• アプリケーションノート

イオンモビリティー DIA UPLC/MS と Lipostar™ を用いた探索リピドミクスのための迅速ワークフロー型アプローチ

イオンモビリティー DIA UPLC/MS と Lipostar™ を用いた探索リピドミクスのための迅速ワークフロー型アプローチ

  • Nyasha Munjoma
  • Lee A. Gethings
  • Robert S. Plumb
  • Graham Mullard
  • Paolo Tiberi
  • Laura Goracci
  • Waters Corporation
  • University of Perugia
  • Molecular Discovery Ltd

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

イオンモビリティーを使用する高分解能質量分析計と、強力なワークフロー型インフォマティクスを組み合わせて使用した、表皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼドメインの選択的阻害剤であるゲフィチニブ投与後のマウスにおける肝臓リピドームの変化の特性解析について説明します。得られたデータにより、脂質代謝経路の調節異常が明らかになり、薬物投与後の経時的な軌跡において、投与グループではいくつかの LPC の存在量が増加し、PC の存在量が低下していることがわかりました。既知のがんの代謝経路と比較して調べたところ、このデータから、ホスホコリンの代謝経路が変化していることが示唆されました。

アプリケーションのメリット

  • シンプルで頑健な取り込み戦略により、以下が可能になります。
    1. 質が高く情報が豊富な包括的なデータを生成する
    2. 迅速な分析
  • シンプルでカスタマイズ可能なワークフロー
  • 以下を含む柔軟な脂質同定アプローチ:
    1. スペクトルマッチングアプローチ
    2. ハイスループットでボトムアップのアプローチであり、クラス固有のフラグメントイオンの認識に基づく
    3. 酸化分子種のハイスループットな同定
    4. m/z、CCS、保持時間の値の活用
  • 各種の多変量統計解析ツール
  • 定量ツールおよび経路解析ツール

はじめに

リピドミクスは急速に成長しているオミックスサイエンスの分野であり、これにより、疾患、治療、環境への曝露、ライフスタイルなどの結果としてのリピドームの変化を調べることができます。リピドームは複雑で、極性の遊離脂肪酸や LPC、LPE、スフィンゴミエリン、セラミドなどの極性が中等度の生理活性脂質からトリグリセリドやコレステロールエステルなどの非極性グリセロール脂質まで、1000 を超える脂質が含まれます。これらの脂質の分析は困難で、探索モードでは通常、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)と精密質量分析の組み合わせによって行われます。分析テクノロジーが開発されているにもかかわらず、対象の脂質の検出および同定は依然として重要な課題であり、主にデータ解析、データベース検索、脂質の同定を伴います。

今回、UltraPerformance LC™ を、イオンモビリティー質量分析および強力なワークフロー型の Lipostar 2 ソフトウェアと組み合わせて使用して、対象化合物の迅速で客観的、信頼性の高い探索を行うことの主なメリットについて紹介します。このアプローチのメリットは、様々ながんの治療に用いられる上皮増殖因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼドメインの阻害剤であるゲフィチニブの静注(IV)投与後のマウス肝組織の分析で得られたリピドミクスデータを使用して実証されています。今回、Lipostar と組み合わせた UPLC-IM-MS の主な機能とメリットを紹介します。得られたデータから、この薬物の投与後の経時的な軌跡を描くことにより、脂質代謝経路の調節異常が明らかになりました。

実験方法

試験設計

マウス肝サンプルは、ゲフィチニブの以前の薬物動態試験で使用したオスの C57Bl/6JRj マウスから採取しました1。この試験は、Evotec SAS(フランス、トゥールーズ)により、完全な管理監査の下で、国および EU のガイドラインに従って実施されました。簡単に説明すると、ゲフィチニブを 0.1% のポリソルベート 80 中の 0.5% ヒドロキシプロピルメチルセルロース HMPC 中に調合し、10 mg/kg の量を静注投与しました。肝サンプルは、投与前および投与してから 0.5、1、3、8、24 時間後に採取しました。

サンプル前処理

脂質は、肝サンプルから、Want らの論文 2012 [5] に概説されている手順に従って抽出しました2。 50 ~ 60 mg の組織を、シリカビーズをあらかじめ充塡した 1.5 mL チューブ中にサンプリングしました。このチューブに、250 倍希釈した純重水素化セラミド LIPIDOMIX™(Avanti、米国アラバマ州バーミンガム)、SPLASH LIPIDOMIX™(Avanti、米国アラバマ州バーミンガム)および 3,000 ng/mL のゲフィチニブ(d6)(Cayman Chemical、米国ミシガン州アナーバー)を含む 1 mL のジクロロメタン/メタノール(3:1、v/v)溶液を内部標準として加えました。組織は、均質化してから、得られた有機層をガラスバイアルに移し、窒素下で乾燥させました。抽出を最適化するため、残りのペレットに対してこの抽出手順を繰り返しました。

抽出物を乾燥させた後、1 mL の IPA/アセトニトリル(1:2、v/v)を加え、10 分間の超音波処理を行ってサンプルを再溶解し、続いて 5 分間遠心分離して残渣を除去しました。上清をマキシマムリカバリーバイアルに移し、LC/MS 分析を行いました。 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC I-Class フロースルーニードル(FTN)

バイアル:

品質保証ガラス製スクリューネックマキシマムリカバリーバイアル(製品番号:186000326c)

カラム:

ACQUITY Premier UPLC CSH C18、2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号:186009488)

カラム温度:

55 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

0.5 µL ESI+ および 2 µL ESI-

流速:

0.4 mL/分

移動相 A:

60% ACN、40% 10 mM 酢酸アンモニウム(v/v)

移動相 B:

90% IPA、10% ACN

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Waters™ SYNAPT™ XS

イオン化モード:

ESI(+/-)

キャピラリー電圧:

2.5 kV(+)、1.7 kV(-)

取り込みモード:

HDMSE

取り込み範囲:

50 ~ 1200 Da

コリジョンエネルギー:

直線ランプ(トランスファー CE) 25 ~ 45 eV

コーン電圧:

30 V

イオン源温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

550 ℃

コーンガス流量:

150 L/時間

脱溶媒流量:

1000 L/時間

脂質分析のための重要な TWIMS-MS 設定

ヘリウムセルのガス流量:

180.00 mL/分

IMS のガス流量(窒素):

90.00 mL/分

IMS 波速:

650 m/秒

IMS 波高:

40.0 V

結果および考察

脂質同定のプロセスでは、試験設計の開発、サンプル前処理、分析法、データ取り込み、データのコンポーネント化、分析後統計、データベース検索、薬物の代謝物構造推定(該当する場合)、成分のレビュー、得られた結果の生物学的側面、および最終的な報告が必要です。この問題に対処してスループットと正確さを改善するために、多くのアプローチが用いられています。この目的には、HDMSE が最適の解決策です。プリカーサーイオン、プロダクトイオン、衝突断面積(CCS)の情報が 1 つの方法で得られるためです。メタボロミクスおよびリピドミクスにおける最大の課題の 1 つは、「推定」バイオマーカーまたはいずれかの成分を正確に同定することです。これらの結果の質を保証するため、メタボロミクス品質保証・品質管理コンソーシアム(mQACC)や最近のリピドミクススタンダードイニシアチブ(LSI)などの多くのイニシアチブが展開されています3,4,5。データ取り込みと分析のプロセスを効率化するため、当社では、SYNAPT XS または SELECT SERIES™ Cyclic™ IMS 質量分析計などのイオンモビリティー質量分析計の特性を組み合わせたワークフローを開発し、データ分析は Molecular Discovery の Lipostar ソフトウェアで強化しました。ワークフローを下の図 1 に記載します。

図 1.   Lipostar ワークフローの概要

Lipostar ソフトウェアは、LC-MS/MS ベースのリピドミクスデータを処理するための包括的なソフトウェアツールであり、これにより、イオンモビリティー(HDMSE)および SONAR を含め、データ依存的測定(DDA)およびデータ非依存的測定(DIA)のデータセットなど、複数の種類の MS 取り込みを組み込むことができます。Lipostar ソフトウェアソリューションにより、生データのインポート、ピークの検出、脂質の同定、定量、統計解析、トレンド分析、フラックス分析、バイオパスウェイ分析が容易になります。安定同位体標識試験を含め、ノンターゲット実験およびセミターゲット実験の両方にこれを適用することができます。1 回の Lipostar 分析セッション内でさまざまなモードのリピドミクス分析を組み合わせることで、情報を増やし、脂質プロファイルのより包括的な分析を行うことができます。Waters UPLC-IM-MS システムと Lipostar アプリケーションソフトウェアを組み合わせた場合のパワーを実証するため、このプラットホームを使用して、オスの C57Bl/6JRj マウスにゲフィチニブを静脈(IV)投与した後の肝組織抽出物の分析を行いました。代表的なポジティブイオン・ネガティブイオン複合脂質クロマトグラムを図 2 に示します。

ピークピッキング/特性検索

高分解能装置を使用して生成されたウォーターズのデータファイル(.raw)を、最新バージョンの Lipostar である Lipostar 2 に直接インポートしました。[LC-MS Settings](LC-MS 設定)画面で、使用する LC-MS 装置に応じて既定の設定を選択することも、新しい設定をカスタマイズして保存することもできます。

図 2.  ゲフィチニブ投与マウスの肝抽出物のポジティブモード分析とネガティブモード分析のデータを、同じセッションにインポートすることができます

このインフォマティクスソリューションでは、ポジティブ極性モードとネガティブ極性モードのデータファイルを同じ分析セッションに追加することができ、サンプルの比較と多変量統計のために、手動で、または適切にフォーマットした .csv ファイルを使用して、ラベルを割り当てます。図 2 は代表的なデータセットで、ゲフィチニブ試験からの肝臓の脂質抽出物に関連するポジティブイオンおよびネガティブイオンのデータのインポートを示しています。両方の極性モードで使用するクロマトグラフィー条件は同じであるため、簡便な比較が可能になり、得られる同定の信頼性が向上します。Lipostar は、(1)ベースラインおよびノイズの低減、(2)ピーク抽出、(3)スムージング、(4)シグナル対ノイズ比、(5)脱同位体化およびデコンボリューションの 5 つのステップでデータ解析を行います[6]

アライメントおよび統計

ノンターゲットリピドミクスでは通常、大きなバッチからの複数のサンプルの脂質プロファイルを比較します。データ解析では、ピーク抽出に続いて、各分析サンプルの脂質プロファイリングを行い、所定の保持時間(m/z@tR)における一連の質量電荷比として最初に定義されます。この段階では、脂質の同位体ピークならびにさまざまな付加イオンに関連するピークはクラスター化されておらず、別個のものとして扱われます。次に、定義された脂質プロファイルをアライメントしてデータマトリックスを作成します。ここで、図 3 に示すように、行は分析したサンプル、列は m/z@tR のエントリーを表します。アライメントに続いて、同じ tR を有するピークに対して同位体パターンの列方向の検索が行われ、次にこれらのピークは 1 つのエントリーにまとめられます。

図 3.特性 760.5879@4.14(m/z@tR)に関連するマウス肝臓のデータマトリックスの例。分析したサンプルにわたってマージした MS スペクトルと MS/MS スペクトルが良好なアライメントを示しています。

得られた質量/電荷比 - 保持時間の対の特性テーブルについて多変量解析(MVA)を行い、データの基本的なパターンを明らかにすることができます。多変量解析のさまざまな教師なし(例:主成分分析(PCA)、コンセンサス PCA)アルゴリズムおよび教師あり(例:部分最小二乗(PLS、PLS-DA、O-PLS)アルゴリズムが Lipostar ソフトウェア内で使用できます。図 4 に、PLS-DA モデルから得られた MVA データ、およびネガティブモードデータを使用した S プロットを示します。このデータは、内因性脂質と薬物関連代謝物の組み合わせを使用して、データの明確な経時的軌跡を示しています。統計解析の視覚化と解釈、および頑健性の評価のためのさらに高度なツールも使用できます。例えば、統計目的で使用する変数(脂質)を選択する前に、頻度プロット(サンプル数に対する変数の発生頻度)を行うことができます。

図 4.  Lipostar 内で使用可能な統計ツールの例。ゲフィチニブ投与後のさまざまな時点での肝抽出物サンプルを用いた、ネガティブモードの PLS-DA(LV1 対 LV2)スコアプロット(左)および S プロット(右)を示します

同定と定量

前述のように、データベースを広く使用しても、推定される脂質を正確に同定することは非常に困難です。Lipostar での同定ワークフローは、Goracci らによって詳細に説明されています3。 簡単に説明すると、Lipostar 内で、脂質は通常 DB マネージャーモジュールを介して脂質の構造のデータベースをインポートまたは構築することによって同定されます。脂質の精密質量に加えて、保持時間、CCS 値などの追加情報をインポートすることができます。Lipostar でウォーターズのファイルを解析する場合、Waters Lipidomic Profiling CCS ライブラリーがあれば、これをインポートすることができます。最後に、データベース内の脂質構造は、DB マネージャーモジュールの規則ベースのアプローチにより、フラグメンテーションすることができます。文献または社内データからの実験的エビデンスに基づき、脂質の注釈における重要性に従って、いくつかのフラグメンテーション規則がラベル付けされます。例えば、フラグメンテーション規則は、「必須」(例:プロトン化したジアシルグリセロホスホコリンの m/z 184.074 のフラグメントを定義する規則)や「推奨」(最終スコアに大きく寄与するフラグメントマッチであるが、それ自体では脂質の注釈を明確に決定するのに十分ではない場合を指す)とラベル付けされることがあります。生成するフラグメントは重みにも関連しています(使用する装置条件に基づいてユーザーが調整可能)。

実験質量と理論質量の間の差(Δ ppm)、データベース(使用可能な場合)の MS/MS 値および CCS 値の組み合わせであるスコア機能が、それぞれの同定結果に関連付けられています。各部分スコアに割り当てられる重みは、同定メソッドを定義するときに、ユーザーが設定できます(:フルスキャン取り込みの場合、MS/MS スコアをゼロに設定できます)。さらに、同定結果の信頼性のレベルに基づき、特に MS/MS フラグメンテーションのマッチに基づいて同定された特性は色分けされて、以下のように同定の信頼性と頑健性が示されます(図 5)。

  • 濃い緑色:最初に提案されたマッチの信頼度が高く、良好な MS/MS スペクトルのマッチングに基づいている。
  • オレンジ色:合計組成と脂質クラスが矛盾している、または MS/MS 情報が利用できないため、最初に提案されたマッチが承認/レビュー待ちの同定である。
  • 赤色:同定されていない。

濃い緑色のラベルが付けられた結果に関しては、「必須」および「推奨」のフラグメンテーション規則が満たされる必要があります。Lipostar 内での同定は主に脂質データベースを使用して行われますが、MS/MS データが利用可能な場合は、データベースを使用しない同定アルゴリズムをクラスまたはサブクラスの注釈レベルに適用することもできます。このアプローチは、ソフトウェアに組み込まれたクラスに固有のフラグメントのコレクションに基づいています。

 

図 5.  高信頼度の同定の例を示します。この特性の例では、760.5879@4.14 は PC(34:1)と同定されています。MS/MS スペクトルが利用可能であり、提案された脂質のすべての成分アシル鎖)が容易に同定されます(濃い緑色のラベル)。 

脂質データベースに基づく同定アプローチを使用する場合、未同定の m/z エントリーは、精密質量の比較と MS/MS スペクトルの予備的検討に基づいてさらに解析し、可能性のある酸化型を同定します6

Lipostar には、薬物とその代謝物を自動的に検出する Mass-MetaSite アルゴリズムの簡易バージョンも含まれています7。 サンプルセット中のこれらの分子種の検索は、薬物治療時のリピドームの変化をモニターする場合、特に脂質と一緒に抽出される可能性のある脂溶性薬物の場合に非常に有用です。入力ファイルとして薬物の化学構造から始め、in silico の一般的な代謝反応を適用することによって、可能性のある代謝物の構造を生成します。各予測代謝物について、フラグメントライブラリーが自動的に生成され、スペクトルマッチングアプローチによってサンプルセット中の代謝物が同定されます。

この試験では、Lipostar の Mass-MetaSite アルゴリズムを使用して、in vivo で生成したゲフィチニブの薬物関連代謝物を同定し、これらの分子種を分析から外して、内因性脂質のレベルのみに関連する変化を確立しました。図 6 に、Lipostar の Mass-MetaSite アルゴリズムを適用することにより検出された特性のうち、同定されたゲフィチニブの代謝物の例を示します。m/z 値 421.1441 の代謝物は、以前 Molloy らによって代謝物 M6 として報告されたものです1

図 6.  Mass-MetaSite を使用して、M6 代謝物(C20H22ClFN4O3)が予測されました。さまざまな時点におけるマウス肝抽出物由来のこの代謝物の相対存在量の箱ひげ図を示します。

データセットの統計解析および脂質の同定に続く次の作業は、多くの場合、脂質濃度の決定です。Lipostar 定量ツールは、ターゲット実験およびノンターゲット実験の両方において、内因性脂質の定量にも使用できます。Lipostar により、脂質科学者は、直線性の範囲に対応する濃度を選択して直線回帰を改善することも、多項式回帰を区間全体に適用することもできます。キャリブラントのさまざまな付加イオンの検量線を作成することもできます。

LOQ と LOD は、次の式を使用して計算します。

LOQ = 10 * 標準誤差/傾き

LOD = 3.3 * 標準誤差/傾き

ここで、標準誤差では、計算された回帰の有効なポイントのみを使用します。

データ解析

トレンド分析は、予想されるトレンドによって脂質の存在量をグループ化できる強力なツールです。さらに、クラスタリングアルゴリズムと「トレンドごとにグループ化」機能の適用により、潜在的なバイオマーカーの同定だけでなく、新しい付加イオンやソース内フラグメントの検討も可能になります。図 7 から、密接に関連する 2 つの脂質分子種(LPC と PC)が、ゲフィチニブのタイムコース試験全体で明確な違いを示すことがわかります。

図 7.  脂質存在量のトレンドの例:薬物投与後の肝臓抽出物サンプル中のさまざまなタイムポイントにわたって類似した存在量を示す LPC(上)、および同じタイムポイントにおける重要な PC 分子種のトレンド(下)。

経路

脂質を経路にマッピングする機能は生物学的に重要であり、メカニズムおよびプロセスの解析が可能になります。Lipostar には、フラグメント化した脂質のデータベースまたは脂質同定の結果にリンクできる脂質経路マップ(グローバル、代謝、疾患)のコレクションがあります。図 8 に、「前立腺がん」の疾患マップに示された代謝経路の一部を示します。ゲフィチニブは肺がん治療用に開発されたことから、がん関連の経路を使用しました。例えば、PC ノードに含まれるホスホコリン脂質 PC(34:1)は、前立腺がんでは濃度が低下することが知られている LPC1 ノード(モノアシルグリセロホスホコリン)に直接リンクしています(青色で強調表示)。一方、他の脂質の値の上昇(赤色で強調表示)も間接的にリンクしていることが示されています。 

図 8.  Lipostar の「Prostate Cancer」(前立腺がん)疾患マップに示されている代謝経路の一部。ゲフィチニブ投与後のマウスの肝抽出物の多変量モデルに大きく寄与することが示されている PC(34:1)を含むノードが強調表示されています。文献によると、赤色で示した関連脂質は、前立腺がんで濃度が増加することがわかっていますが、青色で示した関連脂質は濃度が低下すると予想されます。

経路マップは、同定結果とリンクさせることもできます。Lipostar では、承認済みのすべての化合物をマップに同時に表示することもできます。

結論

逆相 UPLC、イオンモビリティーを使用する高分解能質量分析、インテリジェントワークフロー型のソフトウェアの組み合わせにより、生体サンプルの迅速で正確なリピドミクス分析が可能になります。Lipostar ソフトウェアにより、データベース検索を使用して化合物の正確な定量および同定が可能になり、イオンモビリティーを使用する MS を含む Waters LC-MS データセット(DDA ベースまたは DIA ベース)を直接解析することができます。上記のユーザーフレンドリーなワークフローにより、今回説明したゲフィチニブ試験で生成されたリピドミクスデータなどの迅速な解析が可能になりました。ゲフィチニブ試験で得られたデータに対して、Lipostar 2 ソフトウェア内で使用可能なツールを利用して詳細な統計的分析を行うことにより、生物学的解析が可能になりました。ソフトウェア内の経路ツールを使用して、脂質の撹乱の影響を最も大きく受ける代謝経路をピンポイントで特定しました。

謝辞

Paolo Tiberi(Molecular Discovery Ltd、英国ハートフォードシャー)と Laura Goracci(ペルージャ大学、ペルージャ、イタリア)に、時間と労力を費やしてくれたことに対して感謝致します。

参考文献

  1. Molloy B.J, King A, Mullin L.G, Gethings L.A, Riley R, Plumb R.S, Wilson I.D. Rapid Determination of the Pharmacokinetics and Metabolic Fate of Gefitinib in the Mouse Using a Combination of UPLC/MS/MS, UPLC/QToF/MS, and Ion Mobility (IM)-enabled UPLC/QToF/MS.Xenobiotica 2021, 51, 434–446.
  2. Want, E., Masson, P., Michopoulos, F. et al. Global metabolic profiling of animal and human tissues via UPLC-MS.Nat Protoc, 2013, 8, 17–32.https://doi.org/10.1038/nprot.2012.135.
  3. Beger RD, Dunn WB, Bandukwala A, Bethan B, Broadhurst D, Clish CB, Dasari S, Derr L, Evans A, Fischer S, Flynn T, Hartung T, Herrington D, Higashi R, Hsu P-C, Jones C, Kachman M, Karuso H, Kruppa G, Lippa K, Maruvada P, Mosley J, Ntai I, O'Donovan C, Playdon M, Raftery D, Shaughnessy D, Souza A, Spaeder T, Salholz B, Tayyari F, Ubhi B, Verma M, Walk T, Wilson I, Witkin K, Bearden DW, Zanetti KA.Towards quality assurance and quality control in untargeted metabolomics studies.Metabolomics.2019 Jan 3; 15(1): 4.
  4. Evans AM, O’Donovan C, Playdon M, Beecher C, Beger RD, Bowden JA, Broadhurst D, Clish CB, Dasari S, Dunn WB, Griffin JL, Hartung T, Hsu P-C, Huan T, Jans J, Jones CM, Kachman M, Kleensang A, Lewis MR, Monge ME, Mosley JD, Taylor E, Tayyari F, Theodoridis G, Torta F, Ubhi BK, Vuckovic D on behalf of the Metabolomics Quality Assurance, Quality Control Consortium (mQACC).Dissemination and analysis of the quality assurance (QA) and quality control (QC) practices of LC-MS based untargeted metabolomics practitioners.Metabolomics.2020 Oct 12; 16(10): 113.
  5. O’Donnell, V. B., Ekroos, K., Liebisch, G. & Wakelam, M. Lipidomics: Current state of the art in a fast-moving field.Wiley Interdiscip.Rev. Syst.Biol.Med.12, 1–6 (2020).
  6. Laura Goracci, Sara Tortorella, Paolo Tiberi, Roberto Maria Pellegrino, Alessandra Di Veroli, Aurora Valeri, and Gabriele Cruciani (2017) LipoStar, a Comprehensive Platform-Neutral Cheminformatics Tool for Lipidomics, Analytical Chemistry 2017 89 (11), 6257–6264, DOI: 10.1021/acs.analchem.7b01259.
  7. Zamora I, Fontaine F, Serra B, Plasencia G. High-throughput, computer assisted, specific MetID.A Revolution for Drug Discovery.Drug Discov Today Technol. 2013 Spring;10(1): e199-205.doi: 10.1016/j.ddtec.2012.10.015.PMID: 24050248.

720007817JA、2022 年 12 月

トップに戻る トップに戻る