• アプリケーションノート

Waters Xevo G3 QTof 質量分析計によるニトロソアミン不純物の透過率の改善

Waters Xevo G3 QTof 質量分析計によるニトロソアミン不純物の透過率の改善

  • Lisa Reid
  • Lee A. Gethings
  • Jayne Kirk
  • Waters Corporation

要約

Waters Xevo™ G3 QTof 質量分析計でソフトイオン化透過モードを利用した場合に、既定の StepWave 値と比較してニトロソアミンの透過率が向上することの実証。このドキュメントで概説する分析法では、ソフトイオン化 StepWave 設定を使用することで、ニトロソアミン汚染物質 NDMA、NMPA、NMBA、NDBA に対する感度が向上することを実証します。

アプリケーションのメリット

  • Tof-MRM 取り込みモードで優れた感度が得られる QTof プラットホーム
  • 頑健で再現性の高い柔軟なワークフロー
  • 複数の取り込みメソッドから選択できる汎用性の高いシステムにより、ターゲットを絞った取り込みとスクリーニングタイプの取り込みの両方が可能に
  • スペクトルを視覚化し、精密質量情報を提供することにより、分析種同定の特異性が得られ、信頼性が向上する装置
  • GXP 規制対応ソフトウェアプラットホーム(waters_connect 内の UNIFI アプリ)でデータ取り込みからレポート作成までの完全なワークフローを実現

はじめに

ここ数年来、規制機関が発表したガイダンスでは、医薬品メーカーによる、製品中のニトロソアミン汚染物質のリスク評価、定量、低減が求められています1。 当初、一部の処方薬に安全性限度を超えると考えられるレベルのニトロソアミンが含まれており、この医薬品の投与を受ける患者に発がんのリスクがあることが判明しました。当時、該当バッチがリコールされ、その後は医薬品メーカーへの勧告として、製品の試験を行い、ニトロソアミン汚染物質のレベルが、API の 1 日最大用量レベルにおいて 26 ng/日(合計)を下回るか、または個々の化合物が個別の 1 日用量(ng/日)の限度をそれぞれ下回ることを確認することが求められています。したがって、これらの有害化合物の ng/mL 以下のレベルでのモニタリングは優先度が高く、高感度で選択性の高い分析法が必要になります。

Xevo G3 QTof は、感度と選択性に優れており、複数の異なる取り込みモードを提供する柔軟なプラットホームであるという他の利点もあるため、アプリケーションの目的に応じて対象の分析種を特性解析および定量する性能を有します。さらに、Xevo G3 QTof には StepWave™ XS 設計が採用されており、質量分析計へのイオン透過を最適化して、不安定なプリカーサー分析種のフラグメンテーションを低減することができます。

この分析では、MSE と Tof-MRM の両方の取り込みメソッドを使用しました。定義した質量範囲(例えば 50 ~ 1200 Da)内のすべてのプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンが記録されるスクリーニング取り込みである MSE は、分析法開発および未知化合物の探索に有用です。Tof-MRM はターゲットを絞った取り込みモードであり、事前に決めたプリカーサー質量が、フラグメント化される前に質量分析計の四重極内で選択されます。事前に決めたフラグメントイオンは次にターゲットエンハンスメントされ、スクリーニング取り込みモードと比較して高い感度が得られます。MSE などのスクリーニング取り込みモードは通常、未知化合物の同定が必要な場合に使用し、既知の分析種のみを分析する場合は Tof-MRM などのターゲットを絞った分析が使用できます。この装置で使用できるさまざまな取り込みモードの詳細については、アプリケーションノート(720008021)を参照してください2。QTof 装置であるため、分析モードに関係なく、スペクトルを表示できて、精密質量の測定値および干渉する可能性のある異性体化合物に関する情報が得られます。

実験方法

サンプル前処理

NDMA、NMBA、NMPA、NDBA の標準試料は Merck(英国、プール)から購入しました。ストック溶液はメタノール中に 1 mg/mL 溶液として調製しました。これを用いて、各標準試料を 10 µg/mL ずつ含む作業溶液をメタノール中に調製しました。また、超純水でストック溶液を連続希釈することにより 100 ng/mL の溶液を調製し、

この超純水で希釈したストック溶液を使用して、検量線を作成しました。

メトホルミンの標準試料は Merck から購入し、超純水中に濃度 100 mg/mL になるように調製しました。QC サンプルは、メトホルミン、適切な標準試料溶液、希釈用の水を混合して調製し、メトホルミンの最終濃度を 20 mg/mL にしました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier(FTN)

カラム:

Atlantis™ Premier BEH C18 AX(2.1 × 100 mm、1.7 µm)、製品番号:186009368

カラム温度:

40 ℃

注入量:

30 µL

流速:

0.4 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液、5 mM ギ酸アンモニウム

移動相 B:

0.1% ギ酸含有メタノール、5 mM ギ酸アンモニウム

グラジエント:

98% A で 1.5 分保持、1.5 ~ 6.5 分で 98% ~ 5% A、6.5 ~ 7 分の間 5% A で保持、7 ~ 9 分で初期条件に再平衡化。

MS 条件

MS システム:

Xevo G3 QTof

イオン源の種類:

APCI+

コロナモード:

電流

コロナ電流(µA):

2.5

コーン電圧(V):

25

イオン源温度(℃):

150

プローブ温度(℃):

325

コーンガス流量(L/ h):

300

脱溶媒フロー(L/時):

450

StepWave モード:

ソフト透過3

検出器の自動ゲイン:

オフ

測定モード:

感度

取り込みイベント:

初期:廃液へ転流、

1 分間 LC に送液状態、

8 分間廃液へ転流

LockSpray 流速(µL/分):

10

Lockspray 設定:

デュアルポイント、ロイシンエンケファリン(期間 2 秒、60 秒ごとにサンプリング)

IDC:

オフ

MSE 設定

取り込み範囲:

50 ~ 600 Da

スキャン速度:

2 Hz(スキャン速度 0.5 秒)

コリジョンエネルギー低(eV):

2

コリジョンエネルギー高(eV):

10

Tof-MRM 設定

取り込み範囲:

個々のトランジション(図 1)

スペクトル:

狭い(バックグラウンドシグナル低減のみのための C12 情報)

スキャン速度:

2 Hz(スキャン速度 0.5 秒)

コリジョンエネルギー低(eV):

2

コリジョンエネルギー高(eV):

個別 - 化合物ごとに最適化

図 1.  waters_connect 内の UNIFI アプリに表示される Tof-MRM トランジション

データ解析

データ取り込みからレポート作成までの完全なワークフローを、GXP 規制対応ソフトウェアパッケージ内(waters_connect バージョン 2.2.0 内の UNIFI アプリ v 3.1.0.16)で実行しました。

結果および考察

ACQUITY Premier システムを使用して、NDMA、NMBA、NMPA、NDBA のクロマトグラフィー分離を行い、APCI イオン源を搭載した Xevo G3 QTof でデータを取り込みました。waters_connect ソフトウェア内の UNIFI アプリケーションを使用して、データの取り込み、解析、レビューを行いました。図 2 に、ニトロソアミン汚染物質とメトホルミンのピーク(通常は、MS の飽和を避けるため、廃液に転流されます)の代表的な抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示します。 

図 2. (左から右の順に)メトホルミン、NDMA、NMBA、NMPA、NDBA の XIC の重ね描き。示されているメトホルミンのピークはカラムロード 1 µg によるもので、すべてのニトロソアミンシグナルはカラムロード 15 pg によるものです(注:軸はリンクされていません)

MSE 取り込みモードを使用して、標準試料の混合液 3 pg をカラムにロードし、イオン源条件とイオン透過設定を最適化しました。この最適化中に、ソフト透過 StepWave 設定3 (アプリケーションノート 720007794 を参照)を使用することで、4 つのプリカーサーイオンすべての実測シグナルが改善することがわかりました。図 3 に、既定の透過設定とソフト透過設定の両方で MSE によって分析した 4 化合物それぞれを示します。ソフト透過によって感度が向上することが示された後、Tof-MRM 取り込みモードを使用して作成した検量線と QC サンプルを分析し、メソッド設定の検出限界と頑健性を確立しました。 

図 3.  ソフトイオン化 StepWave 設定(オレンジ色)と既定の StepWave 設定(緑色)の間でシグナルが改善されていることを示す NDMA(A)、NMBA(B)、NMPA(C)、NDBA(D)の抽出イオンクロマトグラムの重ね描き

Tof MRM は、指定したプリカーサー質量の時間分割での選択によって動作します。この質量は四重極で分離されてから、コリジョンセルに入り、そこでイオン透過または衝突誘起解離(CID)が起こります。次に、ユーザーが指定する m/z 値が、Tof 領域でのプッシャー同期によってターゲットを絞ったシグナル増強を受けます4。 ニトロソアミン化合物の場合:NMBA、NMPA、NDBA をプリカーサーからプロダクトへのトランジションを使用して分析し、選択されたプロダクトイオンの m/z にターゲットエンハンスメントを適用しました。NDMA の場合、疑似 MRM トランジションを行ったため、プリカーサーイオンの m/z に対してターゲットを絞ったエンハンスメントを行いました。

Xevo G3 QTof の感度および直線性に関する性能を、0.001 ~ 10 ng/mL の範囲の希釈系列を使用し、各ポイントについて 3 回繰り返し注入を行って評価しました。Tof-MRM 取り込みで得られた検出下限および定量下限(LLOD/Q)を表 1 に示します。LLOD は S/N 比 >3 の検量線の最低点として決定され、LLOQ は、平均 % 偏差 <20% 、%RSD <10%、S/N 比 >10 の検量線の最低点として決定されました。LLOD は、NMBA の 0.005 ng/mL(5 pg/mL)から、残りの 3 種類の化合物の 0.01 ng/mL(100 pg/mL)までの範囲でした。LLOQ は、NMBA の 0.005 ng/mL(5 pg/mL)から NDMA および NDPA の 0.05 ng/mL(50 pg/mL)の範囲で、20 mg/mL の API 溶液内では、定量感度 0.25 ~ 2.5 ppb になります。図 4 に、観測された各 LLOQ のシグナル/ノイズ比の値を示します。

*API の 20 mg/mL 溶液に基づいて算出された各標準試料の ppb 相当量。

表 1.  ニトロソアミン標準試料の概要。各標準化合物に関する Tof-MRM での LLOD/Q の詳細。溶液濃度(ng/mL)および注入量 30 µL でのカラムロードの両方で表しています。

図 4.  NDMA、NMBA、NMPA、NDBA の LLOQ でのシグナル対ノイズ比(ピーク間の S/N 比)の計算。スムージングは Stavitsky Golay で、幅 +/-2 データポイント、2 回繰り返しで行っています。

Tof-MRM の各化合物についての直線性性能を図 5 に示します。これは、直線性および LLOQ の決定目的の曲線からの偏差を決定するために使用した、UNIFI で作成された(重み付け 1/X)グラフ形式で示しています。4 化合物はいずれも直線性のレスポンスを示し、両方の解析ソフトウェアプラットホーム内で R2 値 > 0.998 を示しました。分析した最大濃度は 10 ng/mL であり、1 化合物あたりのオンカラム相当量 300 pg になりました。このロード量は、分析した化合物のいずれについても、システムのリニアダイナミックレンジを超えていませんでした。

図 5.  UNIFI により、4 種類のニトロソアミン標準試料それぞれについて直線性曲線が作成されました。直線性曲線を使用して、1/X 重み付けで示されている曲線データを評価し、直線性を評価し、曲線からの % 偏差を算出して LLOQ を決定しました。

定量の正確性を実証するため、ニトロソアミン標準試料を 20 mg/mL のメトホルミン API 溶液に 2 種類の QC レベル(0.5 ng/mL および 5 ng/mL)でスパイクしました。各レベルの 3 回繰り返し注入にわたる算出濃度の平均値は、スパイク濃度の 15% 以内でした。図 6 に、UNIFI での解析で得られた QC ビューの例を示します。 

3 回繰り返し QC 注入の標準偏差を計算してから各化合物について平均を取って評価したところ、注入の再現性は、すべての化合物にわたって優れていることがわかりました。最大の平均相対標準偏差(RSD)は NMBA の平均 2.4% で、最小の平均 RSD は NDMA の平均 0.6% でした。分析全体(LLOQ および QC までの曲線)にわたる 3 回繰り返し注入の標準偏差を使用して再現性を評価したところ、最大の平均 RSD は NMBA の平均 2.1% で、最小の平均 RSD は NDMA で見られた平均 1.1% でした。

図 6.  NMPA のすべての注入にわたるサマリープロットを示す、代表的な UNIFI の解析ビュー。反転表示されている注入は、0.5 ng/mL になるようにスパイクした QC 注入に対応します。

結論

Xevo G3 QTof プラットホームは、ニトロソアミン分析のための柔軟なソリューションであり、Tof-MRM を利用してよりルーチンな定量ワークフローを行う機能、または MSE を利用して未知化合物を探すフルスクリーニングアッセイを行う機能を利用することができます。QTof 装置であるため、分析モードに関係なく、スペクトルを表示できて、精密質量の測定値および干渉する可能性のある異性体化合物に関する情報が得られます。

ソフトウェアプラットホームの柔軟性により、ラボの環境、アプリケーション、またはユーザーの要件に基づいてカスタマイズした操作が可能になります。StepWave 設計により、対象化合物の不安定さに応じて透過率を最適化することができ、ターゲット分析種に対する感度が向上します。この装置は、QTof 質量分析計であることで、対象の分析種の精密質量情報も得られ、化合物のアイデンティティーおよび未知化合物の同定に関する信頼性が高まります。

完全に規制準拠したソフトウェアプラットホーム(waters_connect 内の UNIFI アプリ)で、データ取り込みからレポート作成までの完全なワークフローを実行できます。

Xevo G3 QTof の感度および直線性に関する性能を、0.001 ~ 10 ng/mL の範囲の希釈系列を使用し、各ポイントについて 3 回繰り返し注入を行って評価したところ、20 mg/mL の API 溶液内での定量で、0.25 ~ 2.5 ppb の感度が得られました。このシステムは、分析した 4 化合物すべてについて、濃度 10 ng/mL(オンカラム相当量 300 pg)まで直線性を示し、R2 値 >0.998 で平均 RSD <2.4% であることがわかりました。

参考文献

  1. FDA Guidance for industry: Control of Nitrosamine Impurities in Human Drugs, Revision 1, February 2021.
  2. Natural Products Solution on the Xevo G3 QTof Mass Spectrometer.Waters Application Note.720008021. August 2023.
  3. Improved Transmission of Labile Species on the Xevo™ G3 QTof Mass Spectrometer with the StepWave™ XS.Waters Application Brief. 720007794. November 2022.
  4. Targeted High-Resolution Quantification with Tof-MRM and HD-MRM.Waters Application Note. 720004728. June 2013.

720008048JA、2023 年 12 月

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