• アプリケーションノート

アップストリームのバイオプロセスをサポートする、細胞培養培地中の栄養成分および代謝物の分析のためのハイスループット迅速 LC-MS 分析法の紹介

アップストリームのバイオプロセスをサポートする、細胞培養培地中の栄養成分および代謝物の分析のためのハイスループット迅速 LC-MS 分析法の紹介

  • Yun Wang Alelyunas
  • Josh Gray
  • Mark Wrona
  • Patrick Boyce
  • Waters Corporation

要約

細胞培養培地(CCM)の栄養成分および代謝物を対象とし、220 種以上の化合物をカバーする、迅速な 9 分間のダイレクト液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)分析法について説明します。この分析法は、逆相クロマトグラフィーに基づいており、アミノ酸を誘導体化せずに直接検出します。この迅速分析法により、以前に確立された使いやすいデータレビューワークフローを用いて、多変量データ解析(MVDA)にアクセスし、モニタリングおよび意思決定にかかる時間を短縮できます。この分析法は、市販の細胞培養培地や、NISTCHO 細胞を用いた cNISTmAb 製造のプロセス最適化からの使用済み培地中の栄養成分および代謝物の分析における定性的測定および定量的測定に適用されてきました。この分析法を使用した培地からのグルコースの直接モニタリングについても調査し、説明しています。

アプリケーションのメリット

  • 付属のライブラリー中の 220 種以上の化合物をカバーする、細胞培養培地中の栄養成分および代謝物の 9 分間の迅速分析
  • ACQUITY™ Premier ベースのテクノロジーおよび HSS™ T3 結合ケミストリーを使用する優れたクロマトグラフィー分離で、頑健な併行精度およびカラム寿命の延長を実現
  • ネガティブエレクトロスプレーイオン化(ESI-)取り込みモードを使用した LC-MS 分析により、グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸などの重要な栄養成分および代謝物に関する情報を取得
  • サンプル前処理、分析レポート作成のための完全で包括的なワークフローにより、培養に使用した培地についての深い理解を提供

はじめに

バイオ医薬品の細胞培養における最適な細胞増殖、品質、収率を実現するには、培養培地中の重要成分の適切な組成および濃度が非常に重要になります。培養の最適化中に、これらの化合物のタイムリーなプロセス内モニタリングが強く望まれます。最近、著者らは、BioAccord™ LC-MS システムに基づく細胞培養培地(CCM)分析のための LC-MS 分析法およびワークフローについて説明しました1。 このアプリケーションノートでは、更新された分析法について説明します。この更新された分析法では、分析法の頑健性、データインテグリティ、質、化合物のカバレッジを維持しつつ、取り込み時間が 20 分から 9 分に大幅に短縮しています。図 1 に、Andrew+™ ピペッティングロボットを使用したサンプル前処理から、BioAccord を使用した LC-MS 分析、waters_connect™ インフォマティクスを用いたデータのレビューおよびレポートに至るまでの、分析法の概略図を示します。このような分析時間の短縮化および迅速な分析により、バイオプロセスエンジニアは、代謝物の変化を手早くモニターし、意思決定を加速化することができます。

図 1.  Andrew+ ピペッティングロボットおよび BioAccord LC-MS プラットホームに基づく、細胞培養培地中の栄養成分および代謝物の分析のためのサンプル前処理、LC-MS 分析、レポートの概略

実験方法

サンプル前処理

市販の培地溶液は、表 1 に従って Millipore Sigma から購入しました。使用済み培地サンプルは、Waters™ Immerse Delaware センターで生成されたもので、ここで NISTCHO 細胞株を使用して流加培養バイオプロセス実験が行われ、CHO 流加培地中で cNISTmAb 製品が製造されました(表 1、エントリー 5)。NISTCHO 細胞株(RGTM 10971 NISTCHO 試験物質)は nist.gov(https://www.nist.gov/programs-projects/nistcho)から入手しました。清澄化した培地溶液および標準試料からのサンプルの前処理はすべて、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して行いました。使用済み培地サンプルは、0.1 µM の安定同位体標識チロシン(チロシン 13C915N)を内部標準試料として含む 0.1% FA で 1:400(V:V)希釈しました。キャリブレーション用標準溶液は、ウォーターズのアミノ酸細胞培養標準試料(表 1、エントリー 1)を、1:400 希釈したアール平衡塩類溶液(Millipore Sigma E2888)および 0.1 µM チロシン SIL を含む 0.1% ギ酸溶液で 10 µM から 0.01 µM まで段階希釈することにより調製しました。

分析条件

結果および考察

ハイスループットの迅速 LC-MS 分析法の説明

細胞培養の栄養成分および代謝物の分析のための、9 分間のハイスループット迅速分析法について説明します。9 分間という分析時間は、以前に発表された 20 分間の分析法と比較して 50% の短縮になりますが、同じ化合物カバレッジが維持されています1。 この分析法では、寸法が 2.1 × 100 mm の ACQUITY Premier HSS T3 カラムを使用し、BioAccord LC-MS システムで検出を行います。20 分間の分析法と同様に、アミノ酸は誘導体化せずに直接検出されます。使用済み培地のモニタリングでは、必要なサンプル前処理は、清澄化した培地サンプルの 0.1% ギ酸水系移動相によるシンプルな 1:100 ~ 1:400(V:V)希釈のみです。希釈比は、培地配合の濃度/添加によって決まります。希釈には、Andrew+ ピペッティングロボットに基づく自動化されたダウンロード可能なサンプル前処理プロトコルを使用します。化合物ライブラリーは、220 種以上の化合物を含むように更新されており、現在利用可能な細胞培養培地分析において最も包括的なカバレッジとなっています。簡単なデータレビュー、使用済み培地中の未知化合物の構造解析、EZInfo を用いた MVDA を含む waters_connect を使用したデータ解析に利用できるワークフローは、以前 20 分間の分析法で説明したものと同じです1。 この分析法の適用性の広さを、ウォーターズアミノ酸細胞培養標準試料溶液、DMEM、IMDM、CHO 流加培地、HEK293 ウイルスベクター培地、微生物増殖培地などの代表的な市販の培地溶液を分析することによって評価しました(表 1 参照)。この 9 分間の分析法により、すべての培地サンプルについて、20 分間の分析法と同じ検出結果が得られました。ウォーターズアミノ酸細胞培養標準試料キットに含まれる 26 アミノ酸の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を図 2 にまとめています。全体として、この分析法により、シャープな左右対称のピークが得られ、同重体化合物のペア(イソロイシン/ロイシンおよび 2-アミノ酪酸/4-アミノ酪酸)のベースライン分離が可能です。

表 1.  9 分間の分析法を使用して分析した市販の培養溶液のサマリー
図 2.  アミノ酸細胞培養標準試料キットに含まれる 26 種の化合物の抽出イオンクロマトグラム(XIC)。2 組の同重体化合物のペア(イソロイシン/ロイシンおよび 2-アミノ/4-アミノ酪酸)がベースライン分離されています。

分析法の性能は、26 種のアミノ酸を含むウォーターズアミノ酸細胞培養キット(製品番号:186009300)を使用して決定しています。別途、グルコースのキャリブレーション溶液も調製しました。各アミノ酸の抽出イオンクロマトグラムを図 2 に示します。分析法の直線性は、1/x2 近似による線形回帰および偏差の除外基準 20% を使用して判定しました。分析法の精度および正確性は、2 濃度(0.5 µM および 2.5 µM)での 6 回繰り返し注入に基づいて判定しました。表 2 にまとめたデータにより、測定したすべての化合物について、20 分間の分析法と同等の優れた再現性および正確性が得られることがわかりました2。これらの結果は、ハイスループットの迅速分析法により、定量結果と定性結果の両方が得られることを示唆しています。標準試料が存在しない場合は、プロセス最適化実験およびそれに続く MVDA 分析アプローチでの培地の栄養成分および代謝物の変化を分析する上で、相対レスポンスが非常に有用になります。

表 2.  9 分間の分析法を使用したアミノ酸およびグルコースの定量の直線性範囲、正確性、精度のサマリー。分析に使用したアミノ酸標準試料溶液は、アミノ酸細胞培養標準試料キット(製品番号:186009300)からのものです。直線性範囲は、1/x2 近似による線形回帰によって導出し、偏差 20% を除外基準としました。アミノ酸データは ESI+ 取り込みモード、グルコースは ESI- 取り込みモードをそれぞれ使用して取り込みました。

使用済み培地分析への応用

この分析法は、cNISTmAb を製造するための CHO 細胞培養の使用済み培地の分析に適用されてきました。14 日間の培養の間、さまざまなグルコース供給条件下で使用済みの培地溶液のサンプリングを行いました。遠心分離後、上清の溶液を 0.1% ギ酸で 1:400 希釈し、9 分間の迅速分析法と 20 分間分析法の両方を使用して分析しました。図 3 に、異なる反応フラスコからのサンプリング日対 MS レスポンスのトレンドプロットを示し、2 つの分析分析法を比較しています。図 3 には、クロマトグラフィーで早く溶出する化合物の例としてアスパラギン酸、中間に溶出する化合物の例としてロイシン、遅く溶出する化合物の例としてフェニルアラニンの 3 種類の代表的なアミノ酸が含まれています。結果には優れた相関が見られ、いずれの分析法を使用しても同じ傾向が見られました。このことは、20 分間の分析法で得られる質の高いデータが、 9 分間の迅速分析法でも得られることを示しています。

図 3.  培養条件およびサンプリング時間の関数としての実測レスポンスを示す化合物のトレンドプロット。左の緑色のグラフは 9 分間の分析法のデータ、中央の青色のグラフは 20 分間の分析法のデータです。右は、9 分間の分析法と 20 分間の分析法で得られたレスポンスの相関プロットです。使用済み培地サンプルはすべて 2 回繰り返しで注入しています。

図 4 は、サンプリング時間に対するグルコースレスポンスのプロットで、さまざまなグルコース供給条件の結果を重ね描きして、9 分間の分析法(A)と 20 分間の分析法(B)を比較しています。図 4 には、一般的な細胞培養アナライザーである Nova Flex2(C)から取得したグルコースデータも含まれています。実験計画では、4 種類のグルコース供給条件を試験しました。フラスコ 1、2、3 ではグルコース供給を減らした条件を使用しています。フラスコ 4 では、グルコース濃度が培養全体を通して 6 g/L で一定に維持されるようにグルコースを供給しました。結果から、グルコースの供給を減らした条件(フラスコ 1 ~ 3)では、細胞の指数関数的増殖期(5 ~ 7 日間)にグルコースが急速に消費され、枯渇することがわかりました。一方、維持投与量条件(緑色の線、フラスコ 4)では、同じ期間においてグルコース濃度が維持されました。細胞生存率およびタンパク質力価の結果では、維持投与量を使用した場合に、高い細胞生存率とタンパク質力価が見られました(BioAccord を使用した細胞培養培地におけるインタクトタンパク質分析についてのウォーターズアプリケーションノート3 参照)。図 4 では、9 分間の分析法のデータは 20 分間の LC-MS 分析法と同等であり、同様の高品質なデータが得られました。また、Nova Flex2 アナライザーでは、両方の LC-MS 分析法を使用して得られたデータの間に良好な相関性があることがわかります。陰イオン化条件で検出されたグルコースに加えて、グルタミンやグルタミン酸などのいくつかのアミノ酸も検出可能です。したがって、グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸などの重要な栄養成分および代謝物をモニターする必要がある場合、陰イオン化条件下の 1 回の注入で結果を得ることができます。

図 4.  すべての供給条件を重ね描きしたグルコースレスポンス対培養時間のプロット。(A)9 分間の分析法のデータ、(B)20 分間の分析法のデータ、(C)Nova Flex2 アナライザーのデータ。4 種類のグルコース供給条件(異なる色で表示)を、4 個の別々のフラスコで、それぞれ 2 回繰り返しで使用しました。グラフのエラーバーは 2 回繰り返しの測定値を表しています。LC-MS におけるグルコース・塩素付加イオン(+Cl)を選択的検出のために使用しました。

結論

細胞培養培地中の栄養成分および代謝物のモニタリング用のハイスループットの迅速分析法について説明しました。この分析法は、迅速な 9 分間のデータ取り込み、220 種以上の化合物からなるライブラリーのスクリーニング、簡単なデータレビュー、データレポート、並びに化合物の解析およびバッチ比較(MVDA)機能で構成されています。分析時間を 9 分に短縮させることで、バイオプロセスラボにおける迅速なデータ生成が可能になります。この分析法で使用する使用済み培地サンプルは 10 µL 未満で、バイオリアクターからサンプリングした清澄化した使用済み培地の水系移動相による簡単な希釈を使用しています。培地および標準試薬溶液の自動サンプル前処理は、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して容易に行えます。迅速な 9 分間の分析法と、以前に発表されている 20 分間の分析法の徹底したデータ比較から、分析時間を 50% 短縮させても、同じ質の高いデータおよび分析法の頑健性が得られることが示唆されます。結論として、分析研究者やバイオプロセスエンジニアは、ハイスループットの迅速分析法と使用可能なウォーターズのバイオプロセスウォークアップソリューションを組み合わせることで、アップストリームのバイオプロセス最適化のための質の高いデータを容易にルーチンで得ることができます4。 完全な機能を備えた BioAccord LC-MS システムにより、プロセスを完全に理解するための培地サンプルのルーチンモニタリングおよび詳細な分析を行うことができます。

参考文献

  1. YW Alelyunas, MD Wrona, W Chen, Monitoring Nutrients and Metabolites in Spent Cell Culture Media for Bioprocess Development Using the BioAccord LC-MS System with ACQUITY Premier, Waters Application note. 720007359.September 2021.
  2. YW Alelyunas, MD.Wrona, YQ Yu, Quantification of Underivatized Amino Acids in Cell Culture Media Using the BioAccord LC-MS System, Waters Application note. 720007766.October 2022.
  3. YW Alelyunas, C Prochaska, C Kukla, C Hanna, MD Wrona, Monitoring Intact Glycoprofiles and Spent Media Metabolites in Samples from Sartorius Ambr 250 High Throughput Bioreactor System to Support Upstream Process Development, Waters Application note. 720008042. September 2023.
  4. YW Alelyunas, E Embrey, L Collins, A Pegaz-Blanc, G Mignard, MD.Wrona, Simplifying Bioreactor In-Process Monitoring with Waters Bioprocess Walk-Up Solutions, Waters Application note. 720008062. August 2023.

720008170JA、2024 年 1 月

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