Waters ACQUITY RDa 検出器(高分解能 LC-MS 飛行時間型(ToF)質量分析計)を使用した、迅速で正確に緑茶抽出物をプロファイリングする分析法。この装置により、カテキン類で実証された、最大 3 桁のダイナミックレンジと、±5 ppm 以内の高い質量精度が示されています。このコンパクトな小型飛行時間型質量分析計は、天然物のスクリーニングおよび真正性の試験に最適です。
ACQUITY RDa 検出器と waters_connect ソフトウェアプラットホームおよび UNIFI アプリケーションを組み合わせることで、データ取り込みと解析を続けて実行できます。簡単にカスタマイズできるワークフローとライブラリー検索を組み込むことにより、分析が簡素化され、解析時間が短縮され、結果が明確に表示されてレポート形式に簡単に変換でき、迅速な意思決定が可能になります。
緑茶は、何千年もの間、収穫した新鮮な Camellia sinensis の葉を素早く蒸し、乾燥させて作られてきました1。 緑茶は広く飲まれている飲料であり、フラボノイドなどの特定の成分に健康上の利点があると考えられているほか、カフェイン(メチルキサンチン刺激薬およびアデノシン受容体拮抗薬)など葉の中に含まれているその他の化合物を楽しむためにも飲まれています。
緑茶に含まれているカテキンは、抗炎症作用および抗酸化作用を有することが知られている分子の一種です。1。 抗炎症作用および抗酸化作用を有すると報告されている一種の分子であるカテキンは、緑茶に含まれています。それらの作用は、緑茶を飲用することで得られる健康上の利点に寄与すると考えられており、その一例としてがん予防が挙げられます1,2。 ただし、市販の緑茶の抗酸化成分の濃度は、生長条件、収穫時期、処理、保管、最終調製などの(これらに限らない)条件に基づいて、大幅に変わることがあります3。 また、緑茶の摂取(特に過剰なカテキン暴露やピロリジジンアルカロイド(PA)による汚染)に伴う有害な健康上の影響(特に肝障害)の可能性もあります3。
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)システムは、緑茶製品に含まれる成分を測定するための、確立された、信頼性の高いプラットホームです。これらのシステムにより、さまざまな異性体分析種(カテキンやエピカテキンなど)を分離し、フラボノイド分子種(ケンフェロールケルセチンなど)やポリフェノール分子種(テオガリンなど)など、他の多量に存在する複雑なマトリックス分析種から対象成分を確実に識別することができます。試験の速度と効率を確保するために、これらの変動が非常に大きい天然化合物に対して直線性範囲が広い分析法が求められます。
以下に概説されている分析法により、クロマトグラフィーでの保持時間、精密質量、フラグメンテーションパターン(理論的および分析的に導出されたものの両方)を活用して、緑茶の既知成分が同定されます。活性成分(カテキン)に特に焦点を当てて、このシステムの高い選択性と幅広いダイナミックレンジが実証されています。飛行時間型分析計である ACQUITY RDa 検出器では、データが「フルスキャン」モードで取り込まれ、検出前にイオンが事前選択されない、従来の選択イオンモニタリングモードの定量分析法と比べて、優位性があります。これらの条件により、この装置は、製造前の原材料の純度および汚染の評価に最適です。UNIFI アプリを搭載した waters_connect と組み合わせることで、データの取り込みと解析を単一のソフトウェアプラットホームで行うことができ、ワークフロー全体が確実に迅速化および効率化されます。
緑茶マトリックス(製品番号:186006962、Waters Wilmslow、英国)を、25:75 (v/v)メタノール:水で濃度 2.5 mg/mL に希釈し、ボルテックス混合した後 30 分間超音波処理し、4 ℃、13,000 g で 10 分間遠心分離して、微粒子を除去しました。
カテキンの検量線は、Sigma(Dorset、英国)から購入したカテキン標準試料 100 μg/mL を 25:75 (v/v)メタノール:水で希釈して作成しました。カテキン標準混合液には、カフェインと一般的な緑茶カテキン 7 種(エピガロカテキン-3-ガレート、カテキン、エピカテキン、エピカテキン-3-ガレート、ガロカテキン、ガロカテキン-3-ガレート、カテキン-3-ガレート)の認証多成分混合物が含まれています。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class FTN |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3 (100 mm × 2.1 mm、1.8 μm) |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
99% A で 0.5 分保持、99% ~ 65% A を 0.5 ~ 16 分、1% A で 16 ~ 18 分保持、初期条件に 18 ~ 20 分で再平衡化 |
MS システム: |
ACQUITY RDa 検出器 |
イオン化モード: |
ネガティブイオンモードとポジティブイオンモードの両方 |
取り込み範囲: |
50 ~ 2000 |
スキャン速度: |
10 Hz |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV ネガティブ、1.5 kV ポジティブ |
コーン電圧: |
30 V ネガティブ、40 V ポジティブ |
フラグメンテーションコーン電圧: |
60-120 V |
IDC: |
オン |
ソフトウェア: |
waters_connect (UNIFI v1.9.12 付き) |
ACQUITY RDa 検出器では、SmartMS テクノロジーの一環としてシステムセットアップが自動的に実行されます。つまり、すべてのキャリブレーション、チューニング、ロックマス最適化が、分析前に装置によって行われ、各注入間で確認され、これらの作業を手動で行う必要がなくなります。これには、以下の溶液が必要です。
ロックマス溶液: |
ACQUITY RDa ロックマスキット(ウォーターズ製品番号:186009298) |
キャリブレーション溶液: |
ACQUITY RDa 検出器キャリブレーション試薬および洗浄キット(ウォーターズ製品番号:186009013) |
洗浄溶媒: |
ACQUITY RDa 検出器キャリブレーション試薬および洗浄キット(ウォーターズ製品番号:186009013) |
LC-MS 分析は、市販の緑茶マトリックス、およびカテキン標準混合液を用いて実施しました。カテキン標準混合液は、液体標準試料の単純な希釈、または凍結乾燥マトリックスの再溶解により調製し、遠心分離で微粒子を除去しました。緑茶マトリックスのクリーンアップは行いませんでした。
ACQUITY UPLC I‑Class インレットと ACQUITY RDa 検出器を使用して、緑茶マトリックス標準混合液(8 mg/mL)を 10 μL 注入して、ポジティブイオン取り込みモードとネガティブイオン取り込みモードの両方で分析しました。UNIFI ソフトウェアを使用して、Camellia sinensis のサイエンスライブラリーに対して成分マッチングを行いました。このライブラリーを使用して、理論的なフラグメンテーションパターンと比較した、クロマトグラフィー保持時間(特定の分析法に対して)、質量精度、およびフラグメントイオンの存在に基づく化合物の同定の役に立てることができます。生成された LC-MS データを、緑茶中で一般に同定される 27 種の化合物が登録されている、緑茶でフィルタリングした UNIFI ライブラリーに対して検索しました。ポジティブイオンモードのデータから、23 の一致した同定が得られました(標準試料との一致が 7 件、推定質量精度の一致および理論上のフラグメンテーションの一致のみが 16 件)。カテキン-3-O-ガレートは、同定に十分な高濃度緑茶サンプルに認められませんでしたが、標準混合液内では同定に成功しました。ネガティブイオンモードのデータから、24 の一致した同定が得られました(標準試料との一致が7件、推定質量精度の一致および理論上のフラグメンテーションの一致のみが 17 件)。図 1 に、UNIFI の標準的なレビュー画面が示されています。ここでは、同定された化合物、クロマトグラフィーピークの XIC、低コーン電圧および高コーン電圧の質量スペクトル、およびサンプル内の他の同定された化合物のナビゲート可能な表が明確に示されています。チャンネル 2(フラグメンテーションコーン電圧)の質量スペクトルにプリカーサーイオンとフラグメントイオンが見られ、保持時間が低エネルギー質量スペクトルと一致しています。UNIFI 解析インフォマティクスプラットホームでも、「未同定」成分を表にすることができます。未同定化合物は、既知成分の確認と包括的なスクリーニングのどちらに焦点を当てるかに応じて、解析セッションの中でまたは外でフィルタリングできます。
ライブラリー検索に加えて、システムのダイナミックレンジを試験し、一般的な分析レベルでのデータの信頼性を確認しました。この評価では、0.01 μg/mL ~ 25 μg/mL の範囲の市販のカテキン標準試料を使用して希釈シリーズを調製し、濃度レベルごとに 10 μL を注入して、0.1 ng ~ 250 ng の範囲の物質をオンカラム注入しました。この分析はポジティブイオンモードで実施し、ACQUITY RDa 検出器でこれらの化合物が 2 ~ 3 桁の範囲であることが実証されました。1 ng のオンカラム注入の場合、8 種類のカテキン化合物すべてのシグナル対ノイズ比が 400 を超え、繰り返し注入の再現性の %RSD が 4.7% 未満でした。すべてのカテキン標準混合物の ULOQ は、オンカラムで 100 ng でした。250 ng をオンカラム注入した場合、ピークの広がりが生じて、オーバーロードの兆候が見られました。繰り返し注入の再現性は、すべての化合物についてのレスポンスの %RSD が 6.7% 未満で、許容可能でした。
システムのサンプルダイナミックレンジ内の性能を評価するため、市販の緑茶マトリックスを、0.8 mg/mL(10 倍希釈)、8.3 mg/mL(一般的な分析レベル)、82.5 mg/mL(10 倍濃縮)の総緑茶成分に相当する 3 つの微粒子濃度で分析しました。この分析により、さまざまなサンプル強度および異なるサンプル内のさまざまな化合物濃度レベルにおいて、内因性カテキンの検出にシステムが適合していることが実証されます。一般的な分析濃度 8.3 mg/mL(総緑茶成分混合物)で、すべての化合物が確立されたダイナミックレンジ内(個々のカテキンが 10 μg/mL(またはオンカラムで 100 ng)未満)でした。一般的な濃度の 10 倍(83 mg/mL)で、すべての化合物がシステムの確立されたダイナミックレンジ内でした(エピガロカテキン-3-ガレートを除く、この高濃度で注入したときに範囲を超えていたため)。一般的な濃度の 10 倍の希釈である 0.8 mg/mL では、8 種類のカテキン化合物中 5 種類が、確立されたダイナミックレンジ内でした。カテキン、カテキン-3-ガレート、ガロカテキン-3-ガレートの 3 種の化合物は、確立されたダイナミックレンジを下回っており、これらの化合物のピークは、シグナル対ノイズ比が 3 を超えていましたが、そのレスポンスはオンカラムで 1 ng の標準試料のレスポンスを下回っていました。
図 2 に、選択した成分の分析全体にわたるレスポンスが示されています(表示されている化合物はエピガロカテキン-3-ガレート)。これまでと同様に、視覚的表示には、選択した同定済み化合物についてのすべての分析データの表、選択したサンプルおよび選択した成分のクロマトグラフィーピークの XIC、分析セッションにわたる各注入での化合物のレスポンスを明確に示す棒グラフが表示されています。これにより、分析全体を即座に視覚的に比較できるため、パターン、異常、またはバッチ効果を迅速に評価できます。
標準希釈シリーズおよびマトリックス注入の分析では、合計 12 時間を超える連続取り込みを行いました。分析全体にわたって、8 種類のカテキン標準試料それぞれのクロマトグラフィー保持時間には最大 0.05 分(3 秒)のばらつきがあり、最大 RSD は、最も早く溶出するピーク(ガロカテキン)で 0.3% でした。
各標準試料の質量精度を評価したところ、最大偏差は ±4.9 ppm で、すべての化合物および注入についての平均誤差は分析全体で ±0.9 ppm でした。注入間のシグナル強度とピーク面積を、各サンプルの繰り返し注入を使用して評価し、装置の確立されたダイナミックレンジ内では、繰り返し注入の間に観察されたピークレスポンスの最大変動は 7.6% で、平均変動は 2.2% であることが実証されました。分析セッション全体にわたるシグナル強度およびピーク面積の頑健性を、分析セッションの開始時と終了時にカテキン標準試料を注入して評価しました。調査したすべてのカテキン標準試料にわたって、シグナル数で 3.6% (平均)の変化が、レスポンスの計算値で 3.6%(平均)の差異が、1 回目の注入と 35 回目の注入の間(分析時間は 12 時間を超える)に見られました。
720007226JA、2021 年 4 月