本アプリケーションノートでは、最近開発された ASTM 7979-17 分析法(EPA Region 5、Lawrence B. Zintek 博士)を用いて、環境水中の対象の PFAS を分析する方法について説明します。これらの PFAS には、米国の規制に記載されている化合物だけでなく、他の文献に記載されている新規化合物(ADONA、9Cl-PF3ONS、11Cl-PF3OUdS)も含まれています。
Xevo TQ-XS で ASTM 7979-17 分析法を実行すると、以下が可能になります。
パーフルオロアルキル化合物(PFAS)は、その化学的特性により、さまざまな消費財および工業プロセスに見られる人為起源化合物の一種です。一般的な用途には、泡消火剤、殺虫剤、耐水性コーティング、床磨き、食品との接触が承認されている紙製品の耐油性コーティングなどがあります。PFAS は広く使用され、その後に材料から漏出することにより、広く拡散して環境中に頻繁に検出されるため、2009 年にストックホルム条約で残留性有機汚染物質(POP)に指定されました1。 難分解性、遍在性および潜在的な毒性により、世界中のほとんどの規制当局は、従来の一般的な PFAS および新しい短鎖 PFAS の代替物質の使用、発生、影響を綿密にモニターしています。
モニタリングおよび研究の目的のため、ng/L または part-per-trillion(ppt)レベルの PFAS の検出が必要になる場合がよくあります。米国国内の飲料水は安全飲料水法(Safe Drinking Water Act)で規制されており、その他の環境水は水質浄化法(Clean Water Act)で規制されています。飲料水に関する 3 番目の未規制汚染物質モニタリング規則(UCMR3)2 で、米国環境保護庁(EPA)は 6 種類の PFAS 化合物をモニターすることを要求しており、各化合物の最小報告レベルは 30~200 ng/L です。EPA は、PFAS の影響に関する利用可能な最良の査読済み研究に基づいて、急性毒性レベルを 70 ng/L とする健康勧告3を発表しました。EU 内では、飲料水は飲料水指令(Drinking Water Directive)98/83/EC に基づいて規制されており、その他の環境水は EC 水枠組指令(Water Framework Directive、WFD)2013/39/EU に基づいて規制されています4。WFD では、PFOS は「優先有害物質」として特定されています。
本アプリケーションノートでは、最近開発された ASTM 7979-17 分析法(EPA Region 5、Lawrence B. Zintek 博士)5を用いて、環境水中の対象の PFAS を分析する方法について説明します。これらの PFAS には、米国の規制に記載されている化合物だけでなく、他の文献に記載されている新規化合物(ADONA、9Cl-PF3ONS、11Cl-PF3OUdS)も含まれています。多くの国が米国 EPA および他の機関にガイダンスを求めているため、できる限り多くの妥当な検出レベルの化合物を 1 回の分析で検出することが定められました。
現在、ASTM 7979-17 には 21 種の PFAS 化合物の分析が収録されており、分析法の付録に 10 種の化合物が追加検討中として記載されています。この分析では、さらに 8 種類の化合物を分析法に追加して、PFAS 分析種の総数を 39 としました。分析法に追加した 3 つの化合物は、ADONA、9Cl-PF3ONS(F-53B の主成分)、11Cl-PF3OUdS(F-53B の微量成分)などの新たに出現した PFAS 化合物です。表 1 に、この分析法に含まれるすべての PFAS 化合物の情報を示しています。すべての標準試料は、Wellington Laboratories 社(オンタリオ州の Guelph 市)から入手しました。
地下水および表層水の分析に使用される ERA(コロラド州の Golden 市)製の認証済み QC 標準試料(カタログ番号 731)を、この分析全体における装置の QC 評価に使用しました。標準試料には、12 種の PFAS 化合物が含まれています。混合液内の各化合物に対する認定値および QC 性能許容限界が、標準試料とともに提供されており、迅速かつ簡単に装置の QC 評価を実施できます。
要求される検出限界は ng/L の低濃度範囲にあり、また PFAS が広く使用されているため、サンプルの採取、前処理、そして分析における固有の課題に対処する必要があります。現場およびラボには、多くの一般的な PFAS 汚染源があります。採取現場では、テフロンを含む素材の衣服(耐水性衣服/上着)、プラスチック製のクリップボード、耐水性ノート PC、および化学薬品製アイスパックを使用しないように注意してください。ラボでは、いくつかの例を挙げると、付箋紙、特定のガラス製使い捨てピペット、アルミホイル、テフロンシール付きバイアルキャップ、LDPE 容器の使用を避ける必要があります。実際には、使用前にすべてのラボ備品を PFAS 汚染についてチェックすることを推奨します。クロマトグラフィーシステムからの汚染は避けることができません。そのため、システムからの影響を最小限に抑えるという目的で、UPLC システム用 Waters PFC 分析キット(製品番号:176001744)を使用しました。このキットは PFAS を含まない部品(従来のテフロンコートの溶媒ラインに替わる PEEK チューブなど)および、共溶出による分析ピークへの残留バックグラウンド干渉を遅らせることのできる PFC アイソレーターカラムで構成されています。PFC 分析キットの使用は簡単で迅速です6。
サンプルは、米国 EPA Region 5 により、共同研究開発契約 (EPA CRADA #884-16)に従って提供されました。提供されたサンプルには、試薬水、表層(河川)水、地下水、流入廃水および流出廃水が含まれています。各水サンプルには、ラボに送る前に低濃度および高濃度の PFAS 化合物(各濃度について 3 回繰り返し)をスパイクしました。各サンプルについてブランクも 2 つ受け取りました。
化合物の損失を避けるため、各水サンプルの全体(5 mL)を用いました。各サンプルに 160 ng/L の同位体標識サロゲート物質をスパイクしました(表 1 参照)。分析法の回収率を決定するために、サロゲート物質は前処理の前にサンプルに添加しています。次に 5 mL のメタノールを各水サンプルに添加し、2 分間ボルテックス混合しました。ポリプロピレン製 GHP フィルター(直径 25 mm、孔径 0.2 µm)の上にガラスフィルター(直径 25 mm、孔径 1.0 µm)を重ねた使い捨てポリプロピレンシリンジを用いて、10 mL のサンプル全体をろ過しました。ろ過後、酢酸 10 µL を各サンプルに添加しました。各サンプルのアリコートをポリプロピレン製オートサンプラーバイアルに移し、ポリエチレン製キャップ(製品番号 186005230)で密閉しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class (PFC キット取り付け) |
カラム: |
ACQUITY UPLC CSH Phenyl Hexyl 1.7 µm、2.1 × 100 mm |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
30 µL |
移動相 A: |
95:5 水:メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
時間 (分) |
流速 (mL/分) |
%A |
%B |
0 |
0.3 |
100 |
0 |
1 |
0.3 |
80 |
20 |
6 |
0.3 |
55 |
45 |
13 |
0.3 |
20 |
80 |
14 |
0.4 |
5 |
95 |
17 |
0.4 |
5 |
95 |
18 |
0.3 |
100 |
0 |
22 |
0.3 |
100 |
0 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード |
ESI- |
キャピラリー 電圧: |
1.0 kV |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1100 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
ソース温度: |
120 ℃ |
メソッドのイベント: |
15 分から 21 分まで廃液 |
各化合物のすべての MRM パラメーターを、MassLynx の QuanOptimize ツールを使用して最適化しました。QuanOptimize により、注入において個々の化合物に必要な親イオン、フラグメントイオン、コーン電圧、コリジョンエネルギーが自動的に決定されます。この分析法について QuanOptimize から生成された MRM の詳細は、付録表 A に記載されています。MassLynx サンプルリストに質量式または化学式を指定すると、QuanOptimize は QuanOptimize メソッドで指定されたコーン電圧とコリジョンエネルギーをステップスルーします。次にソフトウェアが結果を自動的に解析し、MRM トランジションおよび対応するコーン電圧、コリジョンエネルギーを含むレポートを作成します(図 1)。このツールにより、将来分析法に追加する必要のある新規化合物の MRM メソッドのパラメーターを、迅速かつ簡単に最適化することができます。
サンプル分析は ASTM 7979-17 に記載されているとおりに行いました。移動相の組成はわずかに変更しました。この分析では、アセトニトリルの代わりにメタノールを使用しました。また、両移動相に添加する酢酸アンモニウムの濃度は、公定分析法の 20 mM から 2 mM に減らしました。どちらの変更も、アセトニトリルへの酢酸アンモニウムの溶解度が懸念されるためです。これらの変更により、ピーク分離度やレスポンスなど、分析法の性能に悪影響を与えることなく、LC 分析法の頑健性が高まりました。すべてのネイティブな化合物および同位体サロゲート物質のクロマトグラムの重ね書きを図 2 に示しています。
サンプル分析法の感度を評価するために、分析法の検出限界(MDL)の分析を実施しました。さまざまな濃度の PFAS 分析種(表 2)と 80 ng/L のサロゲート標準溶液を試薬水にスパイクして、9 つのサンプルを繰り返し調製しました。すべてのサンプルは、分析前に前処理を行いました。MDL 値は以下の式を用いて計算しました。
MDL = SD x tn-1、ここで SD = n 回の繰り返しの標準偏差、tn-1 = 2.896(n-1 個のサンプルについての Student の t 検定値)
MDL 値はすべて ASTM 7979 の分析法で報告されている要求値を十分下回っており、本分析法がこの分析に適していることを示しています。テロマースルホン酸異性体 6:2 FTS の MDL 値は、サンプル調製に使用した溶媒中にこの化合物が混入していたため、計算できませんでした。残りの PFAS 化合物には、バックグラウンド干渉や汚染はありませんでした。ASTM 7979 の検量線の要件として、線形回帰の計算で 0.98 以上の R2 値が得られる必要があります。表 2 に示したように、すべての化合物がこの要件を満たしていました。PFOA および PFOS の検量線の例を図 3 に示しました。図 3 には、2.5 ng/L の濃度で注入した PFOA および PFOS のクロマトグラムも示しています。これは、これら 2 つの化合物について必要な報告限界の半分を達成できる感度を示しています。
ASTM 7979-17 分析法では、図 4 に概説されている合格基準に従ってコントロールサンプルを分析する必要があります。溶媒の汚染があった 6:2 FTS を除くすべての化合物は、コントロールの基準に合格しました。
両濃度でマトリックスを 3 回調製し、ASTM 7979-17 に準拠した分析法で分析しました。現在 ASTM 分析法に書かれている化合物のみを水サンプルにスパイクしました。さまざまな水サンプルにスパイクしたすべての PFAS 化合物が、高濃度および低濃度の両方のスパイクで検出されました。PFBA は 300 ng/L、PFPeA は 1,000 ng/L で低濃度スパイクおよび高濃度スパイクとしてそれぞれスパイクしました。4:2、6:2、および 8:2 FTS は、低濃度スパイクおよび高濃度スパイクとしてそれぞれ 1,200 ng/L および 4,000 ng/L でスパイクしました。他のすべての PFAS 化合物については、低濃度スパイクサンプルで 60 ng/L、高濃度スパイクサンプルで 200 ng/L でスパイクしました。図 5 に、表層(河川)水サンプルに低濃度の PFAS 化合物をスパイクした例を示します。
PFAS 化合物の回収率は、前処理と分析の前に、同位体標識のサロゲート標準品を用いて定量しました。サロゲート物質がない化合物については、保持時間と化学構造が近い化合物をサロゲート物質として使用しました。表 3 は、5 つの水サンプルにスパイクしたすべての PFAS 化合物の回収率を示しています。ASTM 7979 では、回収率は 70~130% の範囲である必要があります。PFTreDA、PFTriDA、FDEA を除き、分析法に含めたすべての分析種がこの範囲内でした。これらの化合物は、前処理したサンプルを用いて分析した場合、溶媒標準溶液と比較してレスポンスが強くなっています。この増強は、これらの化合物とサンプル中のマトリックス成分の共溶出と関連している可能性があります。必要に応じて、サロゲート標準品のマトリックスの回収率に基づくマトリックスマッチド検量線を用いて、サンプル濃度の補正を行うことができます。
この分析法は、付録表 B の %RSD の値で示されるように再現性もあります。すべてのマトリックスサンプルは 3 通りで処理し、これらを n=3 で解析しました。これらの値は、この分析法の再現性が十分であることを示しています。試薬水と地下水の単一サンプルも 20 回注入して、装置の再現性データを得ました(付録表 B の %RSD 値)。ここでも、6:2 FTS の溶媒汚染のため、分析法の繰り返し注入における正確な %RSD 値は計算できませんでした。ほとんどの場合、%RSD 値は 10% 未満に落ち、大半の化合物で RSD は 5% 未満でした。
720006329JA、2018 年 6 月