• アプリケーションノート

Waters MassTrak™ ステロイド血清セット 2 およびセット 3 を使用した副腎皮質ホルモンおよびアンドロゲンの定量

Waters MassTrak™ ステロイド血清セット 2 およびセット 3 を使用した副腎皮質ホルモンおよびアンドロゲンの定量

  • Laura Moran
  • Dominic Foley
  • Niall Tobin
  • Norma Breen
  • Leanne Davey
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

UPLC-MS/MS によるヒト血清中の 7 種類の内分泌ステロイドホルモンの定量に関する臨床研究分析法。

アプリケーションのメリット

  • クロマトグラフィー臨床研究分析法の選択性により、同重体分子種の分離を実現
  • LC-MS/MS により、マルチウェルプレート自動化を介してより高いサンプルスループットが可能に
  • テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールについて、EQA 質量分析計での平均値と社内パネルでの平均値の優れた一致を達成(±6% 以内)
  • 凍結乾燥したキャリブレーション試薬および QC 標準試料により、サンプル前処理にかかる時間が短縮し、臨床研究分析法の調和および ISO 15189:2022 に準拠した計量計測トレーサビリティーを実現

はじめに

ステロイドホルモンには幅広いクラスの低分子が含まれており、性徴、血圧、炎症の制御など、代謝プロセスにおいて中心的な役割を果たします。ステロイド生合成経路の一部をなす酵素は、これらの代謝プロセスにおいて極めて重要であり、臨床研究においてステロイドホルモンを正しく測定することによって、その機能不全を調べることができます。

LC-MS/MS を使用したステロイドの定量は、より高い分析感度と選択性が得られ、複数の分析種を同時に定量できるため、イムノアッセイなどの従来のリガンド結合手法よりも有用です。一方、多くの LC-MS 分析法において、調和や標準化がなされていません。Waters MassTrak ステロイド血清セット(IVD)は、凍結乾燥血清中に、利用可能な最高レベルの計量計測トレーサビリティーまで計量計測的にトレーサブルな、さまざまなステロイドホルモンが含まれているため、ラボの ISO 15189 準拠に役立ち、結果の正確さに確信が持てます。

Waters MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット 2 は、ヒト血清中のアンドロゲンおよびプロゲストーゲンを定量的に測定して、生理学的マーカーのモニタリングに役立てることを目的としています。一方、MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット3 は、ヒト血清中のアンドロゲンおよびグルココルチコイドの定量に使用して、生理学的マーカーのモニタリングに役立てることを目的としています。

今回、Waters MassTrak ステロイド血清セット 2 および 3、キャリブレーション試薬および QC 標準試料、Waters Oasis™ PRiME HLB µElution プレートテクノロジーを使用した、血清サンプルからのテストステロン、アンドロステンジオン、17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)、デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールの抽出に使用する臨床研究分析法について説明します。この分析法は、Hamilton™ Microlab STAR リキッドハンドラーを使用して自動化されています。クロマトグラフィー分離は、ACQUITY UPLC™ I-Class Plus(FL-I)システムで、ACQUITY UPLC HSS T3 Vanguard™ プレカラムおよび ACQUITY UPLC HSS T3 カラムを使用し、Xevo™ TQ-S micro 質量分析計を用いて行いました(図 1)。

図 1.  Waters ACQUITY UPLC I-Class Plus システムおよび Xevo TQ-S micro

実験方法

サンプル前処理

この試験では、Waters MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット 2(186010563IVD)、MassTrak ステロイド血清 QC セット 2(186010564IVD)、MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット 3(186010565IVD)、MassTrak ステロイド血清 QC セット 3(186010566IVD)キャリブレーション試薬および品質管理標準試薬を、MassTrak ステロイド内部標準混合液(186010567IVD)とともに、指示に従って調製しました。

MassTrak ステロイド血清キャリブレーションセット 2 およびセット 3、QC セット 2 およびセット 3 には、以下の分析種がさまざまな濃度で含まれています。

表 1.  MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット 2 およびセット 3、QC セット 2 およびセット 3 の各分析種の濃度範囲

(SI 単位を nmol/L に変換するには、テストステロンの場合 3.470(ng/mL から nmol/L)、アンドロステンジオンの場合 3.494(ng/mL から nmol/L)、17-OHP の場合 3.028(ng/mL から nmol)、DHEAS の場合 2.716(ng/mL から nmol/L)、コルチゾールの場合 2.761(ng/mL から nmol/L)、11-デオキシコルチゾールおよび 21-デオキシコルチゾールの場合 2.889(ng/mL から nmol/L)を乗算します)。

サンプル抽出

抽出の前に、すべてのサンプルを 3000× g で 5 分間遠心することが推奨されています。抽出は Hamilton Microlab Start リキッドハンドラーを使用して行いました。100 µL のサンプルに対して、25 µL の MassTrak ステロイド内部標準混合液をサンプルの各ウェルに添加しました。(2 ng/mL のテストステロン 13C3、4 ng/mL のアンドロステンジオン 13C3、10 ng/mL の 17-OHP 13C3、3000 ng/mL の DHEAS 2H6、100 ng/mL のコルチゾール 13C3、4 ng/mL の 11-デオキシコルチゾール 13C3 および 10 ng/mL の 21-デオキシコルチゾール 2H4)。各ウェルに LC-MS グレードのメタノール 200 µL および LC-MS グレードの水 550 µL を添加します。各試薬を添加した後、サンプルを混合します。次に、サンプルを 4000× g で 5 分間遠心分離しました。

前処理した各サンプルのアリコート(600 µL)を Oasis PRiME HLB µElution プレート(製品番号:186008052)の個々のウェルにロードし、低真空(100 mbar)でゆっくり吸引しました。イオン性干渉を低減するために、0.1%(v/v)アンモニア含有 35%(v/v)メタノール(aq) 150 µL および 0.1%(v/v)ギ酸含有 35%(v/v)メタノール(aq) 150 µL による連続洗浄を行いました。分析種は、30 µL の 85/15(v/v)アセトニトリル/メタノールでコレクションプレートに溶出し、次いで 70 µL の水を加えました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class Plus(FL-I)システム

カラム:

ACQUITY UPLC HSS T3 カラム(2.1 × 50 mm、1.8 µm)(製品番号:186003538)

プレカラム:

ACQUITY UPLC HSS T3 VanGuard プレカラム(製品番号:186003976)

カラム温度:

50

サンプル温度:

10 ℃

ループサイズ:

50 µL

ニードル:

20 µL

注入量:

20 µL

注入モード:

PLNO

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

2 mM 酢酸アンモニウム水溶液 + 0.1% ギ酸

移動相 B:

2 mM 酢酸アンモニウム含有メタノール + 0.1% ギ酸

強ニードル洗浄溶媒:

100% メタノール

弱ニードル洗浄溶媒:

40% メタノール(水溶液)

分析時間:

4.7 分

グラジエント:

表 1 参照

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-Smicro

分解能:

MS1(0.75FWHM)、MS2(0.50FWHM)

取り込みモード:

マルチプルリアクションモニタリング(MRM)

キャピラリー電圧:

1.0 kV

極性:

ESI +/-

イオン源温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

600

脱溶媒ガス流量:

1000(L/時間)

コーンガス流量:

50(L/時間)

MS のスキャン間遅延:

0.01 秒

チャンネル間遅延:

0.02 秒

極性/モードスイッチのインタースキャン:

0.015 秒

データ管理

クロマトグラフィー/MS ソフトウェア:

TargetLynx を搭載した MassLynx v4.1 ソフトウェア

表 2.  ステロイドホルモンの分離のためのグラジエントテーブル。初期条件での動作背圧は約 9,000 ~ 10,000 psi でした。
* 代替のプロダクトイオン。

表 3.  テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾール、およびこれらの安定同位体標識内部標準の MRM パラメーター。分析種のスキャンウィンドウは、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾール(+/- スイッチ)の場合は 1.40 ~ 2.75 分、テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP の場合は 2.76 ~ 3.80 分でした。上記以外はすべて、移動相を廃液に流しました。DHEAS 以外のすべての分析種についてデュエルタイムを自動に設定し(0.03 秒)、ピーク全体で 15 ポイントになりました。

結果および考察

カラムのクロマトグラフィー選択性は、同重体ステロイド分子種(11-デオキシコルチゾールおよび 21-デオキシコルチゾール)がベースライン分離されていることによって実証されています(17-OHP と 21-OHP およびテストステロンとエピテストステロンの分離について実証する、Analysis of Corticosteroids and Androgens in Serum for Clinical Research(『臨床研究のための、血清中副腎皮質ホルモンおよびアンドロゲンの分析』)(720005999)(2017)を参照してください)。テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールの保持時間では、これらの化合物をそれぞれ個別に調べた場合、大きな干渉は見られませんでした。高濃度サンプルから後続のブランク注入への顕著なシステムキャリーオーバーは観察されませんでした。各セット(C1)の低濃度キャリブレーション試薬のシグナル:ノイズ(S/N)比による分析感度は、数回の分析実行にわたって、各キャリブレーション試薬 1 濃度で 10:1 を超えていました。

図 2.  ACQUITY UPLC HSS T3 カラムでの一部のステロイドホルモンについてのクロマトグラフィー選択性

この臨床研究分析法により、すべての低濃度の分析種を正確に定量することができます。総合精度は、5 日間にわたる QC レベルでの 2 回繰り返しの抽出および定量によって判定しました。併行精度は、1 回の分析で各 QC レベルで 4 回繰り返し分析することによって評価しました。すべての分析種についての結果はすべて 10%CV 未満であり、結果の大半は 5%CV 未満でした。

表 4.  MassTrak ステロイド血清セット 2 およびセット 3 の QC 物質を測定する、MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セット 2 およびセット 3 の分析の総合精度および併行精度

この臨床研究分析法では、分析種の低濃度のプールおよび高濃度のプールをさまざまな比で合わせて分析した場合、表 1 に指定したキャリブレーション範囲にわたるすべての分析種について、直線性を示すことがわかりました。さらに、セット 2 とセット 3 を使用して作成した検量線を 5 日間にわたって分析したところ、すべての分析種について、決定係数(r2) > 0.999 で直線的でした。

表 5.  各セットにおいて、5 日間にわたって各分析種について直線的であることを示す決定係数

EQA 物質の分析により、テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾールについての正確性を評価しました。4 日間にわたって取得したデータを、各 EQA サンプルの質量分析法の平均と比較し、ターゲットとの平均差(%)を表形式で示しました(表 6)。すべての分析種を、各 MassTrak ステロイド血清セットの検量線の下端、中ほど、上端で評価したところ、範囲全体にわたって優れた結果が得られました(±10%)。11-デオキシコルチゾールおよび 21-デオキシコルチゾールの EQA 物質は入手できないため、これらの化合物の低濃度範囲と中濃度範囲での正確性の評価には、社内パネルを使用しました。デミング回帰および直線回帰を行いました(表 7)。各化合物について統計的に有意なバイアスは認められず、平均の分析法バイアスは、セット 2 で ±1.3%、セット 3 で ±1.0% でした。

表 6.  正確性のサマリーテーブル(EQA 物質) - LCMS の EQA 平均ターゲットとウォーターズが測定した濃度の差(%)。11-デオキシコルチゾールおよび 21-デオキシコルチゾールの EQA 物質は入手できないため、これらの化合物の低濃度範囲と中濃度範囲での正確性の評価には、社内パネルを使用しました。
表 7.  テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾールの分析について、ウォーターズの LC-MS/MS 分析法を EQA スキームの MS 分析法と比較したデミング回帰。11-デオキシコルチゾールおよび 21-デオキシコルチゾールの、社内パネルおよび中濃度範囲との比較。

結論

この性能実証評価により、MassTrak ステロイド血清キャリブレーション試薬セットおよび品質管理標準試料セット 2 および 3(IVD)を用いることで、血清中のステロイドホルモンについて、精密で正確な定量が行えることが実証されました。Waters Xevo TQ-S micro(FL)を用いて血清中のテストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールを分析するための分析感度および選択性が高い臨床研究分析法が開発されました。

Xevo TQ-S micro 質量分析計を使用することで、この臨床研究分析法において、わずか 100 µL のサンプル量を使用して、低レベルのテストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールを分析するのに十分な分析感度が得られます。

アッセイの正確性(±6%)および精度(±10%)は、テストステロン、アンドロステンジオン、17-OHP、DHEAS、コルチゾール、11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾールの EQA LC-MS/MS 平均、社内パネル、QC 物質との比較により確認されています。自動化またはリキッドハンドラーの追加(特にこの試験では Hamilton Microlab STAR を使用)により、ラボのワークフローが改善され、オペレーターによるミスの解消に役立ちます。

免責事項

この臨床研究分析法は、この文書に記載された装置、ソフトウェア、消耗品を使用したアプリケーションの一例です。この臨床研究分析法は、診断目的では、規制当局からの許可を受けていません。分析法の完全な開発およびバリデーションは、エンドユーザーの責任のもとで行ってください。MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セットは、一部の国/地域では販売されていません。提供状況については、最寄りのウォーターズの営業担当者にお問い合わせください。

参考文献

Foley D, Calton L. Analysis of Corticosteroids and Androgens in Serum for Clinical Research.Waters Application Note 720005999.May 2017.

720008138JA、2023 年 12 月

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