ACQUITY™ UPLC M-Class システムと SELECT SERIES™ Cyclic™ IMS の組み合わせを用いた、ナノスケール LC の再現性の検討
要約
ナノスケール液体クロマトグラフィー(LC)および質量分析(MS)は、卵巣癌細胞株に由来するトリプシン消化サンプルの大規模サンプルコホート内で、設定した間隔で注入された品質管理サンプルの分析で、優れた再現性を実現することが示されています。トラップカラムおよび分析カラムを搭載した ACQUITY UPLC M-Class システムを、イオンモビリティー機能を搭載した単一周回データ非依存分析(DIA)モードで動作する SELECT SERIES Cyclic IMS 質量分析計と組み合わせました。結果では、質量分析計と組み合わせたナノスケールクロマトグラフにより、優れた保持時間とシグナル強度の再現性が得られることが示されています。これは、統計分析のためのデータインテグリティが維持されるだけでなく、幅広いダイナミックレンジにわたって一貫したレベルでのタンパク質同定を可能にする要因です。
アプリケーションのメリット
- 信頼性の高いナノスケールのクロマトグラフィー
- イオンモビリティーの分離能
- 質量分析計の光学モード
- ダイナミックレンジ
はじめに
四重極飛行時間(Q-ToF)質量分析計は、探索的プロテオミクス実験において十分に確立されたツールです。これらの装置は、このような困難な課題であるサンプルの分析で成功するために必要な重要な特性である、感度、速度、高質量分解能を発揮します1。
プロテオミクスに特化した研究では通常、質量分析と組み合わせたナノスケールのクロマトグラフィーが、特に分析に使用できるサンプル量が限られている場合に、好ましい分析手法として採用されます。疾患に関与する可能性のあるバイオマーカーを調査する実験など、サンプルが多くのドナーに由来するものであることが一般的である場合があります。このような大規模なサンプルコホートを分析する際には、データ取り込みのダウンストリームで行われる統計分析に必要なデータインテグリティを維持するために、再現性のある頑健な測定に対する要件は極めて重要です。
このアプリケーションブリーフでは、大規模サンプルコホート内の品質管理サンプルとして注入した E. Coli トリプシン消化物標準試料の分析における、ACQUITY UPLC M-Class システムを使用し、イオンモビリティー機能を備えた DIA 取り込みモードで動作する SELECT SERIES Cyclic IMS を用いて測定を行う、ナノスケールクロマトグラフィーの使用について検討します。結果では、液体クロマトグラフィーと質量分析(LC-MS)の組み合わせによって、広範な試験で統計的に有意な結果を得るのに必要な性能が得られることが示唆されています。
実験方法
サンプルの説明
Waters MPDS E. Coli トリプシン消化物(製品番号:186003196)を 1 mL の水で希釈して、各注入で 100 ng を注入できる溶液を調製しました。
分析条件
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC M-Class システム |
トラップカラム: |
Symmetry™ C18、5 µm、180 µm × 20 mm(製品番号:186008821) |
分析カラム: |
HSS T3、1.8 µm、75 µm × 250 mm(製品番号:186008818) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
流速: |
300 nL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
トラップ条件: |
5 µL/分で 2 分、99% 溶媒 A |
グラジエント: |
90 分で 5% ~ 35% 移動相 B |
カラム平衡化時間: |
30 分 |
MS 条件 |
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MS システム: |
SELECT SERIES Cyclic IMS |
イオン化モード: |
ESI+ |
質量分解能: |
50,000 FWHM |
イオンモビリティー分解能: |
単一周回、65 FWHM |
取り込みモード: |
HDMSE |
取り込み質量範囲: |
50 ~ 2000 amu |
波形解析時間: |
0.5 秒 |
レファレンス物質: |
120 秒ごとにサンプリングした Glu フィブリノペプチド B |
キャピラリー電圧: |
3.2 kV |
トランスファー CE、機能 2: |
20-46 V |
コーン電圧: |
30 V |
データ管理 |
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MS ソフトウェア: |
MassLynx™ |
データ解析: |
ProteinLynx Global Server、Tibco Spotfire® |
データベース: |
Uniprot E. Coli - レビュー済み配列のみ |
偽発見率: |
4% |
結果および考察
癌細胞株のサンプルを 10 回注入するたびに E. Coli サンプルを分析し、これにより、E. Coli の注入の間の時間が約 24 時間離れました。このような注入の代表的なクロマトグラムが図 1 に示されています。実験の過程での E. Coli の総注入回数は 23 でした。このため、実験全体は合計 23 日を超えました。
それぞれの生データファイルを解析してデータベース検索した後、分析可能な測定基準に、保持時間、シグナル強度、質量精度を含めました。特に広範囲の試験で得られた実サンプルの注入は悪影響を与えると予想される可能性があるため、これらの測定基準それぞれについて再現性と頑健性が実証されていることから、より広範な分析試験で得られたデータに強い確信を得ることができます。
95 分間のクロマトグラフィー溶出スペースにわたるさまざまなポイントで溶出した 5 種類のペプチドに焦点を合わせると(図 2)、ルーチンに得られる保持時間の測定での変動係数(CV)が 1% であることが示されています。強度の異なるさまざまなペプチドのデータを箱ひげ図に抽出すると(図3)、強度の再現性も CV 20% 未満で一貫しています。
質量分析計の性能が、すべての検索結果から生成された 275,000 のペプチドの質量測定値の質量精度の分布によって強調されており(図 4)、82% が質量対電荷の理論値の +/-2 ppm 以内であることがわかりました。
データベース検索結果から得られるタンパク質およびペプチドの同定率に関するデータベースの検索結果は、特に大規模試験内の注入を考慮する場合に、測定の一貫性にとって重要です。図 5 で強調されているのは、実験全体にわたるこれらのプロットであり、各注入に対するタンパク質同定率は約 1,100 で、ペプチドでは 22,000 程度です。タンパク質のシーケンスカバー率は、ペプチド同定の再現性の尺度であり、図 6 でカバー率が 55% ~ 93% の 12 のタンパク質が強調されていますが、これらの変動係数は 3 ~ 5% です。タンパク質同定の再現性は優れており、23 回の注入のうち少なくとも 17 回で同じ 1000 の同定が見られます(図 7)。これらのタンパク質同定に関連するフラグメントイオンの強度の合計は、4 桁の強度のダイナミックレンジにわたっていることがわかりました(図 8)。
結論
SELECT SERIES Cyclic IMS 質量分析計と組み合わせた、ナノスケールカラムを搭載した ACQUITY UPLC M-Class システムによって、優れた保持時間、シグナル強度の再現性、質量精度が得られることが実証されています。これらのデータは、23 日間の実験の過程で注入された品質管理標準試料から得られたデータの分析から生成されました。これらのファクターの測定の頑健性により、幅広いダイナミックレンジのシグナル強度にわたって一貫したレベルのタンパク質同定が行われ、より広範な卵巣癌のサンプル測定の統計的妥当性が補強されました。
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参考文献
- Chris Hughes, Lee A. Gethings, Robert S. Plumb, Qualitative and Quantitative Performance of Cyclic IMS in Nanoscale Proteomic Experiments’. Waters Application Note, 720007381 2021.
720007691JA、2022 年 8 月