• アプリケーションノート

陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を用いた、アデノ随伴ウイルス(AAV)サンプル中の核酸成分の大まかな分析

陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を用いた、アデノ随伴ウイルス(AAV)サンプル中の核酸成分の大まかな分析

  • Hua Yang
  • Stephan M. Koza
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

アデノ随伴ウイルス(AAV)医薬品の汚染につながる核酸不純物は、有効性と安全性に影響を及ぼす可能性があるため、その分析が重要になります。AAV ゲノムの完全性を切れ目や切り捨てについて確認する必要があります。さらに、AAV サンプルを、漏出ゲノムおよび宿主細胞由来の核酸不純物についてモニターする必要があります。このアプリケーションノートでは、AAV サンプルの核酸成分の存在を分析するための独自の分析法を説明しています。また、AAV キャプシドタンパク質のプロテイナーゼ K 消化を使用して、混入のないネイティブのサンプルで観察される分子種の由来を解析します。ネイティブのサンプルとプロテイナーゼ K 消化サンプルの間でピークが重なり合っている場合、これらの分子種の性質が、遊離ゲノム物質である可能性が裏付けられます。これらの予備試験の結果により、Protein-Pak™ Hi-Res Q カラムを使用する AEX 分析を確立することで、AAV サンプル中の封入されていない核酸成分を試験することが期待でき、さらには、ゲノムの完全性チェックも行える可能性が示されました。

アプリケーションのメリット

  • Waters™ Protein-Pak Hi Res Q カラムは、AAV 種および核酸不純物の検出に使用可能
  • プロテイナーゼ K 消化された AAV サンプルを使用して、ssDNA ゲノム物質を遊離させて、ネイティブのサンプルのピーク同定および AAV ゲノムの完全性のさらなる特性解析を実現

はじめに

組換え AAV は、遺伝子治療において最も信頼されているウイルスベクターの 1 つになっています。ゲノムのパッケージングプロセス中に、混入したゲノムが誤って AAV キャプシドに封入されることがあります1。 したがって、AAV ゲノムの完全性を分析して、AAV 製品の安全性と有効性を保証できることが望まれます。

ゲノムサイズは、従来、アガロースゲル電気泳動法とサザンブロット法によって決定されていました1。 これらのメソッドは費用対効果は高い一方、正確性と精度に限界があります。

陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)では、負の表面電荷の差異に基づいて分子が分離されます。この分析手法は、頑健で再現性があり、定量的です。必要なサンプルは少量のみで済み、自動化が簡単です。また、さらなる分析のために、画分を分離することもできます。AEX は、遺伝子治療に関連する複数の分野で利用されています。これには、AAV の空のキャプシドおよび完全なキャプシドの分離、プラスミドアイソフォームの分離、dsDNA フラグメントの分離、シングルガイド RNA のサイズおよび純度の推定などが含まれます2-5。 AAV キャプシドタンパク質内に封入された一本鎖 DNA(ssDNA)は、強い負の正味電荷を示すため、ウォーターズでは、キャプシド、遊離ゲノム物質、さらには他の種類の核酸成分を分離する本質的な機能についてAEX を調査しました。

このアプリケーションノートでは、AAV サンプルのゲノム物質および核酸成分を分析するための独自の AEX 分析法を紹介します。ネイティブのサンプルとプロテイナーゼ K 消化サンプルの両方を分析したところ、重なり合い、強く保持されるピークが両方に存在することが分かりました。この観察結果は、ネイティブのサンプルで観察された分子種が、実際には封入されていない、または漏出したゲノム物質である可能性を示唆しています。これらの予備的な結果により、Protein-Pak Hi-Res Q カラムを使用する AEX 分析を確立することで、AAV サンプル中の封入されていない核酸成分を試験したり、ゲノムの完全性を調査したりすることが期待できることが示されました。 

実験方法

サンプルの説明

 力価 1.61 × 1014 GC/mL の AAV9-Camklla-GFP は、Vigene Biosciences から購入しました。プロテイナーゼ K は New England Biolabs から購入しました(P8107S)。

サンプル前処理

4 µL の AAV9 キャプシドを 1 µL のプロテイナーゼ K で 56 ℃ で 2 時間消化しました。反応混合物を Protein-Pak Hi Res Q カラムに注入し、分離しました。このプロトコルは、今後の調査の出発点のみとみなす必要があります。消化の頑健性を確認するために、さらなる最適化を検討する必要があります。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class Bio

検出:

ACQUITY UPLC TUV 検出器(5 mm チタンフローセル付き)

波長:

260 nm および 280 nm

バイアル:

ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 300 µL、100 個入り(製品番号:186002639)

カラム温度:

30 ˚C

サンプル温度:

10 ˚C

注入量:

初期分析には 3 µL。フラクション回収用に 40 µL

流速:

0.4 mL/分

移動相 A:

100 mM トリス塩酸

移動相 B:

100 mM トリス塩基

移動相 C:

3 M 塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)

移動相 D:

送液するバッファー濃度:

20 mM

グラジエントテーブル

(グラジエントテーブル)AutoBlend Plus™ メソッド、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式に基づく

上記のグラジエントテーブルでは、バッファーは pH 7.4 の 20 mM トリスです。初期塩濃度を 0 mM に設定し、すべての分析種がカラムに強く結合するようにします。遊離ゲノム分析では、4 分間の平衡化後、塩濃度は 10 分で 2300 mM まで直線的に増加します。

汎用クオータナリー LC システムのためのグラジエントテーブルを以下に示します。

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3(FR 4)

結果および考察

AAV9 キャプシド内の ssDNA ゲノムは、プロテイナーゼ K でキャプシドタンパク質を消化することによって遊離されました。このメソッドの手順は、ゲノム力価の決定に使用されるものを採用しています6,7。 陰イオン交換分離(図 1)で示されているように、プロテイナーゼ K 消化後、インタクトキャプシドが溶出する領域のピーク面積が大幅に減少し、2 本の主要なピークがより後の保持時間に観測されました。UV 検出には、260 nm と 280 nm の 2 つの波長を使用しました。ピークの性質を確認するために、A260/A280 の比率を使用します。例えば、プロテイナーゼ K 消化前の A260/A280の比率は約 1.3 です。これは、キャプシドタンパク質と ssDNA の吸収が合わさった結果です。ssDNA は 260 nm で高い吸光度を示すのに対して、キャプシドタンパク質は 280 nm でより強く吸収するため、A260/A280 の全体的な比率は 1.2 ~ 1.3 の範囲になります。プロテイナーゼ K 消化後、キャプシド領域(保持時間 6~8 分)での A260/A280 の比率は 0.9 に減少しました。これは、280 nm での吸光度が 260 nm での吸光度よりわずかに高いことを示しており、キャプシドタンパク質またはペプチドがピークの主要な成分になり始めており、以前キャプシド内にあったゲノム物質が保持され、クロマトグラムの別の場所に溶出していることを示しています。一方、遅く溶出する領域(保持時間約 13 ~ 15 分)で観察されたピークの A260/A280 比率は約 1.8 であり、核酸で構成されているという点で、含まれている分析種が比較的純粋であることを示しています。

AEX 画分での電荷検出 MS(CDMS)分析を含む追加実験により、保持時間 13 ~ 15 分のピークが、サンプル処理中に部分的にアニールした可能性が高い ssDNA を含む、AAV キャプシドから遊離した ssDNA である可能性が高いことがさらに確認されました(データは示していません)。また、より長時間のプロテイナーゼ K 消化を行うと、キャプシドタンパク質の溶出範囲のピーク面積は減少し続け、遊離 DNA 領域は増加し続けました。空の AAV キャプシドの消化によって、DNA 領域のピーク面積は増加しませんでした。最後に、蛍光検出を行ったところ、DNA 領域においてシグナルはほとんど見られませんでした。これは、DNA が内在性蛍光を示さないことと一致しています。

結論

陰イオン交換クロマトグラフィーは頑健で、再現性が高く、定量的であり、必要なサンプル量は少量のみで済みます。AEX はインタクト AAV の空/完全アッセイに有用であることが証明されているため、AAV ゲノム物質を分析し、これらの各成分が溶出する保持時間枠をマッピングする機能をテストする価値があるだろうと考えました。次に、AAV キャプシド内に封入された ssDNA がプロテイナーゼ K 消化を使用して遊離できること、および Waters Protein-Pak Hi Res Q カラムを使用して、キャプシドおよびキャプシドタンパク質からゲノム物質を十分に分離できることを実証しました。このカラムを使用して、ネイティブ AAV サンプル中に存在する、封入されていない遊離核酸成分を観察することもできます。この試験は予備調査でしたが、Protein-Pak Hi-Res Q カラムを使用する AEX 分析を確立することで、プロテイナーゼ K 消化を用いた、封入核酸成分およびゲノムの完全性についての AAV の試験を行える可能性があることが示されました。 

参考文献

  1. Hajba L and Guttman A. Recent Advances in the Analysis of Full/Empty Capsid Ratio and Genome Integrity of Adeno-associated Virus (AAV) Gene Delivery Vectors.Current Molecular Medicine 2020; 20: 1–8.
  2. Yang H, Koza S and Chen W. Anion-Exchange Chromatography for Determining Empty and Full Capsid Contents in Adeno-Associated Virus.Waters Application Note.2021; 720006825.
  3. Yang H, Koza S and Chen W. Plasmid Isoform Separation and Quantification by Anion-Exchange Chromatography (AEX).Waters Application Note.2021; 720007207.
  4. Yang H, Koza S and Chen W. Separation and Size Assessment of dsDNA Fragments by Anion-Exchange Chromatography (AEX).Waters Application Note.2021; 720007321.
  5. Yang H, Koza S and Yu Y Q. Size and Purity Assessment of Single-Guide RNAs by Anion-Exchange Chromatography (AEX).Waters Application Note.2021; 720007428.
  6. Werling N J, Satkunanathan S, Thorpe R, and Zhao Y. Systematic Comparison and Validation of Quantitative Real-Time PCR Methods for the Quantitation of Adeno-Associated Viral Products.HUMAN GENE THERAPY METHODS 2015; 26:82–92.
  7. Ai J, Ibraheim R, Tai P W L, and Gao G. A Scalable and Accurate Method for Quantifying Vector Genomes of Recombinant Adeno-Associated Viruses in Crude Lysate.HUMAN GENE THERAPY METHODS 2017; 28 (3): 139–147.

720007907JA、2023 年 6 月

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