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XBridge™ Premier GTx BEH™ SEC 450 Å 2.5 µm カラムによる、アデノ随伴ウイルス(AAV)のサイズ排除クロマトグラフィーの改善

XBridge™ Premier GTx BEH™ SEC 450 Å 2.5 µm カラムによる、アデノ随伴ウイルス(AAV)のサイズ排除クロマトグラフィーの改善

  • Mateusz Imiolek
  • Szabolcs Fekete
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、XBridge™ Premier GTx BEH™ SEC 450 Å 2.5 µm カラムの使用による、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析の改善について説明します。SEC 分析法は、医薬品の凝集プロファイルの正確な状況を提供できるように頑健に開発し、再現性のある結果をタイムリーに提供できる必要があります。ここでは、遺伝子治療(GTx)および AAV ベースの医薬品の分析を向上させることを目的として、特別に設計および試験されたカラムを紹介しています。これらのカラムは、AAV の分析に合わせて設計されており、平均ポア直径が 450 Å で、MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)を採用しています。これらのテクノロジーにより、高分子量および低分子量の両方のサイズバリアントの効果的な分画が保証され、吸着による損失を最小限に抑えることにより、広範な移動相条件にわたってサンプルの回収率を改善できます。これにより、10 mM リン酸、200 mM KCl の簡単な移動相の条件を使用することで、血清型に依存しない AAV の分析が可能になります。さらに、2.5 µm 粒子を使用することで、分離能が大幅に向上することも示しています。また、この 2.5 µm 粒子を使用することで、現在使用されている 5 µm カラムと比較して、分離の質を損なうことなく、分析時間を短縮できることが示されています。最後に、XBridge™ Premier GTx BEH™ SEC 450 Å 2.5 µm カラムのクロマトグラフィー性能を、ガード付き構成でテストしたところ、分析カラムの寿命を保護しているときでさえ、高分離能が達成できることが実証されました。 

アプリケーションのメリット

  • 迅速かつハイスループットな凝集体分析を実現
  • 二次的(非特異的)な静電相互作用が低減されるため、高分子種(HMWS)の分析の信頼性が向上
  • シングルプラットホームメソッドとガード付きカラムによる、優れたカラム安定性と分析の頑健性

はじめに

サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、バイオ医薬品業界で凝集および四次構造の測定に広く適用されている、歴史のある手法です1。 当然のことながら、この分析手法は、凝集が重要品質特性である AAV ベクターを含む、新しい遺伝子治療製品の開発および特性解析においても採用されています2。 AAV キャプシドは複雑なタンパク質の集合であるため、多様な凝集プロファイルを示すことがあり、自己会合型のごく一部は、顕微鏡で観察できる 100 nm 超の粒子径に達します。このサイズの粒子の分析には、特殊な分析ツールを使用する必要があります3。 ただし、充塡された粒子は通常凝集して、より小さな可溶性の二量体および三量体などのオリゴマーになり、これらは SEC でルーチン分析できます3。 この場合、ポアサイズが約 450 ~ 500 Å の粒子を充塡した SEC カラムは、単量体ウイルス粒子をより小さな不純物および高次多量体の両方から効率的に分離するのに適しています4

ウォーターズでは以前、3.5 µm 粒子を充塡した Waters XBridge Protein BEH SEC 450 Å カラムを使用して、AAV 凝集体を高感度で定量できることを実証しました3。 ただし、今回の試験において、ダイマーおよびトリマーなどのオリゴマーの最大回収率を確保するために、移動相の塩濃度を個別に最適化する必要があることが認められました。

タンパク質は、静電気により金属表面と相互作用することが知られています。これにより、望ましくない吸着とピークの歪みが発生します。この問題は、高塩濃度の移動相の使用などの特別な配慮をすることで解決する必要があります。つい最近、親水性 MaxPeak™ High Performance Surfaces(hHPS)の採用により改変されたカラムハードウェアを導入することで、モノクローナル抗体におけるこの問題への対処に成功しました3。 このような低吸着カラムハードウェアを使用することにより、分析法の頑健性と汎用性が大幅に向上しました。ウォーターズでは、BEH 450 Å SEC カラムに hHPS ハードウェアを採用することで、AAV SEC についても同様のメリットが得られると予測しました。このアプリケーションノートでは、実験を通じてこのカラムハードウェアの利点を実証します。

また、このアプリケーションノートでは、2.5 µm 粒子径の実装も紹介します。粒子径の減少により、分析効率が向上すると予測されます。また、凝集体が正しく分離されることで、より信頼性の高い定量が可能になります。さらに、小さい粒子径による高効率を利用して、スループットと感度を向上させることができます4。 それにもかかわらず、最新の 3 µm 以下の粒子はまだ AAV の分析に適用されていません。これは、おそらく潜在的なせん断効果および分子ふるい効果に関する懸念からです9。 このアプリケーションノートでは、当初の認識とは異なり、2.5 µm 粒子を充塡した XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å カラムが、AAV 凝集体分析に適していることを示しています。最も重要な点として、これらのカラムは固有の効率上の利点により、よりハイスループットな測定が可能になり、さまざまなサイズバリアントの分離が改善されて、より徹底した特性解析作業が可能になります。 

実験方法

サンプルおよび移動相の調製

AAV(AAV2、AAV5 または AAV9、1E+13 vg/mL、Virovek、CMV-GFP 遺伝子を含む完全粒子、または空粒子)のアリコートをバイアルに移し、SEC カラムに直接注入しました。

高度に凝集したサンプルを注入する場合は、注意が必要です。SEC カラムに注入する前に、遠心分離機で微粒子を除去する、および/またはサンプルをシリンジフィルターでろ過することを推奨します。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ H-Class Bio Plus(クオータナリー)

検出:

蛍光検出器:励起波長:280 nm、蛍光波長:350 nm(2 ポイント/秒)、ACQUITY UPLC TUV 検出器(5 mm チタン製フローセル、260 nm および 230 nm)(2 ポイント/秒)

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery™ 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、300 µL、100 本入り(製品番号:186009186)

カラム:

分析用:XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm 4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186010584)

ガード:MaxPeak Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm 4.6 × 30 mm ガード(製品番号:186010583)

カラム温度:

25

サンプル温度:

6

注入量:

1.0 µL

流速:

0.25 mL/分

移動相:

10 mM K2HPO4(HCl で pH 7.4 に調整)、200 mM KCl、滅菌済み 0.2 µm フィルターでろ過

(移動相の使用期限は 2 日間以内、あるいは細菌の増殖を防ぐアジドを使用)。

結果および考察

粒子径および動的性能

一般的な AAV 分析の性能を理解するために、まず 5 µm シリカ充塡剤を使用して、分離を調査することにしました。PEEK ハードウェアを採用したカラムで得られた、AAV2 サンプルの分離結果を図 1A に示しています。0.25 mL/分の流速を使用すると、t0 は 10 分未満と妥当な結果が得られました。ただし、HMWS ピークの部分的な分離しか達成できませんでした。この条件では、メインピークは N = 630 の USP 理論段数で溶出し、分析の効率は不十分でした。必要な分離能を達成するために、より長時間の分析(より長いカラム、あるいはより低い流速での分析)が必要になります。次に、同じ寸法の XBridge Premier GTx BEH SEC 450Å 2.5 µm カラムを使用して、分離を再実行しました(図 1B)。この分析により、オリゴマー分子種の分離が大幅に改善され、同様に t0 が 10 分未満で、メインピークについて有意に高い理論段数(N = 2760)で得られました。つまり、XBridge Premier GTx BEH SEC 450Å 2.5 µm カラムでは、粒子径 5 µm のカラムよりも 4 倍効率的な AAV 分離が示されました。粒子径の違いにより、2 倍の効率が得られることが予想されます。カラム充塡剤の質の違いにより、さらに効率が高まる可能性があります。 

図 1.  A)5 µm の 500Å シリカ粒子を充塡し、PEEK ハードウェアを採用した 4.6 × 150 mm カラムおよび B)XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm、4.6 × 150 mm カラムを使用して得られた AAV2 サンプルの SEC 分離。クロマトグラムの HMWS 領域の拡大図により、比較した分離の違いが示されます。 

カラムハードウェアの影響

市販されているカラムの大半は、ステンレススチール製のハードウェアで構成されています。ステンレススチールは、分析種と望ましくない二次的相互作用を起こしやすいことが知られています。ウイルスベクターの分析に及ぼす影響を評価するために、AAV2 サンプルを使用して 2 種類のカラムハードウェア(シリカ 5 µm ステンレススチールカラムと、親水性 HPS 2.5 µm カラム(XBridge Premier カラム))を比較しました。標準の塩濃度 200 mM および pH 7.4 の移動相を使用しました。これらの条件下では、ステンレススチール製カラムを使用しても凝集体はほとんど検出されず、HMWS が金属表面に吸着して失われたことが示唆されます(図2)。対照的に、XBridge Premier カラムでは、HMWS ピークの回収率が明らかに高いことが示されました。両方のカラムで同程度の凝集体レベルが見られるようになるには、面倒な分析法開発が必要でした。 

図 2. ステンレススチール製ハードウェア(4.6 × 150 mm、5 µm 粒子、赤線)と hHPS ハードウェア(XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm 4.6 × 150 mm カラム、黒線)を使用して得られた AAV2 のクロマトグラムの拡大図。標準的な塩濃度のバッファー(10 mM リン酸、pH 7.4 + 200 mM KCl)を含む移動相を使用して、分離を実行しました。 

分析時間の短縮と高速分離の実行

次の目的として、XBridge Premier GTx BEH SEC 450Å 2.5 µm カラムにより、さまざまな AAV 血清型の SEC クロマトグラムを、大幅に短い時間で生成できることを示しました。推奨最大流速 0.6 mL/分でカラムを送液することを選択したため、分析時間は 5 分となりました(図 3)。この条件で凝集体を定量することができ、そのレベルはレファレンスの 5 µm PEEK ハードウェアカラムを使用した低流速での分析のデータと一致していました(差は 15% 未満、表 1)。レファレンスカラムで同等の分離を得るには、0.05 mL/分で実行する必要があり、分析時間は 50 分と 10 倍長くました。 

表 1.  さまざまな流速で、GTx BEH カラムと標準カラムを使用した場合の HMWS の定量(%)
図 3.  流速 0.6 mL/分で XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm カラム(2.5 µm 粒子、分析時間 5 分、黒線)を使用して、および 0.05 mL/分でレファレンス用 500 Å カラム(5 µm 粒子、分析時間 50 分、赤線)を使用して得られた SEC クロマトグラムの拡大図:(A)AAV2、B)AAV9、C)AAV5 - 空粒子、D)AAV5 - 完全粒子

ガードカラムを使用した場合

信頼性と再現性の高い AAV の分析には、分析カラムの性能が長期間にわたって一貫していることが必要です。ウイルス粒子の複雑な性質を考慮すると、高度に凝集したサンプルを注入する場合、時間の経過とともにカラムインレットで汚れが発生することが考えられます。これに伴い、分析の全体的な性能が徐々に低下します。したがって、分析カラムの寿命を延ばすために、短いガードカラムを使用することを推奨します。複数の AAV について、XBridge Premier GTx BEH SEC 450Å 2.5 µm カラムのみを使用した場合と、ガードカラムを装着した場合との分離効率を比較しました(図4)。効果的に長いカラム(30 mm ガードカラムと 150 mm 分析カラム)を使用した SEC 分離では、予想されるように、分析時間がわずかに長くなりましたが(20%)、分析の分離度も改善されました(分離度 2.1 vs 1.9)。このガードカラムは、内径 4.6 mm および 7.8 mm の両方の分析カラムで使用するように設計されていることに注意してください。

図 4.  XBridge Premier GTx BEH SEC 450 Å 2.5 µm カラムに 4.6 × 30 mm ガードを装着した場合(青線)、および装着しない場合(黒線)に得られた AAV2 についての SEC クロマトグラムの拡大図。いずれの場合にも、HMWS 含有量は 1.7% と測定されました。40 回を超える AAV 注入後にガードを取り外して、分析カラムのみを使用して分析を繰り返したところ、黒いトレースのクロマトグラムが得られました。 

結論

このアプリケーションノートでは、AAV 粒子の分析および自己会合したオリゴマー凝集体の定量における XBridge Premier GTx BEH 450Å 2.5 µm カラムの有用性を実証しています。粒子径 5 µm のレファレンスカラムと比較して、このカラムの方が、速度論的効率に優れていることは明らかでした。XBridge カラムに MaxPeak Premier HPS テクノロジーを導入することで、二次的相互作用が大幅に低減され、同じ条件を使用して、さまざまな AAV 血清型の効率的な分離が可能になりました。このような実験条件では、HMWS ピークの回収率が低いため、標準的なステンレススチール製カラムでは効果がありませんでした。重要な点は、粒子径の減少および高流速が、凝集プロファイルの測定に影響しないことが判明したことです。さらに、分析法の流速を上げることで、分離度を犠牲にすることなく、分析時間を 10 倍短縮できました。最後に、ガードカラムは AAV 分析に適合することが示されました。

参考文献

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  4. Bartalis J, Chen M., AN2004: Why and How to Quantify Aav Aggregates by Fff-Mals, https://wyattfiles.s3.us-west-2.amazonaws.com/literature/app-notes/fff-mals/AN2004-How_to_quantify_AAV+aggregates_by_FFF-MALS.pdf
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720007961JA、2023 年 6 月

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