• アプリケーションノート

ソフトイオン化 ACQUITY QDa 質量検出を用いたバイオベースプラスチックからの揮発性有機化合物のダイレクトリアルタイム分析

ソフトイオン化 ACQUITY QDa 質量検出を用いたバイオベースプラスチックからの揮発性有機化合物のダイレクトリアルタイム分析

  • Rachel Sanig
  • Jan-Christoph Wolf
  • Cristian Cojocariu
  • Waters Corporation
  • Plasmion GmbH

要約

このアプリケーションブリーフでは、Plasmion SICRIT コールドプラズマイオン源を Waters ACQUITY QDa 検出器に接続して使用し、バイオプラスチック袋の揮発性有機物のプロファイルをリアルタイムで直接評価できることを取り上げています。この装置システムのセットアップでは、必要なサンプル前処理を最小限に抑え、分析の速度、信頼性、柔軟性が重要な鍵を握るプラスチック製品検査の生産性の向上を可能にする、費用対効果の高い直交分析について実証しています。さらに、分析装置の設置面積が小さいことは、ラボ分析においてメリットとなります。

アプリケーションのメリット

原材料および最終製品中の潜在的な有害物質と不快な臭いの品質管理のための、リサイクルプラスチックまたはバイオベースプラスチック中の揮発性有機化合物のリアルタイムのダイレクト分析

はじめに

プラスチックの 99% が化石燃料に由来する化学物質から作られている現在、環境に優しい材料の人気がますます高まり、プラスチック包装材に持続可能なソリューションを採用する消費財製造者が増加しています。有望なソリューションの 1 つとして、有機資源由来または植物ベースの再生可能な材料から合成するバイオベースのプラスチックが挙げられます。このような材料の主な利点は、ほとんどがリサイクル可能、堆肥化可能、あるいは比較的短い分解時間で生分解することです。結果として、バイオベースプラスチックは、石油ベースのプラスチックと同じ応用が可能で、非生分解性フィルムや使い捨てプラスチックと置き換わる可能性があります。ただし、このような利点があるものの、原材料の最適な組み合わせを選択的かつトータルに特定し、得られたバイオベースプラスチックの適切な物理化学的特性を最適化するには、さらなる研究が必要です。

バイオベースプラスチックの製造に関わるケミカルプロセスを理解するための重要な分析法の 1 つとして、材料中の揮発性有機化合物(VOC)の分析が挙げられます。多くの場合、この種類の分析により、加工中や望ましくない条件における熱分解の原因となるケミカルプロセスを解明することができます。バイオベースのプラスチックは、従来のプラスチックよりも通常、安定性が低く、拡散バリアが低いため、従来のプラスチックと同様、添加剤(可塑剤など)や多くのケミカルの添加が必要になります1。 これらのケミカルが包装から消費財に移り、揮発性の悪臭のする物質を放出させ、健康リスクを課したり、製品の品質を変化させる場合があります2。 最終製品中に存在する VOC の迅速なリアルタイムプロファイリングにより、不快な悪臭、または潜在的に有害な揮発性化学物質の原因となる化合物を特定することができます。従来、VOC プロファイリングは、静的ヘッドスペース、ダイナミックガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)または反応質量分析を使用して行います。ただし、このような手法にはサンプル前処理が必要で、費用が高くなり、ラボにおける設置面積が大きくなる場合があります。

このアプリケーションブリーフでは、新規分析アプローチを使用し、Plasmion GmbH のコールドプラズマイオン源と組み合わせた Waters ACQUITY QDa 検出器を使用して、複数のバイオベースプラスチック袋の揮発性有機プロファイルをリアルタイムで直接評価しています。

実験方法

サンプル前処理

市販の 3 種類のバイオベースプラスチック袋(BIOTEC GmbH &Co. KG)を、細かく切断した以外は前処理なしで、同一の重量になるようにそれぞれ別々のサンプルバイアルに入れ、3 回繰り返しで直接分析しました(表 1)。

表 1.バイオベースプラスチック袋の切断

分析セットアップ

使用した分析装置は、Chemical Reaction In Transfer (SICRIT)イオン源(Plasmion GmbH、ドイツ)によるソフトイオン化と組み合わせた Waters ACQUITY QDa 検出器でした(図 1)。この構成により、サンプルをイオン源の前に保持するだけで、サンプルの化学成分を直接検出できる、取り扱いやすく設置面積の小さい分析ツールが実現します。このプロセスでは、化学成分は質量検出器内の負圧によって直接イオン源に送り込まれ、移動の間にイオン化されます。インレットキャピラリーで低温のリング状のプラズマを生成することによって、イオン化が発生します。分析種が質量検出器に移動する途中でプラズマのリングを通過し、反応性分子種と紫外線照射によってイオン化または電荷トランスファーが起きます。分析種はプラズマに直接接触しないため、SICRIT は「ソフト」イオン化法です。すなわち、分析種はフラグメント化せず、インタクトのままです。さらに、イオン化により主にプロトン化した [M+H]+ 分子種が生成し、化学物質の分子イオンの同定が容易になります3
。 このセットアップで、切断したサンプルが入ったバイアルを SICRIT イオン源の高さで 5 秒間保持することでサンプルを分析し、以下にまとめた条件下でデータを収集しました。サンプルバイアルから簡単に直接サンプリングできるように、SICRIT イオン源に小さなチューブを取り付けました。

分析条件

取り込みモード:

フルスキャン

質量範囲:

30 ~ 1250 Da

イオン化モード:

ESI+

キャピラリー電圧:

0.8 kV

コーン電圧:

30 V

イオン源温度:

100 ℃

プローブ温度:

40 ℃

図 1.Waters ACQUITY QDa 検出器に接続した Plasmion SICRIT

結果および考察

実験はまず、手順上のブランクを分析して VOC のバックグラウンドレベルを評価し、質量分析計のベースラインシグナルをベンチマークしました。次に、各バイオベースのプラスチック袋を 3 回繰り返し分析しました。トータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムの例を図 2[A] に示します。

各取り込みを平均したマススペクトルを評価することで、すべてのサンプルに存在する化合物が判明しました。これは m/z 141 の抽出イオンクロマトグラム(XIC)に見られ(図 2[C])、これを仮にプラスチック製の容器や袋に多く使用されているケミカル臭の原因である 8-ノネナールと割り当てます4。 SICRIT-QDa 分析により、この化学物質が 3 つのサンプルすべてに微量に存在し、サンプル C1 500(50% 超バイオベース)では、この化合物の量が他のサンプルよりも少ないことが示されました。これはおそらく、サンプル C2 400(40% 超バイオベース)および C3 GF 106/02(20% 超バイオベース)と比較して、サンプル C1 500 ではバイオベースのポリマーの比率が高いためと考えられます。

データをさらに調査すると、m/z 147 の抽出イオンクロマトグラム(XIC)において、分析したバイオベースのプラスチック袋のサンプル間に顕著な差があることがわかりました(図 2[B])。

図 2.[A] 3 回繰り返しで取り込んだブランク試料と 3 種のプラスチック袋のトータルイオンクロマトグラム(TIC)。[C] 8-ノネナール(m/z 141、[M+H]+)の抽出イオンクロマトグラム(XIC)、および [B] m/z 147、[M+H]+ の XIC。分析したバイオベースのプラスチック袋サンプル間に差があることを示しています。

可塑剤化合物である可能性が高い化合物(m/z 147)は、C1 500 および C2 400 サンプルでは最も存在量が多く、C3 GF 106/02 サンプルには存在しませんでした。このことは XIC を重ね描きした図 3 で明らかです。興味深いことに、サンプル C3 GF 106/02 は製造者の記載によれば可塑剤を含まないとされており、この結果と合っています。

図 3.この化合物がサンプル C1 500 および C2 400 に存在量が多く、サンプル C3 GF 106/02 には存在しないことを示す m/z 147 の XIC の重ね描き

結論

これらの予備試験の結果から、SICRIT ソフトイオン化と組み合わせた Waters ACQUITY QDa 検出器が、プラスチック袋などのバイオベースのプラスチック製品中の揮発性有機化合物のプロファイリングを目指す分析ラボにおいて、実行可能な選択肢であることが実証されました。この分析構成は、必要なサンプル前処理を最小限に抑え、プラスチック製品の検査の生産性を向上させることができる、費用対効果の高い直交手法であり、分析の速度、信頼性、柔軟性が重要な鍵を握る最終製品のバッチ間品質の品質管理チェックを目的としています。さらに、分析構成の設置面積が小さいことは、ラボでの分析においてメリットとなります。Waters ACQUITY QDa 検出器には内部キャリブレーション試薬が含まれており、シンプルな装置スタートアップ、および迅速で簡単なシステム操作を支援します。

参考文献

  1. Cecchi T., de Carolis C. “Assessment of the Safety of BioBased Products.”Chapter in: Biobased Products From Food Sector Waste.Springer, Cham.2021. DOI: 10.1007/978-3-030-63436-0_10.
  2. Osorio, J. “Comparison of LC-ESI, DART, and ASAP for the Analysis of Oligomers Migration From Biopolymer Food Packaging Materials in Food (Simulants).”Analytical and Bioanalytical Chemistry.2021. DOI: 10.1007/s00216-021-03755-0.
  3. M. Weber, J-C. Wolf, C. Haisch.Gas Chromatography–Atmospheric Pressure Inlet–Mass Spectrometer Utilizing Plasma-Based Soft Ionization for the Analysis of Saturated, Aliphatic Hydrocarbons, Journal of the American Society for Mass Spectrometry.2021 32 (7), 1707–1715. DOI: 10.1021/jasms.0c00476.
  4. Robert A. Sanders, David V. Zyzak, Thomas R. Morsch, Steven P. Zimmerman, Peter M. Searles, Melissa A. Strothers, B. Loye Eberhart, Amy K. Woo.Identification of 8-Nonenal as an Important Contributor to “Plastic” Off-Odor in Polyethylene Packaging, Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2005 53 (5), 1713–1716.DOI: 10.1021/jf048395j.

謝辞

Jan-Christoph Wolf - Plasmion GmBH
Rachel Sanig, Cristian Cojocariu - ウォーターズコーポレーション

720007504JA、2022 年 1 月

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