生物学的価値および栄養価の高い牛乳タンパク質は、食品に用いると、技術的機能を示します。牛乳タンパク質の 2 つの分類(カゼインおよび乳清)を同定および定量するために、完全なソリューション一式が開発されました。ProteinWorks Auto-eXpress Digest キットは、柔軟で広く適用可能なサンプル前処理キットであり、これには、サロゲートペプチドアプローチによるタンパク質の正確かつ高精度で、頑健な LC-MS 定量のために最適化された、ロット追跡可能な秤量済みの試薬が含まれていいます。このアプリケーションで使用する ACQUITY Premier カラムは、金属表面との望ましくない相互作用を軽減し、カゼイン中に存在するリン酸化ペプチドの分析を改善する、非常に効果的な表面バリアを提供する MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーに基づいています。Progenesis QI for Proteomics ワークフローにより、後続する牛乳タンパク質の UPLC-MS/MS 定量に必要なシグネチャーマーカーペプチドの検出が容易になります。クラウドネイティブの OneLab ソフトウェアを使用して、Andrew+ ピペッティングロボットを使用するキャリブレーション標準試料の生成と、段階的消化プロトコルのアプローチを自動化することによって、手動によるピペット作業の時間が大幅に短縮され、ラボの分析者は他の作業を同時に行えるようになって、生産性が最大限に高まります。
ミルクは、健康上の利点があり、価値ある栄養素が含まれていると認識されています。チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品の製造にも使用されます。ミルクの重要成分には、タンパク質、脂質、脂肪酸、炭水化物などがあり、その含有量は、さまざまな動物種からのミルクで異なります1。 乳製品の代替品への関心の高まりは、乳製品アレルゲンの回避、クリーンラベル製品、菜食主義者/完全菜食主義者/緩やかな菜食主義者のライフスタイルとの適合性、二酸化炭素排出量、持続可能性、動物福祉に関する懸念など、多くの推進力に起因しています。重要なのは、そのようなミルクの代替品に、必要な栄養素が含まれていることを保証することです。
ミルクの成分のうち、タンパク質は、主要な栄養素を提供し、抗菌活性および免疫調節活性によって感染から保護することが、研究によって示唆されており、特に関心が持たれてています。タンパク質は、知覚経験の一部である口当たりや食感に影響するため、乳製品の風味に極めて重要な役割を果たすことも知られています。ただし、代替乳製品タンパク質では、乳製品タンパク質での知覚特性や機能は未だ限られており、あまり好ましい状態ではないため、課題になっています2。 現在の乳製品代替品の開発には、細胞ベースの乳製品やヴィーガンカゼインなどの分離した乳製品成分などが含まれ、そこでは新しいマトリックスの特性解析や、食品テクノロジーでの製品開発に影響を与える特性の特性解析に対する需要があります。
牛乳タンパク質に関する試験は数多くあり、既存の分析法にはゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、液体クロマトグラフィー、免疫学的手法などがあります。ただし、これらの分析法には、幾分の不正確さ、再現性の低さがあることがあり、サンプル処理手順が面倒で時間がかかります。このため、これらのタンパク質用の頑健で信頼性の高い定量メソッドの開発は、研究および製造のアプリケーションの両方に有益であり3、乳製品代替タンパク質にも適用できます。選択した以下の牛乳タンパク質を使用して、他の代替タンパク質の特性解析のための分析法移管の性能保証を実証しました。
このアプリケーションノートの目的は、液体ミルクサンプル中の、5 種の対象牛乳タンパク質(α-カゼイン(α-CN)、β-カゼイン(β-CN)、κ-カゼイン(κ-CN)、α-ラクトアルブミン(α-LA)、β-ラクトグロブリン(β-LG))の濃度を決定することでした。このソリューションには、(i)ProteinWorks Auto-eXpress Digest キットを使用するトリプシン消化、(ii)各タンパク質のシグネチャーペプチドを見出すためのボトムアッププロテオミクスアプローチ、(iii)5 種の牛乳タンパク質を定量するためのマルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードを用いた UPLC-MS/MS 分析法、(iv)プロセスを効率化するために Andrew+ ピペッティングロボットを使用する自動プロトコルが含まれます。
濃度 10 mg/mL の 5 種類のストック溶液 α-CN、β-CN、κ-CN、α-LA、β-LG は、ProteinWorks Auto-eXpress Low Digest キット(製品番号:176004078)から得た消化バッファーに標準試料を溶解することにより、個別に調製しました。適切な量の個々のストック溶液のアリコートを混合し、初期濃度が α-CN および β-CN では 3,500 μg/mL、κ-CN および β-LG では 1,000 μg/mL、α-LA では 500 μg/mL の混合標準溶液を作成しました。次に、Andrew+ ピペッティングロボットで連続希釈を行い、残りのキャリブレーション標準試料を作成しました。消化プロトコルに進む前に、まず 5 種の市販ミルクサンプルを消化バッファーで 10 倍希釈しました。28 μL のキャリブレーション標準試料または希釈したミルクサンプルを使用して、ProteinWorks Auto-eXpress Low Digest キット、5 ステップ消化プロトコルを後続して実行しました。キャリブレーションシリーズの調製および消化プロトコルは、完全に Andrew+ ピペッティングロボットによって行われました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS FTN |
カラム: |
ACQUITY Premier CSH C18 カラム 1.7 μm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009461) |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
1 μL |
流速: |
0.15 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: (UPLC-QTof-MSE) |
0 ~ 1 分:1% B、 1 ~ 15 分:1 ~ 40% B、 15 ~ 15.5 分:40 ~ 90% B、 15.5 ~ 17 分:90% B、 17 ~ 17.1 分:90 ~ 1% B、 17.1 ~ 20 分:1% B |
グラジエント: (UPLC-MS/MS) |
0 ~ 1 分:5% B、 1 ~ 7.5 分:5 ~ 50% B、 7.5 ~ 8 分:50 ~ 90% B、 8 ~ 9 分:90% B、 9 ~ 9.1 分:90 ~ 5% B、 9.1 ~ 11 分:5% B |
MS システム: |
Xevo G2-XS QTof |
イオン化モード: |
ESI+ |
測定モード: |
Tof MSE |
取り込み範囲: |
50 ~ 2000 Da |
キャピラリー電圧: |
2.5 kV |
コリジョンエネルギーランプ: |
15 ~ 40 eV |
コーン電圧: |
40 V |
ロックマス: |
Glu フィブリノペプチド B(2+、m/z 785.8426) |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
ESI+ |
キャピラリー電圧: |
2.2 kV |
コーン電圧: |
30 V |
イオン源温度: |
120 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
コーンガス流量: |
50 L/時間 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx v4.2 Progenesis QI for Proteomics v4.0 EZInfo v3.0 OneLab |
RapiGest SF 界面活性剤を使用すると、消化後のサンプル調製が最小限またはまったく不要で、酵素消化の速度と完全性が改善され、このために調製プロトコル(製品番号:720003102)が簡素化されます。5 種の牛乳タンパク質標準試料を、まず 3 回個別に消化し、UPLC-QTof-MSE 分析に供しました。次に、プールした QC サンプルの生データを Progenesis QI for Proteomics にインポートし、クロマトグラフィーアライメント、データの正規化、ピーク選択を行いました。計 1,050 種のペプチドが、次記の設定でのイオンアカウンティング同定ワークフローを用いて同定されました:FDR 1% 未満、固定修飾(C のカルバミドメチル化)、可変修飾(M の酸化および STY のリン酸化)。ロードされた UniProt FASTA ファイルには、ウシのレビュー済み配列のみが含まれるようにフィルタリングされたデータベースが含まれました。
主成分分析(PCA)は、Progenesis QI for Proteomics の主要機能の 1 つであり、データを明確に可視化して、外れ値の存在を判断し、サンプルがどの程度適切にグループ化されているかを判定できます。図 1 の教師なし PCA スコアプロットで、5 種のタンパク質の明確なクラスタリングが示されています。すべてのプールした QC サンプルは、PCA スコアプロットの中心近くに密集していることが確認されました。これにより、分析法の再現性が良好で、データ解析中にバイアスが導入されていないことが示されています。β-CN および κ-CN のクラスターが近接しており、この 2 種のカゼインの差異は最小限であることが示されました。
ペプチドデータが EZInfo にエクスポートされ、そこで直交部分最小二乗判別分析(OPLS-DA)を使用して教師あり多変量解析が行われました。OPLS-DA は、シグネチャーマーカーペプチドの同定に役立つ有用な統計ツールです。図 2A に、β-CN と他の 4 種のタンパク質を比較した代表的な OPLS-DA スコアプロットが示されています。S プロットを作成することにより(図 2B)、β-CN と他の 4 種のタンパク質の間の差異の原因となる特徴的な特性が明らかになりました。信頼性と重要性が最も高い特性(青色で強調)を選択して Progenesis QI for Proteomics にインポートして戻し、アイデンティティーの検証とさらなる評価を行いました(図 2C)。この例で選択されているペプチドは β-CN に固有のペプチド配列であり、他の 4 種のタンパク質には存在しません。このプロセスを 5 種の牛乳タンパク質すべてに対して繰り返し、シグネチャーマーカーペプチドの候補リストを作成しました。各タンパク質について、1 つのペプチドを定量用に選択し、確認のために別のペプチドを少なくとも 1 つモニターしました(表 1)。ペプチドの選択基準には、良好なクロマトグラフィー分離、シグナル強度、シグナル対ノイズ比を含めました。
選択したシグネチャーペプチドの MRM 条件が、表 1 にまとめられています。ペプチドを検出するには、最小シグナル対ノイズ比が 3 の MRM トランジションがすべて存在する必要があり、タンパク質割り当てには、少なくとも 2 つのペプチドを決定する必要があります4。 以前に公開したアプリケーションノート(製品番号:720007025)に、リン酸化ペプチドの分析に MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用することの利点が、ペプチド YKVPQLEIVPNSAEER の検出での改善とともに記載されています。
キャリブレーション標準試料の調製は、すべての定量分析の要件ですが、これらのステップは反復的で、時間がかかり、人的ミスが発生しがちです。同様に、このタンパク質消化プロトコルには試薬を繰り返し添加する必要があり、どちらもタスクの自動化に適しています。検量線の作成および ProteinWorks 5 ステップ消化プロトコルは、Andrew+ ピペッティングロボットの設計および実行の両方のプロトコルに使用したクラウドネイティブソフトウェアの OneLab で生成されました(図 3)。
Andrew+ ピペッティングロボットと一般的なラボ分析者の間で、ピペッティングに必要な時間(消化時の加熱時間を除く)を比較すると、Andrew+ は 5.5 倍を上回る速度でピペッティング作業を完了できました(図 4)。このプロセスを自動化することにより、ラボの分析者は他の作業を同時に行うことができ、サンプル調製手順を効率化し、可能性がある人的ミスを低減し、プロセス全体で一貫した分析法性能を確保することが可能になります。
Andrew+ ピペッティングロボットによって作成した標準検量線により、単純な 1/x 重み付けを使用し、広い濃度範囲をカバーする優れた線形相関係数 r2 > 0.99 が示されています(表 2)。
代表的なサンプルセットを提供するために、全乳、低脂肪、チョコレート風味、イチゴ風味のミルクなどの様々な市販ミルク製品を、開発した半自動分析法を用いて分析しました。図 5 に、さまざまなミルクサンプル中にあるさまざまな濃度の同定された牛乳タンパク質が示されています。得られた結果は、以前に発表された文献とよく一致しています5。 対象の 5 種のタンパク質のうち、β-CN はすべてのミルクサンプル中で最も濃度が高く(41 ~ 49%)、続いて α-CN(27 ~ 34%)、κ-CN(11 ~ 15%)、β-LG(10 ~ 12%)、α-LA(3%)でした。絶対定量分析を行うには、同位体標識ペプチドを内部標準試料として取り入れる必要があります。マトリックス効果や回収率などに関するさらなる分析法バリデーションを試験することも推奨します。
ボトムアッププロテオミクスは、シグネチャーペプチドの発見に有用なアプローチであり、牛乳タンパク質に機能することが実証されました。Progenesis QI for proteomics と EZInfo の統計ツールを組み合わせることにより、困難な手順が使いやすいワークフローに統合され、合理化されました。発見したシグネチャーマーカーペプチドを、定量分析に発展させることに成功し、さまざまな市販のミルク製品を分析することでこの分析法の性能と有効性を実証しました。OneLab を使用して作成され、Andrew+ ピペッティングロボットで実行される自動分析法により、ピペッティング時間が 5.5 倍を超えて大幅に短縮され、一貫性が確保されました。このアプリケーションノートでは、完全なソリューション一式を説明し、同じワークフローを適用して代替牛乳タンパク質を分析できることを示しました。
本研究は Waters International Food および Water Research Centre(IFWRC、シンガポール)で行われました。著者らは、タンパク質標準試料および新しい種類のミルクの分野の専門知識をご提供いただいた Turtletree Labs Pte. Ltd. に感謝いたします。
720007335JA、2021 年 8 月