• アプリケーションノート

インテリジェントデータキャプチャー(IDC)により、Xevo G2-XS でマルチ特性分析(MAM)試験のための最適なデータ取り込みおよび解析が可能

インテリジェントデータキャプチャー(IDC)により、Xevo G2-XS でマルチ特性分析(MAM)試験のための最適なデータ取り込みおよび解析が可能

  • Nilini Ranbaduge
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、マルチ特性分析(MAM)試験のための Xevo G2-XS システムで、取り込みを中心としたデータ低減アルゴリズムであるインテリジェントデータキャプチャー(IDC)を適用するメリットについて説明します。Xevo G2-XS システム(QTof MS)は、多くの場合医薬品の特性解析に使用され、ペプチドレベルでの製品品質特性(PQA)や重要品質特性(CQA)のルーチンモニタリングに適用できます。高感度で頑健なマルチ特性分析(MAM)の開発での現在の取り組みをサポートするために、IDC を使用することで、定量の正確さを損なうことなく、どのようにペプチド MAM のデータの質を向上させることができるかを示してきました。

IDC は、直感的な IDC ソフトウェアスイッチを介して waters_connect インフォマティクスプラットホーム上で有効になり、既定の IDC レベルの中での選択肢です。ここに示されている結果により、IDC なしでの取り込みと比較した IDC が有効な状態でのデータの取り込みの適切性が確認され、ルーチン MAM 分析での IDC 有効状態のデータの優位性が明らかです。IDC アルゴリズムにより、新規ピーク検出(NPD)での偽陽性検出の数が大幅に低減され、同等の % 修飾レベルが維持されました。これにより、これらの新しいピークを手動でバリデーションするために必要な労力が大幅に低減され、規制環境での MAM ワークフローの効率的な運用が可能になります。IDC の既定の設定である 15 により、苛酷試験を実施した NISTmAb サンプルの MAM 分析において、最適な性能が得られることがわかりました。このレベルのデータ低減により、データファイルのサイズが 90% 以上減少し、データ解析が 4 倍高速になり、MAM 分析法の配備およびその後のデータ管理に対する全般的な効率の向上がサポートされます。

アプリケーションのメリット

  •  ペプチド MAM 分析用の効率的なコンプライアンス対応ワークフローメソッド
  •  新規ピーク検出が改善され、分析者の介入の必要性が低減
  •  生データのファイルサイズが減少し、データ解析の時間が短縮
  •  特性の定量結果に影響なし

はじめに

マルチ特性メソッド(MAM)は、薬物分子の品質プロファイルを維持するために不可欠な、製品品質特性および重要品質特性を直接測定するための、新しく出現した LC-MS ベースの分析アプローチです。MAM は、製品の ID 確認のサポート、対象を定めた特性や不純物のモニタリング、純度分析をサポートする新しいピークの検出のための、多重特性分析によるラボ効率の向上などの多くの特質から、好評を得ています。ただし、バイオ医薬品開発での MAM 分析法を、規制環境下でルーチンに実施できる分析法に変換するには、LC-MS プラットホーム、インフォマティクス、ワークフローをより完全に調査して、正確性と頑健性を確保する必要があります。

MAM 用 Xevo G2-XS QTof MS システムには、分析法移管や再最適化を行うことなく、特性解析から特性モニタリングに至るまで装置メソッドを移管できるため、バイオ医薬品開発での多くのメリットがあります。MS/MS イオンフラグメンテーション用の広範な MS 機能を備えたこのシステムにより、検出された新しいピークをさらに調査し、最低レベルのプロダクト特性を高い信頼度で割り当てることができます。

waters_connect での Peptide MAM アプリの有用性を最大限に高める、BioAccord システム向けに初めてリリースされたインテリジェントデータキャプチャー(IDC)ノイズ低減アルゴリズムは、Xevo G2-XS システム用に入手できます。IDC 機能により、リアルタイムのデータ低減が可能になり、化学的ノイズや電子的ノイズが最小限に抑えられて、ファイルサイズが縮小し、データ解析の質と速度が向上します1,2。このアプリケーションノートでは、Xevo G2-XS QTof MAM データでの IDC のメリットを、IDC をオフにしたデータ収集と比較して確認しています。ペプチドレベルの特性および新規ピーク検出(NPD)のターゲットモニタリングを使用して、ノイズが低減されたデータのデータ品質を確認し、ファイルサイズとデータ解析時間の低減での IDC のメリットを定量化しました。

実験方法

サンプルの説明

システム適合性サンプル:MassPREP ペプチド混合液(製品番号:186002337)。

コントロールサンプル/陰性コントロール:モノクローナル抗体(mAb)トリプシン消化標準試料(製品番号:186009126)。

スパイクしたコントロールサンプル:15 種類の重度標識ペプチドをスパイクした mAb トリプシン消化標準試料。

苛酷試験を実施したサンプル:NISTmAb レファレンス物質 8671 を pH 8.0 の 50 mM Tris バッファー中で 14 日間、40 ℃ でインキュベートしました。14 日経過後、サンプルを還元、アルキル化、トリプシン消化しました。消化物を 0.1% ギ酸で酸性化し、最終濃度 0.1 μg/μL に希釈してから分析しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システム

検出:

チューナブル UV、ESI+ MS

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル(製品番号:186009186)

カラム:

ACQUITY Premier Peptide CSH C18 カラム(製品番号:186009489)

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

10 μL

流速:

0.2 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

移動相 A:水、0.1% ギ酸 移動相 B:アセトニトリル、0.1% FA

MS 条件

MS システム:

Xevo G2-XS システム

イオン化モード:

ESI+

取り込みモード:

MSE

取り込み範囲:

m/z 50 ~ 2000

キャピラリー電圧:

1.2 kV

コリジョンエネルギー:

60 ~ 120 V

コーン電圧:

20 V

データ管理

インフォマティクス:

ペプチド MAM および UNIFI アプリを搭載した waters_connect

結果および考察

インテリジェントデータキャプチャー設定を、UNIFI アプリの MS 装置パラメーターにあるダイアログボックスで有効にします。 図 1 に示されているように、データのノイズ除去の程度をコントローする IDC 設定は、ドロップダウンメニューにあり、3 つの既定の設定(15、10、5)およびカスタム設定オプションが含まれています。ペプチド MAM データ、% ペプチド特性レベルのモニタリングおよび新規ピーク検出機能(NPD)について、3 つの既定の IDC パラメーターすべての影響を評価しました。MS データの装置ノイズおよび化学ノイズのアーティファクトの低減により、ファイルサイズが大幅に縮小され、データ解析にかかる時間も短縮されることが知られています。これは、waters_connect Peptide MAM アプリケーションを用いて解析したデータを使用して測定しました。

図 1.  MS メソッド内のインテリジェントデータキャプチャー(IDC)機能により、ノイズ低減機能を増加した 4 つの既定のノイズ低減レベル(オフ、5、10、15)とともに、ユーザー指定のしきい値を設定するためのカスタム設定オプションが提供されます。

IDC で生成される同一の % 修飾レベル

ペプチド MAM に対する IDC のメリットを最適化するため、15、10、5、0(オフ)のレベルの IDC しきい値を使用して NIST mAb 消化物のデータを取り込みました。このデータを Peptide MAM アプリケーションで解析して、選択した 30 種の品質特性の % 修飾レベルを測定しました。図 2A に、HC T25: EEQYNSTYR 糖ペプチドの結果が示されています。糖ペプチドは比較的低強度のペプチドであり、データ低減アルゴリズムを不適切に適用すると、偏った影響を受けることがあります。IDC が有効な状態で取り込んだデータおよび IDC をオフにして取り込んだデータにより、選択した糖ペプチドについて一貫した % 修飾プロファイルが得られました。これには、低レベルで検出された非修飾 T25(0.53 ~ 0.58%)および Man5 T25(1.26 ~ 1.13%)のピークが含まれます。Man5 糖ペプチドのベースピークペプチド強度は、わずか 0.08% です。さらに、IDC により、IDC 設定 15 および 0(オフ)で取り込んだ Man5 の MS スペクトルの品質(図 2B)が維持されました。いずれの MS スペクトルでも、m/z 1203.2711 のチャージ状態 +2 のピークについて一貫した同位体分布が示されてます。IDC 15 のデータは、IDC をオフにして取り込んだデータと比較して、ベースラインノイズレベルが低下しており、その結果、スペクトルの質が向上し、データファイルのサイズが縮小されます。

図 2.  NISTmAb の糖ペプチド特性プロファイリング。(A)選択した糖ペプチドおよび非修飾 EEQYNSTYR HC:T25 ペプチドの相対 % 修飾レベル。各 IDC 条件について 2 回注入して取り込んだデータ(オレンジ色)では、低レベルの Man5 特性が、すべての IDC レベルで取り込んだ MS1 データから検出されました。(B)低レベルの Man5 特性の糖ペプチドの MS スペクトルは、IDC 15 および IDC オフの状態でそれぞれ取り込んだデータにおいて、同等の同位体パターンを示します。

質の高い新規ピーク検出(NPD)データ

NPD は、MAM データ解析時のペプチド特性のターゲットモニタリングの後に実行しました。その目的は、実験サンプルの新しいピーク、またはレファレンスコントロールサンプルと比較して有意に変化したピークを同定することです(図 3A)。これらの「新しい」ピークは、プロファイルが医薬品開発プロセスの間に変化した、予期しないプロダクトバリアントまたはプロダクト/プロセス関連の不純物を表す可能性があります。ただし、新しいピークをいちいち手動で検証すると時間とリソースが負担となり(特に規制された品質や製造環境の場合)、新しいピークによって、コストのかかる仕様外(OOS)の調査や製品の市場投入の遅延が発生する可能性もあります。IDC を有効にした取り込み機能は、リアルタイムのノイズ低減により、LC-MS の取り込みアーティファクトによる偽陽性ピークの可能性が解消される可能性があります。図 3 に示されているように、この実験では 3 つのレベルの解析(IDC 15、IDC 5、IDC オフでのデータ取り込み)が評価されました。得られたデータセットを、共通の既定のパラメーターを使用して、新しいピークについてフィルタリングしました(図 3A)。IDC 15 での解析(図 3B)では、陰性コントロールに新しいピークはなく、スパイクしたコントロール(陽性コントロール)に 15 の新しいピーク、苛酷試験を実施した mAb サンプルに 136 のピークがありました。スパイクしたサンプルの NPD データは、「実験方法」セクションに記載されている 15 のスパイクした重度同位体標識ペプチドと一致しました図 3C)。一方で、IDC 5 で取り込んだデータでは、IDC 15図 3D)の場合と比較して、新しいピークのレベルがはるかに高く、複数の偽陽性同定が含まれていました(図 3D)。この高い偽陽性の観測結果は、IDC オフで取り込んだデータ(図には示されていません)ではより一層顕著であり、すべての真の新しいピークを維持しつつ誤検出の結果を排除できる性能が明確に実証されました。

図 3.  Xevo G2-XS ベースの MAM での新規ピーク検出(NPD)。waters_connect Peptide MAM アプリで使用されるフィルター規準(パネル A)がここに示されており、これによって、15 種のペプチドをスパイクしたサンプルとスパイクされていないコントロールサンプルのバイナリー比較用の、15 の「新しい」ピーク(パネル B)の結果が生成されます。IDC 15 で取り込んだデータについて、コントロールサンプル(パネル C)と比較して、スパイクおよび苛酷試験を実施した mAb サンプルで検出された新しいピークが示されています。IDC 15 での NPD データの IDC 5 での取り込みに対する優位性が、弱いノイズ低減設定での Peptide MAM アプリ解析での偽陽性検出が多いことの実証によって、確立されました。

低減されたデータファイルおよび解析時間

複雑な MAM 試験での大きなファイルサイズやデータセットにより、データ管理システムに不要な負担が加わることがあります。インテリジェントデータキャプチャーを有効にしたデータ取り込みにより、リアルタイムのデータノイズ解析および生データファイルサイズの低減によって、解決策が提供されるでしょう。これは、意味のある結果を得るのに寄与する真のピークシグナルの解析を強化するより、むしろ混乱させる化学的ノイズや機械的ノイズの大部分を解消することによって実現します。選択した IDC 5、10、15 レベルでのペプチド MAM データ取り込みで IDC を有効にすることで、IDC オフでの取り込みと比較してデータファイルサイズを大幅に低減できました(図 4A)(IDC オフから IDC 5 にすることでファイルサイズが 65% 縮小され、IDC 15 の設定で 90% 以上低減)。その結果、ペプチド MAM データのデータ解析速度が、IDC オフでの取り込みと比較して加速されました(図 4B)。最適なデータノイズ低減が観察された IDC レベル 15 では、合計データ解析時間が 75% 短縮され、2 回の注入のデータセットでは、IDC オフで取り込んだデータと比較して解析時間が 3 時間以上節約されました。

図 4.  データ取り込み時により厳格な IDC 設定を漸進的に適用することにより、平均ファイルサイズ(A)が大幅に減少します。オフ設定と IDC 15 ベースの取り込みの間で、データファイルのサイズが 92% 縮小されました。(B)2 回の注入に対する Peptide MAM アプリケーションの解析時間が、IDC 15 レベルでは、IDC オフと比較して 75% も短縮されました。

結論

waters_connect で動作する Xevo G2-XS QTof にインテリジェントデータキャプチャー(IDC)を適用することは、ペプチド MAM 分析の多くの面でメリットがあることが、示されました。質の高い MS データを生成すると同時に、データファイルのサイズとデータ解析時間を大幅に低減することで、ペプチド MAM 分析ワークフローの効率が向上します。最適レベルの IDC 15 取り込みにより、感度や対象特性の相対プロファイリングに影響を与えることなく、IDC をオフにして取り込んだデータと同等の % 修飾結果が生成されます。さらに、IDC 15 での取り込みにより、NPD での新しいピークの偽陽性の数が最小限に抑えられ、スパイクした mAb サンプルの MAM 分析で、予想される新しいピークすべてが同定されました。総合すればこれらの結果により、Xevo G2-XS プラットホームで MAM ワークフローを使用することで、IDC で取り込んだデータのメリットを完全に活用でき、正確かつ有意義なペプチド MAM の結果がより迅速に得られることが実証されています。

参考文献

  1. Mortishire-Smith, R.; Richardson, K.; Denny, R.; Hughes, C. Intelligent Data Capture: Real-Time Noise Reduction for High Resolution Mass Spectrometry.Waters White Paper, 720006567EN (2019).
  2. Ippoliti, S.; Yu, Y., Q.; Mortishire-Smith, R. Peptide Mapping Using Intelligent Data Capture on Vion IMS QTof.Waters Application Brief, 720006636EN.(2019).

720007441JA、2021 年 12 月

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