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ハイスループット in vitro スクリーニングのための Andrew+™ ピペッティングロボットを用いたオリゴヌクレオチド含有脂質ナノ粒子の自動調製

ハイスループット in vitro スクリーニングのための Andrew+™ ピペッティングロボットを用いたオリゴヌクレオチド含有脂質ナノ粒子の自動調製

  • Isabell Kroth
  • Michael Karimov
  • Ryan Karongo
  • BAYER AG

要約

LNP 製剤テクノロジーは通常、時間とコストのかかるプロセスであり、マイクロフローの流路系デバイスが必要なため、多くのサンプルを合理的に処理することが困難になります。以下の研究は、Andrew+ ピペッティングロボットを使用した自動化ハイスループットメソッドの開発についてです。

アプリケーションのメリット

  • ハイスループットスクリーニングのための LNP 製剤の自動調製では、2 時間で最大 96 個の製剤を調製することが可能に
  • LNP の特性解析のパラメーターに関して、手動ピペッティングとマイクロフローの流路系ベースのメソッドで同等の結果を取得
  • 自動ピペッティングは、LNP 調製において十分なウェル間併行精度(n=8)を示す

はじめに

RNA ベースの治療薬は顕著な進展を見せており、2018 年にパティシランのような先駆的な治療薬が承認されたことや、最近、脂質ナノ粒子(LNP)製剤を利用した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンが開発されたことなどからも進展が明らかになっています1-3。 これらの治療薬の有効性を最適化するために、陰イオン性 RNA の静電的錯体化が活用されており、これによって、細胞の取り込みが促進されるだけでなく、RNA が(RNAase 酵素による分解から)保護されます。これらの LNP は通常、ホスファチジルコリン(PC)、コレステロール、ポリエチレングリコール(PEG)脂質と結合した陽イオン性脂質およびイオン化可能な脂質の組成で構成されています4,5。 粒子形成のプロセスは、速やかな混合手順にかかっており、均一な粒子を生成するには流速の精密な制御が必須です。mRNA の送達効率を高めるには、製剤成分の包括的なスクリーニングが必要であり、実験計画法アプローチなどのメソッドが使用されます6。 ロボットによる自動化によって容易になる 96 ウェルプレート型式でのハイスループットスクリーニングが、材料消費の面でマイクロ流体を用いたアプローチよりも優れた効率的なメソッドとして登場しました7-9。 以下に、スクリーニング目的で LNP 製剤を自動化するプロトコルを確立しました。これは、Wang らが報告したピペット混合メソッドに基づいており、Andrew+ リキッドハンドリングプラットホームを使用して、現在の最新のメソッドと同等の結果が得られます10

実験方法

試料

緑色蛍光タンパク質をコードする mRNA(CleanCap EGFP mRNA)は、TriLink Biotechnologies(米国サンディエゴ)から購入しました。イオン化可能な脂質(D-Lin-MC3-DMA)およびヘルパー脂質(DSPC、コレステロール、DMG-PEG2000)は、Avanti Polar Lipids(米国、バーミンガム)から購入しました。脂質はすべて純粋エタノールに溶解しました(D-Lin-MC3-DMA:40 mg/mL、ヘルパー脂質:20 mg/mL ずつ)。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、PBS 錠(Merck KGaA、ドイツダルムシュタット)をヌクレアーゼフリー水に溶解して調製しました。クエン酸バッファー(10 mM、pH = 3)は、27.6 mg のクエン酸ナトリウム二水化物および 174.1 mg のクエン酸を 100 mL のヌクレアーゼフリー水に溶解して調製しました。製剤に使用した化学薬品はすべて分析グレードです。

自動リキッドハンドリングステップは、10 µL および 300 µL のシングルチャンネルピペット、1200 µL の 8 チャンネルピペット、および加熱用の Peltier+ を搭載した Andrew+(Waters – Andrew Alliance、スイス)を使用して行いました。セットアップは、1.5 mL Eppendorf セーフロックチューブ(Eppendorf、ハンブルク)、INTEGRA(Integra Bio Science AG、スイス)から購入した 10 mL マルチチャンネルリザーバー、ターゲットの実験器具として使用する twin.tec® 96 ウェルスカート付き LoBi プレート(Eppendorf、ハンブルグ)、に対応するドミノで構成されます(図 1)。

図 1 A. Andrew+ の正面図 B. LNP プロトコル用に配置されたドミノを上から見た図

mRNA をロードした LNP の調製

マイクロフロー流路系メソッド

LNP は、マイクロフロー流路系マイクロミキサー(NanoAssemblr® Ignite™)を使用して、適量のエタノール中の脂質混合液(モル組成 50:10:38.5:1.5)と、mRNA を含む水相(10 mM クエン酸バッファー)を、有機相と水相の量比 1:3 で混合することにより調製しました。Amicon Ultra 遠心フィルター(Merck Millipore、分子量カットオフ 30 kDa)を使用して、エタノールおよびクエン酸バッファーを除去しました。

手動ピペッティングメソッド

この手順では、96 ウェルプレート型式を使用して LNP を調製します。最初に、脂質混合液の各成分(D-Lin-MC3-DMA 6.2 µL、DSPC 3.1 µL、コレステロール 5.8 µL、DMG-PEG 1.5 µL)を 1 つのウェルに入れます。別のウェルで、クエン酸バッファー(58 µL、10 mM、pH 4)と mRNA(2 µL、1 mg/mL)を合わせ、十分に混合します。得られた mRNA バッファー希釈液(60 µL)を、水相とエタノール相の量比 3:1 の脂質混合液-エタノール溶液にすばやくピペットで注入します。適切な LNP 形成を行うには、20 ~ 30 秒間、迅速かつ勢い良くピペッティングすることが重要です。そうしないと、LNP が多分散性になり、封入率が不十分になる可能性があります。室温で 15 分間インキュベートした後、オプションで透析チューブ(Pur-A-Lyzer Midi 3500)と 1 × PBS を用いて透析し、エタノールおよび酸性バッファーを除去することができます。次に、この溶液を RNase フリーのチューブに移し、1× PBS で量を 200 µL に調整して、最終濃度を 10 µg mRNA/mL にします。得られた溶液は、使用するまで 4 ℃ で数日間保管することができます。

自動ピペッティングメソッド

最終的なプロトコルには、LNP を作成するための 12 ステップが含まれます(表 1)。まず、ウェルプレートの温度を 20 ℃ に設定しました。脂質成分は Eppendorf チューブ中で事前に混合しました(#1)。別途、クエン酸バッファー(48 µL × ウェル数)を別の Eppendorf チューブに移し(#2)、mRNA(2 µL × ウェル数)を加えます。50 µL の希釈済み mRNA を各ウェルに加え、その後 16.6 µL の脂質混合液を各ウェルにすばやくピペットで注入し、直ちに上下に 6 回すばやくピペッティングして混合します。次に、プレートを 15 分間インキュベートし、その後加熱を停止します。最後に、各ウェルに 152 µL の PBS を添加して LNP 形成プロセスを完了します。

図 2.  プロトコル開始時の OneLab™ ベンチのスクリーンショット
表 1.  プロトコルのステップごとの説明

すべてのピペッティング先に対して、チップは、すべてのピペッティング元の液体に合わせて配置し、ピペッティング先では、液体に合わせてまたは移動中のいずれかで配置します。低粘度の溶液(つまり脂質および mRNA)には、ボトムエアクッションを使用しました。混合ステップは表 1 に記載されているとおりに実施しました。各分注後に、「ブローアウト」を行いました。吸引および分注の速度は、プロトコルでは、mRNA と脂質を混合する 1 回(高速混合を適用)を除き、標準に設定されていました。

LNP の特性解析およびハイスループット in vitro スクリーニング

LNP の特性解析

ナノ粒子の流体力学的粒子径および分散度指数(PDI)は、1× PBS 中で動的光散乱を使用して測定しました(Zetasizer、Malvern Instrument)。直径は、最大強度の平均ピークの平均として報告され、これがサンプル中に存在するナノ粒子の 95% 超を占めます。核酸の封入効率を計算するため、メーカーの指示に従って Quant-iT RiboGreen RNA アッセイ(Invitrogen)を使用しました。

in vitro トランスフェクションの効率

HepG2 細胞(American Type Culture Collection、米国)を、10% ウシ血清および 1% ペニシリン-ストレプトマイシン含有の GlutaMAX サプリメント(ThermoFisher)を含む高グルコースのダルベッコ改変イーグル培地中、37 ℃、5% CO2 で培養しました。in vitro トランスフェクションでは、トランスフェクションの 1 日前に、ウェルあたり 10,000 細胞を 96 ウェルプレートに播種しました。翌日、最終粒子濃度 100 ng mRNA/ウェルになるように、粒子を細胞に対してピペットで注入しました(n = 8)。手動で調製したナノ粒子をポジティブコントロールとして使用しました。24 時間のインキュベーション後、フローサイトメーター(MACSQuant Analyzer 16、Miltenyi Biotec、ドイツ)を使用して、eGFP の蛍光強度を定量しました。

結果および考察

mRNA をロードした LNP の自動調製

本研究の主な目標は、Wang らが提案したピペット混合メソッドに基づいて、Andrew+ ピペッティングロボットを使用する自動化ハイスループットメソッドを開発することでした10。 メソッドおよび LNP 組成は、Andrew+ ピペッティングロボットに適合し、さまざまな LNP 製剤のスクリーニングに適用できるように変更しました。

まず、手動ピペッティング手順を自動化するために予備実験を行いました。しかし、脂質エタノール溶液がすぐに蒸発して、精密なプロトコル移行が妨げられました。次に、エタノールの蒸発速度を重量で測定したところ、室温によって大きく異なることがわかり、これによって容量減少の計算および補正が制限されました。そこで、ピペッティングシーケンスを変更しました。ウェルごとに個別に調製した脂質混合液に希釈済み mRNA を入れるのではなく、脂質混合液を Eppendorf チューブ中に事前に調製しておくことで、全体的な液体の蒸発表面積を最小限に抑えました。この事前調製した脂質混合液を、希釈済み mRNA が入っている各ウェルに入れました。さらに、96 ウェルプレートを、プロセス全体を通して 20 ℃ に維持することで、製剤に必要な最適温度を確保しました。プロトコル全体でのアームの動作速度を高速に設定することで、プロトコル全体の所要時間を短縮し、溶媒の蒸発を最小限に抑えました。

LNP の特性解析およびハイスループット in vitro スクリーニング

比較のために、手動ピペッティングメソッドまたはマイクロフローの流路系技術のいずれかを用いて調製した新しい D-Lin-MC3-DMA 粒子を使用しました。緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする mRNA を含む製剤を調製した後、最初の粒子径、多分散指数(PDI)、封入効率を特性解析しました。Andrew+ によって調製した粒子は、手動で調製した製剤(約 160 ~ 180 nm)と比較して、平均粒子径(約 200 nm)がわずかに大きいことがわかりました。混合速度を比較的遅くすると、手動の混合メソッドと比較して、粒子が大きくなる可能性があります。しかし、いずれのメソッドでも PDI は低い(0.2 未満)ことがわかり、調製メソッドに関係なく、一貫した粒子径の範囲が存在することが示されました。さらに重要なこととして、調製メソッドに関係なく、いずれのメソッドでも高い mRNA 封入効率(97% 以上)が見られました(表 2)。

表 2.  LNP の特性解析および調製メソッド間の比較

両方のメソッドのトランスフェクション効率を評価するため、HepG2 細胞に最終濃度 100 ng/ウェルになるようにトランスフェクションしました。いずれの製剤も、優れた生体適合性を示し、トランスフェクション後 24 時間で高いトランスフェクション効率を示しました(図 3)。最後に、Andrew+ を使用したハイスループットピペッティングメソッドで十分なウェル間併行精度(n = 8)が示され、調査した特性解析パラメーターにおいて高い精度が得られることも注目されました。これらの結果から、Andrew+ による粒子の製剤化は、多数のサンプルを調製するのに完全に適合していることが示されています。したがってさまざまな LNP のハイスループットスクリーニングに使用することができます。

図 3.  異なるメソッドを使用して調製した LNP の HepG2 細胞へのトランスフェクション効率の比較

結論

手動の調製手順から進めて、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して LNP 調製を自動化したメソッドが開発されました。これにより、さまざまな脂質ナノ粒子製剤のハイスループットスクリーニングが可能になりました。Eppendorf チューブ中に脂質混合液を事前に調製し、温度を一定に維持することで、脂質エタノール溶液の急速な蒸発、蒸発速度の室温依存性などの最初のハードルをクリアし、これによってプロトコルの精度が大幅に向上しました。マイクロフローの流路系および手動ピペッティングで調製した製剤と比較して、粒子径がわずかに大きくなりましたが、粒子径の一貫性および高い mRNA 封入効率は、すべてのメソッドにわたって一貫して維持されていました。さらに、HepG2 細胞へのトランスフェクション効率は、手動ピペッティングによる LNP 調製メソッドおよびマイクロフローの流路系ベースの LNP 調製メソッドのいずれとも同等でした。まとめると、Andrew+ の使用による LNP 調製の効率化が実行可能であり、したがって mRNA ベースの治療薬開発を進めることができることが実証されました。

参考文献

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720008090JA、2023 年 11 月

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