• アプリケーションノート

法中毒学における UPLC-MS/MS を使用した毛髪中のカルボキシ-THC の分析

法中毒学における UPLC-MS/MS を使用した毛髪中のカルボキシ-THC の分析

  • Jane Cooper
  • Michelle Wood
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

このアプリケーションブリーフでは、毛髪試験協会(SoHT)が推奨する、毛髪中の 11-ノル-9-カルボキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール(カルボキシ-THC)を分析するための頑健な UPLC-MS/MS 分析法について説明します1,2

アプリケーションのメリット

  • マトリックスにより薬物の検出可能な時間枠が長くなり、収集を非侵襲的に行える
  • 抽出物のクリーンアップのためのシンプルで効果的な固相抽出(SPE)プロトコル
  • 毛髪中のカルボキシ-THC を高感度で測定するための、UPLC-MS/MS を使用する頑健な分析法

はじめに

法医学試験用の生物学的マトリックスとして毛髪を使用することが、ここ 10 年で一般的になりました。薬物は、以下のようなさまざまなメカニズムで毛髪中に取り込まれます。

  • 毛包における血液から成長期の毛母細胞への受動拡散
  • 汗や皮脂から毛幹への拡散
  • 煙や汚染された手などの外部汚染

毛髪を検体として使用することには、いくつかのメリットがあります。血液などの他のマトリックスとは対照的に、毛髪の収集はシンプルで、医療訓練を受けた担当者がサンプルを収集する必要がありません。サンプルの収集が煩わしいものとは思われないため、収集を監督下で行え、したがってサンプルへの不純物混入の可能性が低減します。さらに、毛髪収集後は、分析するまで室温で保管することができます。

しかし、毛髪の最も重要なメリットは、薬物の検出可能な期間が長いことです。血液や尿などの従来のマトリックスでは、使用後数時間/数日以内しか薬物を検出できませんが、毛髪の場合、使用後数ヶ月および数年後でも薬物を検出できる可能性があります。毛髪は 1 ヶ月に約 1 cm の速さで伸びることがわかっているため、毛髪のサンプルは、通常 SoHT の推奨事項に従って後頭頂部から収集し、直近数ヶ月間の薬物使用状況に関する情報が得られる蓄積検体になります。

世界で最も広く使用されている薬物は大麻であるため、カンナビノイドは最も検出されることの多い薬物クラスの 1 つであり、カンナビノイドの分析は法医学の薬物試験において非常に重要です。デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は、大麻の主要な向精神性成分であり、使用者の毛髪中に検出される可能性がありますが、毛髪中の THC の陽性同定は、受動喫煙への曝露に起因することもあり、これだけでは大麻の使用を明確に証明することはできません。そこで、代謝物であるカルボキシ-THC を測定して、毛髪中の THC の陽性同定を確認することを、SoHT は推奨しています。一方、カルボキシ-THC の分析は非常に困難です。通常、低 pg/mg 濃度でしか存在せず、またサンプルの入手性が限られていることも多いため、高感度の分析手法が必須になります。

実験方法

毛髪のサンプルは、ボランティアから集め、単一サンプルまたは混合した状態で分析しました。M3 試薬は Comedical(イタリア、トレント、http://www.comedical.biz/)から提供を受けました。カルボキシ-THC のレファレンス物質およびその重水素化アナログであるカルボキシ-THC-D3 は、Merck(英国ドーセット)から入手しました。

ジクロロメタン、メタノール、ジエチルエーテルによる連続した汚染除去の後、毛髪サンプルを 1 ~ 2 mm に切り刻みました。この毛髪サンプルをガラス製の遠心分離チューブに秤り取り(25 mg)、マトリックスキャリブレーション試薬にカルボキシ-THC を濃度 0.2 ~ 10 pg/mg になるようにスパイクしました。重水素化内部標準(カルボキシ-THC-D3)を 0.5 mL の M3 試薬とともに添加しました。サンプルを 100 ℃ で 60 分間インキュベートし、冷却後、サンプル全体を OASIS™ PRiME HLB 30 mg カートリッジ(製品番号:186008055)にロードしました。サンプルをアセトニトリル/水(1:1、v/v)、続いてヘキサンで洗浄しました。カルボキシ-THC をアセトニトリル/メタノール(9:1 v/v)で溶出させ、溶媒を蒸発させた後、サンプルを 0.25% アンモニア溶液を含む 50% メタノール(メタノール 5 mL、脱イオン水 4.9 mL、25% アンモニア溶液 100 µL)100 µL に再溶解し、ボルテックスして、Waters™ トータルリカバリーバイアル(製品番号:186000385c)に移しました。毛髪中のカルボキシ-THC の測定に使用したワークフローを図 1 に示します。

図 1.  毛髪中のカルボキシ-THC の測定に使用したワークフロー

カルボキシ-THC のクロマトグラフィー分離は、VanGuard™ FIT、1.7 µm、2.1 × 150 mm を取り付けた ACQUITY™ Premier BEH ™ C18 カラムで、フッ化アンモニウム(pH 9.5)とメタノールのグラジエントを使用して行いました。カルボキシ-THC の 2 つの MRM トランジション(m/z 343.1 > 191.0(定量イオン)および m/z 343.23 > 245.1(定性イオン))を、Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を使用してモニターしました。内部標準(カルボキシ-THC-D3)は、トランジション m/z 346.1 > 248.1 を使用してモニターしました。

結果および考察

カルボキシ-THC を 1 pg/mg になるようにスパイクした毛髪サンプルの、定量イオン、定性イオン、内部標準の MRM トランジションのクロマトグラムを図 2A に示します。   

図 2B に、(複数のドナーからの)混合サンプルおよび(1 人のドナーからの)金髪の毛髪サンプルを使用して、コントロール(ブランク)の毛髪抽出液と、SoHT が推奨するカットオフ濃度(0.2 pg/mg)になるようにカルボキシ-THC をスパイクした毛髪サンプルを比較する、スムージングおよび波形解析済み定量イオンの MRM クロマトグラムを示します。

図 2.  A)1.0 pg/mg になるようにスパイクした混合毛髪試料の、定量イオン(上)、定性イオン(中央)、および内部標準(下)の波形解析済み MRM クロマトグラム。B)混合毛髪サンプルおよび金髪の毛髪サンプルを使用して、コントロール毛髪サンプル(0 pg/mg、上のトレース)およびカルボキシ-THC スパイクサンプル(0.2 pg/mg、下のトレース)の定量イオンの MRM トランジションを示す MRM クロマトグラム。

図 3 に、混合毛髪サンプルおよび金髪の毛髪サンプルを使用して、0.2 pg/mg になるようにカルボキシ-THC をスパイクした毛髪サンプルからの定量イオンの MRM トランジションについて計算したシグナル/ノイズ比(ピーク間、PtP)の値を示します。

図 3.  スムージングしていない生データのクロマトグラム。0.2 pg/mg になるようにスパイクした毛髪サンプル(金髪および混合)の定量イオン(上のトレース)および定性イオン(下のトレース)の MRM トランジションのシグナル/ノイズ比の計算を示しています。

アッセイの直線性を、3 つの別々のバッチで 0.2 ~ 10 pg/mg の範囲にわたって調べました。決定係数(R2)はすべて 0.99 より大きく、最も低濃度のキャリブレーション試薬(20% 以内)を除き、測定濃度はすべて期待値の 15% 以内でした。

アッセイの頑健性を、混合毛髪サンプルの 5 回の抽出の分析を考慮して調査しました。図 4 に示すように、毛髪サンプルの分析の範囲内で、平均精度性能は 1.8% RSD(%相対標準偏差)、毛髪サンプル全体にわたる合計精度は 8.4% RSD であることが示されました。

図 4.  スパイク済みの混合毛髪サンプルにおけるカルボキシル THC の頑健性のデータ

前のサンプルからの移行/汚染に起因する可能性のあるキャリーオーバーを評価するために、5 pg/mg になるようにスパイクした毛髪のキャリブレーション試薬を注入し、続いてブランク(注入溶媒)注入を行いました。図 5 に示すように、検出可能なキャリーオーバーはないことがわかりました。

図 5.  カルボキシ-THC のキャリーオーバーを、5 pg/mg になるようにスパイクした毛髪の標準試料を注入し、続いてブランク(注入溶媒)を注入することによって評価しました。

毛髪は複雑なマトリックスであるため、同位体標識内部標準(カルボキシ-THC-D3)をサンプル前処理時にスパイクして回収率およびマトリックス効果を補正しました。マトリックス効果は、カルボキシ-THC の溶媒標準試料(0.05 ng/mL)のピーク面積レスポンスを同等のマトリックス標準試料(0.2 pg/mg、n=5)と比較することで、マトリックス係数(MF)として測定でき、結果は、内部標準を使用しない場合は MF = 64%、内部標準を使用した場合は MF = 100% でした。これらの結果は、この分析法は 36% のイオン化抑制を示しますが、内部標準の添加によってこれが非常によく補正されていることを示しています。

結論

法中毒学試験において、さまざまな生物学的マトリックス中の化合物を定量するための、迅速で正確、かつ信頼性が高く頑健な分析法は、確実な検出およびレポート作成のために重要です。通常このようなスキームで試験される類縁物質を検出するための、シンプルかつ監督下で行える非侵襲的サンプル収集は、生物学的マトリックスとして毛髪を用いて行うことで実現できます。 

ACQUITY UPLC I-Class PLUS/Xevo TQ-Absolute システムは、毛髪中のカルボキシ-THC の分析に必要な、SoHT が推奨するカットオフを満たす pg/mg 以下のレベル(0.2 pg/mg)までの感度を示すことが実証されました。

参考文献

  1. G.A.A. Cooper, R. Kronstrand, P. Kintz.Society of Hair Testing Guidelines for Drug Testing in Hair.Forensic Science International 281 (2012) 20–24.
  2. Statements of the Society of Hair Testing Concerning the Examination of Drugs in Human Hair [cited 14th Aug 2023].Available from: https://www.soht.org/statements

720008011JA、2023 年 10 月

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