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EPA 1633 Part 1 に準拠したパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の分析:分析法の確立と評価

EPA 1633 Part 1 に準拠したパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の分析:分析法の確立と評価

  • Kari L. Organtini
  • Kenneth J. Rosnack
  • Peter Hancock
  • Waters Corporation

要約

US EPA メソッド 1633 は、米国における非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の分析の基本的な分析法になっています。この分析法は、弱陰イオン交換(WAX)固相抽出(SPE)を使用するサンプル前処理とグラファイトカーボンブラック(GCB)クリーンアップを使用したサンプル前処理で構成されています。このアプリケーションノートは、メソッド 1633 を行うための包括的なソリューションを実証するアプリケーションノートシリーズのうちの最初のノートです。このノートの焦点は、Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極質量分析計と組み合わせた ACQUITY™ Premier BSM FTN LC システムで LC-MS/MS 分析法を確立し、定量のためのwaters_connect™ ソフトウェアを使用して分析法の性能を評価することです。

アプリケーションのメリット

  • ターゲット分析種である 40 種類の PFAS および 31 種類の同位体標識内部標準の分析のための、11 分間で行える、高速装置の分析時間に関する EPA 1633 の要件を満たすグラジエント分析法
  • EPA 1633 の保持時間の要件を上回る、ACQUITY Premier BSM FTN を使用する安定で頑健な UPLC 分析法
  • EPA 1633 の初期および現行のキャリブレーションスタンダードおよびイオン比スタンダードの要件を満たす、Xevo TQ Absolute を使用する高感度で信頼性の高い MS/MS 分析法
  • 定量のための waters_connect の使用による容易なデータ解析およびレポート作成の要件

はじめに

US EPA メソッド 1633 は、2021 年 8 月に初めて導入され、非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の基本的な分析法になりました1。 このドキュメントの作成時点では、メソッド 1633 は第 4 版ドラフトの段階にあり、最終バージョンは 2023 年末にリリースされる予定です。EPA 1633 の最終リリースまでに、分析法に含まれる各種のサンプルマトリックスについて、複数のラボでバリデーションされている予定です。この分析法では、同位体希釈キャリブレーションおよび定量を利用して 40 種類の PFAS をカバーします。必要なサンプル前処理はサンプルの種類によって多少異なりますが、すべての種類のサンプルで、弱陰イオン交換(WAX)カートリッジでの固相抽出(SPE)をグラファイトカーボンブラック(GCB)クリーンアップと組み合わせて使用します。EPA 1633 は、水質浄化法(CWA)および国防総省(DoD)が行うモニタリングおよび修復のためのサンプル分析をサポートするために作成されたものですが、非常に幅広いマトリックスおよび化合物をカバーしているため、その適用範囲を拡張する可能性があります。

このアプリケーションノートは、ウォーターズのテクノロジーの包括的なワークフローを使用した EPA 1633 のサンプル前処理、分析、分析法性能に対処するアプリケーションノートシリーズのうちの最初のものです。このアプリケーションノートでは、Xevo TQ Absolute 質量分析計と組み合わせた ACQUITY Premier BSM FTN LC システムで LC-MS/MS 分析法を確立し、定量のためのwaters_connect ソフトウェアを使用して分析法の性能を評価することに焦点を当てます。今後のアプリケーションノートでは、分析法の回収率および真正サンプルの分析について紹介します。

実験方法

サンプル前処理

サンプル前処理の詳細については、このシリーズの 2 番目と 3 番目のアプリケーションノートで詳しく説明されています。簡単に説明すると、1633 に概説されているサンプル前処理に続いて、PFAS 向けの Waters™ Oasis™ WAX を GCB クリーンアップと組み合わせて使用しました。注意すべき例外の 1 つは水系サンプルで、サンプル容量として 500 mL ではなく 250 mL を使用しました。これにより、サンプルの濃度因子が 100 倍ではなく 50 倍になりました。Xevo TQ Absolute MS の感度が高いため、サンプル容量を減らすことができました。以下に示すデータは、サンプルサイズ 250 mL でも、サンプルサイズ 500 mL を用いる EPA 1633 で得られた結果と同等の結果が得られることを実証しています。サンプル容量が少ないことのメリットとして、サンプル前処理プロセス中のサンプルのロードが迅速になるだけでなく、より小さい 250 mL サンプルボトルを使用する場合、輸送コストの削減やサンプル保管要件の低減などがあります。

使用した標準試料(ターゲット分析種、抽出された内部標準、抽出されなかった内部標準)はすべて、EPA メソッド 1633 用に特別に開発された Wellington Laboratories から入手した混合液でした。

このアプリケーションノートで説明するサンプルには、現地で収集した地下水と地表水、および米国中東部の市営廃液処理施設から提供して頂いた流入廃液および流出廃液が含まれます。

データのレビュー

定量のための waters_connect 内の MS Quan アプリケーションを使用して、データの解析およびレビューを行いました。ウォーターズのソリューションを使用した分析法の機能を実証するために、EPA 1633 ドラフト 4 に概説されている以下のデータ品質の指針に焦点を当てます。

1. 中間の検量線ポイントを、保持時間およびイオン比の基準点(waters_connect では Quan レファレンスと表す)として使用しました。

2. 保持時間は基準点から 0.4 分以内でなければなりません。

3. ターゲット分析種は、抽出内部標準(EIS)から 0.1 分の範囲内に溶出しなければなりません。

4. 胆汁酸塩(TDCA、TCDCA、TUDCA)は、PFOS の保持時間の範囲から 1 分離れて分離されなければなりません。

5. 最低 6 つの検量線ポイントが必要です。

6. 最も低い検量線ポイントは、定量イオンおよび確認イオンの場合は S/N 比が 3、定量イオンが 1 つしかない場合は S/N 比が 10 でなければなりません。

7. 平均 RF キャリブレーションを使用する場合、直線性を確立するには、%RSD が 20% 以下でなければなりません。

8. キャリブレーションの検証(CV)注入は、予想濃度の 70 ~ 130% 以内でなければなりません。

9. イオン比(該当する場合)は、中間のキャリブレーション基準点の 50 ~ 150% の範囲内になければなりません。

10. 確立された最低定量レベル(ML)とは、LC-MS/MS において、分析種について、認識可能なシグナルおよび許容できる検量線ポイントが得られる最低レベルのことです。これは、その分析法について、分析種の測定が行える最低濃度です。

11. 直鎖型および分岐型異性体は、これらを合計した単一の結果として報告されます。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier BSM(FTN を搭載)

バイアル:

700 µL ポリプロピレン製ねじ蓋バイアル(製品番号:186005219)

分析カラム:

ACQUITY Premier BEH™ C18、2.1 × 50 mm、1.7 µm(製品番号:186009452)

アイソレーターカラム:

Atlantis Premier BEH C18 AX 2.1 × 50 mm、5.0 µm(製品番号:186009407)

カラム温度:

35 ℃

PFAS キット:

OASIS WAX 150 mg を含む PFAS インストールキット(製品番号:176004548)

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

2 µL

流速:

0.3 mL/分

移動相 A:

2 mM 酢酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

2 mM 酢酸アンモニウムアセトニトリル溶液

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ Absolute

イオン化モード:

ESI-

キャピラリー電圧:

0.5 kV

イオン源温度:

100 ℃

脱溶媒温度:

350 ℃

脱溶媒流量:

900 L/時間

コーンガス流量:

150 L/時間

MRM メソッド:

MRM メソッドの詳細については、付録を参照してください

データ管理

ソフトウェア:

定量のための waters_connect

結果および考察

LC グラジエントの最適化

タウロデオキシコール酸(TDCA)、タウロケノデオキシコール酸(TCDCA)、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)などのコール酸は、親イオンとフラグメントイオンの質量が類似しているため、質量分析計において PFOS に対する干渉を引き起こす可能性があります。これらの干渉物質は、消化プロセスを補助するために生成される胆汁酸塩であり、したがって組織や廃水のサンプル中に存在する可能性があります。そのため、EPA 1633 の LC 分析法の要件の 1 つは、コール酸をモニターするだけでなく、コール酸と PFOS の保持時間に 1 分間の差があるようにすることです。以前に発表されている PFAS 分析法では、有機移動相としてメタノールを使用していました2,3。メタノールを使用する分析法の EPA 1633 サンプルへの適用について試験したところ、PFOS は 3 種類のコール酸の真ん中に溶出しました(図 1)。これでは 1633 の要件を満たすことができないため、アセトニトリルを有機移動相として試験しました。図 1 からわかるように、アセトニトリルを使用すると、コール酸はどの PFOS 異性体よりもはるかに早く溶出し、1 分超の間隔での分離が可能になりました。メタノールからアセトニトリルに切り替えると、レスポンスがわずかに低下しましたが、分析に影響するほどではありませんでした。

図 1.  有機移動相としてアセトニトリル(左)およびメタノール(右)を使用した場合の PFOS 異性体からのコール酸の分離の比較

この LC グラジエント分析法では、有機移動相の変更に加えて、以前の分析法で使用していた 100 mm のカラムから 50 mm のカラムにスケールダウンし、装置での分析時間を短縮しました。

キャリブレーションの性能および継続的な検証

EPA 1633 が開発され、目的に適した感度を有するタンデム四重極質量分析計である Xevo TQ-S micro 質量分析計を使用して、単一のラボでバリデーションされています。今回紹介する試験は、最高感度の質量分析計である Xevo TQ Absolute 質量分析計を使用して行いました。Xevo TQ Absolute MS の感度レベルにより、分析法の柔軟性が高まっています。したがって、この試験で使用したキャリブレーション範囲は、分析法および複数のラボでのバリデーション試験で使用したキャリブレーション範囲より 20 倍低い範囲でした。さらに、Xevo TQ Absolute で得られる最小定量レベルも、約 20 倍低いレベルです。この試験に使用したキャリブレーション範囲(バイアル中濃度とサンプル中濃度の両方)を表 1 に示します。表 1 には、最小定量レベルでの各化合物のシグナル:ノイズ比(S/N 比)の値も示しています。このレベルではすべての化合物の S/N 比が 3 以上でした。

表 1.  Xevo TQ Absolute MS での EPA 1633 の評価に使用した検量線データ

分析法の指示に従い、同位体希釈を使用して、キャリブレーションおよび定量を行いました。検量線は、平均レスポンス係数(RF)を使用してプロットしました。この種の曲線を使用した場合、直線性は、相対レスポンス係数(RRF)の %RSD が曲線全体にわたって ≤20% であることを示すことによって確立されます。RRF 値の %RSD を表 1 に示していますが、すべての化合物の %RSD が <15% であることから、この分析法ではすべての PFAS について検量線が直線的であることがわかります。

サンプルのすべてのバッチに検量線が必要であるわけではないため、各バッチの前、バッチの 10 サンプルごと、およびバッチの最後でキャリブレーションの検証(CV)注入を行うことによって、サンプル分析時の装置の安定性を検証します。CV とは、検量線の中間レベルのキャリブレーションスタンダードのことです。検量線が各バッチのデータに対して使用できるためには、すべての CV の定量値が予想濃度の 70 ~ 130% 以内である必要があります。装置のレスポンスの安定性を実証するため、さまざまなバッチの地下水、地表水、廃水、組織サンプルを 8 日間にわたって注入した CV の % 偏差を図 2 にプロットしています。1633 の要件を満たすには、% 偏差がこの図で ±30% 以内に収まる必要があります。7:3 FTCA の 2 回の注入以外、すべての化合物が 30% 偏差の基準を満たしています。7:3 FTCA では、偏差が >30% である注入が 2 回ありました。7:3 FTCA 以外では、CV 値の平均偏差は 3.75% でした。このことは、LC-MS/MS システムおよび分析法が長期間にわたって安定していることを示しています。

図 2.  ターゲット分析種(A)および抽出された内部標準(B)について、8 日間にわたるバッチ実行時に注入した CV の各注入の %偏差。赤色の線は ±30% の許容範囲を示します。

サンプル分析における分析法の性能

保持時間の安定性は EPA 1633 のもう 1 つのパラメーター要件であり、許容される RT の範囲は(初期キャリブレーションまたは CV のいずれかからの)予想保持時間の 0.4 分以内です。図 3 に、さまざまなバッチの水系サンプルについて 8 日間にわたって実行した 53 回の注入にわたって取り込まれたデータの RT の安定性を示します。FOSA(C8 スルホンアミド)を除き、すべての化合物のすべての注入における RT の最大偏差は 2.7%(0.02 分)です。この図では、RT の安定性は線の対称性によって示されており、それぞれの線は、円グラフに沿って、開始(注入 1)から終了(注入 53)まで一致しています。FOSA および 13C8-FOSA の保持時間では、注入 18 ~ 33 で顕著なシフトが見られますが、その後の注入では RT が予想 RT に戻って安定しています。この化合物の RT のシフト 0.18 分は、許容範囲である 0.4 分以内に収まっています。さらに、FOSA と 13C8-FOSA の RT は、このシフトの間において一致しています。

図 3.  サンプル、標準試料、品質管理サンプルの 53 回の注入にわたるターゲット分析種(A)および抽出された内部標準(B)の保持時間の安定性。強調表示した領域は、サンプル注入に対応するグラフの領域を示しており、赤色は地下水、黄色は地表水、青色は流入廃液および流出廃液です。

最後に、イオン比の安定性を測定するために、地下水、地表水、廃水、組織サンプルについて 8 日間にわたってイオン比を測定しました。EPA 1633 では、イオン比はレファレンス(中間点または CV)の 50 ~ 150% 以内であることを要求しています。図 4 のイオン比の偏差の測定値は、最初の中間点のキャリブレーションとの比較です。すべての化合物のすべてのイオン比が偏差 ±50% の範囲内に収まっており、平均偏差は 3.28% でした。

図 4.  ターゲット分析種(A)および抽出された内部標準(B)において、MRM トランジションが 2 つある各分析種について計算したイオン比の % 偏差。プロットしたデータは、8 日間にわたるバッチ実行時のサンプルおよび標準試料の注入に対応しています。

異性体でのデータ解析

ほとんどの PFAS 分析法に共通の要件である EPA 1633 の追加の要件は、最終的に報告する結果では分岐型異性体と直鎖型異性体を合計することです。定量のための waters_connect ソフトウェアの MS Quan アプリを使用すれば、異性体を合計することは、簡単な自動プロセスです。図 5 に、PFHxS を例として、異性体をそれぞれ独立して解析および定量する機能と、異性体の合計濃度を報告する機能を示します。

図 5.  MS Quan で得られた PFHxS の個々の異性体ピークの波形解析および異性体の合計濃度の報告

結論

EPA 1633 メソッドで要求されるすべてのデータ品質に関する要件は、Xevo TQ Absolute 質量分析計と組み合わせた ACQUITY Premier BSM FTN LC システムで紹介した分析法を使用することで、容易に達成することができました。有機移動相としてアセトニトリルを使用する 50 mm の ACQUITY BEH C18 カラムでの 11 分間の LC グラジエントにより、コール酸干渉物と PFOS の間が 1 分間という必要な分離度を達成することができました。Xevo TQ Absolute では、EPA 1633 に示されている範囲よりもかなり低濃度の検出およびキャリブレーションの範囲が可能です。これにより、サンプル中の低濃度の PFAS を検出できる可能性が示され、必要なサンプルサイズを低減し、サンプル前処理が加速できる可能性が広がりました。キャリブレーションは、±30% のレスポンスというキャリブレーション検証要件の範囲内で安定していることがわかりました。保持時間は安定しており、レファレンス注入からの偏差は 2.7% 以内でした。イオン比もすべて偏差 ±50% の範囲内に十分収まっていました。提示したデータから、LC-MS/MS システムは、EPA 1633 のサンプル分析に使用する際の要件をすべて容易に満たしていることが実証されました。

参考文献

  1. US Environmental Protection Agency.Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Aqueous, Solid, Biosolids, and Tissue Samples by LC-MS/MS, Draft 4.July 2023.
  2. K Organtini, K Rosnack, D Stevens, E Ross.Analysis of Legacy and Emerging Perfluorinated Alkyl Substances (PFAS) in Environmental Waters Samples Using Solid Phase Extraction (SPE) and LC-MS/MS.Waters Application Note.720006471.Revised November 2022.
  3. K Organtini, H Foddy, N Dreolin, S Adams, K Rosnack, P Hancock.Ultra-trace Detection of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Drinking Water to meet New US EPA Interim Health Advisory Levels.Waters Application Note.720007855.February 2023.

付録

付録表 1EPA 1633 の分析に含まれる PFAS の MS 分析法条件

720008117JA、2023 年 10 月

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