Xevo™ G3 QTof 質量分析計を用いた、不安定/安定なパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の混合物についてのイオン源パラメーターおよび透過パラメーターの最適化
要約
不安定な化合物は、フラグメント化しやすい性質を持つため、質量分析法による分析が困難になる場合があります。このフラグメンテーションは、イオン化プロセスまたはイオン透過の途中で発生する可能性があります。この望ましくないフラグメンテーションが分析結果に影響を及ぼし、データ解析がより複雑になる可能性があります1。
この試験では、9 種類のパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のプリカーサーイオンおよびフラグメントイオン(存在する場合)のイオン強度におけるさまざまな装置パラメーターの役割について調査しました。標準混合物には、パーフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)などの不安定な分子種から、パーフルオロアルカンスルホン酸(PFSA)などの長い炭素鎖を含むより安定な化合物まで、多様な物理的特性を有するさまざまなサブクラスの PFAS が含まれていました。
まず、エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源パラメーターの影響を検討しました。次に、試験した各化合物について、さまざまな StepWave™ XS イオンガイド設定および低コリジョンエネルギーの影響について調べました。最終的に、イオンカウントが最高でフラグメントイオン-プリカーサーイオン比(% 比)が最低になるパラメーターを保持し、炭素鎖長が 4 ~ 18(C4 ~ C18)のより広範囲の PFCA について試験しました。
質量分析を行う場合、すべての種類の質量分析計にわたって、分析法の最適化により装置の感度を改善することができます。ここでは、パラメーターの最適化により、PFCA のイオン透過率が大幅に改善し、脱カルボキシル化が低減しました。改善の度合いは、PFCA の鎖長によって異なります。PFBA(C4)や PFPeA(C5)などの短鎖長の PFCA のイオン強度は 2 倍増大しました。一方、PFOA(C8)などのより長鎖長の PFCA では、イオン強度が 1.2 倍向上しました。
アプリケーションのメリット
- PFAS のイオン化およびイオン源内フラグメンテーション(ISF)におけるさまざまなイオン源パラメーターの役割
- 不安定な化合物のイオン源内フラグメンテーション(ISF)が低減し、イオン透過率が改善
- さまざまなクラスの PFAS の透過率が増加し、フラグメントイオンに対するインタクト分析種の比が向上
- 不安定あるいは分解しやすいクラスの化合物に適用可能なアプローチと方法を提供
はじめに
液体クロマトグラフィーと高分解能質量分析の組み合わせ(LC-HRMS)は、低分子および高分子の分析に使用できる強力な手法であり、分析種に関する定性情報および定量情報が得られます。エレクトロスプレーイオン化(ESI)により、大気圧での液体クロマトグラフィーから溶出する荷電分子が、気体状態のイオンに変換します。これらの分子イオンに、圧力および電位のグラジエントがかけられ、分子イオンが質量分析計に向かって導かれます。イオン源の形状およびパラメーターによって半揮発性溶媒の蒸発が制御されるため、これらの要素は重要です。さらに、システム内でのイオンの加速および透過において、イオン光学系にかかる電位グラジエントが重要になります。
不安定な化合物は、イオン源内(イオン源内フラグメンテーション(ISF)を引き起こす)またはイオン透過中にフラグメント化しやすいため、LC-MS を使用した分析が困難になる場合があります。これらの化合物がフラグメント化を生じやすい理由は、不安定な分子結合に関連しており、高温条件や過酷なイオン加速条件で分析すると、容易に解離して、検出および同定が困難になります。この望ましくないフラグメンテーションにより、分析の質が低下し、分析法の感度限界が低下する可能性があります。さらに、探索ワークフローでは、これらの望ましくないフラグメントにより未知ピークの数が増加し、探索ワークフローがより困難になります1。
PFAS は、炭素骨格に結合した複数のフッ素原子が含まれることを特徴とする人造化合物のクラスです。PFAS に分類される化合物は 15000 を超えます2。 このクラスの化合物には、パーフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)、パーフルオロアルカンスルホン酸(PFSA)、フルオロテロマーカルボン酸(FTCA)、パーフルオロエーテルカルボン酸(PFECA)など、複数のサブクラスの PFAS があります3。 PFAS のパーフルオロアルキル部分はその物理的特性を向上し、多くの望ましい特徴が得られます。そのため、PFAS は、汚れにくい繊維製品、食品取り扱い用具、消火剤、医療機器、塗料、建築資材、パーソナルケア製品、化粧品など、多くの用途で使用されています4。
この試験では、Xevo G3 QTof のイオン源パラメーターおよびイオン透過パラメーターの役割をパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)について検討しており、この困難なクラスの化合物に関する質量分析計の最適化の重要性が浮き彫りになっています。図 1 は、Xevo G3 QTof のスキームを示しています。強調表示した 4 つの範囲は、検討したパラメーターのゾーンを示しています。最適化は、さまざまな PFAS サブクラスに属する不安定/安定な化合物をカバーする 9 種類の PFAS 標準試料のセットを用いて行いました。最後に、最適化したパラメーターを幅広い PFCA について試験しました。
実験方法
サンプル前処理
PFAS 標準試料はすべて、Wellington laboratories 社から購入しました。この実験では、まず 9 種類の標準試料について取り込みメソッドを最適化しました(表 1)。メタノール中 500 ng/mL のストック溶液を、それぞれ個別の標準試料から調製しました。10 ng/L の作業溶液をメタノール:水(1:1)+ 0.1% ギ酸中に調製しました。
次に、メタノール:水(1:1)+ 0.1% ギ酸中に調製した 0.5 ng/L の溶液を分析することで、分析法をより広い範囲の PFCA(C4 ~ C18)についてバリデーションしました。
LC-MS 条件
LC システム: |
PFAS キットを取り付けた ACQUITY™ Premier 液体クロマトグラフィーシステム(製品番号:176004548) |
バイアル: |
ポリエチレン製キャップ付きポリプロピレン製オートサンプラーバイアル(製品番号:186005230) |
カラム: |
ACQUITY Premier BEH™ C18、1.7 µm、2.1 × 100 mm、90 Å カラム(製品番号:186009453) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
95:5 水:メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
100% メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
LC グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo G3 QTof |
イオン化モード: |
ESI- |
質量範囲: |
m/z 50 ~ 1200 |
取り込み速度: |
4 スペクトル/秒(Hz) |
ロックマス: |
ロイシンエンケファリン(m/z 554.2620) |
取り込みモード: |
データ非依存的取り込みメソッドである MSE |
イオン源条件
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
10 V |
イオン源温度: |
100 ℃ |
脱溶媒温度: |
250 ℃ |
コーンガス: |
100 L/時間 |
脱溶媒ガス: |
600 L/時間 |
イオン源オフセット: |
0 V |
コリジョンエネルギー
低コリジョンエネルギー: |
6 V |
高コリジョンエネルギー: |
ランプ 10 ~ 70 V |
既定の透過チューン設定
StepWave RF: |
150 V |
ボディーグラジエント: |
10 V |
ソフトウェアツール
waters_connect™ を使用してデータ取り込みを行い、UNIFI™ アプリケーション(バージョン 3.0.015)内でデータ分析を行いました。
結果および考察
LC-MS 実験において、分析種の構造、イオン源の形状およびパラメーター、MS イオン光学系の電圧グラジエントはすべて、分析種のレスポンスを向上させるために重要です。さまざまな化学的性質を有する化合物の複雑な混合物の場合、理想的な装置パラメーター(イオン源パラメーターおよび透過パラメーター)は、安定/不安定な化合物の両方の分析に適していることが必要です。
PFAS のさまざまなサブクラスのうちで3、PFCA のサブクラスは、LC-MS 分析の間に二酸化炭素分子を容易に失うことが知られています5。より安定な PFAS クラスの透過を損なわないようにするために、不安定/安定なクラスを代表する 9 種類の PFAS の混合物についてイオン源パラメーターおよび透過パラメーターの影響を試験しました。2 種類の PFCA(PFHxDA および PFODA)と PFECA(HFPO-TA)の脱カルボキシル化に対するイオン源パラメーターおよび StepWave XS パラメーターの役割を検討しました。この試験では、イオン化および透過の間に安定であることがわかっている長鎖 PFSA を使用しました。Xevo G3 QTof を 4 つの領域に分けて(図 1)、イオン強度およびフラグメンテーション(存在する場合)に対するイオン源パラメーターおよび透過パラメーターの影響を試験しました。フラグメントイオン-プリカーサーイオン比(% 比)は、式 1 によって計算しました。
以下の段落で、被験化合物について試験したパラメーターそれぞれの役割を詳細に説明します。
1. 不安定な PFAS のイオン源内フラグメンテーション(ISF)におけるイオン源パラメーターの役割
ESI はソフトイオン化メソッドと見なされますが、不安定な化合物はそれでもイオン源内フラグメンテーション(ISF)を受ける可能性があります。過酷なイオン化パラメーター(高電圧や高温など)は、不安定な化合物の ISF を誘発する可能性があります。例えば、特定の化合物では、イオン化プロセスにおいて水(-H2O)分子が失われることが非常に一般的です。不安定な PFAS のシグナルを改善するため、不安定/安定な PFAS 標準試料が含まれる混合物について、さまざまなイオン源パラメーターの ISF における役割を検討しました。標準試料およびフラグメントイオンのイオン強度の変化をモニターすることによってこれを行いました。図 2A に、イオン源パラメーターの関数としてのさまざまな標準試料のイオンレスポンスの変化を示します。図 2B には、不安定な PFAS(HPFO-TA、PFHxDA、PFODA)のフラグメントイオン-プリカーサーイオン比(% 比)を示しています。
キャピラリー電圧を下げると、9 種類の被験標準試料すべてのイオン強度が増大する一方で、不安定な化合物のフラグメントイオン-プリカーサーイオン比(% 比)は一定レベルに保たれています。コーン電圧と脱溶媒ガス流量は、イオン強度に影響を及ぼしていません。ただし、脱溶媒ガス流量を増やすと、PFODA と PFHxDA の % 比が大幅に増加しています(図 2B)。脱溶媒ガス流量は、HFPO-TA の % 比に対してあまり影響を及ぼしません。これは HFPO-TA が異なるクラスの化合物であるためと考えられます(図 2B)。
コーンガス流量を 50 L/時から 300 L/時まで徐々に増やすと、9 種類すべての被験化合物のイオン強度が測定ごとに変化しています。コーンガス流量が 100 L/時間のときに強度が最も高くなっています。コーンガス流量を 50 L/時間から 300 L/時間に増加させると % 比が増加しています。さまざまな挙動のパターンが観察されます。長鎖の PFODA では、200 L/時間での % 比は 300 L/時間での % 比と同等ですが、PFODA の全体的なイオン強度は減少しています(それぞれ図 2 B および A)。PFHxDA と HFPO-TA の % 比は、コーンガス流量の増加と直接相関しています(図 2B)。コーンガス流量を増加させると、PFHxDA および HFPO-TA の ISF が増加し、全体的なイオン強度が減少しています。このことは、低分子量で不安定な化合物の場合、コーンガス流量が ISF に影響を及ぼす重要なパラメーターであることを示唆しています(図 2 A および B)。
ISF に影響する別の重要なパラメーターとして、イオン源温度があります。85 ℃、100 ℃、120 ℃、150 ℃ の 4 種類のイオン源温度を試験しました。イオン源温度を 85 ℃ から 100 ℃ に上げると、ほとんどの化合物のイオン強度は増大するか同等の値のままでした(図 2A)。一方、イオン源温度が 100 ℃ を超えると、イオン強度が低下しています。% 比も同様の傾向を示しています。イオン源温度を 85 ℃ から 100 ℃ に変えると、HFPO-TA、PFHxDA、PFODA について % 比が大幅に増加し、HFPO-TA ではさらに大きく増加しています(図 2 A および B)。イオン源温度の最小値を 100 ℃ にすることで、効率的な脱溶媒が実現できるとともに、成分の不安定な部分のフラグメンテーションを最小限に留めることができます。
脱溶媒ガスの温度により、溶媒の効率的な蒸発が促進されます。通常、LC 流速が大きいほど、高い脱溶媒温度が必要になります。今回、200 ℃ ~ 250 ℃ の脱溶媒温度を評価しました。すべての被験化合物において、脱溶媒温度を 200 ℃ から 250 ℃ に上げると、イオン強度が大幅に増大しました(図 2A)。脱溶媒温度の上昇は、HFPO-TA の % 比にはほとんど影響していませんが、安定でより長鎖の PFAS である PFODA および PFHxDA の % 比が増加しています(図 2B)。
PFAS のイオン強度を向上させるためにイオン源パラメーターを体系的に最適化したところ、キャピラリー電圧を 0.8 V から 0.5 V に下げ、脱溶媒ガス流量を 600 L/時から 400 L/時まで下げると、IFS を最小限に抑えつつ、溶媒の最適な脱溶媒が行えることがわかりました。さらに、対象の化合物に応じて、イオン源温度を 85 ℃ ~ 100 ℃ にすると ISF が低減しました。試験の焦点を短鎖 PFCA の特定の種類の化合物に合わせる場合、イオン源温度として 85 ℃ が推奨されますが、長鎖 PFAS の場合はイオン源温度 100 ℃ が最適です。コーン電圧、コーンガス流量、脱溶媒温度については、初期設定を維持しました(それぞれ 10 V、100 L/時、250 ℃)。
2. StepWave XS のパラメーターの最適化
一連のイオン光学系が、システム内のイオン透過に役立ちます。このセクションでは、不安定な PFAS のイオン強度とフラグメンテーションにおける 3 種類のパラメーターの役割について試験しました。これには、イオン源オフセット、StepWave XS ボディーグラジエント、StepWave RF 電圧が含まれます(それぞれ図 1 B および C)。
イオン透過およびその結果生じるレスポンスにおけるイオン源オフセットの役割を調べるために、イオン源オフセット電圧を 0 V ~ 40 V の範囲で 10 V 刻みで増やして検討しました。Xevo G3 QTof 装置の既定のイオン源オフセット値は 30 V です。StepWave XS について試験した 2 つの主なパラメーターは、ボディーグラジエント電圧および StepWave RF 電圧でした。ボディーグラジエント電圧を既定値の 10 V から 5 V に減らした場合の影響を評価しました。StepWave RF の既定値は 150 V で、その他の 2 種類の電圧(50 V および 100 V)を評価しました。イオン強度および % 比におけるこれらのパラメーターの役割を、それぞれ図 3 A および B に示します。
イオン源オフセット値を 0 V から 10 V に変えると、すべての被験標準試料のイオン強度が大幅に増大しました。イオン源オフセット値が 10 V より高いと、イオン強度の若干の低下が誘発されました(図 3A)。不安定な PFAS 標準試料のフラグメンテーションに対するイオン源オフセットの影響も、同じ傾向を示しました(図 3B)。イオン源オフセットを 0 V から 10 V に増やすと、不安定な化合物のイオン強度とフラグメンテーションがいずれも増大しました。イオン源オフセット値 10 V の場合に % 比が最大になりました。イオン源オフセットをさらに増加させると、% 比の若干の低下が認められました(図 3B)。フラグメンテーションの低下は、イオン強度の低下よりも重要です。ここでは、イオン源オフセット値として 20 V または 30 V のいずれかが、最適なイオン透過と最小のイオン源内フラグメンテーションの間の許容できる妥協点になります。
StepWave XS に関連する 2 つのパラメーターに関し、ボディーグラジエント電圧を 10 V から 5 V に下げると、イオン強度にプラスの影響が見られます。ボディーグラジエント電圧を 5 V に設定すると、9 種類の被験化合物すべての強度が増大しました。ただし、% 比は化合物によって異なっていました。HFPO-TA の % 比は、ボディーグラジエント電圧 5 V または 10 V(それぞれ 10.7% と 10.5%)の間で同等のままであり、ボディーグラジエント電圧を変えても、HFPO-TA のフラグメンテーションにはほとんど影響がなかったことが示唆されます。ただし、PFHxDA と PFODA の % 比には異なるパターンが見られました。ボディーグラジエント電圧を 10 V から 5 V に下げると、PFHxDA のイオン強度が約 30% 増大し(図 3A)、その結果、PFHxDA % 比が 6.5% から約 10% に増加しました。このことは、ボディーグラジエント電圧を下げると、PFHxDA イオンの透過率は改善されますが、フラグメンテーションは改善されないことを意味します(図 3)。逆に、ボディーグラジエントを 5 V に下げると、PFODA の透過率は 35% 増加しましたが、% 比は 5.0% から 4.2% に低下しています(図 3B)。このことは、PFODA のイオン透過率に改善が見られ、フラグメンテーションも若干改善されていることを意味します。この 2 種類の PFCA の % 比の違いは、炭素鎖の長さに起因する可能性があります。PFHxDA は 16 個の炭素原子で構成されているのに対し、PFODA は 18 個の炭素原子で構成されています。PFHxDA と PFODA の間の挙動の違いは、炭素鎖の長さが異なる PFAS 全体(特に PFCA)においてボディーグラジエント電圧が重要であることを示唆しています。ここで、ボディーグラジエント電圧 5 V は、試験したすべての PFAS クラスの最適なイオン透過に十分です。さらに、ボディーグラジエント電圧を下げても、イオンをアナライザーに向けて移動させるのに十分なイオン加速が得られ、フラグメンテーションに対する影響は化合物によって異なります。ボディーグラジエント電圧の低下が % 比に及ぼす影響を、短鎖長の PFCA について試験しました(段落 4)。
StepWave RF 電圧の最適化において、高 RF 電圧などの要因によりイオンの加熱が誘発され、不安定なイオンのフラグメンテーションがトリガーされることがあります。既定の StepWave RF(SW RF)は 150 V です。より低値のSW RF 電圧を試験しました。SW RF 値を 50 V から 100 V に変えると、9 種類の被験化合物のうち 8 種類(例外は 3:3 FTA)において、イオン強度がわずかに増大し、150 V でプラトーに達しています。3:3 FTA は、分子量(MW)が 242.02 Da の、混合物中で最も小さい化合物です(図 3A)。
不安定な化合物に関し、PFHxDA と PFODA(PFCA)の % 比は、SW RF 値を増加させるとフラグメンテーションが増加するという同じパターンを示しています。実際、SW RF 値が高いとイオン加速が増加して、さらにフラグメンテーションが誘発される可能性があります。意外にも HFPO-TA では、SW RF を 50 V から 150 V(それぞれ 11% ~ 10.7%)に増加させると、% 比がわずかに低下しています(図 3B)。
結論として、PFAS 分析には、イオン源オフセット値 20 ~ 30 V、ボディーグラジエント 5 V、SW RF 100 V が推奨されます。これらの値により、長鎖 PFAS と短鎖 PFAS の間で、不安定な化合物と安定な化合物の両方について最適な透過が確保されます。
3. 低トランスファーエネルギー
コリジョンセルは四重極とトランスファーレンズの間にあります(図 1 D)。ソフトウェア内での低コリジョンエネルギーの既定値は 6 V です。最適化の一環として、電圧 2 V ~ 8 V を評価しました(図 4)。
低 CE 電圧を 2 V から 4 V に増加させると、9 種類の被験 PFAS 標準試料すべてのイオン強度が増大しました。ただし、この電圧を 4 V から 6 V、さらに 8 V に増加させると、さまざまな強度のプロファイルが見られました。低 CE 値を 2 V から 8 V に増加させると、長鎖 PFAS の強度が増大します。これらには、PFDoDS(C12)、PFTrDS(C13)、PFHxDA(C16)、PFODA(C18)が含まれます。5:3 FTA(C8)、7:3 FTA(C10)、HFPO-TA(C9)、PFUnDS(C11)では、プリカーサーイオン強度は 6 V で最適であり、8 V になると低下しています(図 4A)。5:3 FTA などの低 MW 化合物では、強度が 25% 低下しています(図 4A)。混合物中の MW が最小の化合物である 3:3 FTA(C6)の場合、イオン強度は 4 V で最大になり、6 V では 12% 低下しています(図 4A)。
低 CE が不安定な PFAS に及ぼす影響を調べたところ、HFPO-TA、PFHxDA、PFODA の % 比は、低 CE の増加とともに指数関数的に増加し、PFHxDA では曲線がより急勾配になっています(図 4B)。このことは、低 CE が短鎖 PFCA のフラグメンテーションに重要な影響を及ぼすことを意味します(図 4B)。ここでは、低 CE 値を 6 V から 4 V に変えることで、長鎖の安定な PFAS クラスの透過を損なうことなく、フラグメンテーションが低減されます。
4. PFCA の分析における最初のメソッドと不安定な化合物用のメソッドの比較
上記の結果を確認するため、炭素骨格の鎖長がさまざまな(4 ~ 18)より多数の一連の PFCA についてさらに検討を行いました。この実験では、最初のメソッド設定(メソッドの段落に記載)を不安定な化合物用のメソッドと比較しました。後者は不安定な化合物用の取り込み設定であり、すべてのイオン源パラメーターおよび透過パラメーターが上記の結果(段落 1 ~ 3)に基づいて変更されています。試験したパラメーターのサマリーを表 2 に示します(太字は最適化済みの設定)。
図 5 に 6 種類の PFAS 標準試料のイオン強度を示します。図 5 の A、B、C はそれぞれ HFPO-TA、PFHxDA、PFODA に対応します。これら 3 種類の化合物を、前の段落で説明した最適化試験で使用しました。図 5 の D、E、F は、短鎖 PFCA に対するイオンレスポンスの改善を確認するために選択した、短鎖長 PFCA(それぞれ PFBA(C4)、PFPeA(C5)、PFOA(C8))に対応します。青色のバーはプリカーサーイオンの強度を表し、灰色のバーは対応する脱カルボキシル化イオンの強度を表します。青線(セカンダリー y スケール)は % 比を表します。値は連続 3 回の測定の平均値であり、エラーバーは標準偏差に対応します。
イオン源パラメーターおよび透過パラメーターの影響を、より多数の直鎖 PFCA 標準試料(C4 ~ C18)について検討しました。図 5 に、試験した 6 種類の標準試料を示します。このうち 3 種類は最適化混合物(HFPO-TA、PFHxDA、PFODA)に含まれており、3 種類は短鎖 PFCA(PFBA(C4)、PFPeA(C5)、PFOA(C8))でした。不安定な化合物用のメソッドおよび中間的な化合物用のメソッドを使用してさまざまな炭素鎖長の PFCA 混合物を分析することで、すべての PFCA 標準試料のイオン透過率が向上し、脱カルボキシル化が低減しました。
イオン源パラメーターおよびチューンパラメーターを変更することで(表 2 に詳細を記載した不安定な化合物用のメソッド)、初期パラメーターと比較して、HFPO-TA、PFHxDA、PFODA のイオン強度および % 比が向上しています(それぞれ図 5 A、B、C)。フラグメントイオン-プリカーサーイオン比の低減として観察されたイオン透過率の向上は、すべての被験 PFCA に有効です。不安定な化合物用の取り込みパラメーターおよびチューンメソッドにより、強度が大幅に向上し、すべての被験 PFCA(C4 ~ C8)の % 比が低減しました。シグナルにおけるこの改善は、PFBA(C4)や PFPeA(C5)などの短鎖 PFCA において最大で、いずれの化合物もイオン強度が 2 倍になり、% 比がそれぞれ 142% から 44%、79% から 20% に低減しました(それぞれ図 5 D および E)。重要な点として、最初のメソッド設定を使用した場合、脱カルボキシル化 PFBA の方が脱プロトン化分子イオンよりも存在量が多くなっていましたが、この傾向は、最適化した不安定な化合物用のメソッドでは逆転していました(図 5D)。
脱プロトン化 PFOA(C8)の強度が 20% 向上して、フラグメントイオン-プリカーサーイオン比が 41% から 4% に低下しています。このことから、フラグメンテーションにおけるイオン源パラメーターおよび透過パラメーターの最適化が重要であることが示されました(図 5)。
結論
パーフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)は、質量分析が困難な種類の化合物であり、特定のクラスの PFAS はフラグメント化しやすくなっています。このフラグメンテーションは、イオン化プロセス(イオン源内フラグメンテーション)またはイオン透過の途中で発生する場合があります。したがって、イオン源パラメーターおよび透過パラメーターに注意を払うことで、望ましくない脱カルボキシル化が低減し、プリカーサーイオンのレスポンスが増大します。この試験では、イオン源パラメーターおよび透過パラメーターを最適化して望ましくないフラグメンテーションを低減することの重要性が浮き彫りになりました。プリカーサーイオン強度の向上は、クラスによって異なります。不安定な化合物用の設定では、PFCA の脱カルボキシル化が減少しました。不安定な化合物向けのチューニングで得られた最大の改善は、PFBA(C4)、PFPeA(C5)、PFHpA(C6)などの短鎖長の PFCA で認められました。この試験で説明したアプローチは、フラグメント化しやすい他の種類の化合物に適用することができます。
参考文献
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720008118JA、2023 年 11 月