQ Absolute を使用することで、わずか 10 µL の注入で、同様の性能が達成できます。注入量が減ることで、サンプルのローディングが減り、クロマトグラフィー性能が良くなり、カラム寿命が長くなり、イオン源のメンテナンスの頻度が少なくなります。このようなメリットにより、PFAS 分析におけるダイレクト注入メソッドがさらに簡単でシンプルになります。

分析法情報

サンプルはウォーターズアプリケーションノート 720006329 に記載されている希釈プロトコルを使用して調製しました1。 EPA 手順 EPA 821-R-16-006 に従い、試薬水で 10 回繰り返し調製し、分析法の検出限界(MDL)試験を実施しました3。 分析は、PFAS 分析キットを取り付けた ACQUITY™ UPLC I-Class PLUS システム FTN と Xevo TQ Absolute との組み合わせで実施しました。移動相は、(A)2 mM 酢酸アンモニウム水溶液、(B)2 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液で、以下のグラジエントを使用しました。

使用した質量分析計の設定は、ウォーターズアプリケーションノート 720006329 を参照してください。

結果および考察

分析法の検出限界(MDL)の計算値を表 1 に示します。注目すべき点として PFBA、PFPeA、および 6:2 FTS の MDL 値が、使用する溶媒中の特定の PFAS のバックグラウンド汚染により人為的に高くなっています。それがなければ、10 µL の水のダイレクト注入の MDL 範囲は、希釈前のサンプル濃度に対応する 0.8 ~ 2.0 ng/L です。

表 1. ダイレクト注入を使用し、調製した試薬水において決定した分析法の検出限界(MDL)

一部の化合物について、0.5 ~ 250 ng/L の範囲の溶媒の検量線を図 1 に示します。定量のための waters_connect™ ソフトウェアの MS Quan アプリケーションを使用したデータ解析により、データの視覚的表示とレビューが簡単にできます。この分析では、LLOQ 付近で 50% の偏差、曲線の残りの部分で 30% の偏差が許容されました。これらの値は、EPA PFAS 規制の分析法でみられる一般的なデータ品質許容範囲の例として使用しています。

図 1. 検量線の直線性およびキャリブレーション偏差を示す 4 種の PFAS 化合物のキャリブレーションデータ

Xevo TQ Absolute でこの分析法を使用して、複雑さがさまざまな水サンプル(飲料水、地下水、表層水、下水など)を評価しました。装置の感度を図 2 に示し、下水サンプル中に 5 つのレベルでスパイクした PFOS のクロマトグラムを示しています。この例では、最低スパイクレベルの分岐異性体および直鎖異性体の両方が検出され、検出限界付近でも、サンプル中のすべての異性体が正確に定量できています。さらに、図 3 では、約 120 サンプルのサンプルバッチにわたって 7 回注入した 10 ng/L CCV サンプルにおける分析法の性能の安定性が実証されています。濃度計算値の精度は、分析法におけるすべての化合物について RSD 10% 未満であり、その多くは 5% 未満でした。最後に、4 種の水サンプルで検出された PFAS の濃度を表 2 に示します。Xevo TQ Absolute で 10 µL 注入したところ、下水から 2 種の化合物が高濃度で検出され、定量した残りの PFAS も 5.0 ng/L 未満で確実に検出されました。

図 2. 流入下水中のさまざまなスパイク濃度の PFOS
表 2. Xevo TQ Absolute での試験により、水サンプル中に検出された PFAS の濃度。<LLOQ は確実な同定を表しますが、濃度がキャリブレーション範囲未満であったため、報告されていません。
図 3. 120 回の注入にわたるサンプルバッチでの n = 7 の注入(10 ng/L CCV)の計算濃度の精度(%RSD)

結論

水の汚染源から消費者を保護するための規制が作られ、更新され続ける中で、PFAS について要求される検出限界はますます低くなっています。PFAS 分析における迅速でシンプルな選択肢として、ダイレクト注入アプローチの人気が高まっています。このアプローチには、性能基準を達成するために、非常に感度の高い質量分析計が必要になります。また、目的の検出限界を得るためには大容量の注入が必要となります。Xevo TQ Absolute の陰イオンに対する感度向上により、大容量注入が不要になると同時に、分析法の性能を維持しながら PFAS 分析にダイレクト注入が利用できるようになりました。飲料水、地下水、表層水、流入下水において、Xevo TQ Absolute でのこのアプローチの性能が実証されました。33 種の化合物の分析法の検出限界が 0.8 ~ 2.0 ng/L の範囲内にあると判定されました。これらの水サンプルから検出された PFAS 濃度はわずか 1.2 ng/L でした。Xevo TQ Absolute の高い感度、ダイレクト注入、注入量の削減の組み合わせにより、迅速で正確、ハイスループットな PFAS サンプルの分析が可能になりました。また、さらなるメリットとして、通常の大容量注入アプローチと比較して、カラム寿命が延び、イオン源のメンテナンスを減らすことができます。

参考文献

  1. Organtini K, Cleland G, Rosnack K. Large Volume Direct Injection Method for the Analysis of Perfluorinated Alkyl Substances (PFAS) in Environmental Water Samples in Accordance with ASTM 7979–17.Waters Application Note 720006329, June 2018.
  2. Willmer H, Organtini K, Adams S. Routine Determination of Per- and Polyfluorinated Alkyl Substances (PFAS) in Drinking Water by Direct Injection Using UPLC-MS/MS to Meet the EU Drinking Water Directive 2020/2184 Requirements.Waters Application Note 720007413, October 2021.
  3. US Environmental Protection Agency.Definition and Procedure for the Determination of the Method Detection Limit, Revision 2.EPA 821-R-16–006.December 2016.

720007559JA、2022 年 3 月

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