ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)への環境暴露の同じ発生源が、食品供給源の汚染の原因になることがあります。PFAS 汚染された水と土壌を使って農産物を栽培することにより、植物の果物や野菜の可食部分に、これらの化合物が取り込まれる可能性があります。このため、製品中の PFAS の存在をモニターできる簡単な分析法があることは有益です。この研究では、QuEChERS 抽出メソッドに基づく FDA C-010.01 分析法を実施して、DisQuE 分散型固相抽出(dSPE)製品を用いて PFAS を抽出し、続いて ACQUITY UPLC I-Class PLUS と Xevo TQ-XS を組み合わせた高感度 LC-MS/MS 分析を行いました。この分析法を、レタス、イチゴ、クランベリー、ニンジン、ジャガイモなどの 5 種類の農産物で評価しました。FDA 分析法にいくつかの軽微な調整を加えて、農産物中の PFAS 分析のためのこのアプローチにより、さまざまなケミストリークラスの広範な 30 種の PFAS 化合物の正確で頑健な分析ができることが証明されました。
ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の環境への影響は、日常製品でこれらの化合物が広く行きわたって使用されていることから容易にわかります。多くの場合、環境問題は食品供給源にも影響します。
農産物の場合、灌漑および農作物の栽培に使用する水や土壌に影響を与える PFAS は、汚染をもたらす可能性があります。実験により、食用植物は実際に PFAS を取り込み、食用部分には短鎖 PFAS(PFBA や PFPeA)、植物の根および茎には広範な PFAS が取り込まれることが示されています1,2。 灌漑用水が最も一般的で、飲料水または地下水もそうですが、汚染はあらゆる環境汚染経路(製造時の排液、消火剤の泡、埋立地浸出水など)から発生する可能性があります3。 土壌汚染も同様のメカニズムで起こる可能性がありますが、肥料としてのバイオソリッドの使用が農作物汚染の大きな懸念になっています4。
一部の国では水中の PFAS 濃度に規制や勧告値が課されていますが、バイオソリッドや食品には PFAS の限界値はまだ設定されていません。欧州食品安全局(EFSA)により、食品中の PFAS の存在に起因する人間の健康リスクに関するデータが評価および公表されています。2020 年に発表された最新の報告書では、評価した 27 種の PFAS のうち、魚、果物、卵が最高レベルの暴露の原因であると結論されています5。 この調査のために提出されたデータでは、さまざまな抽出手法および分析手法が活用されています。米国食品医薬品局(FDA)では、そのトータルダイエットスタディで、多量に消費される食品中の汚染物質がモニターされています6。 PFAS をこの試験に含めることができるように、食品中の PFAS の抽出メソッドが作成され、バリデーションされました7。 この分析法(FDA C-010.01)8では、QuEChERS 抽出が使用され、続いて分散型固相抽出(dSPE)クリーンアップが行われます。QuEChERS(迅速、簡単、安価、効果的、頑健、安全)は、食品から農薬を抽出するために最初に作成された、広く使用されている抽出手法であり、多くの場合他の汚染物質の測定に採用されます。この手法では、塩とアセトニトリルを使用して、塩析と相分離のメカニズムによって対象化合物が抽出されます。この迅速で簡単な抽出手法は、ACQUITY UPLC I-Class PLUS と Xevo TQ-XS を組み合わせて使用する分析により、さまざまな農産物サンプルからの PFAS の抽出について、評価されました。
農産物のサンプルは地元の食料品店で購入しました。この試験では、イチゴ、クランベリー、ロメインレタス、丸ごとのニンジン、ラセットジャガイモを使用しました。各農産物の可食部を Ninja キッチンブレンダーを用いて均質化しました。サンプルはフリーザー(-20 ℃)で保管し、冷蔵庫(4 ℃)で一晩解凍してから抽出しました。
各サンプル 5 g を、DisQuE AOAC QuEChERS 塩を用いて抽出しました。抽出の前に、Wellington Laboratories から購入した一連の 20 種類の同位体標識標準試料(MPFAC-24ES + M3HFPO-DA)を、1 ng/g の濃度になるように各 5 g のサンプルに代替としてスパイクしました。QuEChERS 抽出と dSPE クリーンアップ全体の概要が図 1 に示されています。注入する前に、MPFAC-C-IS を、内部標準試料として最終濃度が 1 ng/g(バイアル中で 0.25 ng/mL)になるように各サンプルにスパイクしました。振とうステップは、SPEX Sample Prep Geno/Grinder を用いて行いました。代替標準試料および内部標準試料を、ネイティブ PFAS 濃度を計算するための同位体希釈アプローチで使用しました。代替標準試料はサンプル前処理中を通してサンプル内に存在するため、これによって回収率の計算が修正されます。内部標準試料は、抽出後にのみ存在し、これによって代替標準試料の注入の際のあらゆるばらつきが修正されます。
0.01 ng/mL ~ 5 ng/mL(0.04 ~ 40 ng/g に相当)での溶媒検量線を使用しました。代替標準試料と内部標準試料が存在するため、マトリックスマッチングは必要ありませんが、マトリックスマッチングは同位体希釈メソッドの代わりのオプションです。
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS FTN(PFAS 分析キット付き) |
バイアル: |
ポリプロピレンオートサンプラーバイアル(ポリエチレンキャップ付き) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18 2.1 x 100 mm、1.7 μm |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
水 + 2 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
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イオン化モード: |
ESI- |
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キャピラリー電圧: |
0.50 kV |
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脱溶媒温度: |
350 ℃ |
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脱溶媒流量: |
900 L/時間 |
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コーンガス流量: |
150 L/時間 |
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MS メソッド: |
MS メソッドの情報については、付録を参照してください |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
MassLynx v4.2(TargetLynx 4.2 搭載) |
FDA メソッドでは、バッファーを使用しないバージョンの QuEChERS が使用されます。バッファリングされていない塩(MgSO4および NaCl)を 2 種類のバッファーメソッド(AOAC および CEN)9,10 と比較し、マトリックスとしてクランベリーを使用して、PFAS の最も効果的な抽出条件を決定しました。図 2 の棒グラフに、3 種の塩の組み合わせを使用した回収の例が、示されています。特定の化合物の回収に若干のばらつきがありましたが、一般に 3 種の塩の組み合わせにより PFAS は同等に抽出され、AOAC メソッドを以後の評価用に選択しました。
dSPE に使用した吸着剤を、黒鉛化カーボンブラック(GCB)の添加量に焦点を合わせて評価しました。この比較では、900 MgSO4 および 300 PSA(15 mL チューブあたり)を使用して、他の dSPE 吸着剤は一定に保ちました。GCB には化合物に対する強い吸着性があることが知られており、一部の化合物の回収率が低下する可能性があるため、この設定を 150mg GCB あり/なしで試験しました。図 2 の重ね描きしたピークにより、GCB ありおよびなしでのピークレスポンスへの影響が、示されています。GCB を使用すると、ピークレスポンス(およびこれにより回収率)が減少しました。この効果は、C-F 鎖が長くなると増加します。そのため、GCB は最終の dSPE クリーンアップメソッドから除外しました。
FDA メソッドに加えた最終調整は、LC-MS/MS 分析の前に希釈ステップを追加することでした。これは、早く溶出する PFAS(PFBA、PFPeA、4:2 FTS など)のピーク形状を改善するためです。100% アセトニトリルでの注入では、これらの化合物についてピーク割れやピーク幅の広がりが発生します。図 3 に、早く溶出する化合物に対する、希釈ステップを追加することによる利点が示されています。この図には、遅く溶出する化合物(例えば PFNA)のレスポンスが若干低下しますが、感度に顕著な悪影響はないことが、示されています。
FDA ガイダンスメソッドは、レタスのみを代表的農産物サンプルとして使用して、バリデーションしました。この試験では、表 1 に記載されているように、5 種類の農産物クラスに範囲を拡大しました。分析種の数は、元の FDA メソッドの 16 種から、計 30 種の PFAS に増加しました。これには、次記の化合物が含まれます:カルボン酸塩(C4 ~ C14)、スルホン酸塩(C4 ~ C10)、新規(GenX、ADONA、9Cl-PF3ONS、11Cl-PF3OUdS)、プリカーサー(FBSA、FHxSA、FOSA、NMeFOSAA、NEtFOSAA、4:2 FTS、6:2 FTS、8:2 FTS)。
各農産物の 5 回繰り返し分析では、0.1 ng/g、1.0 ng/g、5 ng/g の 3 濃度でスパイクしました。最低濃度 0.1 ng/g でジャガイモに事前にスパイクした各 PFAS の抽出した定量イオントレースのクロマトグラムの例が、図 4 に示されています。さらに、PFHxS、PFOS、NMeFOSAA、NEtFOSAA の分岐異性体および直鎖異性体がマトリックス中に検出され、図 5 にマトリックス中の 0.05 ng/g の PFOS として示されています。
回収率は、事前スパイクマトリックスサンプルのレスポンス値を、同じ濃度の事後スパイクマトリックスブランク試料と比較して計算しました。回収率計算の前に行った唯一の修正は、内部標準試料補正(システムによるばらつきおよびマトリックス効果を補正するため、サンプル調製後に内部標準試料にスパイク)でした。各濃度レベルのすべての化合物の測定された回収率の範囲が、各農産物について表 1 に示されています(PFAS クラス別、括弧内は平均 %RSD)。全体として、すべての農産物グループにわたって回収率は 62 ~ 135% の範囲で、平均回収率は 72 ~ 113% でした。すべての農産物の各濃度での各 PFAS グループの平均回収率が、図 6 に示されています。1.0 ng/g および 5.0 ng/g でスパイクしたすべての農産物で、%RSD は 10% 未満でした。0.1 ng/g のスパイクでの %RSD はすべて 20% 未満でした。FDA ガイダンスでは、1 ng/g の濃度での許容回収率の範囲は 40 ~ 120% で、最大 %RSD は 22% と規定されています11。 報告された回収率はこの許容範囲に入っており、低いスパイク濃度で 120 % を超える少数の外れ値があるだけです。すべての %RSD も許容範囲内です。これらの実験値により、抽出および分析が正確で再現性があることが、示されています。
計算濃度に影響を与える可能性のあるマトリックス増強またはマトリックス抑制、および抽出の間の損失を考慮するために、QuEChERS 抽出(代替)の前にサンプルにスパイクする同位体標識標準試料を用いて、同位体希釈計算を行います。図 7 の箱ひげ図では、この補正がどのようにより正確な結果を算出するかが示されています。さらに、マトリックス効果が最も大きいマトリックス(クランベリー、ニンジン、ジャガイモ)では、溶媒検量線が使用されています。これらのサンプル中の PFAS の予想濃度は 5 ng/g でした。同位体希釈補正を使用しない場合、クランベリー、ニンジン、ジャガイモ中の平均濃度はそれぞれ 3.6、4.0、4.2 ng/g です。補正しない場合の計算濃度の広がりも広くなります。同位体希釈計算に代替を使用すると、クランベリー、ニンジン、ジャガイモ中の平均濃度は 4.7、4.6、4.8 で、範囲が狭くなります。
抽出手順を少し微調整することによって、QuEChERS ベースの FDA 分析法 C-010.01 を使用して、さまざまな食用農産物サンプル中の PFAS を分析できました。QuEChERS 抽出は、少量のサンプルと少量の有機溶媒を使用して、迅速で簡単でした。評価する PFAS を、30 化合物に拡張しました。全体として、分析法の性能は、回収率を考慮した場合、FDA ガイダンス基準内であり、結果の正確性に対する信頼性につながります。この分析法は再現性が良好であることも確認され、繰り返し抽出の %RSD は低い値でした。この分析法により、食用農産物中の PFAS の迅速で簡単な分析結果の信頼性が向上し、食料供給源に対する PFAS の環境的影響をさらによくモニターし、理解することができます。
720007333JA、2023 年 8 月 改訂