医療用および嗜好用の大麻の合法化が進んでます。その結果、植物材料および大麻由来製品の成分表示を裏付け、消費者のために品質および安全性を確保するための分析に用いる、単純で信頼性の高い分析法が必要になっています。
UPLC-PDA および質量検出器を使用して大麻の花、ヘンプ、および食料品に含まれる 18 種のカンナビノイドの検出および定量を行うための頑健な分析法を開発しました。ACQUITY PDA 検出器に、シングル四重極型質量検出器である ACQUITY QDa 質量検出器を組み合わせて使用し、Empower クロマトグラフィーデータソフトウェアで制御することで、定量データを取り込みました。Waters ACQUITY UPLC H-Class-PDA-QDa システムと CORTECS C18 分析カラムを組み合わせることで、18 種のカンナビノイドの分離を 10 分未満で行うことができました。QDa 質量検出器で検出されたカンナビノイドの検量線で使用した最低レベルは 0.4 µg/mL で、PDA を用いて検出されたカンナビノイドの検量線で使用した最低レベルは約 3.125 µg/mL でした。ACQUITY QDa により、低濃度のカンナビノイドが、PDA よりも正確に検出できました。得られた結果から、この分析法が、大麻の花、ヘンプ、濃縮物、食料品などの広範なマトリックスにわたって、カンナビノイドの分析および正確な検出に適していることがわかりました。
医療用および嗜好用の大麻の合法化が進んでます。より多くの製品が開発され、市場に導入されている中で、成分表示を裏付け、消費者のために品質および安全性を確保するための分析に用いる、単純で信頼性の高い分析法が必要になっています。大麻草(Cannabis sativa)は、数百種に及ぶ様々なカンナビノイドを産生する複雑な天然物ですが、多くのラボでは主に Δ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)の 5 つの化合物の分析に重点が置かれています。最近ではその他のマイナーなカンナビノイドに有用な薬効が示されており、主要化合物とともに、それらの分離および同定を行う重要性が増しています。妥当な時間内に、マイナーおよびメジャーなカンナビノイドのピークの共溶出を最小限に抑えつつ、正確な定量結果が得られることが望まれます。カンナビノイドは、チョコレートやグミなど、糖分や脂肪の多い食料品などを含めて幅広く食品に添加されているため、この点が特に困難になります。化学的に複雑なサンプルの分析を成功させるためには、効果的なサンプル前処理が必要となります1。超高速高分離液体クロマトグラフィー(UPLC)に UV 検出を組み合わせることで、構造的に類似したメジャーおよびマイナーなカンナビノイドおよびそれらの様々な形態を同定・定量することができるため、複雑なマトリックス中での効能の判定が可能になり、最も有効な結果をもたらす化合物の適切なブレンドを決定できます。質量検出器を追加することで、特異性と感度のいずれも向上できます。この試験では、ACQUITY UPLC H-Class システムに ACQUITY PDA および ACQUITY QDa 質量検出器の両方を組み合わせて、大麻の花、ヘンプおよびグミ、チョコレートなどの食料品に含まれる 18 種のカンナビノイドの分析を行いました。
標準品
カンナビノイドの標準品は Cayman Chemical(ミシガン州アナーバー)および Cerilliant/Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手しました。
試薬
サンプル抽出および LC 移動相用の LC-MS グレードの溶媒は Honeywell-Burdick and Jackson(ミシガン州マスキーゴン)から入手しました。ギ酸は Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手しました。
大麻およびその誘導体のサンプルは、地元の販売店(マサチューセッツ州)から入手しました。マトリックスにより異なるサンプル前処理を行いました。
大麻植物の材料(0.5 g)を 50 mL 遠心分離チューブに量り取り、アセトニトリルのアリコート(20 mL)およびステンレススチール製ボール 2 個を添加しました。サンプルは、Geno/Grinder®(SPEX、ニュージャージー州メアチェン)を用いて 1,500 rpm で 3 分間処理しました(図 1a)。チューブを 20 分間超音波処理し、3,000 rcf で 5 分間遠心分離しました。超音波処理の後、サンプルを遠心分離し、0.2 µm PTFE フィルターを使用してろ過しました。 サンプルは、2 つの濃度レベル(80 倍希釈および 2,000 倍希釈)で 3 回繰り返し分析しました。サンプル中の THCA や CBDA などの一部の主要カンナビノイドの濃度が著しく高い値を示すものがあり、検量線の範囲内に収まるまで濃度を下げるためには希釈が必要でした。
凍結粉砕または均質化したサンプルを 1 g 量り取り、50 mL 遠心分離チューブに移して 10 mL の水を添加しました。チューブを 1 分間ボルテックス混合し、20 分間超音波処理しました。アセトニトリル(10 mL)を添加して、チューブを 1 分間ボルテックス混合しました。CEN QuEChERS 塩(製品番号:186006813)をチューブに添加し、1 分間振とうした後、3,000 rcf で 5 分間遠心分離しました。サンプルの濃度に応じて、一番上のアセトニトリル層を直接注入することも、アセトニトリルで希釈することも可能です。
グミや粘着性の材質をすりつぶすには Freezer/Mill® を使用しましたが、長時間室温で放置すると、脆くなったグミの材質が粘着性を帯びました(図 1b)。
カンナビノイド入り飲料の 10 mL アリコートを 10 mL のアセトニトリルに添加しました。サンプルを 1 分間ボルテックス混合し、CEN QuEChERS 塩を添加した後、1 分間振とうしてから、3,000 rcf で 5 分間遠心分離しました。サンプルの濃度に応じて、上層のアセトニトリル層を直接注入するか、アセトニトリルで希釈しました。
事前スパイクしたサンプルの前処理:
18 種の真正カンナビノイド標準品(濃度 50 µg/mL)を含むスパイク溶液の 1,000 µL アリコートを 1 g の均質化したグミ #941(事前に 0.119 % CBD を含むことを決定済み)にスパイクし、グミ中の最終添加濃度を 0.005% にしました。水を 10 mL 添加して、サンプルをボルテックス混合し、20 分間超音波処理しました。アセトニトリル(9 mL)を添加し、混合液をボルテックス混合して、CEN QuEChERS 塩を添加しました。チューブを 1 分間振とうし、5 分間遠心分離しました。最後に、100 µL のアセトニトリルを QuEChERS ステップで得られた 1 mL のアセトニトリル抽出物に添加し、スパイク後サンプルの最終量を 1.1 mL にしました。
スパイク後サンプルの前処理:
均質化したグミ #941 1 g(事前に 0.119 % CBD を含むことを決定済み)を 10 mL の水に添加しました。サンプルをボルテックス混合し、20 分間超音波処理してから、アセトニトリルを 10 mL 添加しました。次に、CEN QuEChERS 塩を添加しました。その後、サンプルを 1 分間振とうし、5 分間遠心分離しました。最終的なアセトニトリル抽出物(1 mL)に 18 種のカンナビノイド標準品(50 µg/mL で 100 µL)を含む混合液をスパイクしました。
サンプル濃度を、溶媒で作成した検量線を用いて計算し、カンナビノイドの % 回収率を測定しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class |
検出: |
PDA 単一波長 @ 228 nm、253 nm PDA スペクトル 210 ~ 400 nm で分離能 4.8 nm |
バイアル: |
品質証明バイアル(製品番号:186005668CV) |
フィルター: |
シリンジフィルター(製品番号:WAT200556) |
カラム: |
CORTECS C18、1.6 µm、2.1 mm × 150 mm(製品番号:186007096) |
カラム温度: |
29 ℃ |
サンプル温度: |
5 ℃ |
注入量: |
1 µL |
流速: |
0.45 mL/分 |
移動相 A: |
20 mM ギ酸アンモニウム pH 2.92 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
弱洗浄: |
水/メタノール = 90:10 |
強洗浄: |
水/アセトニトリル = 5:95 |
シール洗浄溶媒: |
水/メタノール = 90:10 |
MS システム: |
ACQUITY QDa |
イオン化モード: |
ポジティブおよびネガティブイオンエレクトロスプレー(ESI+/ESI-) |
取り込み質量範囲: |
100 ~ 600 Da SIR ESI+ および SIR ESI- |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV(+)、0.8 kV(-) |
コーン電圧: |
10 kV(+)、15 kV(-) |
イオン源温度: |
150 ℃ |
プローブ温度: |
450 ℃ |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower クロマトグラフィーデータソフトウェア(CDS) |
表 1 に示した 18 種のカンナビノイドの分析を PDA および質量検出器を搭載した UPLC で行いました。ACQUITY QDa 検出器は頑健な質量検出器で、質量スペクトル情報を活用できるアプリケーションのためのクロマトグラフィーワークフローに統合できるように設計されています。複雑なマトリックスでは、質量検出により、ピーク同定の信頼性が高まり、より低い検出限界を実現できます。
MS データは、より特異的な選択イオンレコーディング実験(SIR)と組み合わせて、フルスキャンの ESI ポジティブおよびネガティブモードで収集しました。PDA は個別の波長(228 nm および 253 nm)をモニターするように設定し、210 ~ 400 nm で PDA のフルスペクトルを収集しました。保持時間、PDA データ、マススペクトルデータを同時に使用して、サンプル中に検出されたカンナビノイドを同定しました(図 2)。図 3 にカンナビノイドの分析に使用した装置、ソフトウェア、分析ワークフローを示します。
クロマトグラフィー、UV、および質量データをソフトウェア中の 1 ヶ所に集約することにより、データ解釈の負担を軽減できます。Empower 質量分析ウィンドウ(図 2)により、分析に使用したすべての検出器から得たクロマトグラフィーピークを、対応するスペクトル(UV クロマトグラムを含む)と関連付ける単一の場所が提供されます。スペクトルは、トータルイオンクロマトグラム(TIC)およびマススペクトルと抽出イオンクロマトグラム(XIC)とともに表示されています。検出されたピークのスペクトルは、保持時間によりアライメントされ、クロマトグラムの上のウィンドウに表示されるので、データ評価が迅速かつ容易になります。18 種のカンナビノイドの分離を示すクロマトグラムを図 2 に示します。分析にかかった合計サイクル時間は 10 分でした。
アセトニトリルでの連続希釈により調製した 18 種のカンナビノイドのマルチポイント検量線を生成したところ、PDA および質量検出器の両方で優れた直線性が見られました(R2 > 0.99)。検量線の範囲は、228 nm の UV データでは 3.1 ~ 50 µg/mL で、ACQUITY QDa では 0.4 ~ 50 µg/mL でした。ACQUITY QDa データから得られた CBDV 検量線の R2 は 0.9878 でした。これは、50 µg/mL で検出器が飽和したためです(図 4)。ACQUITY QDa 検出器でのレスポンスが大きい一部のカンナビノイドではキャリブレーション範囲 0.4 ~ 25 µg/mL が使用でき、直線近似のためには更なる希釈が必要となります。
図 5 に、228 nm での PDA および QDa SIR を使用して検出したカンナビノイドの試験で使用した最も低濃度のキャリブレーションポイントのクロマトグラムを示します。UV クロマトグラムから、1 µL の注入で 3.125 µg/mL のカンナビノイドが検出されたことがわかります。示されている質量検出器の最も低濃度のキャリブレーションポイントは 0.4 µg/mL です。
ターゲット MS 実験(SIR)を使用することで、感度および特異性が向上し、複雑なマトリックス中においてより低濃度の検出下限値が達成されます。低 Δ9-THC 含量種および高 Δ9-THC 含量種の大麻の花の分析から得られた代表的なクロマトグラムを図 6 および 7 に示します。図 6 において、Empower CDS は、UV クロマトグラム中の CBD および CBDA を保持時間に基づいて自動的に同定し、ラベル付けしています。ターゲット分析を使用して得られた特異性も明白であり、同定した成分の信頼性が高まっています。m/z 357 をターゲットにした SIR を用いたネガティブイオン ESI を使用して、CBDA などの酸性カンナビノイドを検出しました。ターゲット SIR および抽出波長クロマトグラムに加えて、210 ~ 400 nm の範囲のフルスキャン MS データおよび PDA スペクトルが同時に記録されるため、MS スペクトルおよび UV スペクトルを表示することができ、同定したピークの信頼性がさらに高まりました。
同様に、図 7 では、Empower CDS は、UV クロマトグラム中の Δ9-THC および THCA を保持時間に基づいて同定し、タグ付けしています。SIR チャンネル(m/z 315 および m/z 357)は Δ9-THC および THCA SIR のクロマトグラムを示しています。
図 8 に、低 Δ9-THC 含量種の大麻サンプルの分析で得られた結果を示す Empower レポートを示します。計算濃度が、µg/mL 単位および重量比(wt%)で表に示されています。カスタム計算を設計し、自動的に計算して総 THC 含有量および総 CBD 含有量、ならびに CBD/THC 比をレポートすることができます。これにより、個別の計算を行う必要性がなくなり、データが単一のソフトウェア環境に保持されます。Empower レポートは、関連性のあるデータをレポートするように完全にカスタマイズできます。
大麻の花およびヘンプ中の 18 種のカンナビノイドの分析で生成された定量結果が表 2 に示されています(wt% で計算)。様々な種類および濃度のカンナビノイドを含むサンプルを、複数のメーカーから取り寄せました。THCA または CBDA の濃度の高いサンプルは、キャリブレーション範囲に収まるように 2,000 倍に希釈しました。低濃度のマイナーなカンナビノイドには、80 倍希釈の低希釈率を適用しました。検出された含有量のほとんどはラベル表示の 53% ~ 121% の範囲でした。一部のカンナビノイドでは、検出器のシグナルが低いため、%RSD が高くなりました。
表 2. 大麻の花およびヘンプの分析で得られた定量結果
%wt1:検出された % 重量
%RSD:相対標準偏差(n=3)
% ラベル:ラベル表示量に対する検出量の割合(%)
%wt2:ラベルに表示された % 重量
大麻入り食料品およびカンナビノイド入り飲料の定量結果をそれぞれ表 3a および 3b に示します。食料品およびカンナビノイド入り飲料中に検出されたカンナビノイドを % で計算しています。検出量の大半はラベル表示の 60 ~ 125% でした。ただしグミ #868 では、検出値はラベル表示の 36% でした。
表 3a.食料品分析の定量結果。
%wt1:検出された % 重量
%RSD:相対標準偏差(n=3) *QDa による %RSD
% ラベル:ラベル表示量に対する検出量の割合(%)
%wt2:ラベルに表示された % 重量
表 3b. カンナビノイド入り飲料分析の定量結果。これらのサンプルでは CBD のみが検出されました。
%wt1:検出された % 重量
%RSD:相対標準偏差(n=3)
% ラベル:ラベル表示量に対する検出量の割合(%)
%wt2:ラベルに表示された % 重量
図 9 に、チョコレートサンプル #515 中のカンナビノイドの分析の代表的なクロマトグラムを示します。Δ9-THC は強い UV および QDa のレスポンスを示しました。Δ8-THC のシグナルは、UV の方が QDa と比較して低くなり、UV で分析した場合の %RSD は 28%、QDa で分析した場合は 0% になりました。MS 分析により、チョコレートサンプル中の Δ9-THC および Δ8-THC の同定の信頼性が高まりました。
食料品にスパイクしたカンナビノイドの % 回収率の定量結果を図 10 に示します。QuEChERS 抽出の前にスパイクしたサンプル(事前スパイクサンプル)の wt% と QuEChERS 抽出後にスパイクしたサンプル(事後スパイクサンプル)の wt% を比較することで、回収率を計算しました。0.005% のレベルでスパイクしたグミの濃度(サンプル中に 5 mg/mL)は、UV 分析の検量線における検出限界(3.15 µg/mL)に近い値です。このレベルでは、一部のマトリックスの場合、マトリックス効果がカンナビノイドの回収率に影響を及ぼす可能性があります。PDA で分析したカンナビノイドの回収率は 60% ~ 125% の範囲でした。ACQUITY QDa 質量検出器で分析したカンナビノイドの回収率は 94% ~ 106% の範囲であり、UV 検出法と比較して正確度が向上していることが分かります。
228 nm の PDA および SIR チャンネルを使用してカンナビノイドについて得られた検出器レスポンスの比較を図 11 に示します。グミのマトリックス中に 5 μg/mL のレベルでスパイクしたカンナビノイド混合液についての検出器のレスポンスは、カンナビノイド入り製品中の低レベルのカンナビノイドの定量に役立つ MS を使用した場合に高くなりました。
Waters ACQUITY UPLC H-CLASS-PDA-QDa システムと CORTECS C18 カラムを組み合わせることで、18 種のカンナビノイドの有効な分離を 10 分未満で行うことができました。
ACQUITY QDa 質量検出器により、PDA と直交的な検出機能が得られ、低濃度のカンナビノイドのピーク同定の確認および定量ができました。質量検出を用いたカンナビノイドの検量線で使用した最低濃度は 0.4 µg/mL で、PDA を用いたカンナビノイドの検量線で使用した最低濃度は約 3.125 µg/mL でした。
Empower ソフトウェアの質量分析ウィンドウによる 1 画面表示機能は、分析で使用したすべての検出器のクロマトグラムとスペクトルを関連付けることが可能になります。情報を 1 ヶ所に統合することにより、データのレビューと解釈が容易に管理できるようになります。
Empower CDS には、カスタム計算などデータ分析に役立つ多くの機能があり、これにより関連情報を迅速に得ることが可能になります。ソフトウェア内で計算を実施することで、インテグリティーが保て、記録の保管に役立ちます。
QuEChERS 抽出法は、食品および飲料中のカンナビノイドの抽出に有効で、高い回収率が得られます。
この分析ワークフローは、大麻の花、ヘンプ、濃縮液、食品、飲料などの広範なマトリックスにわたるカンナビノイドの分析に適しています。
720007199JA、2021 年 3 月